第1話 続き: 「因数分解って、そんなに難しいですか?」2
「バレてんじゃねえかコレーーーーッ!!」の直後。
──屋上。
逃げるように教室を抜け出した星司は、フェンス際のベンチに腰を下ろしていた。
「……あっぶな……。完全に宇宙語出てたよな、さっき……」
脳内に鳴り響くアラート。
【警告:地球文明における情報遮断レベル違反】
【違反発言:“セリュア銀河”・“時空振動”・“概念記述式”】
「うるせぇ黙れ、システムログ。こちとら隠居高校生なんだよ……」
ため息をついたその時。
「やっぱりここにいた」
声の主は──朝霧陽菜だった。
「ひえっ!?え、なんで……追跡された!?軌道計算された!?エネルギー反応感知された!?」
「いや、そんなガチの宇宙人みたいな警戒しないでよ!?普通に“田所くんが居そうな場所”で探しただけだから!」
「……それが一番恐ろしい……」
陽菜はツカツカと近づいてくると、星司の隣に腰を下ろした。
「……あのさ。さっきの“概念記述式”だけど──」
「違う!あれは例え話です!星新一リスペクトです!地球の合法範囲です!!」
「だーかーら、そうやって誤魔化すのやめなよ」
陽菜はじっと星司の目を見つめてくる。真剣そのものだ。
(うわ、この目……30,000年前のクアラム女王に似てる……あれは本質を見抜く目……!)
星司は冷や汗をかきながら、ゆっくり口を開いた。
「……君、もしかして“何かを知ってる側”の人間?」
「どうだろう?」
ニヤリと笑う陽菜。
「……でもね、ずっと思ってたの。田所くん、浮いてるけど──浮き方が重力由来じゃないっていうか」
「おおお前、まさか……!?」
「うん。“オーラの波動が、地球圏の物理法則に合ってない”って感じ?」
「チートバレしてんじゃねーかコレーーーー!!」
星司、ベンチから転げ落ちる。
陽菜はそんな彼を見下ろしながら、ほんの少し、優しい笑みを浮かべた。
「……でもね。そういうの、なんか“ちょっと面白い”って思ったんだ」
「……へ?」
「もし君が、ほんとにちょっとだけ“普通じゃない”としても。私は別に、それで引いたりしないよ」
「…………」
「だからさ」
陽菜は、すっと手を差し出してきた。
「また変なこと言いそうになったら、私がフォローしてあげる。ね、コンビ組まない?」
星司の脳内に、30,000年分の文明がフラッシュバックした。
(こんな言語構造、前例がない……!たった一言で、宇宙レベルの干渉申し込み!?)
「え、えっと、その、いや……その……なぜ俺なんかと……?」
「だって、面白そうだし。あと、ちょっと気になるし」
「どのへんが!?」
「全部?」
星司、顔真っ赤。
(こっ、これは……!
宇宙最大の禁忌──“青春の予感”じゃないか!?)
──地球は、やはり恐ろしい。