23.資格試験
目の前にバルドスがいた。
至近距離で見ると、さらに迫力がある。
傷だらけの顔。
鋭い目。
隆々とした筋肉。
こいつは本物の戦士だ。
「新顔だね」
バルドスが低い声で言った。
「ルールは聞いているかな?」
「五分立っていられるか、私をダウンさせれば合格だ」
「よろしいかな?」
俺は、ニヤリと笑った。
「おう」
拳を握りしめる。
「五分立ってられたら褒めてやるよ、おっさん」
「よろしくな」
バルドスの目が細まった。
そして──。
「がはは!」
豪快に笑った。
「威勢がいいな!」
「では、始めよう」
観客席から笑い声が聞こえた。
「はは、なに言ってんだあいつ」
「バルドスのこと知らねぇのか」
「初挑戦なんだろ。お気の毒様だね」
審判が旗を上げる。
「それでは──」
「始め!」
――――
戦闘が始まった。
次の瞬間──。
バルドスが、手を翳した。
「痺れてご退場願おうかね」
「サンダースピア!」
雷の槍。
さっきの魔法使いを瞬殺したやつだ。
だが──。
「!?」
バルドスの顔が歪んだ。
「なんだ……魔法が発動しない?」
手を見る。
何度も魔力を練る動作を繰り返す。
でも、何も起こらない。
(やっぱりな)
俺はニヤリと笑った。
「痺れさせてくれよ、おっさん」
拳を構える。
「ほら、拳で来いや」
完全な挑発。
かかってこいと言わんばかりのポーズ。
バルドスの顔が、強張った。
(身体強化も切れている……)
(なんだ、この状況は!?)
(魔法が使えない?)
(いや、そんなはずは……)
混乱が顔に浮かぶ。
だが──すぐに表情を引き締めた。
「……よかろう」
「いくぞ!」
バルドスが拳を振るった。
速い。
さすが元Aランク。
身体強化なしでも、この速度。
でも──。
(遅ぇ)
俺には見えてる。
軌道が手に取るようにわかる。
体を横にずらす。
拳が空を切った。
そのまま──。
「おらぁ!」
俺の蹴りが、バルドスの膝下を捉えた。
バチン!!
激しい破裂音が闘技場に響き渡る。
「ぐっ……!」
バルドスが顔を歪める。
効いたな。
そして──。
俺は、もう一歩踏み込んだ。
フェイント。
右の蹴りを見せる。
バルドスが反応する。
その瞬間──右ストレート。
顎を撃ち抜いた。
ガツン!
硬い手応え。
「お」
流石、元Aランク。
身体強化があれば避けられてたんだろうな。
わずかに後ろに仰け反られた。
でも──。
俺の拳の方が早く伸びた。
バルドスの体が、ぐらりと揺れる。
そして──。
ドサッ。
尻餅をついた。
地面に手をつき、唖然としている。
目が見開かれていた。
信じられない、という顔。
静寂。
観客席が凍りついた。
誰も声を出さない。
審判も固まっている。
数秒の沈黙──。
「お、鬼塚剛さん……」
審判が震える声で言った。
「合格です!」
「治癒師さん、お願いします!」
瞬間──。
ちらほらいた観客が湧いた。
「うおおおお!!」
「マジかよ!!」
「バルドスがダウンした!?」
「あいつ何者だ!!」
どよめきが波のように広がる。
治癒師が駆け寄り、バルドスに回復魔法をかける。
淡い光がバルドスを包んだ。
傷が引いていく。
バルドスはゆっくりと立ち上がった。
そして──俺を見た。
「完敗だ」
低い声。
でも、敬意が込められていた。
「君、何者だね?」
「それに……魔法が使えなくなったのは、いったい……」
俺は、肩をすくめた。
「そういうやつなんだよ」
「おつかれさん」
それだけ言ってリングを去った。
バルドスが呟く。
(魔法を封じた?)
(そんな魔法、聞いたことがないが……)
(いや、魔法ではない)
(あれは……)
考え込む表情。
観客席がまだざわついていた。
「すげぇ、一瞬だったな」
「これ、前代未聞じゃね?」
「全然手の内明かしてねぇ」
「鬼塚剛……ダークホースかもな」
俺は待機席に戻った。
「剛くん、お疲れ〜!」
リリィが満面の笑みで迎えてくれた。
「おう」
「バルドスさん、どうだった?」
「よかったよ」
「さすがAランク。格闘術もいけるんだろ」
「ただ、普段身体強化ありきだから、感覚が全然追いつかなかったんだろうな」
リリィが頷く。
「結構なんでもできる人なんだよ」
「強い魔法も使えるし、ピュンピュン動き回って直接攻撃したりもするの」
「へぇ」
俺はニヤリと笑った。
「んじゃ、余計ギャップ感じただろうな」
受付に戻ると受付嬢の目が違っていた。
さっきまでの冷たい視線が消えている。
少しだけ尊敬の色が混じっていた。
「鬼塚剛さん、合格おめでとうございます」
にっこりと笑う。
今度は本物の笑顔。
「武闘会はトーナメント形式で行われます」
紙を一枚カウンターに置く。
「人数や参加者、組み合わせは当日発表されます」
「こちらの紙に詳細が記されていますので、よくご確認をお願いします」
「おう」
俺は紙を受け取った。
闘技場を出る。
夕暮れの街。
空がオレンジ色に染まっていた。
「今日も楽しかったなー!」
リリィが伸びをする。
「おうち帰ってご飯食べよ!」
「ああ」
(武闘会、か)
(いよいよ本番だ)
血がたぎる。
ほんと面白くなってきたぜ
夕日が、俺たちの影を長く伸ばしていた。
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