再び歩む、その理由
ドサッ…
レイは奈落の底へと落ち、そのまま数日間、意識を失っていた。
そして──かつて死を迎えた時と同じように、彼の前にまばゆい光が差し込んでくる。
「……死んだのか……? くそっ、まだ復讐を果たしてないのに……」
そう呟き、レイは寂しげに目を伏せた。しかし、その静寂を破ったのは、どこか懐かしい声だった。
「落ち込むなよ、バカ。ここに来たのは死んだからじゃない。七つの罪のアーティファクトを全て取り込んだせいで、これは“移行”に過ぎないの」
その声は、優しく、どこまでも美しかった。
「まさか……本当か!? アルメイダ……?」
「うんうん、安心して。もうすぐ目覚めるわよ。それまでの間……記憶を失って転生したジュリエットでも覗いてみる?」
「は? ジュリエットが転生? そんな……どうして?」
「ふふっ、宇宙にはね、何兆という世界と銀河があるの。……ううん、何兆じゃ足りないくらい。地球もその一つ。そして、この世界も同じ」
「……嘘みたいだな」
「本当よ。そして死んだ魂はここで選別され、ランダムに他の世界で新たに生まれるの。でもね、レイ。あなたの魂は、もう何兆回も選別してきた。だから、また会っても私は驚かない」
「そりゃ……すごいな。でも、どうして俺は十八歳になってから意識が戻ったんだ? 今この時点で」
「それはね……数十億年に一度の、特殊なケースなの。あなたは、その“選ばれた例外”ってこと」
「……マジかよ……」
話がどんどん深まる中、レイの身体が突然、眩い光に包まれる。
「時間切れね。行ってらっしゃい、レイ」
「……っ!」
言葉を交わす暇もなく、レイの意識は現実へと引き戻された。
──ガバッ。
レイは、あの奈落の底で目を覚ます。
「いてて……背骨も足も、折れてるな……」
だが、次の瞬間。
リカバリー。
彼の体は、まるで何事もなかったかのように癒されていく。
「……? リカバリー魔法……? 俺、こんなの使えたか……?」
不思議に思いながらも、自身のアーティファクトに目を向けると、思わず声を上げた。
「こ、これは……!? 七つのアーティファクトが……一つに……!?」
その名は──ヌエックス(Nuex)。
英語で言えば、The Artifact of the Seven Deadly Sins。
その瞬間から、彼はさまざまな魔法を自動的に習得していた。飛行、身体強化、暗視──あらゆる能力が、彼のものに。
「やっ……やった……やっと……!!」
「やっと、あの忌まわしき帝国に復讐できるっ!!」
レイの叫びは、深い奈落の底からすら響き渡るほど、力強かった。
──そして、何も考えず、彼は飛び立った。
そう、帝国へ向かって。
……しかし、レイは大きな事実を忘れていた。
──アルヴァリオ大陸と帝国の間には、25年以上かかる距離が存在することを。
結果。
レイは、海のど真ん中に墜落した。
「ちくしょう……そうだった……帝国までの距離、完全に忘れてた……」
「……魔力、もうゼロだし……しばらく、ここで漂流だな……」
そして彼は、果てしない孤独の時間を迎える──




