⑨模擬戦2回目後
今度は俺たち二人の盾戦士が思い悩む番だった。8本もの巨大触手からどう仲間を守れば良いのか?
落ち込んではいないが。「威圧」や「酸の涎」などというものよりよほど厄介だった。
問題は単純に数、スピード、パワーという物理的であるがゆえに。
アザルと俺は顔を見合わせ、奴の触手への対抗手段を話し合った。
「きついな、あれ」
「さて、どうするか?」
「細かい触手は切断することができる。伸ばす前に切っちまおう」
「確かに伸ばすには時間がかかるようだ。が、メインが生きているうちは難しいだろうな」
「転がっているうちは?」
「もっと「接着」の魔法を強力にできないか?初手で行っておきたい」とアザルが魔術師たちに問いかけた。
「口が最初から閉じていれば、風魔法も無用だしね。3人による重唱なら効果は倍どころじゃない。30分は口を開けることはできないだろう」とベルが答えた。
「そんなに難しい呪文じゃない。グバダもプレゥも唱えられる。4重唱もいけるんじゃないでしょうか?」と魔術師ボルドゥが付け加えた。
「ふむ。いや、プレゥが動けなくなるのは避けたい。今は3重唱を初手に考える。練習しといてくれ」
「わかりました」
「しかし、俺たちは触手切断後の状況を把握していないからな。再生するのか、するとしたらその時間は?メインの触手の切断方法は?」
「私が調べておきましょう」と魔術師のボルドゥが請け負った。
「万全な状況の奴への対抗方法もな」と自分がどれだけ奴に対抗できるのか?が俺のもっぱらの最大関心事だった。
「触手を切らずに戦う、か」とアザル。
「やはり飛び込むことが第一歩だと思う。俺たちは奴のレンジで戦いすぎている。威圧と酸攻撃への警戒がそうさせているが、少なくとも二列目までは近距離戦を展開すべきだ」
プレゥの顔が青ざめた。触手による攻撃や絡み取りはアタッカーのプレゥにとっては即死攻撃だ。絡み取られ空中に持ち上げられたら、全身の骨が砕かれ投げ捨てられるだろう。盾戦士の俺たちはある程度対抗できるが皮装備のプレゥはそうもいかない。
「面と向かい合った時の飛び込むタイミングが肝だと思う。その時は3人一緒じゃないとプレゥが的になる。後衛は触手のアウトレンジまで下がる必要も。つまり、触手の攻撃範囲を探る模擬戦を繰り返さなければならない。俺が一人の時、近距離では奴に酸以外の攻撃はなかった。しかし、メインの触手をどれだけ伸ばすことができるのかは俺にはわからない」
「奴が複数と対峙した時の違いもな。レティが一人で近距離戦の際に仮想俺たちは付いていかなかっただろ?」
「あぁ。後ろで腕組んでた」俺の返答には模擬戦での仲間の影への不満を含んでいた。複数の幻影の敵を用意できるのだから、自在に動く仲間の幻影を用意することもできるだろ?なぜやらん?
苦笑を含みつつアザルは言った。
「今はそういう仕様だからな仕方がない。で、俺たち三人複数が近距離で対峙した時の変化が不明ってことだ。メインの触手を細く短くして近距離戦に備えるかもしれない。プレゥを守れなければ近距離戦の意味ないからな。何度も繰り返して試さなければならん」と言いながらアザルはプレゥを見た。プレゥはこれからの模擬戦の熾烈さを想像し身震いした。何度「死」を味わなければならないのか?普通の模擬戦ではありえないことだ。
今の俺たちに「即死」を挽回する手段はない。噂では一週間ほどの超詠唱時間の呪文を唱えることで蘇生できるようだが。飲まず食わずで一週間?術者のほうが死ぬわ。俺がそんなバカげたことを考えてることも知らずにプレゥは言った。
「負けることには我慢できないって言ったでしょう?やりますよ」