塩が欲しい。塩
PV1000いってました。驚きです。
今回の話でとりあえず更新はお休みです。受験勉強しなきゃ……
次回更新は11日以降もしくは26日以降です。
当然と言っちゃ当然だけど、木があれば簡単に布が作れる事を言ってみた。
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけんなー! あたしの葛藤返せ! 一応恩人だから一緒に寝るくらいなら許してやろうとか考えてたあたしの気持ちを返せ!」
結果は怒鳴れ殴られで散々でした。
「とにかく、木がありゃ簡単に布作れんのね?」
「かほがひたひ」
「何言ってんのか分かんないわよ」
「ひへるのへひひゃ」
「あたしのせいにするんだー? へぇーほぉー?」
「ひゃんひゃよ」
「分からないならいいわよ? 乙女の心を踏みにじった罰が足りないみたいだし、もっと体に分からせなきゃ…………ね?」
「ほ、ほへんひゃひゃひ」
「分かればよろしい」
顔が腫れ上がって上手く喋れない。いや、本当にひどいんだって。顔が。
「じゃああの木でいいからさっさと布作れ変態」
「ひゃひ」
シエルが指した木を食べる。食べ………………あれ、食べれない。
マズい、なんで食べれないの!? さっきの朽ち木は簡単に食べれたのに!
……今さら食べれませんなんて言ったら、今度こそ殺られる。
「どうしたの、さっさとしなさいよ」
怪訝な顔で覗き込むシエル。ヤバいヤバい、なんで食べれない。さっきと今回の違いを考えるんだ。僕なら出来る……!!
……あ。
「ひへるひゃん」
「何よ、いきなりさん付けで」
「しんへなひとひゃべれまへぇん」
「死んでないと……何?」
「たべれまひぇん」
あ、少し喋りやすくなった。
「…………嘘じゃないでしょうね」
「まだひにたくないへす」
「…………死んだ木なら平気なの?」
「はひ」
「…………まぁいいわ。探しましょうか、死んだ木」
ものすごく怖い顔でズンズン歩くシエル。
……初日で命の危機ってなに。
黙々と歩いて木の枝を拾う。そうしていると、シエルが川を見つけて、そういえば飲み水を確保してない事に二人して気付いた。
「危うく干からびるところだったわね……ほら、あんたも顔洗えば? 酷いよ」
やったのはシエルでしょ。だなんて言えるわけもなく、僕は水をすくって顔を洗ってみる。
触れると痛いけど、別に染みないところから切り傷はないようだ。口の中も切れなかったし。
僕は川に顔ごといれてみる。顔の熱がグングン抜けていって気持ちいい。
「ちょっとあんた、顔ごとは止めなさい」
「うー……だって気持ちいいんだもん」
「……ほら、この木の枝使って布作りなさい。それで冷やせばいいでしょ」
「はーい」
シエルから渡された木の枝を食べる。今回は食べれたのでそれを布に変えてしまう。
「本当に、出来たんだ」
シエルが驚きの目で見てくる。
「まぁね」
「記憶喪失って本当?」
「うん、僕が誰かも、何してたのかも分からないよ。でもこれは出来るんだよね。理屈も一応ウニャウニャーと分かるんだけど、よくわかんない」
「変なの」
「僕も分からないよ」
僕にとっては、歩く事と同じように物を食べる事が出来るんだから。
「まぁいいわ。貸して」
「へ?」
「屁じゃなくて。ほら、ここに頭乗っけていいから横になりなさい」
「はい?」
問答無用で僕の頭はシエルの膝へ。濡らした布でシエルは僕の顔を拭いてくれる。
「痛っ」
「あ、ごめん。力強かった?」
「うん、ちょっと」
「このぐらい?」
「ん……気持ちいい」
「そう」
ところでシエルはなぜいきなり膝枕なんてしてくれるのだろう。
「……やり過ぎた。ごめんね」
あ、罪悪感あったのか。それで?
「何よその納得いってないような顔」
「そんなに顔に出てた?」
「たったそれだけでこんな事するかなぁって顔だった」
相当出てるらしい。
「ねぇ」
「ん、何?」
「川の向こう、朽ちてる木あるんだけどさ。桶とか作れる?」
「んー……多分」
「じゃあ作って」
「はいはい」
僕は立ち上がって、川の向こう側を見る。確かに朽ちてる木がある。あれなら作れるだろう。でも、
「川の向こう側にどうやって行こう?」
「水をとことん食べたら? 見た感じだけど、一度収納してから形変えて取り出すって感じな気がするから出来るでしょ?」
「出来るけど死ぬ。多分百グラム以上食べたら死ぬ」
「すくなっ!」
「一グラムでも相当な量なんだよ!」
多分全部熱エネルギーに変えて出せば、ここの地形変わるだろうなぁ。
「……小食にも程があるわね」
「……………………」
「ちょ、それくらいで機嫌悪くしないでよ」
「…………いいよ、一グラムの威力見せてやる!」
僕は川辺の砂利を一粒手に取り、それを食べる。
馬鹿みたいなエネルギーを熱エネルギーに変えて、さらにそれに僅かな質量を持たせて、さらに分かりやすい様に光エネルギーも少量付け加える。
そうして出来た光球を水に浮かべ……あ、駄目だ。三メートルまでしか位置が操作出ない。
運動エネルギー使って指向性持たせて打ち出してもいいけど、熱エネルギーは千二百度の熱量を誇ってる。しかも調整して一グラム分のエネルギー使い切るまでずっと千二百度だ。下手したら川底に相当深い穴を開けちゃう。
あ、三メートルの範囲まで行けばいいのか。
歩いて川に近付いて、光球を川に付ける。ジュワーと凄まじい音と共にドンドン蒸発していく水。少し範囲を広げて板みたいにして、川を割ってみる。ジュワー。蒸気が怖い。
一分くらいか、相当範囲を広げてようやくエネルギーが切れた。
振り返ってシエルを見ると、口をポカンと開けていた。
¢
「シエル?」
名前のない、恩人な彼があたしを不安そうに覗き込んだ。
「あ、あ、え、何あれ?」
「一グラム以下の砂利の持ってるエネルギーを、無駄に使ってみただけ」
「無駄って、今、水がジュワーって」
「相当な熱量込めたからね」
「しかも光の壁が」
「本当は必要ないけど、その方が分かりやすいし綺麗でしょ?」
「で、でも」
「でももだってもない! 一グラムもなくたって、物にはこれだけのエネルギーがあるの! 分かった?」
「は、はい……」
ありえないよ、あれは。
木を食べて布を作った時も凄かったけど、あれは違う。こうして見れば、あの作業がただ物を加工しただけだってよく分かった。
分解。たったそれだけで、あんなちっちゃな砂粒が、川を割った。
………………怖い。
「……あ、運動エネルギー使って跳べばいいのか」
そう言って恩人であり異能の彼は、向こう岸までの七、八メートルを簡単に飛び越えた。
§
向こう岸に跳んで、朽ち木を橋に変えれば戻るのは簡単だった。
さっきの大ジャンプ、跳んだのも着地したのも目茶苦茶痛かった。もう二度とやらない。
橋を渡るとシエルがちょっと青ざめていた。どうしたんだろ?
とにかく、橋を今度は布と桶に変えて水を汲む。さっきの質量エネルギーはまた食べたから残ってるし(大ジャンプに少し使ったけど)一度沸騰させて消毒しよう。
「シエル? 桶に水汲んだし、戻ろ?」
「え、あぁ、うん」
本当にどうしたんだろう?
歩いて歩いてさっきの簡易テントの場所まで戻る。
青かったシエルも途中で落ち着いたのか、「これくらいは持ってあげる」なんて言ってさっきまで僕が持ってた布を取り上げてしまった。
簡易テントに着くとすぐさまシエルは布を蔦にかけ、その上に大きな葉っぱをどさどさ乗せた。何でもあの葉っぱは撥水性が相当高いものらしい。
「ねぇ、葉っぱを僕がつなげれば布作る必要もなかったんじゃない?」
「…………早く言いなさいよ」
……んー?
「いや、僕知らなかったし」
「……それもそうね。ごめん」
……なんだろ、さっきまでのシエルなら「早く言えバカー!」くらい言って殴りかかってきそうなのに。
「それじゃ、お願い」
……調子狂うなぁ。
いつからだろう、変なシエルになったのは。
川に着くまでは普通のシエルだったよね、それから……
「ねぇ、どうしたの?」
不安そうに覗き込むシエル。小動物然としてて可愛いけど、シエルじゃないよなぁ。
「偽者?」
「誰が?」
「シエル」
「あ、あたしはあたしよ?」
「そう? ……う~ん、調子狂うなぁ」
「いいから、早く葉っぱつなげなさい」
ぽかりと優しく殴られた。
うん、変なこと考えてないでさっさとやろうか。
完成した。我らがテントが。
蔦(紐に変えようかと言ったら、シエルが泣きそうな目をしたのでそのまま)を木に縛り付けて、四角を描いて、その上に十の字状の布をかぶせ、さらにその上に撥水性の葉っぱを連ねた物を乗せたものだ。
ちなみに、葉っぱは生きてたせいで食べれなかった。仕方なく、葉っぱの端々を裏から少量の土で固めて繋げただけだ。
う~ん……大丈夫だよね?
拾った朽ち木や木の皮を重ねて、着火に熱エネルギーを使って焚火にした。煙がモクモク出るから、木の枝や落ち葉は乾燥するまで使わない方がいいらしい。初めて知った。
桶の水を熱エネルギーを使って百度まであげて、暫く放置。殺菌はこれである程度大丈夫だろうか?
シエルが湯気をあげる水桶を少し怖がってる気がする。もしかしたらお湯にトラウマがあるのかな? あんまり詮索しない方がいいかも。
とはいえご飯は必要な訳で。お湯が怖いのかも知れないけど、一度茹でてから冷ませば大丈夫だろう。
冷めてきた水桶の水を別の桶に移し、もう一度熱エネルギーを込めてから、引き上げ用の布を先にいれて山菜を投下。
暫くそのまま大量の山菜を茹でて、先に入れた布の端を持って引き上げる。これを何度も繰り返す。
ようやく全部の山菜を茹であげて、まだ空の桶に全部入れる。
しなっとなった山菜と固そうな木の実のサラダ。本日の夕飯。
…………凄く苦くて美味しくない夕飯には、僕も、元気のないシエルも苦笑いだった。
せめて塩が欲しい。塩茹でにしたい。
夜中は結局二人で寝た。地面に敷く布を考えると作った布が足りなかったから。失敗失敗。