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28.再会


 リリィが確保してた観客席で試合を見る。

席についた瞬間、周りが少しざわついた気がした。


視線を感じる。

さっきの試合を見てた連中だろう。


「おい、あいつだよな?」

「アルヴィン倒した奴?」


小声での会話が聞こえる。


「マジかよ...一撃だったぞ」

「すっげぇあり得ねえ...」


ヒソヒソと噂が広がっていく。


「なぁ、あいつ...何者なんだ?」

「わからねぇ...てかイカつすぎるだろ、目つき怖え‥」


隣に座ってた観客が、サッと席を立った。


少し離れた場所に移動する。


露骨に距離を取られた。


他の観客も、じりじりと離れていく。


まるで危険物を見るような目。


俺とリリィの周りだけ、人がいなくなった。


「お疲れさま!」

リリィが笑顔で手を振る。


「おう」


「はい、水」

リリィが水筒を差し出してきた。


「悪ぃな」

一口飲む。冷たい水が喉を通る。


「次の試合、もう始まるよ」

 リリィがアリーナを指差した。


 東門と西門が、ゆっくりと開き始める。


「どんなのが来るんだ?」

「えっとね……」


 リリィがトーナメント表を広げた。


「西門が、剣士のゼノ・ハンマーフォージ」

「東門が、ガルド・ブロンソン」


 その瞬間、俺の手が止まった。


「お?……ガルド?」

「うん」


 リリィが頷く。


「元パーティメンバーの、あのガルドさんだよ」


(へー、あいつが出てんのか)


「楽しみじゃねえか」

「勝ち上がってくれるといいね!」


 リリィが無邪気に笑う。


 俺は視線をアリーナに戻す。

 西門から、もう一人の男が現れた。


「しっかし、相手もなかなかイカつい野郎だな」

「何者だ?」


 大柄な体格。

 傷だらけの顔と腕。

 見るからに戦い慣れしている。


「いいガタイしてるし、傷だらけだぜ」


 そして──手には大斧。

 ガルドと同じ獲物だ。


「元傭兵の人で、近接戦闘が得意な人」

 リリィが説明する。


「ガルドさんとかなり似た戦闘スタイルなんじゃないかな?」

「面白くなりそうだな」


『西の門より──剣士、ゼノ・ハンマーフォージ!』

『そして東の門より──』

『勇者パーティ所属、ガルド・ブロンソン!』


 観客席が沸いた。


「うおおおお!」

「勇者パーティだ!」

「ガルド! ガルド!」


 審判が旗を上げる。


「始め!」


 開始の合図と同時に、ゼノが斧を振り上げた。


「おらぁぁ!!」


 地面を砕く勢いで振り下ろす。

 ガルドも斧を構えて受け止める。


 ガギィィン!


 金属音が響き渡る。

 火花が散った。


 力比べ。


 だが──ゼノの方が力が上だ。


「ぐっ……!」


 ガルドが押し込まれる。

 足が砂に沈んでいく。


「弱ぇな!」

 ゼノがさらに力を込める。


 ガルドの膝が砕けそうだ。


 その瞬間──。


 ガルドが斧を逸らした。

 ゼノの斧が空を切る。


 体勢が崩れる。


「今だ!」

 ガルドの斧が横から薙ぎ払う。


 だが──。


 ゼノが身体強化で硬化。


 ガキィン!


 斧が弾かれる。


「甘ぇ!」


 ゼノの肘打ちがガルドの顔面を捉えた。


「ぐっ……!」


 鼻から血が噴き出す。

 視界が揺れる。


 ゼノが追撃に入る。

 斧が横薙ぎに振るわれた。


 ガルドは斧で受け止めたが──。


 ガギィィィン!


 弾き飛ばされる。

 背中から地面に叩きつけられた。


「がはっ……!」


 息が詰まる。

 観客がざわつく。


「おい、ガルド負けるのか?」

「さっさと立て!」


 ゼノが大斧を振り上げた。

 最後の一撃。


 その瞬間──。


「くそっ……!」

 ガルドが転がって回避。


 ドガァン!


 斧が地面に突き刺さる。

 隙ができた。


「今だ!」

 ガルドが飛びかかる。


 全身の魔力を斧に集中させる。


「烈火斧!!」


 炎が刃を包んだ。


 ゼノが斧を引き抜こうとする。

 間に合わない。


「おおおおお!!」


 ガルドの斧が、ゼノの胴体を捉えた。


 ゴッ!


 炎が爆ぜる。


「ぐああああ!!」


 ゼノが膝をつく。

 そのまま倒れ込む。


 動かない。


 ガルドも、その場に膝をついた。


「はぁ……はぁ……」


 息が荒い。

 全身ボロボロだ。


 審判が手を上げた。


「勝者、ガルド・ブロンソン!」


 観客席から歓声が上がった。


「おおおお!!」

「ガルド!ガルド!」


 俺は立ち上がった。


「便所」

「はーい」


 リリィが手を振る。

 俺は観客席を出た。



 

――――


 

 

 控室へ向かう廊下。

 石造りの壁が冷たい。


 足音だけが響く。

 誰もいない。

 静かだ。


「よお、剛」


 声がした。

 振り向くと、ガルドが立っていた。


 全身汗だくで、まだ息が荒い。

 鼻血の跡が残っている。

 顔には痣。

 ボロボロだ。


「……なんだ」

 冷たい声で返す。


「お前、アルヴィン倒したんだってな」

「ああ」


「まぐれだろ?」

 ガルドが鼻で笑った。


「油断してただけだ」

 腕を組む。


「普通に考えて、お前が勝てるわけがねえ」

 ガルドが胸を張る。


「だが俺はそうはいかねえ」

 自信満々の顔。


「お前みたいな魔力ゼロの奴には、絶対負けねぇよ」


 俺は、ガルドを睨んだ。


「はっ」

 笑う。


「お前、さっきギリギリだったよなぁ?」


 ガルドの顔が歪む。


「あれが精一杯か?」

 一歩、近づく。


「情けねぇな」


「てめぇ……今ぶっ潰してやろうか?」

 ガルドが拳を握る。


「次、俺とお前だ」


 俺はガルドの肩を叩いた。

 ぽん、と軽く。


「楽しみにしてろよ」


 そのまま、すれ違う。


 ガルドの声が背中に突き刺さる。


「はっ、強がってんじゃねぇよ」


「ボコしたあとで泣き言聞いてやるからよ」


余裕の笑い声。


 返事はしなかった。

 ただ、手を軽く振る。


(上等だ)


 廊下の先へ、まっすぐ歩いていく。

 ガルドの荒い息遣いが、遠ざかっていった

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