表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第三のアーティファクト

皇宮の客間に身を寄せてから一週間。

レイは、今のアルセリアについて十分な情報を集め終えていた。


もう、無駄にする時間はない。

次の目的地へ向かう準備を整えていた、その夜。


静けさを破る足音が、背後から響いた。


現れたのは、第一王子――ローラン。


「出発する前に、どうしても話しておきたくて……」


気まずそうに立つ彼は、悲しげな目でレイを見つめていた。


「レイの死のスキャンダル……知っているんだよね? 本当に、あれは……申し訳ない。

あの時は、俺も……知らずにやってしまったんだ。父上にも何度も止めるように頼んだけど……だめだった……」


苦々しい声。悔やんでいるような色が、その言葉の端々ににじんでいる。


だが、レイはただ静かに頷き、薄く微笑んだ。

その笑みは、目にまでは届かない。


「……辛かったんだね。大変だったろう」


まるで、相手の感情に寄り添うように。


だが、心の奥では冷ややかな声が囁いていた。


(綺麗な芝居だな)


――あの時、噂の中心にいたのはローランだ。

微笑みながら、レイ・アーンの妻を腕に抱いていた、その男が。


偽りの同情など、今さら何の価値もない。


だが今は、弱き被害者を演じる方が、遥かに“使える”。


最後の形式的な別れを終え、王や重臣たちへの挨拶も簡潔に済ませた。

持っていくべきものも、惜しむものも、何もない。


旅は、再び始まった。


---


三日後、彼は到着した。

「グレートフォレストの谷」――

何世紀にもわたり、憎悪を飲み込み続けた聖なる森。


そこに眠るのが、第三のアーティファクト――《フヴィクス》。


癒えぬ呪いと恨みの残滓から生まれた、歪な魔具。


その在り処は、迷宮のような幻影の中にあった。

道しるべもなく、出口も見えない。

常人なら、一生を彷徨っても辿り着けない“罠”。


だが、レイは常人ではなかった。


すでに手にした二つのアーティファクトの力を借りて、迷路は無力化された。

まるで、自ら跪くかのように。


そして、そこに――


ひび割れた石の祭壇の中心。

時の流れにさえ取り残されたような場所に、それは静かに佇んでいた。


《フヴィクス》。


触れた瞬間、呪いの逆流が全身を貫いた。


反射的に口から血があふれ出る。

体中が硬直し、魔力の流れが暴走する。


それでも、レイは止まらなかった。


舌を噛み、吐き気をこらえながら、力づくでフヴィクスを自分の魔術回路に叩き込む。


肉体が軋む。精神が裂ける。


それでも、彼の意志は揺るがない。


内側から壊され、再構築されていく。


汚れ、痛み、狂気……すべてを己に取り込むことで、力は“還ってきた”。


最終的に――


《フヴィクス》は、完全に吸収された。


祭壇の上で、彼の身体は倒れ込むように沈んだ。

だがその瞳は、かつてのように金色の光を宿していた。


わずかずつ、しかし確実に。

“かつての力”が戻ってきている。


---


日は傾き、夜が森を支配し始めた。


レイは、そのまま《フヴィクス》の祭壇で野宿を選ぶ。


そして翌朝。

木々の隙間から最初の陽光が差し込むと同時に、彼は歩き出した。


軽い準備運動として、森の魔獣たちを相手にする。


そうして現れたのは――


《ゴブリンロード》。


殺気をまとう、野獣の王。

通常であれば、五人の司令官が束になっても倒せない凶悪種。


だが、レイはただ――薄く笑った。


一閃。


次の瞬間、ゴブリンの首が宙を舞い、地に落ちた。


「……これで終わりか?」


その呟きは冷たい。


「……まだ半分も、戻っていないんだが」


死体に目もくれず、彼は再び歩き出す。


残るアーティファクトは、あと三つ。


どれ一つとして、逃れることはできない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ