穏やかな生活
ジュリエットと同盟を結んだ後、彼女はついに自分の家に招いてくれた。
「ふふ、ごめんね、レイ。この家、ちょっと狭く感じるかもしれないけど……改めて、ようこそ。」
「そんなことないですよ、ジュリエットさん。この家、すごく広く感じますし、クラシックな雰囲気が落ち着きます。」
僕たちは一緒に夕食をとった。料理は質素だったが、心のこもった味がした。食後、ジュリエットは僕を自分の部屋に招いた。
*コンコンコン*
僕は三回ドアをノックすると、中から優しい声が返ってきた。
「入って、レイ。」
部屋に入ると、ジュリエットはすぐに魔法をいくつも発動させた。音を遮断する魔法、外部との接続を断つ結界、防御用のバリアまで……正直、少し不安になった。まさか、彼女って……そういう意味で僕に興味があるとか……? でもその不安は、すぐに消えた。
「怖がらなくていいわ。ただの予防よ。誰かが盗み聞きしてるかもしれないから。」
僕は小さく頷いた。まだ少し警戒しながらも、彼女の目を見つめた。
「さあ、レイ。全部話して。どうして処刑台に立つことになったの?」
「……はぁ。わかりました。」
僕は全てを語った。権力に飢えたエレノア、傀儡にすぎない王、そして希望を裏切ったあの裏切りの日々。
ジュリエットは一言も遮らず、最後まで聞いてくれた。そして、静かに同情のこもった笑みを浮かべた。
「辛かったわね、レイ……でも、これからは一人じゃないわ。私がそばにいる。」
「ありがとう、ジュリエット……本当に。」
その夜、僕たちは軽い会話を交わし、時々笑いながら、静かな夜を過ごし、やがて眠りについた。
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翌朝、僕は庭に出て剣の訓練を始めた。だが、始めて間もなく、ジュリエットの執事が近づいてきた。
「坊っちゃん、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
彼は深いため息をつき、低い声で言った。
「お嬢様は……この五ヶ月ほど、ずっと塞ぎ込んでいたんだ。何日も食事を摂らず、誰とも会おうとしなかった。」
僕は黙り込んだ。「それが……僕と何の関係が?」
「……正直に言えば、君がただの心の逃げ場になっているんじゃないかと心配してる。でも、もし本当に信頼してるなら……もう何も言わんよ。」
そう言って、彼は去っていった。僕はただ、静かに息を吐くしかなかった。なぜだろう……彼の言葉が、胸に重く残った。でも今は――深く考えないほうがいいかもしれない。
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数時間後、食堂でジュリエットと再び会話を交わしていた時、僕は意を決して切り出した。
「ねえ、ジュリエット。自己強化に使えるアーティファクトのこと、知ってるよね?」
彼女の表情が一変した。嬉しそうだった笑顔が消え、鋭い視線に変わる。
「レイ……近道を選ぶつもり? 復讐のために?」
僕は迷いなく頷いた。「もうこれ以上待っていられない。今、動かなくちゃ。」
ジュリエットは少しの間、ためらったように黙り、やがて深く息をついた。
「そのアーティファクトは、おもちゃじゃないわ。制御は困難だし、命を落とすことさえある。」
でも、それこそが僕の強みだった。
「この新しい体は……ただの器に過ぎない。どんな魔力でも取り込める。だから、呪われたアーティファクトでも僕を壊すことはできない。」
彼女は一瞬黙り、やがて小さく笑った。
「じゃあ教えるわ。この大陸にある、最強のアーティファクトの場所を十ヶ所。どれか一つでも、国を半壊させる力があるわ。全部手に入れたら……帝国を倒すのも、夢じゃない。」
僕は小さく笑った。別に傲慢になったわけじゃない。ただ、ついに一歩を踏み出す時が来たことが嬉しかっただけだ。
「楽しみにしてるよ、ジュリエット。」
そう言って、僕たちはまた長い会話に没頭した。来たる戦いの計画を、静かに、そして確かに――。