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売れない布地と熟れない気持ち

 朝起きて、昨日調理しなかったキノコをゆでて食べ、僕らは荷物を纏めて森を抜けることにした。鬱蒼と生い茂る草木を僕が掻き分けて、その後ろをシエルが続いていく。あんまり会話をせず、ただ黙々と進んでいると、やがて前方が明るくなり、森を抜けた先に小さな田舎町があった。家はレンガ造りで、小さいながらも活気に溢れた町だ。


「シエル、町だよ」

「言われなくても見えてるわよ。えーと、なんていう町だろう……見たことないわね。レンガ造りってことは相当田舎なんでしょうね」

「ふーん」

 レンガ造りは田舎なんだ。

「まぁいいわ。早く行きましょう。足がもう疲れたわ」

「え、大丈夫なの!?」

「少し歩いてむくんだだけだから別に」

「そうじゃなくって、戦争中だよ? よそ者が入っても大丈夫なの!?」

「………………ええ大丈夫よ仮につかまってもあたしは事情話して釈放されて捕まるのはあんただけなんだから!!」

「え、なに怒ってるの?」

「うるさい! 一人で捕まってろ!!」

 ぷんすかと効果音が出そうなくらいお怒りのシエルは、僕をおいて町のほうへ歩き出してしまった。

 僕、何かしただろうか?


 なんとなく謝ったほうがよさそうだったので謝り、散々に説教を食らった。デリカシーが足りないだとか、上げて落とすのは卑怯だとか、もう少しいたわりの心を持つべきだなどなど……

 町に入るのはなんともなくて、僕たちは家族じゃあまりに似てないので夫婦として町に入ることになった。




「いい、勘違いしないでよ。あたしとシルバが夫婦って事にするのは、周りに怪しまれないようにする為よ。若い男女の二人旅なんて目立つから、仕方なく夫婦を名乗ってあげてるだけで、別に恋愛感情がある訳じゃなくて、これはいわば処世術の一であり――――」


 そして今。隣りでずーっと、ずーっと喋るシエルに辟易しながら、僕は今露店をしている。売り出しているものはただの布切れと、布を簡単に加工して作った袋で、シエル曰く通常の三分の二の値段で売り出しているらしい。が、一向に売れない。

 なぜだろう。


「ちょっと聞いてる? 大体あんたはあたしを何だと思ってるのよ。あんたなんかあたしがいなきゃ何にも分からないただの坊やなんだから、少しはあたしを敬うなりしなきゃいけないのに、分からないからって値段とか売り方をぜーんぶ人任せにして、あんた何様のつもりなのよ。貨幣のシステムなんか決して難しくないんだからこれくらい根性出して覚えて、少しはあたしを楽にさせてやろうとか考えないの? ってあ、いや、楽にさせてやろうって、別にあんたに養って貰いたいとか、食べさせて貰いたいとか、例えば仕事終わったシルバを労いながら、ご飯できてるけど先に食べる? それともお風呂が先? それとも、その、あ、あた……って、あたしは何を言ってるんだ! 違う違うそうじゃなくて、とにかくあたしは結婚とか意識してる訳じゃなくて、大体あんたみたいな定職にもついてなけりゃお金もない奴と結婚しても、あたしが苦労するのは分かってて、あ、別に好きな人と結ばれる為に苦労するのは別にいいのよ! そこは勘違いしないでね! ただ、あたしはせめて明日くらいは生きれる事が分かる程度にはお金がないと少し苦しいかなって思ってて、いや、あんたが悪い訳じゃないわよ、ただ、もう少し頑張ってお金稼いで欲しくて、それならあたしも安心できて、いやいや、別にあんたが心配なだけで、結婚考えてる訳じゃなくて――――」




 あぁ、シエルが延々と喋り続けてて皆引いてくのか。ところでシエル。さっきから同じような話ばかりだよ。突っ込んだらうるさくなるのは体験済みだから言わないけど。


 そうしてシエルのお説教を右から左へと受け流していると、小さな女の子が僕の前にやってきた。

「あ……あの、これ」

「ん? この布が欲しいの?」


「――だいたいあんたはちょっと人が心許したら調子乗って、そこに漬け込んで優しくして人の心を惑わそうとしてて――」


「い、いぇ……その、出来ればもう少し短いのが……」

「うん、いいよ。お使いかい?」


「――それにあたしが折角あんたにシルバって名前あげたのに、あんたが話しかけてこないからなかなか使う場面が――」


「あ、はい。お母さんに、変なお姉ちゃんと優しそうなお兄ちゃんの店が安いから、買ってきてくれないかって……」

「あはは。人来ない理由はやっぱりシエルか」

 安い店って噂にはなってるみたいだけど。


「――さっきだってガードに二人の関係聞かれたときに夫婦っていうの恥ずかしかったのに、あんたは全然気にしてなくて――」


「あ、あの、お兄さん!」

「なぁに?」


「――今朝だって森であんたが先に行って掻き分けてくれて少しドキっとしてたのに、その後の…………ってシルバ聞いてるの!」

「す、好きです!」

「え?」

「…………この変態ぺドフィリアー!!」

 ずごん、という音と一緒に僕の意識はなくなりました。 ねぇ、僕何か悪い事した?




   ¢




「へぇ、一目ぼれねぇ。ふぅーん」

「は、はい」

「シエル、睨み付けないで……」

 この女の子――アンが言った事をまとめると、つまりそういう事らしい。

 僕の目に惚れたと。どこの恋愛小説でしょう。与謝野晶子もびっくりだよ。

「ふんっ……まったくこんな奴のどこがいいんだか」

「うわ、傷つくなぁ」

「あの……ご迷惑だったでしょうか?」

「い、いや、別に迷惑ってわけじゃ」

「考え直したほうがいいわよ、この変態は人が寝てる間に勝手に裸を見るような奴だから」

「ちょ、確かに確認は取ってなかったけど、確認なんか取れる状況じゃなかったし、大体その言い方は誤解をうむよ!?」

「わ、私は、その、かまいません……」

「構おうよ! そこは大切だよね!?」

「夜一緒に寝ても、コトが終われば背中向けてグーグー眠るような奴よ?」

「ええぇぇぇ!? 絶対わざとだよね、わざと誤解させようとしてるよね!? シエルは僕を貶めたいの!?」

「あ……うぅ……その、初めてだから、その、あの、優しくして頂ければ……」

「あら、私だって初めてだったのよ?」

「ううぅ……で、でも……」

「うわあぁぁぁ! 誤解だよ、絶対誤解だよ! かみ合ってるようでかみ合ってないよ!?」

「あんたいい加減うるさい!」

「ぷげらっ」

 シエルの右フックが僕の顎にっ!

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「だいじょっとっとっと……」

 あれ、視界がグラグラする。シエルが緑でアンが赤く見えて……どさ。

「きゃ……シルバさん!? 大丈夫ですか?」

「やば……ジャストミートしちゃった?」

 あー……脳震盪になっちゃったのかな? なんか凄い吐き気が……。

「シルバさん、横になったほうがいいですよ! わ、私の家近いんで、そこまで運びましょう!?」

「う、仕方ないわね。そうしましょうか」

 シエルが僕の足を持って、アンが僕の肩の辺りを持つ。そうして僕はアンの家まで運ばれていくんだけど……。

「うぇ、げぼっ」

「きゃあ、汚い!!」

「ぐぶはっ」

 揺れが響いて、胃の中のものを吐き出してしまったら、シエルに手を離されて落とされてしまった。

 あぁ、今日は厄日なんだなぁ……。




   ¢




 アンの家は孤児院だった。その家は見るからにぼろぼろで、周りのレンガ造りの家も雨風に晒されてぼろぼろだったけど、ここはもう段違いにぼろぼろだった。孤児院のお母さんは僕を見るなり脳震盪と見破って、タンカを用意してベッドまで運んでくれた。脳震盪のときは動かしちゃ駄目らしい。

「よくうちの男の子が喧嘩して、脳震盪とかおこすのを良く見てましたから」

 そういうお母さんは優しげに微笑んで、しょげ込んでいるアンに「次から気をつければいいのよ」と優しく頭をなでていた。

 シエルはおきっぱなしにしていた商品を取りに行って、ここには僕とアンとお母さんしかいない。今は昼寝の時間らしく、どうやら他の孤児は別室で眠っているらしい。

「あ、そうだ。アン、布はちゃんと買ったかしら?」

「あ、あぅ…………その……」

「話してるときに僕が脳震盪起こしちゃって……シエルが帰ってきたらちゃんと渡しますんで責めないであげてください」

「あら、そうなの? 大丈夫よ、最初から責める気なんてないわ。むしろ病人を放っておいたほうが怒りますとも!」

 こんな寂れた状態でも孤児院なんてやってる人だ。やっぱり、気丈で優しいお母さんなのだろう。

 僕は記憶にあったはずの母のぬくもりを思い出せない自分を嘆いた。

「アン、お母さんは洗濯物取り込んでくるから、お兄さんの看病してあげてね」

 そういってアンにウインクをすると、お母さんはそそくさと部屋を出て行った。

「そうそう、今日はうちに泊まっていきなさい。この町に宿屋なんて洒落たものはないからね。夜にちょっと風で窓ががたがた言うけど、別に隙間風で寒いなんてことはここはないから安心しなよ?」

 なんて言葉を残して。

「優しいお母さんだね」

「怒ったら、凄く怖いですよ? 鬼の再来です。頭から角が出てます」

「そんなに怖いの?」

「はい。でも滅多に怒らないです。普段はあんな感じで凄く優しい、自慢のお母さんですよ」

「お母さんは好きなの?」

「大好きです! ……あ、もちろんその、シルバさんも、だ、だぁ……あぅぅ」

 顔を赤らめて悶えるアンは、なかなか可愛らしかった。

 その後お母さんについて色々と話をして、孤児院の話まで行った時、

「そういえば、この間ガードの人とお母さんが話をしていました」

「ガードって、警備とかしてる人?」

「え? えぇそうですよ。町の見回りとか、役場を守ったりとかしてる人です」

「そんな人がここに来たの?」

「はい。そのときのお母さん、なんだかつらそうな顔をしてました」

「へぇー」

「なんとなくですが、多分お金の話をしてたんだと思います。見ての通り、この孤児院にはお金がありませんから……税金とかが納めれなかったんだと思います」

 良くある話だなぁ。そんなことを思いながら話をしていると、

「ただいま。……か弱い乙女に荷物取りに行かせといて、なに雑談楽しんでるのよ変態」

「ごめん。でも僕動けないから……ところでずいぶん遅かったね。どうしたの?」

「商品盗られたわ。子供相手だからと思って油断したら路地裏で撒かれて、迷子になってあっちこっち歩いてようやく戻ってこれたのよ」

 そういうシエルは本当にげっそりしていた。

「シルバ、あたしも寝かせなさい」

「え、でもこの部屋布団が……」

「あんたが詰めればいいのよ……あたしは疲れたわ。あんなに走り回ったのに一枚も取り戻せなかったし。少し寝かせて」

 シエルはぐったりとしながらも無理やり僕の隣に潜り込むと、数秒後にはすやすやと寝息を立て始めた。

「羨ましいです」

 それを見たアンは悲しげな顔で、お母さんに話してきますと退室していった。

 受験終わりました。本当は先月に一度投稿するつもりだったんですが、なかなか話がうまくまとまらなくて、そうこうしているうちに次の受験が……という具合で、本当にすみません。

 昨日も昨日で、話を投稿するつもりだったんですがやっぱりうまくまとまらず……途中でこれは駄目だと別の話を書いた次第です。

 この話……昨日の夜から今の今までの突貫工事で作り上げたんでちょっと不安かも……

 とにかく、大変長らくお持たせしてすいませんでした!

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