一人だけ別ゲー・マジで別ゲー
説明不要。
ちょっと未来で、かなりうらやましいゲーム体験ができそうな世界です。
とある人気の没入型VRMMORPGに、アップデートが来た。
それは開発側からも「完全に新しい試みで、挑戦した結果がどうなるか分からない」と言わしめる要素を追加した、本当の冒険だ。
更にバランス調整はプレイヤーの皆様と一緒に試行錯誤して行くとも語っており、それだけでどの位冒険したアプデなのかが窺えるだろう。
その内容とは…………。
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「たかはすめ いじんはす ごいぞかっ こいいぞめ ろんを15 れんだでた おせるぞ! べべべべべ べべべべべ べべべべべ
……これでどうだ?」
謎の呪文を唱えたのは、冴えない容姿の男子学生プレイヤー。
ボサボサ黒髪でメカクレして、中肉中背でこれと言った特徴の無いアバターを使用している。
彼は前述のアプデにより増えた要素である、新職業に早速なった物好きである。
公式に出された、アプデした内容を知らせるパッチノートによると“牧場主”と呼称されていた。
――――なおファーマーなら普通は農民や農家だろ? と思われるが、それらはこちらの呼称ではなぜか“地の民”とか言う酷い呼称となっている。
そのファーマーだが、牧場であるなら何を育てるのか?
そう疑問を持った方も多いだろう。
その辺は、ほら――――
「うげぇ、またゴーレム系のクリーチャーかぁ。 コイツらは一撃が強くても、全然当てられないんだよなぁ」
あのメカクレ男子は、はじまりの街にアプデで拡張された土地にデデンと生えたファーマーギルド。 それに併設された“呪文盤”再生装置の前で嘆いていた。
「おー堀井、またダメだったか?」
嘆くメカクレ男子の堀井に後ろから声をかけたのは、鍬を担いだ麦わら帽子にツナギの服、そしてドロボウ髭……ではなくカイゼル髭とか言う見た目の怪しい男性。
それに話しかけられ、さっきまでの様子を切り替え、振り返る堀井。
「おう大帝か。 まあお察しの通りだよ」
大帝と言う大袈裟なPNの彼は怪しすぎる見た目だが、堀井はビビらない。
……まあ当然ながら、何度も顔を合わせた相手で馴れているので。
「ファーマーは特殊過ぎないか? 呪文盤とか言う名の文字や記号や数字を組み合わせて、50文字を作ってクリーチャーとか言う専用魔物を産み出して育てるってさー」
「その特殊さが良いんじゃないか」
「いやいや。 特殊過ぎて様子見されて、ファーマーはお前ひとりしか残ってないじゃんかよー」
そこから始まる世間話。
「他の人なんて知らないよ。 オレはファーマーをやりたいからやってるだけ」
「そりゃそーなんだろうけどさー、ファーマーってメインはクリーチャー育成のくせして、そのクリーチャーに育成制限があるって信じられないでしょー?」
「それが良いんだよ。 種類や育て方で増減は有るけどさ、ログイン中の30分に1度、育成内容を選択して能力を上げる。 その能力を制限が来るまでにどれだけ高められるかが面白さのひとつなんだよ」
「語るねー」
身振り手振りを交えて暑く語る堀井の熱意に圧され、すこしたじろぐ大帝だが、語る堀井にはそんなの目に入りやしない。
「応ともさ。 4回に1回、餌を上げるフェーズを挟んで、育てて休ませて4回分の指示を消費する修行をさせたりして攻撃技を増やして、クリーチャー同士のバトル大会で活躍させる。 この繰り返しが最高じゃないか」
「そんなもんかねー?」
「そんなモンだよ?」
ファーマーの良さを語りに語る堀井だが、大帝の心には届かない。
それは大帝がノーミンにどっぷりハマっているからであり、もし大帝がノーミンの良さを語れば、逆に堀井の心には全く届かないのと同じ事だ。
「まー、分からなくはないよ? ノーミンだって、他人じゃ理解できない楽しみが盛り沢山だしー?」
「そうなん?」
「語ろーか?」
「いいや」
「えー?」
ほら。
「やあ堀井殿、新しいクリーチャーを呪文盤から再生させたんじゃって?」
そうこう雑談をしている内に、なにやら探検服をバッチリ着込んだ怪しいおじいちゃんが現れた。
彼は痩せ型の体型に丸い黒サングラス、長く垂れる顎髭に、詰め込みすぎて丸々と太った大きな登山リュックと言う風体をしている。
いかにも怪しいオジイチャンだが、この人物に警戒心を持たない男がひとり。
「ハカセ! 今回もゴーレムの系統だったんだ! もっと他のクリーチャーを再生させたいんだ! 知恵を貸してくれ!」
堀井だ。
どうやらファーマー関連の重要なNPCらしく、ハカセが来ること自体が、それはもう嬉しそうである。
「ほっほっほ! 頼られるのは悪い気がせんのう。 だがその前に、既に次のクリーチャーへ心を飛ばしておる様じゃが、1度再生させたクリーチャーをお主は捨てるのかいの?」
「そんな事はしないさ! とにかく何でもファーマーの事を知りたいだけだ!」
「うむうむ。 研究中の、クリーチャーに頼った古代文明の発掘活動も手伝ってくれているだけあって、好奇心が旺盛で大変よろしい!」
「ささ、ハカセ。 オレのハウスで一緒に来て、色々聞かせてくれ!」
「ほれほれ、落ち着くんじゃ。 ワシはどこにも逃げんわい」
「は……はははー」
メカクレ男子と怪しいオジイチャン。
いきなり来たオジイチャンに場を持っていかれ、ふたりで嬉しそうにはしゃいで歩き去る様子に気圧されて、呆れ笑いながら見送るしかない大帝だった。
蛇足
堀井
残念ながら男。 こいつの口から、マ○姉の声は出てこない。
モンスターファー…………げふんげふん。
ファーマーの職業に魅せられた人。
恐らく100年くらい生まれるのが遅かった人か、これが投稿される頃にオッサンとかだった転生者か。
ファーマー
モンスターファー…………げふんげふん。
クリーチャーと呼ばれる魔物っぽい何かを育てて、他の人が育てるクリーチャーと戦わせて、国“かなにか”で一位を目指す職業。
大会はそこかしこで頻繁に行われており、ランクはE~S。
クラスを持つのはクリーチャー。
クラスそれぞれのリーグで規定の成績を得られれば昇格する。
ファーマー自身は段位制で、昇段するにはそれぞれ条件が有る。
クリーチャー
呪文盤から再生される、魔物っぽいナニカ。
クリーチャーを育てるのには、広い土地と専用の設備が必要。
クリーチャーには育成できる回数制限があり、それを越えると成長しなくなる。
どうやら特殊な条件を満たさないと、再生出来ないクリーチャーも居るらしい。
なおファーマーギルドにある呪文盤再生施設や、クリーチャーに冬眠処理を施す施設や、冬眠処理したクリーチャー同士を合体させる施設等は、ファーマー個人の土地には設置が許されずギルドで利用するしかない。
呪文盤
呪文盤再生施設で50文字分、ナニカを入力すれば、ナニカのクリーチャーが生まれるアイテム。
遺跡や古い地層から大量に出土される、謎の呪文が刻まれた円盤状の石板。
と言う設定。
有志がやる気になれば、再生されて出てくるクリーチャーの法則性をすぐにでも解析出来るのだろうが、その有志が居ないので解析されることは無い。
大帝
ノーミンのトップオブトップ。
カールと言うキャラ名がなぜか使えなかったので、代わりに大帝となった。
ハカセ
怪し過ぎるが、別に悪い人ではない。
クリーチャー愛と研究欲があふれるファンキーじいちゃんなだけ。
その研究欲から、各地のクリーチャーに関する遺跡を調べるべく、有力なファーマーとそのクリーチャーに護衛を依頼して探検に出かけるのが趣味。
探検
ファーマーで唯一、クリーチャー同士の戦闘以外で戦闘が可能な機会。
遺跡を目指す道中や、遺跡の中で魔物と戦う。
探検で得られたアイテムで、歴史的に重要な物以外はプレイヤーのファーマーのものとなる。
修行
大幅な能力アップと、新技を修得する機会。 有料。
時折値下げキャンペーンをしていて、修行前にそれを補助する特殊なアイテムを使えば、1ランク上の能力を得られると言う。
通常訓練
クリーチャーが能力を伸ばす基本手段。
訓練と言いながら、実際はファーマーの運営費をクリーチャーに稼がせるアルバイトである。
アルバイトの種類で伸びる能力や疲労度や得られる金が違う。
そのアルバイトはファーマーギルド直営の業務の手伝いであり、だからこそ気軽にアルバイトを選択できる。
クリーチャーの大会
育成制限をまだ越えていないクリーチャーのみ、出場が許される。
開かれる大会は基本総当たり戦で、1戦辺りの試合時間はかなり短い。
ファーマー用アイテム
ファーマーギルドと、ギルドと契約した特約店でのみ取り扱っている。
主にクリーチャーのストレスや機嫌や体重を操作するアイテムが売られている。
育成回数制限を越えたクリーチャーの処遇
大体は合体素材として冬眠させられるか、ファーマーギルド直営の仕事の労働力として使われる。