『地球人の平均スペック、そんな高かったっけ?』
──体育、50m走の時間。
「それじゃあ次、朝霧と田所ー!」
「……あの、先生。俺、今日なんか関節の調子が」
「走れ田所ォ!!」
(くっ……体育って何で毎回戦場なの?)
スタートラインに並ぶ星司と陽菜。
陽菜は柔らかく伸びをしながら、ぽつりとつぶやいた。
「ふふ、久しぶりだな、走るの──この重力で」
「はい今なんて言った!? 地球の標準重力だよね!? ね!? 陽菜さん!?」
「え? えーと……なんでもないよ?」
(いや“この重力”ってお前……それ銀河標準語で使う台詞だろ!?)
──ピッ! スタートの笛。
星司が地味に全力で走る横で──陽菜は。
(……!?)
──一瞬、地面を蹴る動作が「滑った」。
というより、「浮いた」ように見えた。
風を切る動きじゃない。空間を斬ったような加速。
しかも足音が、異様に軽い。
「……今、陽菜が瞬間移動した気が──いや、気のせいか?」
だが次の瞬間──ゴール。
「はーっ、疲れた~!」
陽菜は、地面に転がるように普通っぽく到着していた。
タイムは……8.2秒。
女子高生にしては早すぎるが、驚異的とまではいかない。
「……あれ? もっとすごい動きしてたような?」
「ね、田所くん。私、ちゃんと“人間っぽかった”?(ヒソッ」
「ささやくな!! 今“人間っぽく”って言ったよね!?」
──その後、バスケの時間。
星司が陰キャの定位置・体育館の隅でボール拾いをしていると、
コート中央で陽菜がエグい角度から三連続スリーポイントを決めていた。
しかも投げたボールの軌道、
「一度物理法則から逸脱して、軌道修正されてる」気がする。
「今、あれ空間曲げたな!? 絶対重力に干渉したろ!?」
「ちがうよ、たまたまだよ~」
「“たまたま”で物理曲がるか!!」
──放課後。
「田所くん、さっきの走り見てた?」
「見てたよ! おかしいだろあれ!? ちょっと浮いてたろ!?」
「ううん、浮いてないよ? ……1ミクロンくらいしか」
「ミクロンって言っちゃった!! 精密計測してる時点でアウトだよ!!」
「でもね、地球の体育って楽しいね。全身で“重力”を感じるというか……生きてるって感じ」
「そんな感想、普通の高校生からは出てこないんだよ!」
>【観測メモ:朝霧陽菜】
>・走法、明らかに軌道制御的
>・バスケ中、2度ほど光学残像あり
>・本人は「たまたま」連呼
>・体育後の発言:「あ、筋肉痛ってこれか〜」
>【結論】
>──この女子、“人類の動き”を最近学んだ節がある。
To be continued...!!