12話
翌朝、準備を整えて出発した。
ダンジョンは長期戦になるらしい。
いつもより多くの荷物――食料、水、回復薬、松明などが、一つの巨大なリュックに詰め込まれていた。
「剛、荷物持ってくれる?」
神崎が当たり前のように言った。
「せめてこれくらいは役に立っていただけますわよね?」
セリアが冷たく笑う。
「……分かってるよ」
俺は黙ってリュックを背負った。
重い。肩に食い込む。
⸻
ダンジョンの入り口は、街から北へ半日歩いた山の中腹にあった。
洞窟の入り口から、冷たい風が吹き出している。
腐敗臭と、カビの匂い。そして血の匂いが混じっていた。
「んー、さすがAランクダンジョン。雰囲気あるよね」
神崎が軽口を叩く。
「まあ、僕には余裕なんだろうけどね〜」
「おい剛、足引っ張んなよ!」
ガルドが俺を睨む。
「途中で怪我されると進めねぇんだからな!」
「逃げ帰るのだけは勘弁してくださる?」
セリアが鼻で笑った。
「荷物持ちがいなくなると面倒だわ」
「……おう」
今更降りるかよ。
ここで汚名返上してやる。
俺の心は、まだ折れてねぇ。
⸻
狭く薄暗い洞窟を進む。
松明の明かりだけが頼りだ。
時々、ゴブリンや骨の化物が現れる。
通路が狭いおかげで、囲まれる心配はなさそうだ。
ゴブリンが三体、俺たちの前に立ちはだかった。
(よし、相手してやる)
「あー、剛はもういいよ」
神崎が手をひらひらと振った。
「怪我されたら進めなくなるし、後ろで荷物持ってて?」
「……っ」
拳を握りしめる。
(くそくそくそくそ!!!)
(挽回する余地すらねぇのか!?)
神崎たちがゴブリンを瞬殺していく。
さらに奥へ進むと、骸骨の戦士が現れた。
「うわ、硬っ! このスケルトン!」
神崎が剣を振るう。
「剣技も通じない! ルナ、サポート! セリア、援護して!」
「はい! 追加で身体強化かけました!」
ルナが神崎に魔法をかける。
「思い切りいくわよ! ファイアランス!」
セリアの炎の槍がスケルトンを直撃。
だが――
「こいつ、魔法障壁まで張ってる!」
神崎が舌打ちした。
その時、俺は飛び出していた。
「うおおおお!!」
全力の飛び蹴り。
骨野郎を吹っ飛ばし、そのまま組み伏せる。
「今だ! やれ!!」
「必殺、セラフィックブレード!」
神崎の剣が光を纏い、スケルトンを貫いた。
骨が砕け散る。
「ふう……」
神崎が汗を拭った。
「さすがにAランクダンジョンは登竜門だね。敵の強さが、外の依頼とは比べ物にならない」
「ああ、硬さも技も段違いだ」
ガルドが斧を下ろす。
「ていうか……何してるの?」
セリアが氷のような目で俺を見る。
「あなた、荷物持ちでしょ?」
「戦闘に参加するなって言いましたわよね?」
「……おう悪ぃな、つい熱くなっちまってよ」
「次はありませんわよ?」
「はいはい」
(クソが……)
「まあまあ」
ルナが間に入る。
「剛さんのおかげで上手く倒せましたし、よかったです! また気をつけて進みましょう」
⸻
その後も、オークや別の骨の化物と遭遇した。
見た目は外と同じでも、明らかに強い。
皆、苦戦していた。
消耗も激しい。
強敵を凌ぎながら進むと、広い空間に出た。
石造りの大広間。
奥には重厚な扉がそびえ立っている。
「はぁ、はぁ……」
神崎が息を切らす。
「さすがに、きついね」
「あの扉の先が、ボス部屋だろうな」
ガルドが見上げる。
「一旦、休憩しよう」
「賛成だ」
ガルドが座り込み、セリアも杖を下ろす。
「魔力もギリギリですわ……」
「回復薬を持ってきて正解ね。荷物持ちさん、回復薬もらえるかしら?」
「おう」
俺はリュックから回復薬を取り出して配った。
「私も……ごめんなさい、いただけますか……」
ルナも疲労困憊だった。
(ダンジョンのモンスターは、見た目は同じでも別物なんだな)
(こんなに手こずってる神崎たち、初めて見たぜ)
⸻
十分な休憩を取った後――
「提案なんだけどさ」
神崎が立ち上がった。
「剛、もう荷物持ちはいいから、囮やってくれない?」
「……あ?」
「ああ、それはいいな」
ガルドが頷く。
「ちっとは目障りになるだろ」
(こいつら……)
「待ってください!」
ルナが慌てて立ち上がった。
「こんな高レベルのダンジョンボスですよ!? 鬼塚さんに万が一のことがあったら……」
「ルナ!!!」
俺が遮る。
「……悪いな。黙ってろ」
ルナを見て、それから神崎を見た。
「引き受けた。やるぞ」
「いいの?」
神崎がニヤニヤ笑う。
「二言はねぇ」
「クスクス……」
セリアが嘲笑を浮かべた。
「決まりだね」
神崎が扉に手をかける。
「皆、気を引き締めていくよ!」
ギィィ……
重い扉が開き始めた。




