知られざる真実
「はぁ……なんでテレポートのこと、忘れてたんだろ……」
レイは弱々しく呟いた。果てしない青い海に、彼の身体はただ漂っていた。
マナは戻らず、身体はほぼ感覚を失い、意識も朦朧としていた。
生き延びる可能性? ゼロに近い。
「……もう寝よっか……」
そう囁いて、レイは目を閉じた。
──光が来た。
眩しく、痛いほどに強烈な光。
それは、彼が最初に死んだ時と同じだった。
「くそっ……まさか、サメにでも食われたか?」
レイは苛立ち混じりに呟いた。
しかし、次に耳に届いた声は──あまりにも聞き覚えがあり、そして血が煮えたぎるほどの怒りを呼び起こした。
「どういう意味、それ?」
レイの目が見開かれる。
「……エレノラ⁈ 何を言った⁈」
白すぎるほどの純白のドレスを纏った少女が、傲慢な笑みを浮かべて立っていた。
「他に何があるの? 私はあなたの妻でしょ?」
「戯言を言うな!!」
レイは叫ぶ。「お前は浮気して、俺の信頼を裏切って──殺されるのを黙って見ていたんだぞ!」
エレノラは気だるそうにため息をつく。
「ああ、そのことね……ごめん? でもさ、そんなことで根に持つなんて、ちょっと女々しくない?」
レイは拳を握り締めた。「黙れ……この裏切り女。」
──突然、まばゆかった世界が崩れ落ちた。
闇が全てを飲み込んでいく。
すべてが消える直前、エレノラの声が震えていた。絶望に満ちた、弱々しい声で。
「お願い……レイ。私を……殺して……」
…
レイは飛び起きた。荒い呼吸をしながら、周囲を見回す。
そこは──白い砂浜と、見慣れない木々が広がる孤島だった。
「なんで……あの女の夢なんか見たんだ?」
文句を呟きながら立ち上がる。
海から流れ着いた少量の食糧がまだ残っており、それでなんとか命を繋げそうだった。
──だが、その時。何かを見つける。
人影があった。何人かは杖を持ち、何人かはローブを着ていた。
中には──見覚えのある顔も。
アルン家。帝国。かつての支配者たち。
彼らは何かの儀式を囲んでいた。
レイは身を伏せ、耳を澄ませた。
「遅かれ早かれ、この世界は“R”という存在に滅ぼされるだろう」
司祭の声が低く響く。
「Rだと? それは何者だ、答えろ、無能な司祭め!」
皇帝が怒鳴る。
「分かりません。しかし備えねばなりません……
もしかすると、“勇者召喚プロトコル”の発動が必要かと……」
「そんなものは不要だ!」
アルン家の長が否定する。
「我らの力で十分だ。外の力など借りぬ!」
「膝で物を考えてるのか貴様は!?」
皇帝が毒づく。
──口論が始まる。
罵声が飛び交い、エゴがぶつかり合う。
その時──
ズズッ……
暗黒のオーラが空間を包む。司祭が静かに手を上げた。
「……静粛に。」
「は、はい……」
「勇者を召喚します。ですが……材料が必要です。」
「材料……?」
「人間の死体です。魂の転移に使うため。」
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信じられなかった。
「つまり……異世界の勇者たちは……
死体を使った儀式で召喚されていたってことか……?」
レイの身体が震える。
怒り、嫌悪、そして吐き気。
「今すぐ、奴ら全員を……殺せるかもしれない……けど……」
周囲を見渡す。
敵の数が多すぎた。力が足りない。
「……勇者が来るまで待とう。
まとめて全員、地獄に叩き落としてやる……」
レイは手早く食料を盗み、音を立てずにその場を離れた。
貴族たちは大きな船に乗り、本土へ向かっていく。
レイはその船の底に、次元空間を創り出した。
フックの魔法で船に固定し、影に溶け込む。
──誰にも気づかれずに。
「……どこまでも汚れてやがるな、帝国……」
彼は冷たく囁いた。
「だが……俺は、もっと汚いぞ。」




