過去との再会
「救助劇」の茶番が終わった後、レイは帝都へと招かれ、公式な叙勲を受けることとなった。
それは――滑稽なほどの偽りの栄誉。
だが、人々は信じていた。
たとえ、王女が死んでいようとも。
出発前、俺は「少し小用に」と言い訳をし、隊から離れる。
向かった先は、便所ではない。
ジュリエットの元だ。
「すぐに帰ってくれ」
俺は低く、しかし揺るぎなく告げた。
「この計画は危険すぎる。もう、お前を巻き込みたくない」
ジュリエットは一瞬黙ったが、やがて微笑んで頷いた。
「わかった。準備が整ったら、また呼んでね」
彼女の背が闇に消えるのを見届けてから、俺は帝国兵たちの元へ戻った。
豪華な馬車がすでに用意されていた。
道中、軽く世間話を交わすが、やがて俺は目を閉じ、短い眠りに身を任せた。
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空はすっかり暗くなっていた。
まだ道の半ばに過ぎず、一同は今夜の野営を決めた。
夜が明けると、再び馬車を走らせる。
そしてついに、帝都の城門が視界に入る。
窓の隙間から、かつての都を見下ろしながら、俺は小さくつぶやく。
> 「……あまり発展していないようだな、帝国は」
俺――レイ・アシュベルトは、騎士たちに伴われて王宮の謁見の間へと向かった。
背筋を伸ばし、表情を整える。
今日の目的は一つ。
怒りに呑まれないこと。
扉が開かれる。
王が満面の笑みで迎えてきた。
「ほほほ……ようこそ、レイ・アシュベルト。娘は死んでしまったが、そなたの犠牲は称えられるべきだ」
作られた笑顔。
まるで何も失っていないかのような口ぶり。
俺は静かに礼を返し、受章の式に臨んだ。
祝宴が開かれ、夜が更けていく。
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宴の後、俺は高級なワインを片手にバルコニーへ出た。
夜風が肌を撫でる。
落ち着いたひととき――
だが、誰かの足音が近づいてきた。
第一皇子。
ロラン。
前世で、俺の妻の愛人だった男。
胸の奥が沸き立つ。
だが、俺はすぐに己を律する。
「おや……誰かと思えば、あなたでしたか。第一皇子殿下。
この身分低き者より、謹んでご挨拶申し上げます」
「ははは、そんなに堅くならなくていいさ。レイ。
もう俺はお前を友人だと思ってるよ」
彼は気さくに笑い、俺の肩を叩く。
会話はしばし続き、やがて彼は先に退いた。
ロランの背が消えると、俺の顔から笑みが消える。
> 「ククク……完璧だ。駒は揃った……復讐の時は、すぐそこだ」
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夜も更け、俺は与えられた部屋へ戻った。
が、ベッドに腰かける前に、ノックの音が響く。
扉を開けると、そこには……
下着姿の侍女が立っていた。
薄いレース一枚。
何も隠せていない。
俺は驚かなかった。
この汚いやり方――教えたのは、他でもない俺自身だ。
「入れ」
彼女の顔が喜びに輝いた――が、その瞬間、
俺は小さく呟く。
古代の支配魔術。
彼女の瞳から、光が消えた。
今や彼女は、俺の“目”であり、“耳”となった。
この帝国の中で――