バフォメットは語る
シャウンの洞窟に足を踏み入れたその瞬間から、何かがおかしいと感じた。
モンスターはいない。罠もない。戦利品すら落ちていない。
「ジュリエット、これって……変じゃないか?」とレイが眉をひそめる。
「さあね。でも、とにかく早く〈強欲のアーティファクト〉を手に入れましょう」と、ジュリエットは淡々と答える。
洞窟の奥へと進んでいくが、隠し扉の先でさえ、何の気配もなかった。
そして、ようやくたどり着いたのは、金の縁取りが施された鋼鉄の巨大な扉だった。
開けた瞬間、空気が変わった。
中にいたのは──レベル1000を超える絶対級モンスター《バフォメット》。
人間のような体をしているが、その大きさは人の15倍。そして──猫のような顔。
彼こそが〈強欲のアーティファクト・エルディア〉の守護者だった。
一見すると、倒すのは不可能に思えた。だが、実際は……あまりにも簡単だった。
バフォメットは理性を持ち、人語を解する“話せる魔物”だったからだ。
記録によれば、彼に挑んだ者は皆、無惨に殺されてきたらしい。だがそれは、彼に会うなり剣を向けたせいだという。
……それでは誰だって怒るよね?
バフォメットを「倒す」手段は、戦闘ではない。話し合いによる説得だ。政治家であるレイにとって、それは得意分野。
「あの……お話、してもいいですか?」と丁寧に声をかけると、
バフォメットは静かに頷き、その場に座った。その姿は、まさに真の紳士だった。
私たちは長い対話を交わした。ジュリエットはというと、壁にもたれてパンをかじりながら、のんびり休憩していた。
話が終わったころ、バフォメットは契約を結ぶことに同意してくれた。ただし、条件は異例だった。
一般的な3:7契約ではなく──9:1。
完全なる主従契約。私は彼を自由に召喚できるようになった。
これで帝国を崩壊させるための戦力が、さらに20%増強された。
残るアーティファクトは6つ:
ディアズ(憎悪のアーティファクト)
ルーラ(嫉妬のアーティファクト)
フィヴィックス(憤怒のアーティファクト)
ブラット(虚偽のアーティファクト)
ヌエクス(七つの大罪を統べるアーティファクト)──これは、すべてを揃えて初めて手に入る。
「行こう、ジュリエット。次の目的地へ」と私は言った。
「うん……でもちょっと眠い。さっきの会話、長すぎたでしょ」とジュリエットはあくびをしながら立ち上がる。
「ごめんって。でも必要な手順だったんだよ」
その日、剣を抜くことはなかった。
だが私は満足していた──絶対級モンスターを従えることができたのだから。
次の目的地は《憎悪のアーティファクト》、ディアズ。そして、それを守る者との邂逅が待っている──