バトゥ・ディアズ
貪欲のアーティファクト「エルディア」を倒して吸収した後、レイとジュリエットは次のアーティファクトの場所へと向かう。
彼らの目的地は、人里離れた危険な場所——アルフェイ山。
そこは、精神を操るアーティファクト「ディアズ」が眠ると信じられている氷の領域だった。
ディアズはただの石ではない。
まばゆい紫の光を放ち、見つめた者の理性を曇らせ、自由意志さえも破壊する。
「着いたな。そして今から...俺たちはディアズの守護者と戦うことになる。」
レイは冷たい霧に覆われた山を睨みながら呟いた。
アルフェイ山の空気は骨の芯まで凍えるような冷たさで、自然すら侵入者を拒絶するかのようだった。
そんな中、茂みや岩陰からゴブリンとオークの群れが現れ、怒りに満ちた眼差しで二人に襲いかかる。
短い戦いの後、氷に覆われた森を抜け、凍った川を渡った先で、古代のシンボルに囲まれた石の祭壇が現れた。
そこに、巨大な影が座っていた。
それはエルモラ。
エルフと巨人の混血で、ディアズの守護者。
暗い肌、長い耳、筋肉質な体躯。冷たく無表情なその顔には、戦士としての誇りと怨念が刻まれていた。
エルモラは眠っているように見えたが、その周囲の魔力は一瞬たりとも緩んでいない。
レイは知っていた。力でぶつかるのは無謀だ。だからこそ、策で挑む。
レイが祭壇の円に足を踏み入れた瞬間、エルモラの目が開いた。
咆哮と共に襲いかかってくる。
その一撃は山の地面を割り、レイの身体を弾き飛ばした。
ジュリエットもまた反撃するが、エルモラはそのすべてを読み切ったように捌く。
もはや理性はない——だが、それが隙でもある。
レイは幻影を作り、自らを囮とした。
その間にジュリエットは祭壇近くの木に登り、魔力を集中させる。
「終わりにしよう——エクスプロージョン!」
彼女の魔法が炸裂し、上空からの爆発がエルモラを包む。
地面が揺れ、空気が裂ける。
そして、エルモラの体は砕け散り、頭部だけが地に転がった。
空中に浮かぶディアズは、脈打つように紫の光を放っていた。
ジュリエットは震える手でそれを掴もうとするが、寸前で止まった。
代わりに、彼女はその石をレイに託す。
レイがその石に触れた瞬間——
「うああああああああああっ!!」
森全体がその叫びに震えた。
彼の声は、魂が引き裂かれるような苦しみに満ちていた。
「だ、大丈夫だ……」
彼はそう呟くが、その顔には明らかな苦悶の色が滲んでいる。
ジュリエットは気づいた。
その目の奥で何かが動いている。
それは彼自身ではない——別の存在。
「ついに…私の声が聞こえたか。」
レイの脳内に、重く低い声が響いた。
「私はエルモラ。そして今、私はお前と共に生きる。バフォメットと同じようにな。」
ディアズの力は、ただ操るだけではない。
それは記憶と意識を封じ込め、器の精神に侵食していく呪い。
レイの中で、エルモラの意識が息を吹き返した。
今、彼の精神にはすでにふたつのアーティファクトが共存している。
欲望のエルディア、精神のディアズ。
相容れぬ存在が、彼の心を少しずつ蝕んでいく。
この先、何が待ち受けているのか——
レイ自身にも、もう見えなくなりつつあった。