表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

17話


 リリィの家に着いた。

「ここがうちだよ!」


街の中心部から少し外れた場所にある一軒家だった。

石造りの二階建て。窓からは暖かい光が漏れてる。


「近いって嘘じゃねえかよ」

結構歩いたぞ。足が疲れてる。


「まぁまぁ、入って入って!」

リリィが扉を開けた。


「邪魔するぜ」

中に入ると──。


「……うわ」


本だらけだった。

床に積み上げられた本の山。

テーブルの上には開きっぱなしの本が何冊も。

壁際の棚からは本が溢れてる。


それだけじゃない。

よくわからねえ器具が部屋のあちこちに置いてある。

ガラスの瓶、試験管、魔法陣が描かれた紙。


そして服も散らかってる。

椅子にかけられたワンピース。

床に脱ぎ捨てられた靴下。


学者っていってたっけな。

それなりの家なんだろうけど、性格が垣間見えるな。


「あはは、ちょっと散らかってるけど気にしないで!」

リリィが慌てて床の服を拾い始めた。顔が少し赤い。


「まぁまぁ、座っててよ! お腹空いたでしょ! すぐ用意するからまっててね!」

「おう」


ソファに座る。

本を二、三冊どかして場所を作った。


腹減ったな。

家見た感じ不安はあるが、食えりゃなんでもいいや。


リリィが台所に消える。

鍋をかき混ぜる音。包丁で何かを刻む音。

意外と手慣れた様子だった。


しばらくすると、シチューが出てきた。

湯気が立ち上ってる。いい匂いだ。


「さぁ食べて食べて!」

リリィが嬉しそうにテーブルに皿を置く。


「おう、いただくぜ」

スプーンを手に取る。一口、口に運ぶ。


……ん? 意外だ。うまい。

野菜の甘みが口に広がる。肉も柔らかい。

パンもふかふかで温かい。


「美味しいでしょ! これでも料理は得意なんだ〜」

リリィがドヤ顔で胸を張る。


「ああ」

久しぶりのまともな飯だ。安宿のパンとは比べ物にならねえ。身に染みるぜ。


気づけば三杯おかわりしてた。腹が満たされていく。


「すごい食べっぷり! 見てて気持ちいいわ!」

リリィが笑ってる。


「悪いな」

「ううん、全然! 作った甲斐があるってもんだよ!」


なんか、ちょっと生き返った気分だ。俺も単純だな。


「うまかったよ、ご馳走さん」

「よかった!」


リリィが本当に嬉しそうだ。満面の笑みで皿を片付け始める。


食後。

リリィがソファの向かいに座った。真剣な顔になる。


「でさ、剛くんのことよく知りたいんだ」

身を乗り出してくる。


「学者としての血が騒ぐっていうか……」

目が輝いてる。さっきまでの能天気な雰囲気が消えた。


「剛くんはFランクで、ゴブリンは倒せなかったんだよね?」

「ああ」


「でも上級冒険者をボッコボコにしてた」

リリィが指を折りながら言う。

「これがすごい不思議な現象なの」


「奴らが魔法使わなかっただけだろ?」

俺は腕を組んだ。


「俺はこんなナリだからな。舐めてたんだろ」

「ううん」


リリィが首を横に振る。真剣な表情。


「間違いなく魔法を発動しようとしてた。いや、発動した……のかな?」

少し考え込む。


「特に身体強化の魔法は基本中の基本なの」

リリィが立ち上がって本棚から一冊の本を取り出した。


「戦う時は必ず発動させる。呼吸するのと同じくらい当たり前のこと」

本をパラパラめくりながら続ける。


「付与術師やヒーラーはより強く仲間にかけることもできるけど、魔力のある人間ならある程度使えるんだよね」

「ふーん」


よくわからねえ話だ。

「んじゃその魔法がカスだったってだけだろ」


「さっきも言ったでしょ!」

リリィが本を閉じて俺を見た。


「ランク一つ違うだけでかなりの力の差があるの。相手はA級だったんだよ? 元A級とはいえ、その力は残ってる」


「そう……なのか?」

よくわかんねえな。

(まじでわかんねえな。ただのチンピラだったじゃねえか)


「よし!」

リリィが突然立ち上がった。


「あたしのこと、試しに殴ってみてよ!」

「はぁ??」


何言ってんだこいつ。

「女殴れっかよ!」


「身体強化使うから!」

リリィが構える。


「まぁ、んー、でもちょっと怖いな〜」

少し考えて

「じゃあちょっと当てるだけでいいよ」


「まぁそんくらいなら」

デコピンくらいならいいか。


俺は人差し指を弾いた。

額に当てる。


ガン!!


「かってえ!!」

思わず声が出た。


「コンクリかよ!」

指が痺れてやがる。まるで石を叩いたみたいだ。


「え!! よっわ!?」

リリィが目を丸くした。


「だから魔力なしのFランだっつってんだろ!!」

「ほんと不思議〜」


リリィが首を傾げる。

「何がどうなってるんだろ?」

目をキラキラさせてる。


「研究のしがいがあるわ〜」

完全に学者の顔だ。


(魔法すげえな)

さっきの感触を思い出す。


(どういう事だ?)

チンピラがこれを使ってた?


(いや、そんな感触はなかった)

あいつらは普通に柔らかかった。人間を殴る感触だった。


(ガチでなんか起こってんのか?)


「ねえねえ!」

リリィが俺の目の前に顔を近づけてきた。


「しばらくあたしに剛くんの体、研究させてよ!」

興奮した様子。


「ちゃんと報酬も渡すからさ!」

「報酬か」


ぶっちゃけ助かるな。金がねえ。

それに──俺も魔法がどうとか気になり始めてた。


オーガ戦のこともある。

さっきのチンピラのことも。

少し何かが起きてるような気もしてきてた。


「まぁ構わねえけど」

「やった!」


リリィが飛び跳ねた。

「んじゃしばらくうちに住み込みね!」

にっこり笑う。


「よろしくね、剛くんっ」

「おう」


 

‥ん? (住み込み?)


待て待て。いいのか?

てか解剖とかされねえよな……。


リリィの笑顔がやけに怖く見えた。


「……よろしくな」

 

一抹の不安を抱えながらも、しばらくリリィの家に厄介になることにした。


窓の外。

夜空に星が輝いてる。


なんか、少しだけ先が見えてきた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ