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8.初めての大阪ワンマンライブ

何とか間に合ったか…

階段を降りて、ライブハウスの入り口を見ると、当然だが入場が始まっている。受付待ちで10数人ほど並んでいる後ろに並ぶこと約10分。チケット代とドリンク代合わせて3500円を払ってライブハウスの中に入る。


初めて来る大阪のライブハウス、受付の先の通路を抜けるとすぐ横がドンリンクカウンター、トイレなどのスペースはあるが前室のようなものはなく、すでに沢山のお客さんがいる客席と一体になっている。


凄い人だな…

客席には40席くらいだろうか、イスが用意されていて、すでにほとんど埋まってるのがわかる。とりあえず喉が乾いていた俺はドリンクカウンターでドリンクチケットをペットボトルのミネラルウォーターに変える。壁際に寄ってミネラルウォーターを飲んでいると、同じく横浜から遠征してきたファンの子が俺を見つけて話してくる。


「あ、本当に来たんですね」


「は、はい。今着いたところです」


「私は夜行バスで朝に大阪に着いて、こっちのファンの人と合流したので、オープン1時間くらい前に並んでましたよ」

「そうそう、早く席取らないと立ちになってしまいますよ」


「席ほとんど埋まっるように見えたけど、大丈夫かな…」


長距離移動と慣れない土地に迷子になったのもあって疲れていたが、空いて無ければ立って見るしかない。もう少し早めの新幹線に乗る必要あったと思った。


客席をウロウロしてみても、やっぱりイスは全部埋まっているようで、すでに立って見ている人もいる状態だ。俺は仕方なくドリンクカウンター近くのステージが見やすい場所を確保して立って見ることに決めた。すると、ファンの子が戻ってきたようだ。


「席無かったですか?」


「仕方ない」

「心斎橋で迷ったし、もう少し早く着く新幹線乗ってればよかったかなって…」


「そうだったんですか… でも間に合ってよかったですね」

「私も来たこと無かったので絶対に間に合うようにこっちのファンの人にお願いしてたんです」


ファンの子と一緒に来たという、こっちのファンの人も合流して話をした。その人は、彼女のファンではなく横浜で活動しているインディーズミュージシャンのファンのようで、横浜に住んでいたが、今は大阪に住んでいるという話だ。そんな2人は、前方のステージ近くに席を取っているのだろう、話を切り上げてそちらの方へ向かって行った。


「そろそろ始まるので、楽しみましょう」


「は、はい。楽しみましょう」


気付けば、時間は18時32分になっていた。注意事項のアナウンスが始まり、ドリンクカウンターや入り口付近などバラバラになっていた人達は取っておいた席に座り始める。全部で80人くらいの人がいるだろうか、かなり密集した状態になっている。


人の動きが落ち着いたタイミングを見計らったように照明が落とされ、かかっているBGMの音量が上がり、ライブが始まる高揚感を演出する。そして照明が落ち、彼女のワンマンライブが開演する。


「皆さん、今日は来てくれてありがとう!!大阪初ワンマンライブ始まるよ!!」

「盛り上がる準備はできますか?」

「1曲目から盛り上がって行くよ!!」


バンドメンバーと一緒に登場する彼女、アコースティックとは違うバンドバージョンだ。オープニングから長い髪の毛を振り乱しながらエレキギターを弾く彼女の姿に圧倒されながらも、会場の雰囲気に合わせて盛り上がっていく。何度もライブに通ってそういう事にもだいぶ慣れて来た。横浜から遠征してきた疲れもどこへやら、俺の頭の中はライブ一色となった。


アコースティックでも盛り上がる事はあるが、ここまでではない。バンドバージョンの盛り上がりは俺の想像をはるかに超えていた。始まって1曲目から会場のボルテージも最高潮、お客さんも手拍子や歓声で応えている。最初から3曲連続で演奏した曲は、バンドバージョンにアレンジされると、いつも聞いている曲が違う曲に聴こえるくらいだ。


「今日は本当に来てくれてありがとうございます」

「私は約5年間横浜や東京で活動してきたけど、故郷の大阪でワンマンライブが出来ると思ってなくて… 」

「今ここに立ってるのが夢か現実かわからなくなってます」

「でも間違いなく現実ですよね!!」


会場から歓声と惜しみない拍手が彼女に送られる。俺は彼女のライブを見始めてから2か月半くらいだが、長い間この日を夢見て頑張ってきた彼女の言葉が心に刺さる。


「記憶に残る最高のライブにしますので、最後まで楽しんで行ってくださいね」

「それでは次の曲聴いてください」


初めてのワンマンライブ、初めてのバンドバージョンだが、俺も周りにノリ遅れないようについて行く。途中、いつも彼女が演奏するアコースティックスタイルで曲を披露したり、お客さんを巻き込んだMCで和ませたり、俺のライブ歴が短いだけだが、今まで聴いた事が無い曲を披露したりと盛り沢山のライブだ。


そう言えば、何か発表があるとか言ってたような…

ふと、彼女の言っていたことを思い出したが、ライブも終盤に差し掛かった頃のMCでその発表があった。


「ここでみなさんにお知らせがあります」

「新曲披露します。しかも2曲披露します!!」

「さらに、この新曲2曲が入ったCD、この後物販で販売します!!」

「是非、帰る前に立ち寄ってください」


会場がどよめきと歓声と拍手に包まれる。新曲発表にCD販売、発表が何かわかった瞬間、気持ちがより一層高まって行った。と言っても、このワンマンライブで聴く曲の3分の1くらいが初めて聴く曲で、俺にとってはそれらも含めて新曲という感覚だった。


「それでは新曲聴いてください」


1曲はゆったり落ち着いた曲、彼女の今まで頑張ってきた人生の一部を切りったのだろう何があっても自分を信じるという曲。2曲目はアップテンポのノリの良い曲、頑張っていたらいつの日か運が回ってきて良い事が起きるという曲。どちらも、今の彼女の状態にぴったりの曲だと感じた。新曲の2曲の披露が終わると。


「盛り上がってきましたが、最後の曲になります」


会場からは大きな「えー」の声。こんなに楽しいライブは終わってほしくない、しかし時間と言う残酷な現実も迫っている。最後の曲はMCで彼女の代表曲と言っていた『スカイハイウェイ』、渾身の力で演奏する彼女に会場全体でこれでもかというくらい盛り上がりを見せる。時間が止まればいいのにと思ったくらいだ。


「ありがとうございました!!」


最後の曲が終わり、彼女は会場全体が送る拍手に包まれながらステージを後にする。そして、すぐに始まる「アンコール」の掛け声。


この時、俺は何気なくスマートフォンを取り出して時間を確認。すると、20時32分になっていた。心斎橋駅22時には地下鉄乗らなければ新幹線に間に合わないんじゃないか、もうライブハウス出なきゃ危ないんじゃないかと、焦ってきた。時間と言う残酷な現実はこっちにも迫っていた。


「アンコールありがとうございます!!」

「こんなにも私のライブを見に来てくれて、応援してくれて、遠くから駆けつけてくれて本当にありがとうございます」

「今日は私にとって忘れられない日になりましたが、皆さんも忘れられない日になりましたか?」

「この日を境に私も新しい事に挑戦しようと思っています」


時間が迫っていることもあり、あまりMCの内容が入ってこない。会場や彼女の雰囲気から何となく重大発表的な事がある事には気付いた。ここは一旦時間の事を忘れて彼女のMCに集中する。


「関西でもっとライブが出来るように、こっちのライブをもっと増やします」

「皆さんにもっと会えるようにします」

「それと、少し先になるんですが、東京と大阪でワンマンライブをやります!!」

「時期は秋頃になると思いますが、詳細が決まったらお知らせしますので、それまで楽しみに待っててください」


盛り沢山の内容。何よりも彼女の決意を直接生で聞けたのが一番心に刺さった。俺は本当に大阪までライブ見に来て良かったと思った。来なきゃ後悔するって本当だったかもしれない。こんな話を聞いたら、彼女を応援したいと思う気持ちが強くなるに決まってる。そんな事を思っていると。


「それじゃ、本当に最後の曲行きます」


最後の曲は『彼方の光』だ。いつも彼女が演奏するアコースティックギターと彼女の歌声だけのスタイル。ワンマンライブに来ている全ての人が彼女の演奏と歌声を全身で感じている。俺にはこっちのスタイルが慣れてるかも何て考えながら彼女の演奏に身をゆだねる。


アンコールの曲がもうすぐ終わる。楽しい思いが強かったのだろうか、急に寂しさがこみ上げてきた。ライブが見られなくわけでもないし、今度の金曜日にも新横浜リングスでライブがあるから、すぐ会えるのにも関わらず、なぜか寂しい。


今まで生きてきた人生でこんな感情を抱いた事があっただろうか、彼女と出会う前の俺はというと、日曜日だったら、お昼位に起きて適当にご飯食べてゲームとか買い物とかして夜ご飯食べて、明日は月曜日かと憂鬱になって終わるのが定番だった。


今日の出来事は本当に同じ1日なんだろうかと思ってしまう。彼女と出会ってなければ今大阪に居る事も無いし、ライブを見る事も、こんな感情を抱く事も無い。今ここ大阪に来て彼女のライブを全身で感じている、これこそが本当に生きてるって事なのかなと思えてきた。



来て良かった…



「ありがとうございました」

「この後物販行ってでCD発売するのでみんな会いに来てね!!」

「本日は本当に、本当にありがとうございました!!」

「神崎ありさでした!!」


アンコール曲の演奏も終わり、会場全体から惜しみない拍手が彼女に送られる。彼女がステージから降りても抜けない余韻、楽しいってこういう事なんだなと実感していた。俺にとって確実に忘れられない記憶に残るライブになった。


しかし、楽しかった雰囲気を打ち破る時間と言う悪魔が襲い掛かる。スマートフォンを取り出して時間を確認すると20時50分になっていた。


これは危険だ!!


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