男装している私が好かれまくってる件について。 〜学園の後輩がめちゃくちゃ一途すぎる〜
「先輩!好きです!付き合ってください!!」
「…断る」
「なぜにっ」
目の前の後輩が、ガーン、という効果音が聞こえてきそうなほどショックを受けた顔をしている。貴族のご令嬢がそんな顔していいのか。
「君にはもっと相応しい人がいるはずだ」
私では君と釣り合わない。私と違って明るい君には、もっと一緒にいて楽しい人もいるはずだ。こんなやつを選ぶ必要などないだろう。
そう言ったつもりなのに、余計ショックを受けている。なぜだ?
「…き、決めました!わたし、先輩の彼女に相応しい人になります!そしたらまた告白チャンスってことですね!!」
…なんでそうなる!?
◇◇◇
「先輩!」
「先輩ぃ!!」
「エレアせんぱぁいい!!」
……諦めないな。
正直、二日もすれば諦めてくれると思ってたのだが、そう簡単にはいかなかった。なぜかことあるごとに、私を発見してくる。
剣舞の実技中も、図書室から帰る私を見た瞬間、速攻で試合を終わらせて名前を呼んできた。教官に怒られてたけど。
油断ならない女、ララノ・トワール。
「エレア、どうしたの?」
廊下を歩いていると、きゅるんとした目の女の子が私の顔を覗き込んでくる。同級生のクロエだ。
「…トワール家の子が諦めてくれない」
「えー、大変ね。まあエレアはかっこいいし、仕方ないねー」
……あ、容姿が原因?
今更だが、気が付いた。そんなモテるのか、私。
「…私はモテているのか」
「え、めちゃくちゃ」
…知らなかった。
「女子にもか」
「主に女子によ?」
なんということだろう。この学園に三年通って初めて知る事実だった。
「…そうか」
それだけ返すのが精一杯だ。
…しかし、何かを忘れているような気がしてならないのだが、なんだろう。
「……あ、私が女って言ってない」
「アホなの??」
◇◇◇
「えっとだn」
「はいっっっ!!」
…返事にかき消された…。
毎日のように名前を呼んでくるララノを呼び出したら、すごいテンションが高い。
「私は君と付き合うことができない」
「…!!」
「私は君が思ってるような人じゃない。…私は、女だ」
目を丸くして、ララノが固まる。
…期待に添えなくて申し訳ない。男としての私を今まで見てきたのだろうから、その思いに応えてあげられなくて済まないとおm
「じゃあ問題ないんで、これからよろしくお願いします!!」
……。
……!?
「女だぞ!?」
「私はエレア先輩が好きなので性別問題ないです!!しかし女性でしたか、最高ですね!」
わんこ。一言で言うなら超大型犬の熱烈な求愛。その純粋なキラッキラの目で見つめられている。
「〜っ、返事は、ほ、保留で!」
まさかっ、これでも諦めないとは…!
受け入れられる(&さらに告白される)とか想定外だ…!
恐るべき女、ララノである。
◇◇◇
…あれからさらに懐かれるようになった。
寮は学年ごとに分かれているし、お風呂も鉢合わせしない時間帯。学校でもコースが違う。私は騎士コース、ララノは貴族コース(作法を学ぶらしい)。
つまり、学年が入り乱れるご飯のときにめちゃくちゃ会うのだ。
「おはようございます!」
ララノの挨拶は今日も元気である。三年の寮の前だが。
「…おはよう。私を待っていたのか」
「はいっ!」
おおう、熱烈。
「いったい私のどこがそんなに好きなんだ」
「えっ、遠回りしていっても話し終わりませんよ?」
…思ったより重かった。
「じゃあ、私を好きになった理由を教えてくれ」
「はい、もちろんですっ!…あ〜、でもー。交換でとかどうですか?」
交換?
「たとえば、先輩はなんの食べ物が好きですかとか!そういう質問をしたいです」
そんなの知って何がいいのかわからないけれど、まあ構わない。
「問題ない」
「えっ、じゃあいきますよ?あれは一年前…私がここに入学した時のことです」
思ったより遡るな。
「盛大に迷子になったんですよ、わたし!そうしたら、先輩がちょうど通りかかって」
…ああ、思い出した。あの子、ララノだったのか。
「…そのあと私も一緒に迷った記憶があるぞ?」
「はい!二人で迷いました!…で、それで、こんな見知らぬ一年に優しくしてくださるなんてって思って、気づいたらどんどん大好きになっていました!」
躊躇いもなく、ララノはきりっと言い放った。あと可愛いと思った、っていう感想は余計だけど。
「だから好きです、先輩!」
…直球の愛の告白に、いつもながらどうしていいかわからない。
「そ、そうか」
ハートマークが周りを飛び交っている気分だ…。
「じゃあ私も先輩に質問していいでしょうか!」
「まあ、そういう条件だったからな」
「えっとですね、んー…。行きたい場所ってどこですか?」
「は?」
…断じて、冷たく言いたかったわけではない。ただ、咄嗟に反応したらとても険悪な態度になってしまった。
「はい!行きたい場所、教えてください!」
動じないな!?
「ごめん、キツく言うつもりは…。行きたい場所、か」
行きたい場所。行きたい場所?
「…海、とか」
「海ですか、いいですねぇ。一緒に行ったら水着チャンスだったりします?」
「しないぞ!?」
◇◇◇
それからさらに数日が経った。今は二年生がテスト期間のようで、ララノとあの朝を最後に会っていない。
「さみしそうだねぇ、エレア」
「…そんなことない」
クロエが私の周りをうろうろしている。
「やっぱりララノちゃんがいないと物足りないのかな?」
「だからそんなこと」
ない。
…ない?
じゃあ、どうして私は今、どこかが空っぽになってしまった気持ちを感じているのだろう。
これが寂しい、なんだろうか。
「…あれ、図星?」
クロエが驚いたように立ち止まり、私を見てきた。
「そうなのかも、しれない」
「マジで?アオハルだね」
誰だ、アオハル。
「キラキラだねってことだよー」
なんか誤魔化された気もするけど、まあいいか。
ふと窓の外を見下ろすと、ちょうど庭で舞踏の試験を二年生がしていた。
「懐かしいね、舞踏」
「そうだな。私は剣舞だった」
騎士志望の私たちは、剣と一緒に舞ったのだ。ちなみに私は主席である。舞だけ。
「あ、あの子ララノちゃんじゃない?」
「いや、違う。もう三列奥の子」
「よく見てるね」
まあ、そりゃね。毎日呼びかけられてたら、わかる。
頭を柱にもたれかけ、ララノを見た。ひらひらふわふわとした軽い衣服が、風になびいている。柔らかな細い金髪が陽の光を浴びて輝き、そこだけ強い光が差しているかのようだった。
◇◇◇
「えっっ、先輩!?」
ララノが勢いよく立ち上がる。さすが上級貴族、音がそこまでしない。
「舞踏、お疲れ様。差し入れだ。…座学は再試なのか」
「なんですぅ……」
あらら。
ララノの目の前にある紙の束と本とペンのインク…。もしやと思ったが当たりだった。
わかる、座学と私は相容れない。たぶんララノもそのタイプ。
「実技だったら、えいやぁっていけるんですよ…」
不満そうにララノが溢した時だった。
がしゃあああん!
廊下に大きな音が響き渡る。リンリン!と頭の中で鈴が鳴った。
魔力伝達式の「緊急事態が発生した時用の学生にしか聞こえない鈴」の音だ。
ララノも聞こえたみたいで顔色を変える。
『第3寮二年棟に不審者が侵入、何かを奪って逃走中。ララノ・トワールは直ちに現場に来なさい。魔導書を盗られた模様』
「うそだろっ」
魔導書は、貴族の家では家宝に近い。魔術の使い方が載っている、その家独自で編み出されたもの。
ララノの部屋に入られたということは、トワール家の魔導書が盗られたのだ。
急いで行かなくては。そう思ってララノを見ると、ぽかんと口を開けている。
「ララノっ、こうしている場合では__!」
「あの…」
「どうした!?」
「…うちの魔導書、ここにあります…」
「…へ?」
◇◇◇
とりあえずララノと一緒に急いで寮に向かう。現場は騒然としていた。
侵入された上に生徒の魔導書を盗られたのだ。当然の騒ぎと言えた。
「トワール家の!魔導書がっ」
寮の管理者であるドゥーデクルーク先生が近づいてきた。
「あのぉ、えっと…。それ、たぶん魔導書じゃないっていうかぁ…」
そう言ってララノが教官たちに魔導書を見せる。さらにざわつく皆。
…ララノが補習で書き写すために持ってきていたのが役に立ったらしい。
「それではあれはなんなのだ?」
「あれは…魔導書風カバーをかけた…えっと、その」
私の問いかけになぜか顔を赤くして声をごにょごにょと小さくするララノ。
…いかがわしい本だったり?
ララノに限ってそれはないと思うが、その可能性が一瞬、頭をよぎった。
モヤっとしたのは気のせいだ、きっと。
「…〜〜っ!…こ、『恋人と行きたい!名観光スポット100選〜あなたの恋を応援する魔法付き〜』ですぅ…」
…。……ん?
「えっ、エレア先輩と行きたいと思って調べてたんでしゅ…」
恥ずかしいのか噛んでさらに真っ赤になってうずくまるララノ。
…私のためか!!
「…ええと、取り返した方がいいのか?」
「もちろんですっ!だって図書室の本ですしっ、海辺のスポットめちゃくちゃ調べ、あっっ」
ばっと顔を上げて先生に言い返したララノだが、私の視線に気づいたのか顔を逸らす。赤い耳が隠れてない。
「…もしかして、私が海に行きたいと言ったからか?」
「…です…///」
…なんだこの可愛い生き物。
「んんんっ!ま、まあな。それは一旦置いておいてだな?」
あ、先生に仕切り直された。周りになんとなくふわふわした空気が漂ってる気が…。
「とりあえずそれを取り返しに行くぞ」
まあ、あとは帰ってきてからでいい。優先すべきは奪還だ。
「先生。侵入者の魔力、見えるようにしておいてください。私、加勢に行きます」
「おお、頼んだ」
たぶん追跡中だろうから、私も手伝いに行こう。先生が頷くのを見て、私は召喚の準備をする。
「先輩っ、私も一緒に!」
「…いいですか」
ララノに言われて先生に、ララノを連れていく許可をとった。了承されるのを見て、私は手に力を込める。
「遠き狭間より現れたまえ、私の騎獣…シュー!」
ぼわん!
煙と共に大きな音がする。そしてその煙がゆっくり晴れると、灰色の姿がゆっくり現れた。
大きな嘴、鋭い目。頭の飾り羽を微動だにさせないその動きを止めた姿。
どこかでは「ハシビロコウ」と呼ばれる鳥。それが、私の騎獣であr
「…帰ろ」
「待てコラッ!」
◇◇◇
…シューと魚3匹で手を打ち、ようやく私たちは空へと飛び上がった。マイペースなシューは報酬がないと動いてくれないのである。
「済まないな、うちの騎獣が」
「いえ、先輩と一緒に飛べているので問題なしです!」
キリッ!と返された。もういっそ清々しいな。
「しかし、意外と近いんだな」
先生たちが侵入者の魔力を発見し、それが見えるように色をつけてくれた。今頃自分がカラフルになって慌てているだろう。
「…何か質問とかあるか」
沈黙が気になり、私はララノに声をかける。
「えっ、あります!食べ物、何が好きですか!?海見ながら食べたいとかあります!?好きな季節は!?お菓子は!?」
…あっという間に質問攻めにされた。
侵入者の気配を探りながら、私はその質問に答えていく。よく思いつくな、そんなに。
「…あ」
近い。
私の手の中で、ひゅ、と小さく音がなり、風が鋭さを帯びた。
「行くぞ、掴まれ」
「はいっっ」
…なんか楽しげだ。
いつもならば怖いと思うこともある戦いだが、今日はもともと先生たちが戦っている。
それに何より、今は後ろにララノがいる。
それがなぜかとても安心する。ほどよい緊張感の中にいるせいか、手も足も軽い。
絶対に、守ってみせる。
◇◇◇
ざざぁん。
足元に波が寄せては、かえっていく。
「先輩っ、こっちですよー!」
手をそっと引かれ、私はララノの後ろを歩いた。
水が冷たくて、足元の砂が持っていかれるのがくすぐったくて。私は思わず小さく笑う。
それを、ララノが優しい笑顔で見ていた。
「…先輩。今日はきてくれてありがとうございます。もう一生の思い出です…」
「はは、大袈裟すぎるだろ。…今度は私から、誘おうかな」
そう言うと、ララノが目を丸くしたあと、幸せそうな笑顔を顔に浮かべる。その顔が、どうしようもなく可愛かった。
「また来たいですっ!」
「そうだな、私もだ」
まだ告白に返事はしていない。
する日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。私が抱く感情が、ララノの持っている好きと同じものかどうか、わからない。
けれど、そこにいないことが寂しく感じることが、恋ならば。
この、隣にいてほしいという思いを好きというのならば。
私はララノのことが、大好きだ。
読んでいただきありがとうございます!
初の短編です。ドキドキですが、楽しんでいただけたら嬉しいです…!
最終的に答えは出していませんが、このあとどうなるかは皆さんのご想像にお任せします。
さて、追記です。追記?補足?
【エレアの男装理由について】
→めっちゃくだらないです笑。
理由は、幼少期に兄のズボンをスカートだと勘違いして履き、動きやすすぎてそのままズボンになっただけです。
そもそもこの世界観がそこまで重厚なファンタジーじゃないのでご都合設定です。周りからも何も言われず、ほぼ自分が男装という感覚もなかったようですね。
【クロエについて】
→はい、本編に関係ないのですが。
実はクロエは転生者で、腐女子です。ララノとエレアの恋を応援しまくっているお友達です。BLもGLもNLも全部大好きな子ですね。ちなみに「恋人と行きたい!名観光スポット100選〜あなたの恋を応援する魔法付き〜」を学園の図書館に入れてもらうよう交渉したのもクロエだったり…。
それでは、この辺りで作者は退場します。皆さんの心のどこかにエレアとララノがいたら、幸いです。
またどこかでお会いしたいですね。
それでは読んでいただき、ありがとうございました!
追記:
リアクションなどしてくださった方、ありがとうございます!
とっても嬉しいです!!




