『おかしいのは俺の感性か、地球か、君だ。』
──昼休み、購買前。
「ねえ田所くん。バジリスクパンサンド買ってきてくれる?」
「その商品名、絶対この学校に存在しない」
「あるよ? 新商品。水曜日限定」
「異星種族の毒パンと猛獣肉挟んだみたいな名前なんだけど!?」
星司は動揺して周囲の棚をチェックするが、案の定──ない。
「……なかったの?」
「なかったよ!?ついでに“宇宙味プリン”もないからな!?」
陽菜は軽く唇を尖らせた。
「ちぇー、田所くん、マルチ位相視覚能力ないんだ?」
「いや人間だし!ていうかお前はどういう認識フィルターで世界見てるの!?」
──5時間目、英語の授業。
教師:「じゃあこの文章訳せる人、田所」
「──“我々は千の月を超えて帰還する、翼なき創造主として”」
教師:「……いや、訳文がポエム。いや違う、何語それ?」
「え、第四軌道以降の月面通信で使われてた──」
「黙れ田所!!」
陽菜はそのとき、ふと隣で小さくつぶやいた。
「でもその文、たしかに“帰還者詩篇”の一節に似てるよね」
「何そのワード!?ちょ、今さらっと俺以外に分かるやついたんだけど!?」
陽菜はきょとんとして首を傾げる。
「え? え? いや私も詳しくは知らないけど……なんとなく? 雰囲気?」
(なんとなくで“失われた銀河詩篇”に類似反応出せるわけないだろォ!?)
──放課後、校庭。
星司はついに、対話形式での調査に踏み切った。
「……陽菜、ちょっと質問。地球人ですよね?」
「うん」
「炭素基生命体?」
「うん」
「一次言語は日本語?」
「たぶんそう」
「“たぶん”!?」
「いや、家でたまに“ファ=ア”語も混ざるから……ってちがうちがう!」
「ファ=ア語って! 言語体系の母音が息吹音だけのやつじゃん!? 俺以外に知ってるのおかしいだろ!?」
陽菜は焦った顔で笑う。
「……わ、私ってちょっとオカルト好きっていうか?」
「オカルトの範囲が銀河超えてんだよ!!」
──帰り道。
「ねえ田所くん、私が本当に地球人じゃなかったら、どうする?」
「え?」
「やっぱり警戒する?」
「……まぁ、そりゃ、多少は。だって地球人って世界征服されたくないし」
「でも……地球征服とか、わりとめんどくさそうだよ?」
「“わりと”って何!? 経験者っぽい口ぶりやめろ!!」
陽菜は、何食わぬ顔で笑った。
「私、本当にただの女子高生だよ?」
「──その台詞、今日だけで5回目だぞ……!」
>【観測メモ:朝霧陽菜】
>・存在波動、測定不能
>・言語適応力、異常
>・詩篇識別可能性、危険域
>・なのに毎朝「トーストくわえて遅刻」ムーブする矛盾
>【結論】
>──この女子、ただ者じゃない“普通の女子高生”。
To be continued...!!