②ハッケルからの依頼内容説明
で、俺たち6人の前に事務屋のハッケルが眼鏡の位置を治しながら言った。
「依頼の説明をいたします。ロモス村からの依頼です。内容はイベクバの討伐。地方によってはバラクアッザとも言いますね。今年になってから5人の村人が行方不明に。昨年まではそんなことはなかったということですが、餌が少なくなったのか…餌場を変更したのか実態は不明です」
「たった一パーティで?」魔術師のベルが反射的に口を開いた。
反応を予測していたハッケルは淀みなく答える。
「社長が今のディナルドには余力がないとはっきりと村長に一度断ったのですが、二度目の来社には村民30名ほどと一緒に依頼しに来まして・・断ればどうなるかわからない状況でしたので仕方なく。皆さんには大変申し訳なく思っております」
部屋の空気が落ち着くまで待ってハッケルは説明を再開した。
イベクバはたった6人のパーティでは荷が勝ちすぎる。
「依頼はイベクバの討伐、場所はロモス村から東の湿地帯、通称「帰らずの池」を棲み処にしています」
リーダーのアザルが口を開いた。
「スケジュールは?」
「依頼者は3か月以内と言われましたが、うち(ディナルド商会)は6か月後と粘りました。つまり、5か月間の準備を経て、現地まで赴いて討ち取ってもらいます」
そこまでハッケルの説明を聞いて俺が口を挟んだ。
「大きさや齢もわからずにスケール決めていいのかよ?手に負えないかもしれないぜ」
スケールとは人数や構成、時間、力、このミッションに対する全ての事柄を指す。
ハッケルは俺を見て説明を付けたした。
「調査隊を出発させて、あらかじめ現場調査を済ましてます。大きさは高さ2.3m、幅8mと一般的な大きさ。一人あたり、前払いに10ゴールド、成功報酬は20ゴールド。個体の種類もほぼ確定してます。詳しい対策は明日、教授から朝9時にこの場で説明があります。他にありますか?」
(一般的ね。簡単に言ってくれる)
俺たちが相手をする怪物はその地の生態系の上位に位置するイベクバだ。過去に5回討伐されているが、未だ不明な点が多い。同じ形状をしている異物を「イベクバ」と呼んでいるが討伐された個体は違う攻撃方法をや習性を持つものもおり、単純に対策できない。
・酸性の唾を武器とし飛ばすもの。
・催眠を促す視線やガスを噴出するもの。
・口から発する指向性の音により対象を停止させるもの。
知られている個体差はこんなところか。
また、ハッケルが口にした2.3m、8mというのは本体の大きさでしかなく、手として駆使する4本の触手を持っている。俺の知っている限り太さは20センチ以上、長さは10mを超える。
それを繰り出すスピードは人間が対処できる限界を超えており、防ぐのは不可能と言われていた。
獲物の死因は大体が撲殺。一瞬の間に後頭部を殴られ首を折られて終わりを迎えるのであった。
それを大きな口で飲み込み咀嚼、固い骨や鎧は吐き出される。溶解された人間や動物であった物を見れば大体、首の骨が折れ頭蓋骨は陥没していたのであった。
「なんでその村は無事なの?」
奴の習性「目につくものは全て捕食する」というのがあり、腹が膨れていよういまいとそこに餌があれば全てを食らっている。村は無人の廃墟となっているのが当然だ。
(確かに)と俺も不思議に思った。
「それを退けた冒険者グループがたまたま村に滞在していたということを聞いております。その後はイベクバも警戒して村に近づくことは避けているようです。
しかし、近くの湿地帯に住み着いている以上、村は開墾した農地を放棄して解散するかどうかの瀬戸際に立っています。本当なら今すぐにでも討伐してもらいたいでしょうね」
「物がものなだけに俺たちに無理を言うわけにもいかず、期限を妥協せぜるおえなかった・・か。それまで家畜を差し出して生きながらえるつもりか?」リーダーのアザルが村の立場を推測して代弁した。
「その冒険者が片付けちゃえばよかったのね」とプレゥが独り言のように呟いた。
皆も同感のようだった。野党や小鬼のガジィとは訳が違う。一旦対峙すれば殺すか食われるかの結末しかない。成功報酬が高いのも当然であった。20ゴールドあれば3か月は遊んで暮らせる。