アーティファクトと演技
ディアスとエルディアを仲間に加えたレイは、南への旅を再開した。目的地は「突破不能の要塞」——ルーラのアーティファクトが保管されている場所だった。
その旅路は長く、危険に満ちていたが、レイは一切の迷いなく歩みを進めていた。
南方の国境に近い荒れ果てた森の中で、レイはオークの集団に囲まれている貴族の娘を見つけた。
一瞬の迷いもなく、戦場に飛び込み、彼はオークたちを瞬く間に殲滅した。
「ありがとうございます、あなた様……あの……私の夫になってくださらない?」
娘は頬を染めながら微笑んだ。
その魅力に、レイは一瞬心を揺さぶられた。だが、彼は問いかけた。
「お前は、どの国の出身だ?」
娘は誇らしげに答える。
「私はエスレアル帝国の者です!素晴らしい国ですよ!」
その名が口からこぼれた瞬間、レイの世界は止まった。彼の瞳からは、温もりが完全に消えていた。
「……それで、結婚してくれるの?」
娘は希望に満ちた瞳で再び問いかけた。
だが、レイは彼女を静かに見つめ返すだけだった。
「……今、エスレアルと言ったか?」
レイの声は低く、鋭かった。
娘はうなずいた。「ええ、エスレアル帝国よ。どうかしたの?」
一言も発せずに、レイは剣を抜いた——そして、一閃。
娘の首は宙を舞い、地に落ちた。
「レイ!? 正気か!? 今のは皇女だぞ!!」
ジュリエットが悲鳴を上げた。
レイは落ち着き払ったまま、ため息をつく。
「落ち着け、ジュリエット。これでもまだ足りないくらいだ……」
彼は語った——その娘こそが、自分が育った村、そして数千の中立村を滅ぼした元凶だったと。
ジュリエットは絶句し、その場に吐き気を覚えた。
「……もういい。遺体を引き裂くのを手伝ってくれ。偽装しなきゃ。」
ジュリエットは嫌悪を抱きながらも、結局手を貸すことにした。
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数日後、彼らは「刻印の森」へと辿り着いた。そこは、自然と一体化して生きる森の民——ドライアドたちがルーラのアーティファクトを守っていた。
ドライアドたちは温かく彼らを迎え入れ、なんとアーティファクトを無抵抗で差し出そうとした。
しかし、その中の一人、屈強な体を持つ守護者ヒックマンが立ちふさがる。
「渡せるか、そんなもの! ほしけりゃ俺と一騎打ちしろ!」
レイは自分の力では敵わないことを即座に理解し、静かに身を引いた……ように見せかけた。
ヒックマンが勝利の雄叫びを上げたその瞬間、
レイは背後から無慈悲に殴りつけ、彼を気絶させた。
「これは異世界アニメじゃない。敵の長話なんて聞いてる暇はない。」
そう言って、レイは悠然とアーティファクトを手に取った。
しかし、ヒックマンが敗北したことで、ドライアドの法は新たな主を定めた——彼はレイの使い魔となった。
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再び皇女が殺された場所を通りかかると、そこには数十人の騎士たちが集まり、無惨な遺体に涙を流していた。
レイは、機を見た。
彼はふらつく足取りでその場に近づき、疲れきった顔でつぶやいた。
「……な、何が……ああ……お嬢様ぁ……?」
「おい、若者。ここはお前のような者が見るべき場所ではない。」
一人の騎士が注意する。
「そ、そんな……助けようとしたんです……でも、オークに吹き飛ばされて……気を失って……うぅ……すみません、お嬢様ぁ……」
「そうか……他の者にも確認しよう。」
騎士は優しく言った。
その背を見送りながら、レイは不敵に微笑んだ。
その演技は、完璧だった。
遠くからジュリエットが見つめていた。彼女の目は、疑念と警戒で曇っていた。
数時間後——レイはエスレアル帝国から正式に宮廷へ招かれた。
「姫を救おうとした英雄」として、彼は名誉を手にした。
だが、真実を知る者は二人だけ。
真実は、姫の死と共に消え去った。
そして、偽りは王冠を手に入れた。