新しい世界への生まれ変わり(5)
明日は妻、エレノーラの27歳の誕生日だ。本来なら、幸せなはずの日だ。
まさか、もうこんな歳になるなんて…いまだに信じられない。俺は今、28歳。…はあ、時間が経つのは早すぎる。
結婚してからも、帝国の正式な情報員として働いているのかって?
ああ、そうだ。今でも現役だ。
いや、むしろ今では王の側近顧問を務めている。かっこよく聞こえるだろう?
今日は早めに仕事を切り上げた。
大切な妻、エレノーラの誕生日プレゼントを探すために。
彼女が甘いものと魔道具が好きだってことくらい、俺はよく知ってる。
だから、首都で一番有名な菓子店のケーキセットと、最新の魔道具を四つ、用意した。
俺は……幸せだった。本当に、心から。
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家に着いて、寝室のドアを開けたとき──俺は見た。
見たんだ。
見てしまった。
妻を。
……他の男と戯れているところを。
その男を、俺は知っていた。王の息子──王子の一人だった。
その瞬間、身体が硬直した。動けなかった。
手が震え、手にしていたケーキの包みが床に落ちた。
「ドサッ」
ケーキが落ちた音。それはかすかな音だったのに、俺には雷鳴のように響いた。
二人は俺の方を振り返った。
俺はすぐに壁の陰に隠れた。
……ああ、痛い。身体じゃない。心が痛い。
とても、とても……とても痛い。
信じられなかった。エレノーラ──俺が毎晩抱きしめていた妻が……
王子なんかと、こんなことを……。
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俺は家に入るのをやめた。
ふらふらと、かつての職場──王宮の宿舎へ向かった。
使用人たちは相変わらず丁寧に迎えてくれたが、俺は何も言わず、部屋の鍵を求めて中に入った。
そして、鍵をかけて──
泣いた。
弱いからじゃない。
壊れたからだ。
心が、粉々に砕けた。
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翌日、俺は勇気を出して王の前に立った。
すべてを話そうと思った。隠し事などしたくなかった。
正義を求めたかった。
だが──
「は? どういう意味だ? 王家を中傷するつもりか?」 王は玉座から俺を睨み下ろした。その目は冷たく、傲慢だった。
背を向けようとしたとき、王子が──あの男が、
大広間の隅で小さく笑っていた。
気づけば俺は走り寄り──
バキッ!
王子の顔面に拳を叩き込んだ。
たいした威力じゃなかった。だが、それで彼は倒れた。
すぐに衛兵たちに取り押さえられた。
その日のうちに、俺は牢獄へと放り込まれた。
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すべてを失った。希望も、意志も、生きる理由すらも。
俺はただ、座っていた。
考えていた。起きたことを、飲み込もうとしていた。
そして、心が闇に染まり始めたそのとき──
エレノーラが来た。
嬉しかった。心から嬉しかった。
俺は彼女が助けに来てくれたんだと思った。
でも──
「うふふふ……ありがとう、レイ。全部うまくいったわ。
どうか、安らかに死んでね〜」
微笑みながら、彼女は背を向け、立ち去った。
二度と、戻ってこなかった。
俺の心は……完全に、砕けた。
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その五日後、看守たちが来て俺を外へ連れ出した。
手錠をかけられたままだった。
解放されるのかと思った。きっと、何かの手続きだと。
──だが、それは間違いだった。
俺は首都の広場へと連れて行かれた。
処刑台の上へ。
……なんで?
なんで、こんな場所に連れてこられたんだ?
処刑人が壇上に上がり、でたらめな罪を次々と読み上げた。
反逆罪、陰謀、王家への冒涜。
全部、俺のしていないことだった。
>「違う!俺じゃない!これは冤罪だ!!」
必死に叫んだ。
ビシッ!
処刑人の平手打ちが、俺の叫びを止めた。
首を刎ねるための台に、無理やり押し倒される。
最後に見たのは──
無表情で失望した目で見つめる家族。
その後ろで、笑いながらこちらを見る王子とエレノーラ。
それが、俺の最期の光景だった。
「ズシャッ!」
一閃。
世界は──闇に包まれた。
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ああ……
これが、俺の人生の終わりか……。
なんて惨めな結末だろう。
でも──
もし、いつかまた生きる機会を与えられるなら──
俺は……
あいつら全員に、心の底から後悔させてやる。