77.交わる平行線
さぁ、リベンジだ…
一昨日と同じ2人、あの時は連中の言ってる意味が理解できず、最終的には負けた感が漂う展開だった。しかし、今日は違うよ。
「MINORIさんの活動休止、あなたが原因だという噂があるんですけど」
「何?」
「MINORIさんに何か言ったんですか?」
「何かって…。何もしてませんけど…」
初球からとんでもない所にボールが飛んできた。いきなりデッドボールは避けたい。これって、昨日の物販でMINORIさんと話した内容じゃないか。あの後MINORIさんと話したのか、いや、物販での会話を聞かれてた。MINORIさんとの話に夢中になってたから、こっちの可能性が高い。
「今日は撮影も配信も許可されなかった。しかも、全部新曲って知らされてなかった。私たちのために演奏してくれなかったんですよ」
「どういう事でしょうか?仰ってる意味が…」
「ちょっと、あなた達。私の彼氏に失礼じゃない。突然こんな…」
「ミズキさん、大丈夫だからちょっと待っててね」
ミズキさんにアイコンタクトで指示を送る。ここは俺が何とかするから安心してくれと。それに、彼氏じゃないから、あと、腕強く握り過ぎだって。噛みつかれたりしないから大丈夫。落ち着いて話さないと衝突するから柔らかくね。あ、もう一度言うけど、彼氏じゃないから。
「MINORIさんのライブは私たちのためなんです。だって、一番応援してるのは私たちなんですよ。活動始めてから今日までどれだけ大変だったかわかりますか?わからないですよね。それが活動休止何て…。だから、私達の邪魔をしないでって言ってるじゃないですか」
「あぁ、なるほど…」
これは盛大な勘違いだな。この人達、MINORIさんのファン、いや同級生だっけ、どっちでもいいか。MINORIさんと話をしてないんだな。もっとライブの感想とか、楽曲の事とか、雑談でも良いから話すればいいのに。撮影と配信がライブの目的になってるから、考え方にすれ違いが起きてるんだろう。
「勘違いですよ。今日のMINORIさん、ここに居るみんなために演奏したんだと思いますよ」
「やっぱり、そうじゃないですか。あなたが邪魔したから私達のために演奏しなかった。これが事実ですよね」
少し間をおいて考える。そう、こういうヒートアップした人には少し間を置くのが良い。だが、あまり間を置きすぎたり、間違った取り方すると逆効果。それと隣の人が暴走する可能性もあるから注意が必要だ。
「うーんと…。まずは2つ話をします。1つ目は、今日のMINORIさんのライブ、ここに居るみんなために演奏したんだと思います。もちろん、その中には皆さんも含まれてます。今日の14時日本大通りと言う場所でMINORIさんがライブをする。その瞬間に演奏や歌声が聞こえる範囲の人に向けてのライブだったと思います。これは俺の想像です。2つ目は、皆さんの邪魔はしてないですよ。MINORIさんが活動休止するきっかけが何かわかりませんが、活動休止を決めたのはMINORIさん自身です。俺には何もできないでしょ」
「それじゃ、なぜ撮影や配信をしないようにって…」
「ライブという空間を大事にしたかったのかもしれないですね。記録じゃなくて、この瞬間しか味わない記憶の方を大事したかったんじゃないかって。あくまで想像ですけど」
「ライブ見られない人も居るんです。その人達はどうすればいいんですか?」
「俺もライブ見に行くんですけど、全部のライブは見に行けませんよ。丸1か月見られない時もあります。でも、見られないライブがあるから、また見たいって思うんじゃないでしょうか。行けなかった次のライブって楽しみじゃないですか。あくまで俺の勝手な考えですけど」
「そんなこと言われても…。もうMINORIさん、活動休止しちゃうんです。ライブが残り少ないんです。次が楽しみって言っても…」
「もう一度言いますが、活動休止はMINORIさんの決断ですよ。よく見てください、こんな俺がMINORIさんの活動云々に関われるわけないじゃないですか。推し活寿命は来年1月に決まりました。最後まで全力で応援しましょうよ」
「推し活寿命?何ですかそれ?」
「あ、そこ引っかかったか。推し活できなくなるタイミングのことです。活動休止もそうですが、物理的距離や精神的距離が離れたり、経済面、体調など、様々な理由で推しを推せなくなる時が来るんです。しかも、その時は突然訪れると言われてます。それが推し活寿命。だからその時が来るまで全力で応援しましょうって。あ、推し活寿命って名称は、俺が勝手につけましたけど」
「それは別に良いです。私たちは遥々豊橋から来てるんです。こんな発表横浜で聞くなんて思わなかった。その気持ち、わからないですよね」
思いっきりスルーで力説の意味なし。このダメージでかい。あ、そういえば豊橋って言ってた気がする。豊橋って聞くと乗り換え駅のイメージだよな。って、青春18きっぷ利用者以外ほぼわからないネタだけど。あ、これ使えるかもな。
「あの、豊橋って言いました?MINORIさん出身地って名古屋じゃなかったっけ…」
「違います。今は名古屋に住んでますけど、MINORIさんの出身地は豊橋です。プロフィールは名古屋じゃなくて愛知県になってた気がしますけど」
「俺が勝手に愛知県=名古屋だと思ってただけか。これは失礼。でも豊橋か…。あの豊橋駅ね…」
「豊橋がなにか?」
「駅の外に出たこと無いんですが、豊橋駅には何度も行ったことありますよ。青春18きっぷで横浜駅から普通列車を乗り継いで行くと、豊橋駅で新快速や特別快速に乗り換えるんですよね。静岡県内のロングシート地獄から解放されて、クロスシートの座席に座った瞬間、快適で、快適で…」
「は?せいしゅ…」
「青春18きっぷです。普通列車しか乗れないんですが、1日約2400円で乗り放題の所謂格安切符です。大阪へ遠征行く時に良く使ってます。横浜から大阪まで約9時間から10時間、朝5時前に出発して14時少し前に到着しますけど。こちらには新幹線か何かで?」
「い、いえ。車ですけど…」
「そうなんですね。運転お疲れ様です。そうだ、豊橋駅の構内で食べたきしめん、名古屋駅で食べたのとつゆが違ってたんですけど…」
「きしめん、あまり食べないのでよくわからないですけど。名古屋がある尾張地方と豊橋がある三河地方で文化の違いが…。って、何の話ですか?」
「そうですね、失礼しました。話を戻すと、皆さんの事はよくわかりません。でも、MINORIさんのファンであり、応援している。それだけわかります。俺もMINORIさんのファンでライブを見たいだけの人です。それで良いじゃないですか」
「納得いかないですね」
「納得する必要なんてないですし、納得させるために話していませんよ。MINORIさんは今日、ここに来ているみんなに向けたライブをしたっていう事だけ伝えたかったのです。もちろん、皆さんも含んでますよ。もし納得したいなら、MINORIさん本人と納得いくまで話してください。こんな、何もできない1ファンと話するより有意義ですよ」
「そこまで言うなら話してみます。あまり納得はしてないですけど…」
「ま、納得するかどうかは俺には関係ないです。俺はただライブが見られればそれだけで良いので。あ、それと、この後15時15分から神崎ありさという人のライブがあります。私の推しです。彼女の演奏も最高ですが、それだけじゃない何が最高なのかをお見せします。皆さんのことも歓迎しますので、良かったら聞いて行ってください」
「は?それは、考えておきます。それと、あなたの事は何となくわかりました。変わった人だという事が」
「わかってもらえて何よりです。これからもMINORIさんのライブに出没すると思いますが、その時はよろしくお願いします。空気的な存在と思ってもらっても良いですし、話しかけてもらっても大丈夫です。同じ音楽が好きな仲間ですから」
「まだライブに来るつもりですか?」
「スケジュール次第ですが、もちろん行きます。名古屋でもどこでも。青春18きっぷ使ったら普通列車で約6時間、早朝5時に出発して11時くらいに到着しますので…」
「変わった人ですね」
「お互い様です」
「ふふ。もう、あなたの好きにしてください。それでは…」
「それでは、お気をつけて…」
ふ、ふう…
最後は少しだけ笑顔になってた気がしたけど、大丈夫だったかな。昨日の夜、こうなることを想定してシミュレーションした成果があったかも。連中とは交わらない平行線だと思ってたが、変化があったかもしれない。ところで、俺の横で腕にしがみついてる人、こっちも大丈夫かな。
「ミズキさん、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。で、でも…」
「ん?」
「しいさん格好良かった。すごく良かった。もう、大好きから超好きになっちゃったよ。それに、それに…」
「そ、そうですか」
良くあるラブコメのテンプレートだと、相手に好意があるような雰囲気や仕草、言動はあるけど直接相手に伝えない。その後に、駆け引きしたり、ライバルが現れたり、すったもんだの末、告白って展開が普通だと思うんですけど。ミズキさんの場合、そんなセオリー、テンプレ無視。その先の展開が想像つくよ。
何でこうなったんだっけ。あ、そうか、付き合ってる人居るって聞かれたとき、俺は今は居ないって答えた。そこから、ミズキさんの雰囲気がガラッと変わったよな。腕絡めてきたり、恋人感強調したり、物販でもそういう話したり。
でも、ミズキさんがなぜ俺の事を。いや、これ本気なのか。ドッキリとか何かの企画で突然カメラと看板が軽快なSEと共に出現とかじゃないよね。あ、わかった。次のシーンで夢から覚めるんだ。夢オチで間違いない。
「あ、私ちょっと…」
「うん、俺この辺に居るから…」
緊張からの解放で疲れたのかな。ミズキさんが日本大通り駅の方へと向かっていく。まさか夢オチや、ドッキリばらす準備しに行くんじゃないよね。
時間を見ると14時50分、ステージ上では2組目のライブが続いている。俺にとっては初めましての男性2人組、ステージ前には女性ファンが集まっている。そこそこ人気のようだ。
ふと見ると、MINORIさんの物販も終わっている。列も無ければMINORIさんも物販席には居ない。多分、大丈夫だと思うけど、事件現場は死角だから物販からは見えてないよね。ま、事件じゃないし、良い方向にまとまったと勝手に思ってるけど。
ん?
スマートフォンに通知が来た。ヤツからメッセージだ。内容は、急用が入って19時までに帰宅するから、今日の予定を変更して欲しいそうだ。現在は三島駅で、新横浜駅15時30分頃到着だと。何?今から新幹線で横浜へ向かうって言うのか。こっちは、これからライブがあるんだけど。
何て返信しようか考えた。考えて出た結論は、別日にするのがベスト。飲みに行くと言っても時間が足りないし、今日はミズキさんが一緒。何か今日の話題は2人で飲みながらじゃないと、ダメな感じがするから、別日にゆっくり話した方がベストかと。
いや、そんな…
次は日程的に来年になってしまうから、別日じゃなく今日中に話したいって。厄介な。とりあえず、ライブで16時頃まで日本大通り付近に居ると返信。ヤツからの返信は、新横浜駅到着後すぐに関内駅に向かうから、ライブ終わったら連絡しろ。だそうだ。
そんなやり取りしている間にミズキさんが戻ってきた。カメラや看板持ってスタッフと一緒なんてことはなく、ドッキリや夢オチの線は一旦消滅か。それにしても今日で一気に距離が近くなったミズキさん、職場でのイメージとか、一昨日の事を考えても、こんな人だっけって印象だ。俺はミズキさんの事、何も知らないんだな。
「ゴメンね。え、何やってた?」
「あ、何も…」
うん、明らかに不機嫌な表情してる。何してたのか教えてくれって事だよね。でも、これ教えるとついて行くって言うんだろうし。でもでもでも、この状況で誤魔化すのはナシだよな。仕方ない。
「この後、友達と飲みに行く予定だったんだけど、その予定変更になったって」
「え、そうなの?しいさんと今日の夜一緒に飲めると思ってたのに」
「どういう事?」
「今日の夜飲みに行くって予定に書いてあったから。楽しみにしてたのに。で、どうなったの?」
「そういう解釈したのか…。飲みなしで、関内駅辺りで話する程度になった。ライブ終わったらすぐ向かうよ」
「そうなんだ…」
明らかに、ついて行っても良い?って表情してるよな。ここでダメって選択肢は完全に消滅。どうなるかわからないけど、成り行きに任せるか。
時間は15時5分。ステージ上のライブは終わり、転換の時間となる。俺はすっかり忘れてた。そうだよ、この時間になると彼女のファン達が来てる。相変わらずくっついて離れないミズキさんとの姿は見られて…るよね。何気なく振り返るといつものお馴染みメンバーが勢揃い。全員他人のふりを決め込んでやがる。これはマズいぞ。
とりあえず挨拶だ。お馴染みメンバー元へ近づくと、みんな目をそらすんですけど。気まずいのはわかってる。だが、挨拶しないわけにはいかないでしょ。
「お、お疲れっす…」
「…っす」
そうなるよね。急激な変化を受け入れられない人は多いんだよ。ねぇ、ミズキさん、俺もその1人なんだけど。いつもに比べてよそよそしい挨拶を交わしていると、気付けば彼女がステージ上に現れている。準備を始めてるようだ。
「今日もありささん素敵ですよね。しいさんもそう思う?」
「そう…」
「そうって何?ありささんみたいな人が、しいさんの好みタイプなのか…」
「え?色々違うって…」
好みのタイプって、そんな風に彼女のことを見たことも考えたことも無いよ。でも、中にはそんな風に見てる人もいるのかな。いやいや、ちょっと頭が混乱してきたぞ。あ、そんな風って何?とか聞かないで察してください。
あ、もう1つ忘れてた。ステージ正面、この位置にいるとミズキさんと一緒に居る姿がステージ上の彼女から絶対見えてるよね。ステージ前から少し移動しようっと。何でって、ちょっと気まずいというか照れる。
時間は15時15分、天気は微妙な感じになってきたが間もなくライブが始まる。すると、もう1つの事件が起きる。場所を移動したことで気付いたが、MINORIさんを取り巻く連中、そのうち2人がステージを見ている。いつもだと、MINORIさんのライブが終わったらすぐ居なくなってしまうのに。ま、楽しんで行ってくださいな。
「お集りの皆さん、お待たせしました。神崎ありさです。土曜日の午後、ちょっと天気はご機嫌ナナメのようですが、それを振り払うようなライブしますので、最後まで楽しんで行ってください」
1曲目は、人の出会いと別れをイメージさせる切ない曲。今、俺が置かれている状況がそうさせるのだろうか、この曲聞くと、ため込んだ思いが溢れてしまいそうだ。あ、あの、ミズキさん、ライブ中にそっと腕を絡めて来るんじゃない。それに頭を肩に乗せるんじゃない。気になってライブに集中できないでしょ。
だが、ミズキさん、それができるのは1曲目だけだよ。2曲目と3曲目は盛り上がる系の曲が続く、そう、手拍子するから少し離れてね。そんな、えって顔しないで、一緒に盛り上がろうよ。でも、ライブは1人の世界に浸るのが良い。この時間、この瞬間だけは1人が良い。
ライブが始まった頃、人がまばらだったステージ前、盛り上がる系の曲を2曲演奏すると一気に人が集まってきた。この後はMC、横浜に来た頃の思い出話や2週間後に迫ったワンマンライブの告知など。そんなMCを聞いてると、ミズキさんが再びそっと腕を絡めて来る。あれ、ビックリしなくなってきた。なんか馴染んできたのかも。
そして最後の4曲目は「スカイハイウェイ」。この曲が始まると会場の空気が一変。そう、みんなで盛り上がるのだ。それは、ファン達だけでなく、ここに集まったすべての人、初めて彼女のライブを見る人も含めて全員だ。
ミズキさんも彼女の演奏に手拍子で答え、楽しんでいるようだ。でも、そんな笑顔でこっち見ないで。ちょっとドキドキする。ふと、周りを見るとステージ周辺は凄い人が集まっている。連中の居る方を見ると周囲の人達に合わせて手拍子してるのが辛うじて見える。楽しんでるでしょうか、これがライブですよ。
「ありがとうございました。神崎ありさでした。この後は、物販で待ってますね」
あっという間の約30分。時間を忘れて夢中になってしまう。これが彼女のライブの魅力。鳴り響く拍手の中、ふと連中のいた場所を見ると、もう姿がない。と言うか、人が多くてわからないという表現が正しい。彼女のライブを見て連中が何を感じたのかは分からないが、これを見せられた、それだけで十分だ。
時間は15時44分、いつもならライブの余韻に浸るところだが、この後の事を考えるとすぐに物販へ行かなければならない。でも、常連は後というマナーもある。ファンの人達に一言断っておきますか。さぁ、ミズキさんも行くよ。
「きたさん、お疲れっす」
「お疲れっす。あの、そちら一昨日の…」
「しいさんの彼女、ミズキです。きたさん、一昨日ぶりですね」
「そ、そうですか。何か、しいさんモテますよね…」
「ちょ、ちょっと。きたさん、この件については後でゆっくり…。そうじゃなくて、この後用事があって早めに現場離れます。物販も先に行こうかと思って」
「良いんじゃないですか。2人でごゆっくり」
「あの…。後で…」
「なんか必死ですね…」
必死と言うか、今はこうするしかないんだよ。余計な話をして、おかしくなるのも避けたい。だから、今じゃないんだ。あ、それより早く物販へ行かないと列が長くなってしまう。
「ミズキさんも物販行く?」
「え!?うん、行く」
だよね。すでに物販には数人並んでいる。このくらいなら17時までには話しできるでしょ。さて、何を話しようか、来週の遠征の話かな。何て考えていると、ミズキさん、またくっついて来るんですけど。これ、傍から見たら、本当に付き合い始めたカップルだよな。あれ、そう言えばミズキさんと日本大通り駅で会った時、そんなこと言ってた気がする。そうか、そこから始まってたのか。と、考えている間に予想した待ち時間より早く順番が回ってくる。
「こんにちは。今日のライブも楽しかった。ちょっと怪しい天気でしたけど、降らなくてよかったです」
「しいさん、いつもありがとう…」
「ミズキです。今日もありささんの演奏素敵でした。最後の曲、彼氏と一緒に盛り上がっちゃいました」
「あ、ありがとうございます。仲良いんですね」
ミズキさんの暴走と言うか、スタートダッシュと言うか。彼女の返事が終わる前に食い気味で入ってくるとか、何とかならないのかな。ペースが狂っちゃうんだよな。あ、何度も言うけど彼氏じゃないから。
「来週は大阪ですよね。土日の2日間だけになりますが行きます。変更とかないですよね」
「今の所、来週はスケジュール通りですよ。無理せず来てくださいね。あ、2人で来ます?」
「残念。私は来週は行けないので、お留守番してます。うちのしいさんがお邪魔するのでよろしくお願いします」
「あ、あの…。1人で行きます」
「ふふ。楽しみにしてますね」
ミズキさんにペース狂わされっぱなしだな。でも、今までライブを1人で楽しんでた。それが当たり前だと思ってた。2人でライブを楽しむって、こういう事なのかなって思う瞬間もある。楽しみ方は人それぞれだし、楽しむ人が変わると楽しみ方が変わるのかな。と、考えていると。
「11月20日のワンマンライブ行きます。チケット下さい」
「え!?」
ミズキさん、再来週のワンマンライブ行くのかよ。何目的かわからないけど、大丈夫だろうか。でも、彼女のライブを約2時間楽しめるあの空間はぜひとも体験して欲しい。
「ありがとうございます。お名前入れましょうか?あ、2人で来てくれるんですよね?」
「もちろんです。あ、名前はミズキで…」
「あ、はい…」
チケット代と引き換えに、彼女のライブチケットを笑顔で受け取るミズキさん。見るとサインと共に名前を入れてもらったようだ。それよりもまだチケット売ってるのか。すでに100人くらい来るという情報もあるし、何人入れるつもりなんだろう。これ、スタンディングになるのかな。そんな事より、ヤツとの待ち合わせ行かないと。
「今日は、この後予定があってすぐに現場離れちゃいます。また来週大阪で」
「また大阪で…。あ、ミズキさんはワンマンライブでね」
「ありささんのライブ見られるの、すっごく楽しみにしてます」
時間は16時57分、彼女の物販を離れる。17時過ぎるかと思ったが、意外と早く抜けられた。さて、ヤツの待ってる場所へ行きますか。その前に、ヤツへメッセージを送信。これから日本大通りを離れます、2人で行くので、と。
あぁ、そうだ。現場を離れる前にファン仲間達に挨拶しなきゃ。だが、ミズキさんと一緒という事もあり、色々と勘繰られたのは言うまでもない。詳しくは書かないが、察してください。現場を離れて関内駅の方面へ歩き始めると、MINORIさんと鉢合わせ。彼女のライブを見ていたのだろうか。
さすがにこの状況、スルー不可でしょ。