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03.闇の鼓動

03.闇の鼓動


 アサギの刀の一閃で魔界の欠片と思わしき、水の塊は縦に斬り裂かれた。真っ二つになった水の塊が地面に転がる。

 蒸発している音と共に地面に生えた草は瘴気で溶かされ、アサギは眉間を寄せる。

 もしも、先程の一撃が有効だったなら魔界の欠片は消滅する。だが、瘴気で草を溶かしているのを見ると活動停止はしていないのでは……?

 アサギの背筋に悪寒が走り、ナイの表情は緊張で強張っている。

 ……次の手を。

 アサギは考え、刀を構える。刀身に魔力を纏わせ、アサギは再び地を駆ける。空いた手に石を握り、放って石から刀に変形した柄を握る。

 二刀による剣撃。魔力によって生み出した冷気は刀に纏わせて、アサギは地面に転がっている二つの水の塊に刀身を突き刺した。

「氷塊の棺に、永久(とこしえ)の果てに眠れ、グラースコフィン!」

 アサギの両手に青く光る紋章が数秒、現れ消えた後に刀身を通して水の塊へ強力な冷気が流れる。

 冷静に、落ち着いた判断をするアサギの姿を見て、ナイは凄いと素直に感心したがすぐ後に。

 ……?

 妙な気配をナイは感じた。何と言葉にすればいいか分からない。けれど、確実な予感。

「────アサギさんっ‼︎」

 弾かれたようにナイはアサギの方へ走り出した。

 腕力があれば他にも手段はあったかも知れない。だが、ナイは接近戦は得意ではない。

 足を動かし、アサギへ突進するように力一杯にナイは駆けた。

〈オ……父様……〉

 水の塊を凍らせたアサギの耳に声が届く。幼い声が幾重となって不気味に感じさせる。

 氷が割れる音が響いた後に、アサギの身体はその場から引き剥がされるように動く。ナイがアサギの身体を抱きしめ、突進した。

 二人揃って一緒に地面に転がる。

「……ナイ、様……?」

 何が起きたのか、アサギはすぐに理解出来なかった。ナイに押し倒されているような体勢になっている。

 夕暮れを閉じ込めたような瞳が見開かれ、アサギは驚きの表情を浮かべた。

「……ごめんなさい、アサギさん」

 ナイの頭から流れた血が額から伝って、アサギの口許へと落ちる。

 地面に転がった時に、石で頭を傷つけたらしいナイは額を手で押さえる。ぬるっとした血の感触と痛みを感じて、ナイは自分の手の平を見る。

「……いてて。アサギさん、大丈夫ですか?」

 赤く染まった自分の手を見てナイは苦笑し、アサギに怪我がないか訊くとアサギはこくりと喉を上下させて、静かに頷く。

「……? ──アサギさん! も、もしかして、僕の血を飲んだんじゃ……!」

 自分の血がアサギの口許に落ちていたのを見て、ナイは口に入って飲んでしまったのではないかと焦る。アサギはいつもと変わらない穏やかな微笑みを浮かべた。

「……いえ、怪我もありませんし、血も飲んでません。それよりもナイ様のお怪我が心配です」

「……ぼ、僕は平気です! 魔力で防御しました……いてて」

 ナイは自分の背中を見ようとして痛みで声を上げる。ナイの言葉にアサギはナイの背中を急いで見る、制服が破け背中に火傷のような痛々しい皮膚の変色と出血が見られる。アサギを抱えた時にナイは魔界の欠片の攻撃を背中に受けたらしい。

 アサギは驚き、魔界の欠片を見る。凍結魔法をかけ、凍った筈の魔界の欠片が動いている。

「……‼︎ 動いている……!」

 瘴気が強いのか、魔界の欠片はアサギの凍結魔法を溶かしたようだ。アサギはナイの肩を両手で支え、息を呑む。

 距離は少し離れたが、魔界の欠片の小さな動きを十分に目視できる。

 ナイの顔を見れば、額から血と汗を流しながらナイは背中の痛みに顔を歪ませ、声を押し殺して堪えていた。

「……ナイ様……」

「……僕は、大丈夫です。アサギさん」

 苦痛に顔を歪ませながらもナイは杖を握る。アサギに支えられて、どうにかナイは立ち上がって杖を構えた。

 ……あれは、ただの魔界の欠片ではないかも知れない。

 幼い頃にナイは一通りの知識を学んだ。そして、自分の直感。

 ナイの周囲に白い光の粒子が無数と現れる。その場の空気が揺らぎ、風が吹く。

 大きな魔力の胎動をアサギも感じる。

「────これは……」

 白銀に輝く紋章陣がナイの足下に現出する。その紋章陣を見てアサギは目を大きく開く。

 ──月の属性……⁈

 世界では禁忌とされている月の属性。

 ナイは目を閉じる。己の体内に存在する魔力を操作し、集める。苦痛に堪えながら、集中し思う。

 ……お母さん、僕は────。

 白い花畑の中で佇んでいる女性の後ろ姿がナイの記憶の中に現れる。手を何度も伸ばしても、その背中に届いたことはなかった。

 自分の道、自分の人生。自分の力。

「果てなき闇を照らせ月明、浄化の閃光、満ちたる月に、我は願う」

 ナイはゆっくりと両目を開く。青い瞳が金色の瞳と変化する。魔法の呪文を口にすれば、体内から魔力が放出される。

 光の鎖が足下の紋章陣が現れて、ナイの体に巻きつく。大きな魔法の衝撃で身体が吹き飛ばされないようにするためだ。

 魔界の欠片は小さく動くだけ。

「月光よ、満ち照らせ! ムーンライト・レイ‼︎」

 魔法の名前を叫び、ナイは杖を魔界の欠片に向けて突き出した。杖の先に付けられた青い石から紋章陣が現れ、強大な魔力のエネルギーが魔界の欠片に向かって放たれた。ナイはこの魔法を撃つ前に周囲に結界を張っている、魔界の欠片以外に影響はない。

 轟音と共に魔界の欠片を巻き込んで爆発が起きる。

 周囲の自然はナイの結界のおかげで無傷だ。

 白銀色の光の魔法は消滅し、ナイは肩を大きく上下させて激しく呼吸を繰り返す。

「……はあ、はあ……!」

 杖を手にナイは崩れ落ちて、地面に膝をつく。自分に巻き付けて衝撃の支えにしていた光の鎖も消え、ナイはぼんやりした頭で前を見つめる。

 魔法攻撃によって発生した煙の中、魔界の欠片はどうなっているのか。ナイは目を凝らす。

 アサギはナイの隣に膝をついて、ナイの身体を支えた。

 ナイの両の瞳の金色を見つめ、アサギは目を丸くしたがすぐに目を細める。

「……魔界の欠片は……」

 同じ方向を見て、アサギが呟く。あれだけの魔法攻撃を受けて、もしも無傷なら……。

〈オ父様……オトウサマ……〉

 不気味な声が再び聞こえる。幼い子供の声が重なったような声。

 ナイは声を聞いて杖を強く握りしめる。アサギは口を開き、唖然とした表情を浮かべる。

 煙の中で大きな影が見える。

「……もう一撃、魔法を────‼︎」

 ナイは杖を支えに立ち上がる。煙の中の大きな影を確認して魔界の欠片は消滅していないのが分かった。

 ……進化型。

 幼い頃、学んだ魔界の欠片の知識にあった。────進化型の魔界の欠片。

 強い力を持ち、耐久力も普通の魔界の欠片とは比べものにならない程に高いと学んだ。攻撃魔法ムーンライト・レイが効かないことにも納得だ。

 ナイはもう一手を打つべきかと頭に考えが過ぎるが、アサギが傍にいる以上……。

 ────でも、僕、ムーンライト・レイ撃ったよね……?

 思いっきりの月属性の攻撃魔法だ。人前では使ってはいけないと、会得した時から言われてきたのに。

 ナイはやってしまったと思いながらも魔界の欠片の動きに注視する。

 煙が晴れて、体積が増した水の塊が大きく揺らいで動いている。大きさは膨れ上がり、百四十センチメートルぐらいの身長はありそうだ。

 不快な水音が辺りに響く。

「────、」

 ナイとアサギは目を大きく開いた。

 水の塊が恐ろしい動きをしている。表面が所々に膨れ上がり、そこから手が二本、生えた。

 形は人間のものだが、構成されている基本は水のようなもの。透明だがどこか禍々しい色を宿している。

〈オ父様ノ……、望ミニ……、オ父様〉

 繰り返される父という単語。重なった声が悲しそうに言うのを聞いて、杖を握るナイの手が緩む。

 だが、同調をしてはいけないとナイは手に力を込める。

 ────もう、一撃。それで消滅させなければ……!

 再び、体内の魔力を放出させ、結界を辺りに張る。攻撃魔法の準備に取り掛かる。

 ナイの足下に白銀の光を放つ紋章陣が現出。二回目のムーンライト・レイを撃とうと魔力操作に入る。

 触れられれば強力な瘴気で溶かされる。戦闘力の無い者には抵抗しようがない。ここで止めなければ被害が出るのは明白。

 魔法の呪文を口にしようと、ナイは口を開く。

〈……完璧ナ娘ニ……〉

 腕の次は頭と胴体が、気味の悪い音と共に一気に生えてきた。外見の躰つきから予測するに、子供であろうことが分かる。

 感情を見せない声音なのに、どこか悲しげに聞こえるのはナイだけではなかった。

「…………、」

 やり場のない感情にナイの集中が途切れる。撃たなければいけないのに。

 ──撃たなきゃ。なのに、どうして……!

 杖を持つ両手が震える。ナイの手にアサギの手が重ねられる。

「……ナイ様、今は撃たねばなりません」

 アサギの言葉にナイは魔界の欠片の方へ向いて頷く。目を閉じて、魔力を杖の先へと集める。

 体内の魔力ともう一つの力が胎動する。

 ……混ざって、そして、解き放つ!

 杖の照準を魔界の欠片に合わせる。

「────果てなき闇を照らせ月明、浄化の閃光、満ちたる月に、我は願う」

 杖の先に付けられた青い石に白銀の光が集まっていく。

「月光よ、満ち照らせ‼︎ ムーンライト・レイっっ‼︎」

 杖の先から白銀に輝く紋章陣が現れて、目を覆うほどの白銀の光が魔界の欠片へと発射された。魔界の欠片に再び攻撃魔法が命中した。

 大量の魔力と魔力操作の演算で体力を消耗したナイは力なく倒れるが、アサギが抱き止めて支えてやる。

 周囲に結界を張ったので魔界の欠片に影響はない。

 ……これだけの攻撃魔法……。

 アサギは思う。これほどまでの攻撃魔法は初めて見る。

 ナイの身体を片手で抱き、ナイの手から落ちた杖を拾い持って警戒を続ける。


 ●


 タキの移動魔法で村の前に飛んできたコウと、魔法を使った本人タキ。

 杖を手にしたタキは辺りを見回す。

「……不穏な気配がするね」

 タキは呟き、それを拾ったコウが眉間を寄せて深いため息を吐く。タキの直感を疑っているのではなく、信じているからこそのため息だ。

 ……着いていくべきだった。

 額に手を当ててコウは後悔で頭がいっぱいになる。新人に毛が生えた程度のナイと腕は立つが新人みたいなものであるアサギ。

 ただの魔界の欠片であるならナイの攻撃魔法でも対応できるとこの件を甘く見ていた。

「後悔は後にして加勢と村の調査をしよう、コウ。────あ、ごめん。ちょっと、待ってて」

 タキが歩みをぴたりと止めて、四角い画面を起動して耳につけている通信機に触れる。一見、綺麗な石のついた耳飾りだが、通信の媒体だ。

「……どうかした?」

 通信をしてきた人物にタキは声をかける。予め、コウにも聞こえるように設定しているため、送信主の相手が分かりコウは渋い顔をした。

〈────ナイが新人と任務へ行ったって? しかも、俺がいない間に、〉

 ……あああ、怒ってる……。

 送信主の低い声にコウは眉間に指を当てて、強く撫でる。タキに通信を入れてきた人物はナイの保護者のような男で、ルミナス学園でも単独行動が許されている実力者だ。ナイに過保護で、だが、年を重ねて自立心が強くなってきたナイとは最近、関係がぎくしゃくしており任務を一緒に行くか行かないでちょっとした喧嘩になっている。

 ……誰が話をしたんだ。

 今回のローゼ村からの任務は概要は保護者にも共有しているが、誰が行くかまではコウの口からは言っていない。

「ナイもたまには君以外と任務に行きたいんだろう。あれで、自立心強いし」

〈何かあったらどうするんだ‼︎〉

「大丈夫、大丈夫。今から、僕とコウで加勢に行くから」

〈ナイと新人だけで対処出来てないのか⁈〉

「……二人だけでは厳しいのは確かだね」

〈────タキっ‼︎〉

 送信主からの怒声がタキとコウの耳から頭へ響き渡る。それでも、タキの表情は変わらず、態度も落ち着いている。

 コウは気まずげに視線をタキから横へ向けたが。

「怒ったところでどうにもならないよ。起きてしまった以上はより善い方法で未来に続けるしかない」

 平静を保ったまま、怒りに満ちてる者に対応出来ているタキを見てコウは素直に感心する。

「僕だって万能の読み手ではないからねえ……」

〈……今すぐに移動魔法で俺もそっちに行く〉

「君には君の任務があるだろ? 場所が場所だから、今からだと時間がかかる」

〈ナイに何か起きたらどうする‼︎〉

「だから、僕らが行くんだろ? 大丈夫だから。近くにロザリもいるし」

 ロザリ、という名前を出した途端に送信主の態度が明らかに変化した。

 ……相変わらず、ロザリに弱いねー。

 何て思ったが、タキはその言葉を口にせずに会話を切った。面倒なことになるのは目に見えてる。

「はい、じゃあ切るからね」

 起動した画面を操作して、強制的に通信を切ったタキはコウの方を見る。

「待たせてごめん。さて、行こうか」

「……いいのか?」

「へーき、へーき」

 言って、タキは耳につけている通信機を外して、制服の上着のポケットに入れた。

「……外すのか?」

 コウが訊けば、タキはなんでもないように言う。

「どーせ、怒り狂ったアレクスからしかかかってこないから」

 長年、仲間としてやってきてるだけにタキはナイの保護者の扱い方を心得ている。コウはあの保護者の勢いに押されがちなので、やり込めるタキを尊敬する。

「どーせ、ニクスが喋ったんでしょ」

 保護者と同郷出身で幼馴染であるニクスはよしみでか妙に口が軽い。軽いというか隠し事をしていない。

 だからこそ、互いに仲が良く良好な信頼関係を築いているのだろうとタキは考える。

「ニクスの口の軽さがロザリやお前にも有ればいいんだがな」

 コウは思ったのだが、うっかり口から出てしまいタキは察して口角を上げる。

「声に出てるよ、コウ」

「────あ、いや、その、」

 気まずげに狼狽えるコウの態度にタキは苦笑する。

「……まあ、ほんとのことだしね。ロザリも分かっているよ」

「…………お前、心でも読んでいるのか」

「コウが分かりやすいんだよ。顔に書いてある」

 タキに指摘され、コウは自分の頬を手で撫でた。

 ────俺ってそんなに分かりやすいのか?

 コウは眉を寄せて、困惑する。確かにポーカーフェイスは得意ではないのは自覚はあるが……。指摘されるほどに分かりやすいとは、とコウは考え込む。

「ほら、行くよ」

 考え始めそうになったコウにタキは声をかけて、二人はローゼ村に向かおうと足を向けた。

 そこでコウは思いつく。

「俺が走っていけば早く着くな」

 言ってコウはタキを脇に抱える。

 慣れているタキは大人しく抱えられた。コウはしっかりタキを抱えると地面を蹴って駆け出す。

 人狼なので鼻は利き、脚力がある。


 そこまで距離はなかったのでコウの走りで数分程でローゼ村の入り口に到着した。

 コウはタキをゆっくり下ろしてやり、タキは制服を直してローゼ村を見つめる。その眼鏡の奥の瞳に何が視えているのか、コウには分からないがタキのことは昔からの付き合いなので理解している。

 タキは静かに口を開く。

「魔界の力を僅かに感じるね」

「────は⁈ 魔界の力⁈」

 タキの言葉に驚いてコウは聞き返す。何故、村から魔界の力が……。

 村の入り口の門を見てタキは指差す。

「ほら、あそこ」

「……ん?」

 タキに示された箇所をコウは注意深く見る。村は塀で囲まれ、入り口には門があり、魔除けの陣も門に直接描かれているが僅かに何かが見える。

「視えない?」

 タキに訊かれ、コウは小さく頷く。

「はっきりとは視えないな。けど、何かあるな」

「……ロザリに昔、紋章陣を見せてもらったことがあるんだ。僕には使えない属性だからね」

「使えるやつの方が少ない属性だからな」

 不可侵領域と言われる魔界の属性を持っている者は稀少だ。現在の魔界の状況を考えても、とコウは自分の知っている知識と照らし合わせる。

 魔界の属性は文字通り、魔界の血筋が入っていなければ発現しないレア属性だ。不可侵領域の魔界の血を引いているなんて、今の世では追えないし解らない。

 コウは隣に立っているタキの横顔を見る。

「何の効力がある紋章陣だ?」

「……月属性の魔力を使って視ると侵入者を感知し、術者に報せる効力のある紋章陣だね」

「警報器みたいなもんか」

「うん、これ自体には攻撃は備わっていない。この紋章陣の前に通る、踏むなどをすれば術者に報される」

「……まあ、既に門付近でウロウロしていて不審者なんだが……」

「そうだね」

 タキは涼しい顔してローゼ村の門を堂々と通った。コウも諦めて門を通ってタキの後にピッタリくっついて歩く。

 コウの鼻に華やかな香りが過ぎる。

「────アサギの匂いだ」

 人狼の嗅覚でアサギの匂いを感じ取ったコウは、二人は何も気づかずに依頼を受けて向かったのかと。

 村の中の整備された道を歩きながら、コウはタキに訊く。

「二人は気づかなかったのか……?」

 コウの疑問にタキは仮説を立てる。

「────アサギは兎も角、ナイは気づいていたと思うよ。まあ、ナイ本人の性格からして任務を優先にしたんじゃないかな」

「あ────……」

 思い当たるとコウは苦笑する。

 苦笑しつつもコウは周囲に対して常に警戒をしていた。

 ────視線が凄いな。

 家屋の中から感じる。コウとタキの様子を窺う複数の視線。じっとりとした纏わりつくような、敵意は明確だが殺意があまり感じられない。

「…………苦手だな、こういうの」

「昔と比べていたら、そりゃあ違うよ。まあ、この様子だと村ぐるみってとこかな?」

 村に入っているというのに子供の姿も無い。気配は全て、村に建っている家屋から。

 タキは歩みを止める。コウもタキの動きに合わせて歩みを止める。

「……タキ、どうした?」

 首を傾げるコウにタキは小声で告げた。

「…………畑の中にも紋章がある。魔界の属性のものだね」

 それを聞いてコウは眉を寄せて渋い表情を浮かべた。

「何なんだ、この村は……」

「……普通ではないことは確かかな。領土的には太陽帝国のものだし」

「何が言いたいんだ、お前」

 コウの言葉にタキの眼鏡の奥の金色の瞳がコウの顔を見ていた。

「────あらゆる想定外を覚悟しておくことだね」

 自分達の思っているものとは違う事態が起きることも有り得る。タキの言っている意味に、コウは昔の記憶が頭にチラつく。

 赤く染まった自分の手、剣を手にしてこちらに背を向けているロザリオの記憶、愛する人を失ったニクスの涙。様々な記憶を思い出し、コウは拳を強く握りしめた。

 風が吹いて、コウの緑色の髪を揺らす。

 唇を噛み締めたコウは風と共に乗ってきた気配を感じ取る。

「うわああああああっっ‼︎」

 大きな叫び声を上げて、斧を持った男がコウとタキを襲い掛かろうと走ってきた。

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