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07.bloody lord

07.bloody lord


 コウと黒い外套の人物は対峙し、互いに警戒する。相手が僅かでも動きを見せれば反応できるようにと。

 ローゼ村の住民達も緊迫の雰囲気に各々、隠れてコウと外套の人物の戦いを見ていた。彼らにも分かるのは自分達を守ってくれたのがコウとタキであることだ。

 タキはコウから少し離れた距離の後方で防御魔法の維持で常時魔力を消耗しながら、気を失っている村長の手当てを施す。

 あの爆発からコウが抱えて連れて来た村長は地面に寝かされ、ぐったりと力が抜けた身体で横たわっている。

 村長の首には絞められた痕があり、コウの到着が一歩遅ければ命に関わる状態になってたやも知れない。

 ……魔界の欠片なのに、溶かそうとはしなかったのか……。

 タキは村長の手首に手のひらをあてて苦痛を和らげる魔法をかける。

 村長である義父と妻が危険な状態となり、緊張と不安でタキの近くで妻を抱えた大柄の男は声を押し殺して泣いている。

「……二人は……、助かり、ますか……?!」

 嗚咽を漏らさないように、浅い呼吸を繰り返しながら男は大切な家族の身を案じる。

 医療に長けているわけでもないだろう。家族がぐったりとしている姿に男は取り乱しているのだろう。

 男の質問にタキは微笑んで答える。

「────大丈夫です。お二人は気を失っているだけですので、それよりも過呼吸が起きてますね」

 浅い呼吸でひっ、ひっと繰り返す男をタキは案じる。男は肩を落としてタキに謝罪した。

「す……、すみません……は───、は───」

 村長の治療を中断し、タキは男の方へと歩み寄り、膝を着いて男の胸元に手をかざす。

 優しい暖かな、白い光がタキの手から溢れる。

 男は暖かな光に目元を緩ませて、ゆっくりと呼吸を整えていく。

 先程からタキの魔法には助けられてばかりである。妻も義父も命には別状がないと言われ、男は腕の中の妻の身体に少し力を入れて抱き締めた。

 タキは男に初級の治療魔法をかけてやり、過呼吸を整えさせたあと、杖を握ってコウと外套の人物に視線をやった。

 緊迫感のある空気がコウと外套の人物に流れ、両者は互いの動きに警戒している。

 コウは仕掛けるか、あちらが仕掛けて来るのを待つべきかと頭の中で考える。実力が未知数であり、魔界の欠片の瘴気も持っているとなると今までの経験がどこまで通じるか……。

「…………」

 外套を纏った彼女は相変わらず、無言でコウと対峙している。それなりに魔法が使えても、互いに接近戦で動けるなら緊張状態なのは仕方ない。

 魔法発動にはどうしても時間がかかる。

「────コウ!」

 タキがコウの名前を声に出す。その意味を考えずとも、コウには分かる。

 走り出したコウは人狼の脚力を生かし、一般人では追えない速度でコウは外套の人物の間合いに入ろうとした。

「砕け散れ! アイス・ブレイク!」

 魔力による衝撃がコウを襲い、鋭い氷の槍が一瞬では数えきれないほど、コウを貫かんばかりに外套の人物の紋章陣から生える。

「────‼︎」

 気合いの息を吐き出して、コウは地面を強く踏み出して勢いのまま拳を強く氷に突き入れた。綺麗な音と共に、紋章陣から生えた氷の槍だけでなく紋章陣もコウの拳は壊した。

 外套の人物の前でコウの拳は止まる。衝撃の風が外套の人物の深く被ったフードが上がって顔が露になる。

 紫色の瞳が大きく見開かれる。

 …………あの、魔法使い!

 コウの背後で杖を構えたタキの姿を彼女は見る。その杖の先に付けられた石が発光しているのを見ると、タキの強化魔法でコウの拳に何らかの付与がされていると考えていいのだろう。

「…………なるほど、二対一……、そういうことね」

 先刻、コウに言われた意味を思い知り彼女は苦笑する。思った以上に男の背後にいる魔法使いが手強い存在だったようだ。

 彼女に視線を向けられていることに気づいているタキは目を細めた。

 …………魔界の欠片であるのは確かだろうに、彼女には感情がある。

 彼女が見せる表情は、破壊衝動を根源としている魔界の欠片とは思えない。

 異質な力さえなければ、人の中で暮らせるのではないかと思わせるほど。

 漆黒の長い髪、紫色の瞳。身体は細く、露になった顔つきから見るに成人女性に見える。

「……これは、僕でも初めて見るなあ」

 タキは独り呟く。

 ……兎に角、今は確保を重要視すべきだね。

 そう判断をし、タキは彼女の話を聞くべきだと身柄確保に動くことを優先に。コウには口で伝えずとも大丈夫だろうと、長年の互いの関係を信じることにした。

 コウは彼女の目の前に突きだし、止めた拳を引かずに言う。

「──ここまでだ。俺達と一緒に来てもらう」

 警戒は解かず、コウは彼女を真っ直ぐに見る。コウの持つ金色の珍しい瞳。

 彼女は眉を寄せた。

「……無理なことを。私には守りたい人がいるわ」

「……守りたい……人……?」

 コウの言葉を拒絶して、彼女は応答する。

 魔界の欠片全てが持つ、根底にある破壊衝動を見せない。人のような感情を見せる彼女にコウは驚きを隠せない。

 魔界の欠片が誰かを守りたいと思うことがあるのか。

「貴方のその思考は当然だわ。魔界の欠片にあるのは破壊衝動。そして、全てを溶かす瘴気。何も間違っていないわ」

 彼女は眼前で寸止めされたコウの拳、その手を掴んだ。

「──ぐっ!」

 魔力で防御しているが、彼女に掴まれた手首に激痛が起きてコウは短く呻く。魔界の欠片の瘴気がコウをゆっくりと溶かそうと蝕む。

 コウは眉を寄せて痛みに耐える。魔力で防御しているから、一瞬で溶かされることはない。

「──たとえ、相討ちになっても構わないわ」

 彼女はうっすらと笑みを浮かべる。両の紫の瞳が本気を語っている。

「光槍の一撃! シャイニング・スピア‼︎」

 光で形を作られた槍が彼女の横腹目掛けて飛び、激突した。強い衝撃でコウから手を離し、彼女は地面へと叩きつけられる。

 聞き覚えがない声に彼女はすぐに立ち上がろうとしたが――。

 間髪を容れずにタキの魔法が発動された。

「光の鎖!」

 拘束魔法の光の鎖。地面に複数、紋章陣が展開されそこから光で形成された鎖が伸びて、彼女の身体に巻き付き動きを封じ、地面へ押さえ込む。

「なっ────⁉︎」

 まだ、誰かいるのかと彼女はコウの後方を見る。タキの横で杖を握っている新たな魔法使い。

 柔らかい黄褐色の髪、澄んだ青い瞳。幼さを残した顔立ちに細身の体躯の少年のような魔法使い。

 彼女は知らない。その魔法使いの名前はナイ。

 ──そして、これが彼女を後に変える運命の出会いであった。

 遠い距離にいる筈の二人の間に風が吹き、花弁が踊るように舞った。


「……新たな魔法使い……。援軍を用意しているなんて、思わなかったわね」

「年貢の納め時だ。あんたが魔界の欠片でもこの人数を相手に出来るか?」

 拘束魔法の鎖に縛られ、地面に横たわる彼女にコウが現実を突き付ける。

 コウの後方には、彼女が厄介視しているタキと新たな魔法使いであるナイ。その後ろにも数人見えており、彼女は歯を食い縛る。

 ……お父様……。

 眉を寄せ、拳を握り締めた。

「…………私には、守りたい人がいるの。大切な人が……‼︎」

 涙を流して訴えるような苦悩の表情を浮かべて、泣けない彼女は吠える。

 その言葉を受けてナイが足を進めた。

「────なら、君の話を聞かせて!」

 ナイが声を上げる。

 悲しそうな、彼女の想いを受けてナイは無視出来ないと思ったのだろう。

 ナイのすぐ後ろに立つロザリアは苦笑を浮かべる。

 ……人の話を聞ける子に育ってくれて嬉しいけどね。

 心の中で思ってロザリアは口にせず、ナイの好きなようにやらせてやる。過度な干渉はせず、ナイの選択を尊重してやるのがロザリアだ。

 いざという時にナイをフォローしてやればいい。

 彼女の方へ歩むナイの後ろ姿を見て、アサギは謎の少女を抱えておろおろとロザリアとナイを交互に見る。

 ナイは一歩、一歩と近づいて言葉を口にする。

「……僕は君の話が聞きたい。あの進化型の魔界の欠片も君と関係あるんだよね?お父さんって言ってた」

「…………」

「君の名前も教えてよ! 僕はナイっていうんだ!」

「…………」

 ナイの声は真に彼女の心と寄り添いたいと感じさせるものだ。そう感じさせるから、彼女を追い詰めてしまう。

 泣けない彼女が泣きそうな表情をして叫ぶ。

「──やめてっ‼︎ やめてええええええ‼︎」

 瞬間。大きな魔力の波動が辺りに広がり、黒い力が彼女の身体から迸る。

 黒く強大な力が村の全てを巻き込むように爆発した。

 轟音と爆発が起き、本来であれば村はただでは済まない。けれど、爆発の後に炎もなく爆風による家屋の崩壊もなく、黒煙が村全体から上がるもすぐに消し飛ぶ。

「……あーらら、まあ、仕方ないかもねえ」

 風属性の魔法で黒煙を消し飛ばしたロザリアは任務の結果に息を吐く。

 村全体の防御はタキが防御魔法を継続し、生命反応はナイが防御魔法で守り抜いた。

「……名前も教えてもらえなかった……」

 魔力によって構築された電子情報画面に真似た特殊な魔力式画面で生命反応を確認したナイは防御魔法を張って守った。

 建物等はタキが防御魔法を張ってくれていると、本人に確認も特にせずに信じた。

 ナイの防御魔法は数百年の研鑽を上回る才能と力がある。

「───ここで捕らえても周囲への説明が面倒だからな。逃げられて良かったのかもな」

 ナイの言葉を拾ってコウが言う。

 爆発的な力の行使、その後の転移魔法の使用。コウの見繕った彼女の魔力量では、暫くはまともに動けないと。

 ここで捕らえても他の学園や諸々への報告に困る。ローゼ村の住民全てが証言者だ。

 コウはローゼ村への不信感がある。

 彼女を取り逃したのは好都合と言えなくもない。

「……結果は結果だ。今はローゼ村の状況確認と住民の治療をしよう」

 コウの判断にナイはしっかり頷く。

「────ナイ、君は見たところかなり消耗しているから、休んでていいよ」

 ナイの疲弊を見抜いているタキがナイに声をかけ、ナイは口を大きく開ける。

「……大丈夫だよ! 僕も手伝う!」

「お前が頑張り屋なのは分かってるが、その疲弊じゃ倒れるぞ」

「……うえっ、う……」

 コウに注意され、ナイは反論出来ず。大人しく縮こまる。

 そんなナイをすぐ横へと歩いてきたアサギが声をかけた。

「ナイ様、守って下さりありがとうございます」

 進化型の魔界の欠片との戦闘時、先ほどの彼女の放った強力な魔法から。ナイの防御魔法でアサギと謎の少女、それにローゼ村の住民は守られたのだ。

 アサギの感謝の言葉にナイは頬を朱に染めて、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「……えへへ、ありがとうございます! アサギさんの剣技も凄かったです! 助けてくれて、ありがとうございます」

 ナイの笑顔と素直な言葉にアサギも自然と微笑む。

 懐かしさと親しさを感じたナイの笑顔が誰かに似ているようだとアサギは思う。

 ───ありがとう、…………。

 一瞬、記憶が蘇る。珍しい銀色の長い髪、微笑んでいる唇。優しい声音で、女性の思い出がアサギの脳裏に一瞬だけ。

 名前も呼ばれたような気がしたが、そこだけはノイズ混じりだったような気がする。

「アサギさん、その子はどうですか?」

 ナイはアサギが両腕に抱える謎の少女を気にかける。今も眠っている少女を見てアサギはナイに伝える。

「今は眠っているようです」

「……疲れちゃってるのかな?」

「恐らくは……。あの、ナイ様……、」

「はい? 何でしょうか、アサギさん」

 言いづらそうに視線を彷徨わせ、言おうか言うまいか、明らかに迷っているアサギの様子を見せてナイは首を傾げる。

 アサギは数分、迷っていたが訊くことにし、口を開く。

「……何故、あの女性と対話をしようと……?」

 魔界の欠片の力を持っている謎の女性。結局、逃げてしまったが、直前ナイは彼女の話が聞きたいと望んでいた。

 アサギの問いにナイは真っ直ぐ、顔を上げて真っ直ぐに前を向く。

「……大切な人のために、自分の命だって投げ出そうとしてるとこ見て、思ったんだ。彼女の大切な人の話も彼女の話を……」

 それは本当にそう思ってる。だが、もう一つナイには彼女への思いがあった。

 ……何だか、似ているような気がした。僕とあの子……。

 命を懸けても守りたい人や成し遂げたいことがあるのだと、彼女の声、瞳、表情、言葉から伝わって来た。

 近くにロザリアがいてくれたから……。

「本当ならあの状況で訊くべきじゃないとは分かってます。でも、近くにロザリアがいてくれたので、僕の失敗はフォローしてくれるって信じてたんです」

 ナイは微笑む。自分の無茶な行動も、我が儘も、選択させてくれるロザリアを信じている。

 今のナイの語りを聞いてアサギは少し心がざわつく。ナイにそれだけ信じてもらえているロザリアが羨ましくなった。

 ……会ったばかりだというのに。

 ナイの信頼を得たいと思った自分自身にアサギは困惑する。


 ●


 数時間後、ローゼ村の状況確認を行うも死亡者は無く、負傷者数名。建物など細かい被害は村長の回復を待ってとのことになった。

 村長の娘は一ヶ月入院、コウ達を襲った男は心労が身体に負担をかけ、一晩入院となった。

 村長一家は使用人含めて負傷者が出てしまったためにまともな話が聞けない。コウは肩を落とす。

 何故、ローゼ村の山に進化型の魔界の欠片が現れたのか。あの謎の女性は何故、村長を襲ったのか。村の至る所に刻まれた魔界の属性の紋章陣についても。

 明らかにしたいことが明らかになっていない。

「……成果は依頼の前金と、複数の謎と面倒な報告書作成か──。何て書くか……」

 報告書は他の学園にも情報共有されるので、依頼内容と任務の顛末を文書データで書き起こさなければならない。

 そういった文書データ作成はコウの仕事なのでコウは眉を寄せて、険しい表情を浮かべる。

「大変だね~、コウ。まあ、書けること少ないから……」

 村長一家以外の住民はかすり傷で済んだので治療を一通り行ったタキはコウの近くまで歩いて来た。

 熱心なケアをしてくれたコウとタキ、他のメンバーに恩義を感じたのか一人の住民が勇気を振り絞って近づいて来た。

「……あ、あの、先程はありがとうございました」

 近づいて来たのは壮年ぐらいの男性だ。男性はコウとタキの前に止まり、深く礼をした。

「お怪我は大丈夫ですか?」

「……はい。おかげさまで」

「何よりです」

 タキが優しい声音で訊けば、男性は頷き軽く会釈した。本当に守れて良かったとタキは心底、思う。

「……あの、この村はどうなっているのか住んでいる自分達にもよく分かっていないんです」

「……どういうことですか?」

 男性の切り出しにコウが反応して訊ねる。

「……最初は十年ぐらい、いえ、もっと前かも知れませんが、身元のよく分からない男達が村長の家に来ていたのを知っています」

「……身元がよく分からない、ですか……?」

「は、はい。農民ですので知識も学も最低限ですが、不審な人達は制服のようなものをきちんと着ていたのを分かりますし、覚えてます。その数年後に村のあちこちに紋章陣……? というものが刻まれ、村長の娘さんも家から出て来なくなってしまい……」

 ローゼ村全体の歪んだ歯車は既に回りだした後だった。

 身元不明の不審な男達。ここローゼ村があるのは南大陸の太陽帝国領土内。連中が関係している可能性はあるだろう。コウとタキは同じことを考えた。

「……お話しして下さり、ありがとうございます」

 コウが男性に感謝を伝えると男性は首を横に振って。

「いえ……、これで村も昔のように戻ってくれたら、と願ってます」

 身元不明の不審な男達、村のあちこちに魔界の属性の紋章陣を刻まれ、何の説明も無ければ不安な毎日を過ごしていたのだろう。

 それにようやく解放されたのなら……。

「村のあちこちに仕掛けられていた紋章陣はロザリアが回って消してくれたみたい」

「相変わらず、すげえな」

 タキの報告に機敏と判断に長けたフットワークの軽さだな、とコウはロザリアのことを思う。

 にっこり笑顔を浮かべて、行動するロザリアの姿を思い浮かべてコウは小さく笑みを零す。

 ────その後、ローゼ村の状況確認をした後にナイ達は村から転移魔法で学園に戻った。

 謎の少女は空室のベッドに寝かせ、アサギは強化魔法の治療を受けることに。

 ナイも負荷軽減のために疲労回復の治療魔法をかけてもらうことに。

「レオちゃん、任務でいないから私が皆さんの治療をします!」

 広い食堂で負傷者の治療を担当するのは可愛らしい容姿の女性だ。浅緑色の長い髪を後ろで一つに束ね、横顔は三つ編みで垂らしている。瞳は優しいミントグリーン色で穏やかな眼差しをアサギとナイに向けている。

 制服の長い袖を腕捲りし、はりきっている女性に水色の髪の男性が声をかけた。

「張り切り過ぎて、間違えるなよ」

 男性に言われ、女性は頬を膨らます。

「だいじょーぶです! 私だって治療魔法使えるんだから……! さ、ナイちゃんアサギくん」

 女性は優しい笑顔を浮かべる。

「……えと、あの……」

 笑顔を向けられたアサギは目の前の女性が誰か分からず、困り顔を浮かべて同じソファーの隣に座っているナイの横顔を見つめた。

 アサギの視線に気づいたナイは女性と、その女性のすぐ後ろに立っている男性を交互に見てアサギはまだ会ったことがない、と気づく。

「ごめん、アサギさん。二人は学園の生徒でサラとカイトくんって名前で、女性がサラで男性がカイトくんっていうの」

「は、初めまして! アサギと申します!」

 ソファーに腰をかけた状態だが、アサギは深く頭を下げる。

「……わわ、ご丁寧にありがとう! 改めてよろしくね、アサギくん。私はサラ! 学園ではんんー、雑務担当かな? お花のお世話したり、ニクスくんのお手伝いしたりしてるよ!」

 挨拶と自己紹介を済ませたサラは後ろに立っているカイトの腕を肘で軽く小突く。

 カイトは眉を寄せてちょっと嫌そうな表情を浮かべた。

「カイトだ。戦闘系生徒だが、サラの護衛を主に担当している」

 サラの護衛、に引っ掛かるが初対面であれやこれや訊くものではないので黙って聞き、頭を下げた。

 ……私はまだ新米です。まだまだ、皆さまのことを知るのに焦ってはいけません。

 下心あるわけではなく、アサギは純粋な気持ちでそう思った。互いに信頼を得るのであるならば、焦ってはいけない。

 この時、心の奥底でアサギは故郷に帰らないという選択の可能性を作っていた。


 ナイ達から離れた窓側の席でロザリアは外の庭がよく見える掃き出し窓から外を眺める。

 四角い画面を空間に起動し、世界のニュースを聴いていた。画面の映像を見ずに顔を横に向けて、ロザリアはニュースを流し聞き。

 …………~。…………~。

 画面から綺麗な音楽が聞こえてくる。その後に歌声が聞こえてくる。

 男性のような女性のような不思議な声で、美しく感情を揺さぶるような歌声。きっと、誰もが魅力を感じるような……。

 ロザリアは顔を画面に向け、映像を見る。

「……あ……」

 珍しく驚いた表情を浮かべてロザリアは画面に映る歌声の主を食い入るように見た。

 その表情は明らかに動揺していた。

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