26.武闘会開幕
「おはよー、剛くん!」
明るい声が耳に飛び込んできた。
目を開けると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
まぶしい。
「おう」
身体を起こす。
ベッドから降りると、足元がしっかりしている。
「珍しくお寝坊じゃん!」
リリィが笑っている。
たしかに──ぐっすり寝た。
夢も見なかった。
身体が軽い。
準備万端だ。
いつも通り、リリィの朝飯を食う。
焼きたてのパン、目玉焼き、温かいスープ。
今日もうまい。
腹が満たされていく。
「今日は晴れ舞台だしな」
食後、鏡の前に立つ。
久しぶりに髪型をしっかり整えた。
リーゼント。
前世からの、俺のトレードマーク。
櫛を通し、ワックスで固める。
ピシッと決まった。
「準備できたか?」
リリィの部屋のドアを叩く。
「ちょっとまってー!」
慌てた声が返ってくる。
しばらくして、ドアが開いた。
「おっけー!」
リリィが飛び出してくる。
いつもと違う服装だ。
フリルのついた白いブラウスに、短めの赤いスカート。
ツインテールもいつもより高い位置で結ばれていて、リ ボンが揺れている。
(めかし込んでんな)
見てくれだけみれば本当ギャルだな。
「うし、いくか!」
二人で家を出た。
街は、すでに賑わっていた。
大会を祝う飾りが、あちこちに掲げられている。
赤、青、黄色──色とりどりの旗が風に揺れる。
出店がずらりと並び、香ばしい匂いが漂ってくる。
焼き鳥、串焼き、綿菓子。
子供たちが走り回り、笑い声が響く。
すっかり祭りムードだ。
「へー、ガチの祭りじゃん」
俺は周囲を見渡す。
「すごいでしょ!」
リリィが嬉しそうに笑う。
「珍しい食べ物出てるかも〜。あとで来よ!」
「そうだな」
笑いながら頷く。
闘技場が近づくにつれ、人の数が増えてくる。
そして──噂話が聞こえてきた。
「今年も、やはりダリウスとアルヴィンが優勝候補かな」
「いや、今年は三百回記念だ。俺たちの知らない猛者が現れるかもしれないぞ」
「それに、勇者パーティからも誰か出場するらしいぞ?」
その言葉に、足が止まる。
(ん? あいつらの中から誰か出んのか?)
(当たったらラッキーだな)
思わずニヤけた。
受付に到着した。
石造りのカウンター。
受付嬢が、にこやかに迎えてくれる。
「試合に出る、鬼塚剛だ」
「鬼塚剛さんですね」
受付嬢が頷く。
「お待ちしておりました」
紙を一枚、カウンターに置く。
「こちらが試合の組み合わせと日程になっております」
「試合開始十分前には、入場準備をお願いします」
丁寧に説明してくれる。
「試合時以外は、観戦するなりお休みになるなり、ご自由にお過ごしください」
「選手用の待機室も設けております。ご自由にお使いください」
「おう」
紙を受け取る。
見ると──。
「お、俺初戦じゃねえか」
トーナメント表には、十六人の名前と組み合わせが記されていた。
「みせてみせて!」
リリィが覗き込んでくる。
「ほんとだ! よかったね!」
「早く戦いたくて、うずうずしてたんでしょ?」
「ん?」
俺はリリィを見る。
「なんだ、よくわかったな」
「なんとなくね」
リリィが笑う。
「てか、相手……」
リリィの顔が、固まった。
「ええ……」
「アルヴィン?」
俺はトーナメント表を見る。
『第一試合:鬼塚剛 vs アルヴィン・グランツ』
「どんなやつだ」
「忘れちゃったの?」
リリィが呆れた顔をする。
「優勝候補筆頭の大魔導士で……」
「あぁ、あー……」
思い出した。
(やべえ、くそ気が向かねえ対戦相手だな……)
「まぁ、ドンマイ!」
リリィが笑う。
トーナメント表の対面には、『ダリウス・ジンガ』の名前がある。
(なるほど、そういうことか)
決勝で当たるように組まれてる。
運営の意図が見え見えだ。
「とりあえず、客席から中の雰囲気見にいくか」
「うん!」
闘技場の客席。
すでに、大勢の観客で埋まっている。
中央には、巨大なトーナメント表が張り出されていた。
周囲から、噂話が聞こえてくる。
「アルヴィン、初戦だぞ!」
「いきなり盛り上がるじゃないか!」
「さすが運営、わかってるな」
「相手、誰だろ? 鬼塚剛?」
「聞いたことない選手だな」
「強そうな名前だけど、アルヴィン相手じゃ残念かもしれないね……」
(ほんと、残念だぜ……)
心の中で呟く。
「リリィ、他の参加者知ってるか?」
「うーん」
リリィがトーナメント表を見る。
「あ! このエドガーって人、知ってる!」
指を差す。
「王国騎士団の有名な剣士だよ!」
「黒い刀を使ってて、魔力がこめられてるんだって」
「現役かよ」
俺は驚く。
「すげぇやつ出てんだな」
「他には……ガロン!」
リリィが別の名前を指差す。
「元闘技場チャンピオンだよ!」
「今回、本当に豪華な顔ぶれ……」
リリィが感嘆の声を上げる。
「こんなメンバーを十六人まで選考するなんて、さすがバルドスさん!」
「おっさん、ガチ強かったんだな」
あらためて、バルドスへの評価が上がる。
「あと、ガルドって勇者パーティの人じゃない?」
リリィが、下のブロックを指差す。
「おう」
俺は頷く。
「下のブロックだ」
「上がってくれば、合法的に半殺しにできるわけだ」
これはニヤついちまう。
「最高だな」
「剛くん、こわーい」
リリィが笑う。
アナウンスが響いた。
『開始十分前になりました』
『第一組目の選手は、入場の準備をお願いします』
「んじゃ、いってくるわ」
俺は立ち上がる。
「うん」
リリィが笑顔を作る。
「がんばっ……ほどほどにね!」
「おう」
入場門の前に立つ。
分厚い鉄の扉。
その向こうに、リングがある。
観客の歓声が、微かに聞こえてくる。
地響きのような音。
(こんなでけえ舞台に上がれるなんてな)
胸が高鳴る。
(ただのゴロツキだった俺が)
(Fランクの雑魚だった俺が)
真っ赤な拳帯をしっかり巻き付ける。
『ド根性』の文字。
ド根性、真っ直ぐで大好きな言葉だ。
気合いが入るぜ。
そして、小さな『L』。
「おっしゃあ!」
拳を叩く。
バン、という音が響く。
扉が、ゆっくりと開き始めた。
光が差し込んでくる。
眩しい。
そして──歓声が、一気に押し寄せてきた。
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