新しい世界への生まれ変わり(4)
今日はロスト学園の最後の日だ。
別れの時には、泣く者もいれば、抱き合う者もいて、平気なふりをする者もいる。
俺?俺はパーティー会場の隅で静かに寄りかかり、できるだけプロフェッショナルな姿勢を保っていた。感情に流されるタイプじゃないし。
それに、情報屋である俺は…感情をコントロールできなければならない。
だが、そんな賑やかな卒業パーティーの中、突然誰かが俺に近づいてきた。
エレノーラ・デル・フィズだった。
そう、あのエレノーラ——フィズ公爵家の娘。
学業成績はほぼ完璧、性格は社交的で、学年中で知らぬ者はいない。まさに理想の女性、誰にも手の届かない存在。
「…あ、あの…あなた、レイさんですよね?」
彼女は少し息を切らしながら声をかけてきた。
「ええ。私はレイ・アーン。お会いできて光栄です、エレノーラ様。」
俺は自然とフォーマルモードに切り替わり、情報屋としての反射で返した。
…だが、彼女の様子が妙だった。目が輝き、頬が赤い。
…恋してる人の顔だ、これ。
「あ…う、うん。よろしく、私はエレノーラ…」
彼女はどこかぎこちなく、緊張していた。
俺は黙ったまま内心で疑問を巡らせた。
これは何かの任務か?秘密の情報伝達か?まさか、俺に接触してくるってことは…
「…あ、あの、レイさん。少し、お時間いいですか?」
「もちろん。」
「ここはちょっと騒がしいから…裏庭で話せますか?」
俺はうなずいた。まだ任務の可能性を考えていた。
もしかして貴族家にスカウトされるのかもしれない。
だが、裏庭に着いた瞬間——
「け、結婚してくださいっ!!」
……頭が真っ白になった。
これは夢か?
いや、さっき何かアルコールでも口にしたか?
それとも…この異世界、甘やかしすぎでは?
地球では童貞のまま死んだ俺が、学園一の美少女に突然プロポーズされるなんて…!
「…な、なんで急に?」
俺は現実感を保とうと必死に聞いた。
エレノーラはうつむき、顔を真っ赤にしていた。
「お、母様に言われたの。卒業の日に相手を見つけなさいって…。早く婚約しないと他の人に取られちゃうって…」
ああ、なるほどな。貴族家の中には、卒業と同時に縁談を進める家もある。
…でも、なぜ俺なんだ?
「…愛のない結婚で大丈夫なのか?将来うまくいかなくなるかもしれないだろ?」
「だ、大丈夫です!母様が言ってた。愛は時間と共に育つって!」
彼女の目はまっすぐで、言葉に迷いがなかった。
そしてなぜか…俺の心臓は高鳴っていた。
拒否する理由が見つからない。いや、むしろ——
「……わかった。受け入れよう。」
そしてその日を境に、俺たちの関係は急速に深まった。
結婚式の日がやってきた。
王城の大広間には、貴族たち、名士たち、そして同級生たちが集まっていた。
レイ・アーンという小貴族の息子と、名門フィズ家の令嬢エレノーラ・デル・フィズとの突然の結婚を祝福するために。
まさか自分が祭壇の前に立つとは思わなかった。
まるで夢のようだったが、俺の意識ははっきりしていた。
結婚式から一週間後。俺たちは完璧な夫婦のような生活を送っていた。
俺は生活費を稼ぐ——つまり、情報を集めたり、流通の仕事を手伝ったり、ロスト学園出身者らしい任務をこなしていた。
エレノーラは家を守り、ときどき庭いじりをして、そして俺たちの子供を育てていた…
…子供?ああ、養子だ。
下町の村から引き取った子供で、俺たちの絆の象徴として迎えた。血は繋がっていないが、すでに本当の家族のようだった。
俺は幸せだった。いや、幸せすぎた。
地球ではただの普通の男で、童貞のまま死んだ俺が——
今は学園一の美女と結婚して、快適な家を持ち、穏やかな日々を過ごしている…。
くそ、泣きたくなるほどだ。
これが、俺と愛しきエレノーラの物語の要約だ。
……この幸せが、永遠に続くと思っていた。