葉っぱ一枚あれば幸せ。女の子は三枚
2/4 一部訂正と追加。一応本編に関わる部分もあるけど大きな影響はありません。
真っ暗だった。光がなくて、いやきっとあるけどここまで射さなくて、つまりは黒しかない。
澱んだ空気は泥臭くて、息を吸ったらむせた。
「ここはどこだろう」
ここはどこだろう。音が反響して、僕以外の僕が何人も喋ったみたい。
ゆっくり立ち上がって、そろりと体を確かめる。顔、胸、肩、へそ、腕、股間、太股、ふくらはぎ、足。
「細……」
やっぱり呟きは下手なコーラスの様に響き渡り、何人もがその細さに驚いたみたい。そんなに細いか、僕。
性別は男。間違いない。股間触ったし。間違いない。理由は分かるでしょ?
「それにしても、裸か」
服なんか着てなかった僕。どうしよう、猥褻物陳列罪で捕まる。それは困る。
「そもそも、人いるのかな?」
響く闇の中から、答えは聞こえなかった。
「取りあえず、どこか行くかな」
立って歩く。手を前に出してゾンビみたいに。調子に乗って、あ゛ーと低い声で言ってみる。反響して、凄く怖かった。
暫く歩いて、手にヒヤリとした岩肌の感触が伝わる。そのまま壁伝いに歩く。足に何か刺さったらしく、凄く痛い。
結局二分で歩けなくなった。だって足に石ころなのか何かよく分からないけど、尖ったものが刺さって凄く痛いんだよ! 分かるかいこの僕の気持ちが!
地面にへたりこんで、息を吸って、むせる。やっぱり泥臭い。
もう最悪。帰れ。むしろ帰せ。
どこに?
………………。
「ねぇ僕。何があってこんな事になってるの?」
ほぼ同時に何人にも聞かれたけど、誰も答えてくれなかった。
誰も答えてくれないなら仕方ない。答えがないなら、つまりは僕がそれを見つけて、考えて、そして答えなきゃいけない。
じくじく痛む足を擦って、冷たい床のせいでお尻が冷えそうだけど、それは無視して考える。誰だっけか、記憶に引っ掛かる言葉。
『お前はもう、死んでいて』
ニアミスだよ。最後の一文字で名言が迷言だよ。いやこれはどうでもいい。つーか誰だよこれ言ったの。
『死ねっ! いっぱい死ねっ!』
むしろお前が死ねっ!
なぜだろう、まともな記憶がないのは。というか、もしかして記憶喪失?
僕の名前は…………名前は…………いやいや、そんなはずない。ここは誰、私はどこ的な事なんて起こり得る筈がない。よく考えろ。考えるんだ。ほら、アリスさんとテレスさんも言ってたじゃないか、人は考える足だと。いやいや、歩くなよ僕。生えてろよ僕。葦だよ葦。イネ科の多年草、葦。テストに出されて漢字書けずに減点された、葦。
よし、考えるんだ。考えることこそが僕が葦になる唯一の方法だ。よし、まずは深呼吸。吸って、はいて、ヒッヒッフー。
……うん、落ち着いた。葦じゃなくて人間になろう。
取りあえずここドコ? わたしダレ?
しかし、寒いなぁ。さっきからわざわざ声出して響くかどうか確かめたら響くしさ。多分響くって事は岩蔵なんだろうな。冷たいし。そんでもって、もしかしたら出口は遠いのかもしれない。
……別に寂しくて声出したんじゃないよ? 本当だよ?
仕方ない。寒いし、このままじゃ凍死しちゃうかもしれないから。仕方ない。
世界のバランス崩れちゃうけどやるか。
さっきから僕を痛め付けやがった石ころを拾う。そして食べる。いや、食べるってのはおかしいか。でも適当な表現が思い付かないから食べるでいいや。
石ころ一つ。本当に小さな石ころ一つ。多分10gもない。親指の爪ほどの大きさの小さな石ころ。
でも、これで十分暖かくなる。
そもそも物は、存在するだけでエネルギーの塊なんだもん。ふふん。
石ころ一つを食べて、その馬鹿みたいに沢山あるエネルギーを、床の熱エネルギーに変える。ちゃんと調節して、火傷しないように。お尻が赤いのは猿だけで十分だ。
……あ。
光エネルギーに変えれば、暗い岩蔵でも平気じゃん。うわ、僕バカだ。馬に乗られた鹿さんだ。
パッと、光エネルギーの塊を前方に出す。目が眩む。ミスった。
今度は僕の後ろから照らすようにする。見えづらいけど見えなくはない。
岩蔵だと思ってた思惑は違えてて、そこは地下室みたいだ。
冷たい壁は適当に石を泥で固めて焼いただけで、耐震強度とかそういうのはまったく考えられてないらしい。震度三で崩れ落ちそうだ。
場所はすっごく広くて、体育館くらいの広さはある。何に使うか分からない、ただ広い空間。声も響くわけだ。ぼくのへたり込んでる場所の対角に階段がある。それはしっかりと作られてて、う~ん、ここは何に使うんだろう。
よくわからないのは仕方ない。僕は僕さえ分からないんだから他の事が分かるわけがない。
ちゃんと階段があるって事は、知的人的存在がいるって証拠だろう。
歩く度にユラユラうごめく影が、何かを誘うように揺れて、揺れて、僕は歩いた。
階段の上は岩だった。岩盤かもしれない。両手で押す。動かない。両手で引く。そもそも掴めない。
叩く。コツコツと硬質な音が響く。殴る。手がいたい。
残りのエネルギーの一部を運動エネルギーに変えて押してみてもいいけど、それでこの部屋崩れたらやだなぁ。かと言って、こんな岩盤食べたらエネルギー過多で暴発が怖くて放出出来なくなる。それは困る。すごーく困る。
どうしようか悩んでたら、岩盤が引きずる音を立てて開き出した。叩いたのが外に聞こえたのかな?
完全に開いた時に目の前は森の木々を背景に目を見開いて驚いてる男の人がいた。眼が飛び出そうなくらい開いてた。
「あー、えっと、ここどこですか?」
僕が話しかけると、汚れた胸当てをした人は真っ青な顔して逃げ出した。え、何かした僕?
まぁいいや。とにかく、ここから出なきゃ。僕は後ろの光を消して地下室から外に這い出た。
新鮮な森の空気が気持ちいね!
さっきまで真っ暗な地下室にいたせいで、凄く解放感溢れる。そこそこ鬱蒼とした森で、地面は草が脛くらいまで伸びている。地下室の階段は岩の板で隠していたらしい。ヒューって吹く風が僕を祝福するかのように僕をブラブラと揺らす!
……………………。
服欲しいな。せめて下着。
解放感で気付かなかったが、足元に女の子が横たわってた。裸で。
やったね、裸仲間だよ!
……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
裸っ!? 僕も裸っ!? 君も裸っ!?
待て僕。待つんだ、ここはクールになる場面だ。
彼女と喧嘩して思わず別れてやるっていった後に後悔して、どうやって彼女に謝って許してもらって復縁するかを考える男性並にクールになるべきだ。
「んみぅ……」
ほら、女の子も僕の考えに賛成してるかのようにんみぅと鳴いてくれてるじゃないか! んみぅ! んみぅんみぅ!
「みゅうみゅみぅ……」
「みぅみみぅ」
「みゅ……みぅ……」
「みぃみぅみみぅ」
っは!? 何やってるんだ僕はっ!? まるで変態じゃないか!
第一男性が女性の気持ちが分からないように、女性も男性の気持ちは分からないんだっ!
とにかく裸はまずい。主に僕の理性面に深刻なダメージを与えるからまずい。
幸い周りに朽ち木があるから、それを食べる。そしてその馬鹿げたエネルギーが溜まる前に生成、糸に変えて、既に編んであるように吐き出すという応用技!
問題は服の知識がないから、ただのデカい布切れしか出来ない事。ないよりマシだけどね。
とにかくある程度の大きさの布を右肩から左脇下に回して体を隠す。紐も作って縛れば落ちる事もない。
女の子はさすがに恥ずかしいので布で包んだだけ。起きたら自分で着てもらおう。
さて、どこに行こうか。
いや、森の力は偉大だ。マイナスイオンが沢山放出されてるのか冷静に考えられる。
……いや、マイナスイオンは滝か。じゃあ森の香りってことにしよう。
やっぱり地下室だとこう、空気が汚れてるのか、それとも他の何かが原因なのか、落ち着かないし不安にだったんだ。真っ暗だったのも原因の一つかもしれない。怖い怖い。
そして外への出口を見つけて、早く出たいと知らず知らずに焦ってたんだ。でも押しても引いても(いや、引けなかったけどさ)開かなくって、余計焦ったんだよ。だから殴ったんだよ。右手痛い。
どうしようか困ってたら突然扉が開いて、薄汚れたオッさんと目が合って、きっと一気に気が弛んだんだ。
だからだ。
なんで僕が裸なのかとか。
なんで彼女が裸なのかとか。
なんであの薄汚れたオッさんのそばに見た目麗しき女の子がいるのかとか。
なんで僕が無機物有機物問わず食べれるのかとか。
なんでエネルギーを任意の場所に変換率百パーセントで出せたのかとか。
そういう『あり得ない』を疑問に思わなかったんだ。
とにかく、僕の勘じゃここにいちゃマズい事になる気がする。女の子も、ここに置いちゃマズいし、あのオッさんに何されるか分かったもんじゃない。
女の子を抱き上げようとして、重くて持ち上がんなくて、仕方なく運動エネルギーを上向きに腕に与えて無理矢理な筋力アップをして女の子を運ぶ事にした。
さて、どこに行こうか。
念の為、ここ誰わたし何処は誤字にあらず……
訂正いっぱいあるから二月四日に直します、きっと。
受験あるからどうなるか分からないけど。投稿するなよ自分。
2/4 訂正しました。誤字や表現の違いがあれば連絡をください。お願いします。