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29.強者達


 観客席へ戻る。


 歓声が、また聞こえてきた。

 遠くのリングでは、すでに次の選手が入場している。


 砂埃の匂いと汗の匂いが混ざり合い、

 興奮した観客たちの熱気が空気を震わせていた。


「さ、座ろ座ろ!」

 リリィが俺の袖を掴んで引っ張る。


 さっきまでの興奮がまだ冷めていないのか、頬が少し赤い。


 席に座ると、ちょうどアナウンスが響いた。


『続いて第三試合!』


 アナウンサーの声が闘技場全体に響き渡る。

 観客たちのざわめきが一瞬収まった。


『西の門より──“炎槍”レイナルド!』


 赤いローブをはためかせた男がリングに上がってくる。

 長身で痩せ型。手には人の背丈ほどもある長い杖。


 先端に揺れる炎が、まるで生き物のように蠢いていた。


『東の門より──“氷壁”グレタ!』


 対照的に、青い装束に身を包んだ女がゆっくりとリングに歩いてくる。

 足元から立ち上る冷気が白い霧となって床を這っていた。


 女の表情は冷静そのもの。

 感情の読めない瞳が、じっと相手を見据えている。


「おー、魔法使い同士の対決だ」

 リリィが身を乗り出す。目がキラキラと輝いていた。


 両者がリングの中央で向き合う。

 炎と氷。相反する属性が、空気を震わせる。


『試合──始め!』


 銅鑼が、ガァンと鳴り響いた。


「ファイアランス!」


 レイナルドが杖を天に向かって振り上げる。

 詠唱と同時に、杖の先端から炎が爆発的に膨れ上がった。


 そして──空中に三本の炎の槍が出現する。

 赤々と燃え盛る槍が、グレタに向けて一斉に射出された。


 ヒュオオオオ!


 空気を裂く音。炎が軌跡を描いて迫る。


「アイスウォール!」


 グレタが冷静に手をかざす。


 瞬間──彼女の眼前に、分厚い氷の壁が地面から突き上がるように出現した。

 透明な氷が光を反射してきらめく。


 ドガァァァン!


 炎の槍が氷の壁に激突。

 爆発音と共に、大量の蒸気が噴き出した。


 白い霧がリング全体を包み込む。


 観客席が沸いた。


「うおおおお!」

「派手だな!」

「やっぱ魔法戦は見応えあるぜ!」


 周囲の観客たちが興奮した様子で叫んでいる。

 拳を振り上げる者、隣の仲間と肩を組む者。


 闘技場全体が熱狂に包まれていた。


 リリィも例外ではなかった。

 目をキラキラさせて、リングに釘付けになっている。


「すごーい! さすが魔法使い同士! レベルが違うよ!」

「……」


 俺は黙って見ていた。


 すげえ迫力だ。


 蒸気が晴れると、氷の壁には大きな穴が開いていた。

 だがグレタは無傷。すでに次の詠唱に入っている。


「アイスランス!」


 今度は彼女の番だ。

 氷の槍が無数に出現し、レイナルドに向かって飛んでいく。


「フレイムシールド!」


 レイナルドが杖を横に薙ぐ。

 炎の壁が出現し、氷の槍を溶かしていく。


 炎と氷がぶつかり合うたびに、爆発音が響く。

 蒸気が立ち上り、視界が白く染まる。


 そしてまた晴れる。


 その繰り返し。


(すげぇな)

(こんな戦い方もあるのか)


 魔法使い同士の戦い。

 距離を取って、詠唱して、撃って。


 避けて、また撃つ。


 知恵と知恵のぶつかり合い。

 属性の相性。魔力の消耗戦。


 面白い。見ていて飽きない。


 リリィが興奮した様子で俺の腕を掴んだ。


「すごいでしょ! 魔法使い同士の戦いって派手なんだよ!」

 

「ああ」

 俺も頷いた。見応えがある。


 炎と氷のぶつかり合いが続く。

 レイナルドが攻め立て、グレタが防ぐ。


 だが徐々にグレタの氷の壁が薄くなっていく。

 魔力の消耗が激しいのか、彼女の額に汗が浮かんでいた。


 数分後──。


「終わりだ! フレイムバースト!」


 レイナルドが杖を両手で掴み、渾身の力を込めた。

 杖の先端から、今までとは比較にならない巨大な火球が生まれる。


 直径三メートルはある。

 空気が焼ける音がする。


 火球がグレタの氷壁に向かって真っ直ぐに飛んでいく。


 ゴォォォォ!


 轟音と共に、氷壁が粉々に砕け散った。

 そして火球はそのままグレタを飲み込む。


「きゃあっ!」


 グレタの悲鳴が聞こえた。

 炎に包まれた彼女の体が、リングの端まで吹き飛ばされる。


 ドサッという音と共に倒れた。

 青い装束は焦げ、動かない。


 審判が駆け寄る。確認して手を上げた。


『勝者──レイナルド!』


 観客が歓声を上げる。


「よっしゃー!」

「さすが炎槍!」

「グレタも善戦したぞ!」


 リリィが拍手している。

 俺も一緒に拍手した。


 いい試合だった。


 次の試合が始まる。


『第四試合! 西の門より──“毒蛇”ヴィクトール! 東の門より──王国騎士団所属、剣士エドガー!』


 緑色のフードを深く被った男と、銀色の鎧を着た騎士がリングに上がる。


 銅鑼が鳴った。


 ヴィクトールは搦め手タイプだった。

 毒針を投げ、煙幕を使い、相手を翻弄する。


 エドガーが剣を振るうたびに、すり抜けるように避ける。


 だが──エドガーは一流だった。


 どんな搦め手にも動じず、冷静に対処する。

 鉄壁の防御。無駄のない剣技。


 そして──一瞬の隙を突いて、エドガーの剣が閃いた。


 ズバッ!


 ヴィクトールの体が、リングに崩れ落ちる。


『勝者──エドガー!』


「うーん、ちょっと地味かも」

 リリィが首を傾げた。


「ああ、だいぶ実力差あったな」

 俺も同意した。


 ヴィクトールは悪くなかった。

 でも相手が悪かった。


『第五試合!』

『第六試合!』


 試合が続く。

 魔法使い、剣士、暗殺者タイプ。いろんなタイプがいる。


 それぞれに個性がある。

 観客たちは飽きることなく歓声を上げ続けていた。


 俺も、一つ一つの試合を真剣に見ていた。

 戦い方を学ぶ。動きを観察する。


 この世界の強者たちがどう戦うのか。

 それを知ることが、俺の成長に繋がる。


 そして──。


「あ、次すごい人だよ!」

 リリィが急に身を乗り出した。


 それまでの興奮とは明らかに違う。

 声のトーンが上がっている。


 

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