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06.月光のマギアを唱える者

06.月光のマギアを唱える者

 刀の柄を握り締めて、アサギは魔界の欠片と対峙し、ナイは気を失った謎の少女を腕に抱いていた。

 魔界の欠片は尚も異常な再生力を持って、ナイの攻撃魔法を耐えきった。

 ……進化型の魔界の欠片。アサギにもナイにも未知数の敵。父親と繰り返す言葉から自我があるようにも見える。

 だが、魔界の欠片の根底にあるのは破壊衝動。そのままにしておくわけにはいかない。

 アサギは刀を構える。

 少女を片腕に抱え、地面に膝を着いた状態のナイは杖を支えにしている。

 ……攻撃力の高い魔法を……!

 そうは思うも魔力の残量よりも体力の疲弊が激しく、ナイの視界が歪む。アサギと腕の中の少女を救うにはもう一撃、叩き込むしかない。

 ……どこがダメージを負おうとも、僕は……!

 ナイは激しい呼吸を繰り返す。

「……はあ、……はあ」

 どうにか身体を落ち着かせ、魔力を使う準備を体内で調整する。

 構築、魔法を、大きな威力の。

 ナイは口を開く。端から血が溢れる。

 これが魔法使いの代償でもある。攻撃力の高い魔法の連発は未熟なナイでは操作が難しい。

 魔力行使によって体内の臓器が傷つこうとも、ナイはやらねばならない。

「……天満月輝く時、」

 ムーンライト・レイを上回る威力の高い攻撃魔法。月属性の白銀の紋章陣がナイの目の前に展開される。

 高い魔力の波動が胎動するように辺りを震わせる。アサギも魔界の欠片も気づき、ナイへ視線を向けた。

「……ナイ様‼︎」

 アサギが声を上げる。焦りを含ませた声音とナイへの心配からアサギはナイを止めようと、背後のナイへと足を向ける。

 魔界の欠片は身体から無数の蔦のような部位をアサギとナイへ伸ばした。

「────‼︎」

 アサギが驚愕に目を大きく開く。

 魔界の欠片の身体は瘴気が源。強い瘴気はあらゆるものを溶かす。

 アサギの頭の中はただ、ナイのことを────。アサギの両目に僅かだが、紫色の変化を見せた瞬間。

 金色の光がアサギとナイの視界に映った。

 空を切る音ともに魔界の欠片の二人に伸ばされた部位は全て斬り落とされる。高い位置から跳躍して、素早い剣速で攻撃した人物は地面へ綺麗に着地。

 すぐに着地から立ち上がった人物は小柄な少年だった。金色の長い髪と綺麗な金色の両目。少年は両手それぞれに剣の柄を握っている。鋭い眼差しがアサギに向けられており、アサギはナイの傍に膝を着き、突然現れた金色の少年を見つめた。

「……貴方は……」

 よく見れば細部は少し違うがデザインの基調はアサギが着ているルミナス学園の制服と同じものを少年は着ている。

 アサギは瞬きを繰り返し、だがナイの体調も気になりと、数秒ほど慌てたがすぐにナイの身体を支えてやる。

 片手で気を失った謎の少女の上体を抱え、杖を支えに地面に膝を着いたナイは額から汗を流して、少年を目に入れる。

「……ルシーくん……」

 ナイは少年を知っているらしく、少年の名前を呼ぶ。金色の鋭い眼差しでルシーはナイとアサギ、気を失っている少女を一目。

「……これも巡り合わせというものか。星による稀有な道筋……」

 ルシーは独り言を小さく口にする。それをアサギとナイは聞こえず、拾わなかった。

「ナイ様……、あの、彼は……?」

 ナイの背中を擦ってやりながら、アサギは訊く。

「あ……、彼はルシーくんといって、ロザリの相棒……? ……あれ? アサギさんはロザリと会ったことあったっけ……?」

「えと、まだお会いしたことは……」

 アサギの返事にナイは瞬きを数回して、自分が口にした名前の人物をどうアサギに紹介しようかと悩み出す。

 銀色の長くて真っ直ぐな髪、綺麗な金色の瞳の人物の姿をナイは思い浮かべる。

「────初めましてよねえ」

 ナイとアサギのすぐ背後から女性の声がして、二人は後ろに振り返る。

 明るくてはっきりとした女性の声。声の主は女性の平均の身長よりも少し高い身長の不思議な雰囲気を持つ女性だった。

 真っ直ぐで長い、珍しい銀色の髪と大きい瞳は金色。

 アサギの印象は神秘的だが明るく、勝ち気そうな女性である。

「初めまして、アサギくん。私がナイの言ってたロザリで、ロザリアと名乗っているわ」

 ナイとアサギ、ルシーと同じルミナス学園の制服を着ており、下部は白くて短めのスカートで白くすらっとした脚がよく見える。

 ロザリアと名乗った女性の姿を視界に入れた時、ナイの表情は見るからに明るいものに変わった。

「ロザリア!」

 嬉しそうなナイの声にアサギは少し驚いた。

 だが、それよりも後ろから不気味な水音がした。アサギは魔界の欠片の方へ向く。

 アサギとナイ、ロザリアの前には小柄な少年ルシーが立っている。ルシーは落ち着いた表情で魔界の欠片の動きを無言で注視。

「…………」

 ルシーが警戒しているのを信じ、ロザリアはナイの前に立ち、屈んでナイの頬に手を当てた。

「あらあら、ちょっと怪我しているわね。出血は止まっているみたいだし、帰ったらちゃんと治療しようね。アサギくんも」

「……だ、大丈夫だよ! 僕は全然……!」

「ほ────? 口の周りに血の痕があるわねえ……?」

「あ、」

 ロザリアに指摘され、ナイは誤魔化せないことも大丈夫だと装うことも出来ずにあわあわと焦る。

 魔力を使って身体に負担をかけすぎたことをロザリアには見抜かれている。誤魔化すことも、ロザリアには通用しない。

 ナイはそれがよく分かっている。ナイに魔法の基礎を教えたのはロザリアだ。

「……ロザリア姉さんにあとは任せなさい。あ、結界はよろしくね」

 ロザリアは言って姿勢を直す。魔界の欠片の方へと向き、落ち着いた様子で歩きルシーの隣に並ぶ。身長はロザリアの方が頭一個分、高い。

 腰に手をあててロザリアは笑みを崩さない。

「……さて、久しぶりの見せ所かしらね? ルシー」

「────ロザリア、張り切りすぎは判断を過つ」

「……真面目ね~。そういうとこ、頼りにしてるけど」

「…………」

「耳、ちょっと赤いわね」

「…………うるさい」

 照れたらしいルシーは顔をロザリアとは反対の方向へ向け、ロザリアは少女のような幼さの残る笑みを浮かべた。

 こんな何気ない会話をしている間にも魔界の欠片は不気味な動きをしている。

 進化型の魔界の欠片は体内の力を更に増幅させ、瘴気を強めているのだろう。

 一体だけでもナイをあそこまで追い込み、疲弊させる耐久力と再生力。

「────お願い! ルシー!」

 ロザリアがルシーに声をかけたのを合図にし、ルシーは両手それぞれに剣の柄を握り、高く跳躍する。剣を構え、ルシーの金色の瞳は魔界の欠片を射抜くように捉える。

 跳躍の後は一気に降下し、ルシーの金色の剣閃が魔界の欠片を斬り裂く。

 小柄故の速度か。ルシーの剣を振るう速度にアサギは吃驚し、目を大きく見開く。

 ……速いっ!

 ルシーの視線は魔界の欠片を捉えて外さない。そのルシーの金色の瞳がより一層、輝いているようにアサギには見えた。

「……どういうこと、でしょうか……」

 胸が妙にざわつく、とアサギは己の感情に戸惑う。

 ルシーの纏う力の気配か。

〈……オ父様……、オ父様ノ望ミ……〉

 魔界の欠片が両手を広げて声を出す。何重の声が不気味であり、魔界の欠片の容姿は幼い子供のような姿形をしている。

 体積を増した瘴気の塊に、子供の形が生えている。異様な姿。

〈……オ父様……完全ナ娘二……〉

 魔界の欠片の声がルシーに届く。ルシーは眉を寄せる。

 ……ロザリアとの共鳴が仇となっているのか。

 不穏な音のように、頭に響く魔界の欠片の声にルシーの動きが止まる。

「……ルシー!」

 ロザリアがルシーの異変を察知して、ルシーの名前を呼ぶ。

「……大丈夫だ。お前は攻撃魔法に集中しろ」

 首を横に振り、ルシーはロザリアに言って剣を構える。

「ごめん! 前線はお願いね!」

 ロザリアはルシーに感謝し、攻撃魔法発動に取りかかる。月属性の紋章陣を足下に展開する。

 進化型の耐久力と再生力に打ち勝つには相応の魔力を使った攻撃魔法発動が必要になる。

 ルシーが魔界の欠片の攻撃を防いでいる間に発動準備にロザリアは集中する。

 ……けれど、声が。

 魔界の欠片が発する声。それの元にロザリアは心当たりがある。

 思わないところがないわけではない。それでもやることは一つだ。

 足下の紋章陣が白銀に輝き、大きな光を放つ。

「天満月輝く時、」

 両目を閉じて、ロザリアは魔法の詠唱をする。

 体内の魔力が光の粒子となって外にも現出する。片腕を突き出してロザリアは手の平を魔界の欠片へ向けた。

「良夜に祈りて願う」

 魔界の欠片の根源は瘴気。そして、ロザリアは魔界の瘴気についての知識がある。

 心臓の大きな脈動のように魔力が脈打つ。ロザリアの魔力が辺りを揺らす。

「……この魔力は……」

 ナイを支えているアサギが呟く。その言葉を拾ってナイは安堵したように表情を緩めた。

 ……ロザリ。

 心の中で、ナイはロザリアの愛称を呼ぶ。

 ナイの中にもまだ魔力が残っている。ロザリアに頼まれた結界魔法を杖を通して発動させねばならない。


 ロザリアは目を開ける。金色の瞳がルシーと同じ様に輝く。

「白月の洗礼を!」

 ロザリアが魔法の詠唱の言葉を声に出す。

 聞いたルシーは跳躍して飛び退き、剣を消す。ロザリアの隣に着地して、光の鎖で魔界の欠片の身体を拘束。動きを封じた。

 拘束魔法で動きを封じても、魔界の欠片の瘴気が光の鎖を溶かしていく。それでも、ルシーは己の魔力で光の鎖の強化と追加を発動させる。

〈オ父様……、オ父様あああああ‼︎〉

 ルシーによる拘束魔法、ロザリアから感じ取れる大きな魔力の気配。

 魔界の欠片は叫び声を上げる。必死であり、魔界の欠片の強い願いがナイとロザリアを襲う。

 耐えきったロザリアは魔法の名前を、大きな声で言った。

「ヴァイス・ムーンドライブッ‼︎」

 眩い、と目を覆いたくなる程の白光の力がロザリアの手の平から現出した紋章陣から発射される。

 同時に、ナイは結界魔法を付近広範囲に展開させる。ロザリアの発動させた攻撃魔法を結界展開して周囲を守らなければ、地面は抉れ山林は吹き飛んで災害となってしまう。

 白光の大きな力は離れた距離にいる魔界の欠片へ直撃し、拘束魔法によって動けない敵は避けることも出来ない。

〈アアアアアアアアアア……、オ父様……、わた……ワタシは……〉

 白光の大きなエネルギーの中で、魔界の欠片は己の身体がゆっくりと消滅していくのを感じ、言葉を吐露する。

〈……オ父様……、娘二……、けれど、私はなれない。だから、終わりに……終ワリニ……〉

 魔界の欠片の想いのままの言葉をロザリアとルシーは聴いていた。

 感情を持たないと云われている魔界の欠片の精一杯の言葉だ。それはきっと、慕っている父親と呼ぶ者への……。

 白光の大きな力の中で、魔界の欠片は完全な消滅を迎える。そして、ロザリアの魔法も徐々に威力を失って消え去った。

 無数の白い光の粒子がロザリアを中心に漂う。

 ロザリアは腕を下ろして、隣に並び立つルシーを見る。

「……何とも複雑な心境になるわねえ……。進化型に対応するのは初めてではないけど」

 ロザリアは言って、眉を下げる。表情は心境をよく語り、どこか悲しみと憐れみを魔界の欠片に抱いていることがルシーには分かる。

「……同情することは別に良いが、し過ぎるのは気に障る」

「気に障るの⁈」

 ロザリアは驚きを見せて、口をへの字にし先程とは違う表情をする。

 ルシーは無表情で振り返って、少し距離は離れているがナイを支えているアサギに視線を向ける。

「…………」

 無言でアサギを見ているルシーを見てロザリアはニコニコと笑顔を浮かべつつも、アサギの隣で膝を着くナイのもとへと歩み寄る。

 ナイはしっかりと片腕で謎の少女を抱いている。

「……ロザリア、この子を……」

 ナイは言って、ロザリアに少女を託そうと腕を動かすが、ロザリアは制止する。

「アサギくん、悪いけどこの子を抱えてもらって良いかしら?」

「……は、はい」

 ロザリアはナイの腕から優しく少女を両手で抱えて、アサギに渡す。

 アサギは少女を両手に抱き、ナイとロザリアを見守る。

「……無茶し過ぎ、とは説教出来ないわね。よく、守りきったわナイ」

「……ロザリ……」

「後は私たちに任せて、少し眠りなさい」

 ロザリアに額を撫でられてナイは幼い子供のように表情を緩ませ、力を抜く。疲労困憊の状態であったナイは倒れるが、ロザリアが受け止めた。

「アサギくんも初任務、お疲れ様。怪我、しちゃったでしょう?」

 ロザリアはアサギに労いの言葉をかけてやる。新入生の初任務にしてはかなり、危険なものだったが。

「……いえ、ナイ様が守って下さいましたので……」

 進化型の魔界の欠片がこんなにも強い力を持っているとはアサギは思っておらず、己の認識の甘さと未熟さを痛感し表情を曇らせる。

 アサギの顔を見てロザリアは微笑む。

「ナイと一緒に戦ってくれて、ありがとう」

 言葉の後に風がロザリアとアサギの間を吹き抜けた。


 ●


 ロザリアの腕に抱かれて、ナイは心地よい懐かしさを思い出す。

 幼い頃、疲れるまで遊んでくたくたになって、歩けないと泣き出したことは多くあった。子供の幼い我が儘に、甘やかしてしまう者も少なくない。

 優しい腕が幼いナイを軽々と抱えてくれる。

『……ナイ、楽しかった?』

 外で遊ぶ時はなるべく大人と一緒に、と母親から言い聞かせられていたナイはそれを守って、なるべく大人と一緒に遊ぶように幼心で決めていた。

 昔から気配に鋭く、ナイは肌で世界の怖さを感じ取っていた。

 だから、守ってくれる優しい腕の中でナイは蹲る。

『おそとはね、たのしいとこわいのたくさんある』

 幼い喋りでナイは自分の気持ちを吐き出す。

 それを聞いて、ナイを腕に抱えている人物は微笑む。

『……そうだね。世界は怖いことも楽しいことも沢山ある。僕がこうしてナイに出会えたことはとても喜ばしいことだけれど』

『よろこばしい……?』

『嬉しいってことだよ』

 整備された道をナイと彼は歩く。夕日の赤い空、すぐに薄暗くなるであろう時刻ではあった。彼はナイとの時間を長く感じていたかったのかゆっくりと歩を進める。

 横には森林。動物もいるが、彼には脅威ではなかった。

『ナイが産まれた時、ちっちゃくて抱かせてもらうの凄く緊張したんだ』

『ナイ、どんなあかちゃんだった?』

『可愛かったよ。今も可愛くて、大好き』

 大好き、愛してる。それが好意の言葉であると幼くてもナイは何となく理解していた。

 ……だいすき。

 嬉しい、とナイは彼に抱き着く。

『ナイもだいすき。ママのパパ、だいすき』

 ナイの大好き、という言葉に彼は嬉しそうな笑顔を浮かべた。沈む夕日に僅かに照らされた金色の髪がナイの視界に映る。

 ……きれいないろ。

 ナイは思い、目を閉じた。

 大好きな人、名前は思い出せない。けれど、大切な人であることは現在のナイの心にもしっかりと残っている。

 封印された記憶が断片的に存在する深層心理の中に漂いながら、夢のようなあやふやの場所でナイは手を伸ばす。

 その手を誰かが繋いだような気がした。


 ●


 大きな魔力の爆発。爆風によってローゼ村の民家にも影響がありそうなものであったが、被害はほぼ無い。

 しかし、防御魔法発動前に攻撃的な魔力によって首元の制服の襟となる部分が裂けてしまった。片手に杖の柄を握ったタキは自分の首に触れる。

「…………」

 意味ありげに首を触ってタキは首に巻かれている包帯の感触を感じ、少し安堵する。

「防御魔法助かった。────って、大丈夫か、首」

 タキの横に跳んで来たコウがタキの首を見て慌てる。脇腹にはしっかり、気を失っている村長を抱えて。

 黒い外套を纏った人物による攻撃魔法によって村長宅は破壊され、タキは転移魔法と防御魔法を発動させて外へと皆を連れ出した。

 コウは自分で何とかするだろうと、タキは信じ村長宅の生命反応を感知、転移魔法で避難させ村を覆うほどの防御魔法を展開。

「……大丈夫だよ。これぐらい」

 タキはコウに返事し、杖の柄を握る。

 村そのものを破壊しようとした行為は許すべきことではない、とタキは眼鏡の奥の金色の瞳を細めて思う。

「ヴォルちゃん、ありがとう。おかげで発動出来たよ」

 肩に乗ってる丸っこい妙な生物……、精霊のヴォルちゃんにタキは礼を言う。

 咄嗟の二つの魔法の同時発動。タキの技量とヴォルちゃんの補助あっての仕事である。

 ヴォルちゃんは嬉しそうに跳ねてタキの首に擦り寄る。

「…………!」

 黒い爆炎と煙が村長宅から上がる。その煙の中から、一つの影が飛び出す。影はタキを狙って飛ぶが察知したコウが阻む。

 拳を阻むだけで、触れたコウの手の平に痛みが起きる。

 ────‼︎

 驚くコウと、タキを狙った黒い外套の人物の間に閃光が弾け、衝撃で強制的に二人は引き剥がされる。

 黒い外套の人物は地面に着地、コウも土を削りつつもタキの横へ並び立つ。

「悪い、タキ」

 威力を抑えた攻撃魔法でコウと外套の人物をタキは引き剥がした。

 コウは頭部に生えている狼耳を動かし、外套の人物の動きを警戒する。

 魔界の属性を使ってる時点で一般常識に当てはまらないことぐらい簡単に予見出来るというのに、とコウは自分の思慮の足り無さを反省する。

「なるべく、防御魔法と支援は僕がするから。頼んだよ、コウ」

 タキは言って四角い画面を起動する。ローゼ村の住民の生命反応と付近の地図を表示。

 コウはそれを見ずに駆け出す。

 相手は常識が通じない。

 コウは地面を蹴って跳ぶ。外套の人物へと真っ直ぐに殴りかかる。

「…………」

 だが、それを防御魔法の壁で阻まれる。無言で魔力による薄い透明な壁を自分の前に張って、コウの拳を防ぐ。

「……ぐっ!」

 拳を阻まれても、コウは貫き通すつもりで力を込める。己の腕力と魔力を合わせ、防御壁を押し破ろうとするも。

「……アイス・ブレイク」

 外套の人物が更に魔法を発動させ、攻撃魔法の小規模の爆発と氷の槍がコウを襲う。

 それを今度はタキの防御魔法が防ぐ。

「…………」

 やはり、コウよりも後方で魔法を使っているタキが厄介だと判断したのか外套の人物はタキを消す算段を考える。

 けれど、それが隙となりコウに間合いを一気に詰められる。

「タキが厄介なのは俺がよく知っている」

 コウは言い、外套の人物の腹に拳を入れた。

 外套の人物は防御魔法を発動させるが、防御壁はコウの拳に砕かれ、威力は落とせたが外套の人物は腹を殴られて吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられ、外套の人物はすぐに上体を起こす。

「…………今の威力」

 外套の人物はコウを見る。先程とは拳の強さが違う。どういうことなのか、隠していた力なのかというほどに強さが違うのだと体感した。

「二対一の戦いは始めてか?」

 コウの言葉が外套の人物へと飛ぶ。

「────いえ、ここまで魔力を持っている人達を相手にしたことがないだけよ」

 外套の人物はそう言って立ち上がる。戦意は失っていない。ここでこの二人を始末せねば、と。

「────女?」

 口調と声でコウは外套の人物が女性だと考えて口にするが、外套の人物は自嘲気味に笑みを浮かべる。

「真似ているだけよ」

 

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