ある友との再会
あの日、俺は荷物をまとめ、家中の金を持って家を出た。
最初で最後の…旅立ちだった。
「よし、帝国。滅びを望むなら、俺がくれてやる。」
力に対する自信は――正直、まだ曖昧だ。
でも、自分と家族を奪われたあの日から、迷いは許されなかった。
かつて地球にいた頃の“俺”は、善良で、賢明であろうとしていた。
だが今は違う。
善良さも、賢さも、結局は俺を無防備にし、死へと導いただけだった。
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帝国の首都――
俺が裏切られ、処刑され、そして裏切られた場所。
でも、今日は過去を振り返るために来たわけじゃない。
ただ、一人の“友”に会うためだ。
「五ヶ月経ったのに、首都はあまり変わってないな…」
皮肉にも、変わらない美しさに、少しだけ心が揺れる。
昼飯を探して首都を歩き回っていると――
昔から好きだったレストランが、まだ営業していた。
生まれた時から通っていた、思い出の味。
…まさかまだ残っているとは思わなかった。
食事を終えると、俺は静かな裏路地へ向かった。
“あいつ”がいるはずの場所へ――
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数分後、俺は“彼”と再会した。
「我々は歓迎のために首都にいる」
開口一番、そう告げると――彼の目つきが変わり、無言で小さな家へ案内された。
「名を名乗れ。なぜ社の合言葉を知っている?目的は何だ?」
「ただ情報を買いに来ただけですよ。名前は…レイです。」
その瞬間、彼の表情が凍りついた。
しばらくして、俺は続けた。
「フルネームはレイ・アッシュベルト。アーンじゃない。」
彼は目を伏せ、どこか…悲しそうな顔をした。
「で?何が知りたい、坊主。」
「ここ半年間の首都の動向。それだけです。」
彼は渋々頷き、話し始めた。
その内容は――想像以上だった。
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要約すると:
一ヶ月前、王子の不倫疑惑が浮上
二ヶ月前、俺――レイ・アーンの公開処刑
三ヶ月前、エレノーラの家族全員が呪いで死亡。三日で壊滅
四ヶ月前、王子にも奇病(呪い?)発症
五ヶ月目、特に大きな事件は無し
六ヶ月目(現在)、女神エルサナからの神託
「この世界は、近い将来“災いの客”を迎えるだろう。これはお前たちの業ゆえに」
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「ありがとう、参考になった。ところで、君の名前は?レイ・アーンとどういう関係だった?」
「…何が目的だ?」
「いや、ただ…“友人”から直接聞いておきたくてな。」
しばらく沈黙が続いた後、彼はぽつりと語り始めた。
「俺とレイは学園の同期だった。
あいつは優しくて、強かった。
男の俺でも惚れそうになるほど、な。」
「それで?」
「ある日、あいつが『妻に贈るプレゼント』を相談してきてな。
俺は『まず相手を観察しろ』って答えたよ。
でも、それが最後だった。」
「なぜだ?」
「次の日から、あいつは行方不明になって――
数日後には処刑場に引きずり出されてた。
理由は…でっち上げの罪ばかりだった。」
「で、君にとってレイ・アーンとは?」
「親友であり、尊敬する男だ。
もし、あいつがまたこの世に戻ってくることがあるなら…
俺は貴族の身分を捨ててでも、味方する。」
「――完璧だ。」
「…何が?」
「俺の復讐に協力してくれ。」
「は?なぜそうなる?」
「俺はレイ・アッシュベルト。
いや…レイ・アーンの生まれ変わりだ。」
「ふざけるな…!いくらなんでも、それだけは…!」
「ジュリエット・ナスケム。29歳。ナスケム家の養子。
好物はチーズと紅茶の組み合わせ。…合ってるか?」
「貴様…なぜそれを……」
「君がレイ・アーン本人に話したからだ。
それだけさ。」
「証拠はあるのか?」
「君の得意な“ジャッジメント”を使えばいい。
俺が本当か、嘘か――一瞬で分かるだろ?」
しばらく黙っていたジュリエットは、静かに魔法を発動させた。
「――なっ……!?虚偽反応が…無い…!?そんな……!」
「な?言っただろ。俺がレイ・アーンだって。」
「……分かった。なら、俺はお前に協力する。」
「心強いよ、ジュリエット。」
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あの日、失ったはずの“絆”が――
静かに、再び結び直された。
今度こそ。
俺は、二度とすべてを失わない。