58.この世の終わりを見た
この世の終わりとはこの事か…
新大阪駅、この駅はいつも混雑しているが秩序が保たれ、平穏な雰囲気に包まれる駅。そんな駅が今、地獄絵図と化している。運転見合わせのアナウンス、溢れかえる人達、飛び交う怒号、号泣する若い女性、疲れ切って座り込んでる家族連れ。凄い光景だ。帰れるのか、本当に帰れるのか。
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4月の遠征を終えると、3回目となった企画ライブを新横浜リングスで楽しみ、次の大阪遠征に向けて準備をしていた。5月の大阪ライブはゴールデンウイークも終わった5月7日から10日までの4日間なのだが、御多分に漏れず平日は不参加で、8日から9日までの2日間参戦。
今回の遠征は、5月8日昼にゆうそらが出演するフリーライブに参戦。このライブには彼女は出演せず、その日の夜、南森町のライブハウスで彼女のライブに参戦。翌日9日、毎度おなじみ千里中央でのフリーライブ。このライブ、彼女もゆうそらも出演という神ライブ、これは楽しみだ。毎回大阪まで行って観光もせず、ライブばかり行ってるが、俺にとってはこれが当たり前だ。
5月の遠征は青春18きっぷが使えない問題が勃発する。新幹線での往復となるのだが、予算的な問題が大きな壁となる。しかも、ゴールデンウイークは終わってるが混雑しているようで、新幹線の指定席を思ったように予約できない。
ここでヤツからもらったアドバイスを使ってみる。みんな早く移動したいから、当然のようにのぞみを使う。だが、あえてこだまを使うという選択肢がある。時間がかかり車内販売は無いが、新幹線は新幹線。空いていて快適、DX-ICの早割商品利用なら最安で移動できるという。と、思って調べたが、同じことを考えてる人は多く、意外に空いてない。
行きは新横浜駅7時15分発のこだま703号、これは難なく2列席の窓側を予約できた。問題は帰り、千里中央のフリーライブが15時30分終了予定だから、16時54分のこだま744号が良かった。しかし、3列席の真ん中か通路側しか空いておらず、1時間遅い新大阪駅17時54分発こだま748号の2列席窓側を予約。ちなみにホテルは西横イン淀屋橋。
あぁ、混んでる…
5月8日7時6分、まだ朝7時だというのにこんなに人が多いのはなぜだ。それほど新横浜駅から新幹線に乗る人が多いという意味なのだろう。動き始めた日本の大動脈、その流れに乗る人達がパズルのピースのように見えるが、俺もそのピースとしてはまっていくんだよ。それを傍から見れば。
いやいや、余計な事考えてしまったが、あまり時間は無い。朝ごはんのサンドイッチとお茶を買って、7時15分発のこだま703号に乗り込む。新横浜駅で乗り込んだ時点では、隣は空席。それでもこだま号は各駅停車。途中駅で人が来るだろう。と、サンドイッチを食べつつ考えながらも、小田原駅到着前に遠い世界へと誘われていた。
10時51分、新幹線は新大阪駅に到着。3時間半以上かかったわけだが、乗ってしまえば快適。途中で書くほどでもない出来事はあったが、早割使って新大阪駅まで約10000円、実にのぞみ正規料金よりも5000円近く安い。この安さがあれば、多少の不便も気にならない。
この後は、もう何度行っただろう、阿倍野CrownのLoop Square。12時スタートのゆうそらが出演するフリーライブを見た後、18時からは南森町Live Bar Blue Pondで彼女が出演するライブ。だが、今回のネタのメインではないので全て省略。もちろん、ライブは楽しかったですよ。間違いなく。
何も知らずに迎える運命の5月9日。この日のスケジュールは千里中央リビングモール前広場で12時スタートのフリーライブに参戦。久しぶりに行くこのイベント、ゆうそら主催で彼女も出演するから、お得感満載だ。終わったら新幹線こだま号で帰るのだが、少し時間が空くからどこで何をしようか。
ん、何だ?
ホテルを出発する直前にヤツからメッセージが届く。何やら今日は鉄道仲間と静岡県にいるとか。大井川鉄道のイベントに参加だそうだ。もしかすると帰りは同じ新幹線に乗るかもしれないだと、それだけはご勘弁願いたい。
ホテルをチェックアウトすると、イベント開始の12時まで時間を潰す。天気も良く、あまりお金を使いたくない俺は、散歩を兼ねて大阪駅というか、梅田駅まで歩いてみることにした。ルートは事前に調べ、地図でも確認しているが、果たしてたどり着けるのだろうか。まずはホテルを出て少し歩くと現れる大きな道路、御堂筋を北へ向かう。
同じく梅田方面へ向かう人達だろうか、その人達に倣って歩いていると、大きな川に架かる橋を渡る。案内を見ると「淀屋橋」の文字が見える。そうか、良く使っている淀屋橋の名前はこれが由来かもしれないと思いながら歩いていると、右側に大きな建物が見える。大阪市役所らしい。いつも地下鉄で通り過ぎ、暗闇に映る無機質な風景しか見ていなかったが、地上は見どころも多く、この橋からの風景はまさに大阪を象徴する水の都というイメージだ。
あまり観光しないライブ遠征旅、たまには歩くのも良い。何て思ってると、この先梅田方面へは、御堂筋を渡って反対側の歩道へ行く必要があるらしい。らしいとは、人の流れがそうなってるからだ。さらに人の後をついて行くと、地下街へ続く階段を降りて行くのが見える。状況を瞬時に理解すると、ここから地下街を通るのが梅田方面のベストルートと察知。
地下へ降りると、ここからは案内板を頼りに梅田駅へ向かう。だが、俺は今、ビルの地下街と思われる場所に迷い込んでいる。所狭しと飲食店や物販店など多種多様な店が立ち並ぶ地下街。よく見ると昭和の雰囲気漂う店から、朝この時間から飲める店やコンビニまで。地上の風景とは違うが、これも大阪を象徴するイメージなのかもしれない、何て考える。
地下をさらに進むと、東梅田駅に到着したが、これは地下鉄谷町線の駅。もう少し案内板を頼って進んでいくと、大きな百貨店に遭遇。そう、大阪に来ると思うのが百貨店を出入りする人の多さ。横浜でも似たような光景を見るが、大阪の百貨店パワーは桁が違う。それに、梅田地下街が難易度SSクラスなのは、百貨店に出入りする人達が多いからじゃないだろうか。あぁ、これ確実に怒られるな、絶対。
余計な事が混じったが、間違いなく百貨店も大阪の文化の一部だ。そんな事考えてると、やっと地下鉄御堂筋線の梅田駅に到着。時間は10時45分、時間も潰せたし良い観光にもなった。ここからは北大阪急行線に直通する地下鉄御堂筋線で千里中央駅へ。
11時17分、千里中央駅に到着。地上へ出ると、スタッフが準備を始めているようだが、出演者の姿は見えず。時間が早いから仕方ない。という事で、同じく早めに会場に現れた彼女のファン達と話をしながらその時を待つ。
この時、とんでもない事件が起きようとしていた事は知る由もなかった。
今回も3組出演で2ステージ、12時スタートで途中休憩があり、15時30分終了予定。物販タイムを入れると16時くらいに終了だろうか。千里中央のイベントはゆうそらのホームグラウンド、水を得た魚ならぬ、エナジードリンクを得た魚かのように冒頭のMCからフルスロットル。楽しすぎて全てを忘れそう。
もちろん、忘れてはいけない彼女のステージ。1ステージ目は3番手で登場、ゆったりした曲を中心に会場に集まった人達へ癒しをお届け。2ステージ目は2番手、最初から元気な曲を演奏し、会場を盛り上げる。
何だ…
14時45分、突然スマートフォンが鳴っている事に気付く。が、今は彼女のライブ中。当然、無視だ無視。と思っていたが、何度もスマートフォンのバイブが動作すると流石に気になる。仕方なく表示を見るとヤツからだ。珍しくメッセージだけでなく電話が掛かってる。今ヤツは静岡県に居るはずなのに何だろう、面倒だから確認は彼女のステージが終わってからだ。
何度も襲い掛かったヤツからの着信はやり過ごしたが、あまりライブに集中できず不完全燃焼。何でこんなタイミングで連絡して来たのか。まず、メッセージから確認してみると、東海道新幹線が止まってるだと。そりゃ駅に停車するだろう何て一瞬思ったが、ヤツがそんな事で連絡するはずがない。
え、これ過去最強にヤバいんじゃ…
ヤツからのメッセージには「東海道新幹線 電気設備故障 運転見合わせ 復旧未定」と雑に書かれていた。危機感を感じてヤツに電話するが、つながらない。鉄道会社のホームページ、こちらもつながらない。ニュースサイトで情報を確認すると「13時30分頃、電気設備故障の影響で東海道新幹線は東京から新大阪間で全線運転見合わせ。運転再開は未定」となっていた。
さらにSNSなど使って情報を調べると、既に東京駅や新大阪駅では大混雑の大混乱になってる画像や動画が出回り、パニックになっているようだ。すると、ヤツから電話が掛かってきた。
「ヤバいぞ。帰れないかもしれない。覚悟して挑めよ」
「ちょっと待って。何が起きてるかまずは説明を」
「東海道新幹線の電気設備、恐らく変電所だと思うが、そこが故障して停電になっているようだ。新大阪駅から先、山陽新幹線は大丈夫だが、東海道新幹線は全線で運転見合わせ。停電で動かなくなった新幹線が駅間に止まってるという情報もあるが、今は正確な情報集めてる所だ」
「まだライブ終わってないんだけど、どうすれば良いんだ?」
「まぁ待て。こっちもイベント終わり次第金谷方面に向かうのだが、次は16時55分発。それまで動けない。アドバイスとしては、余計な事はするな。落ち着け。状況がわかり次第、連絡する」
「なるほど。こっちもライブ終わり次第、新大阪駅に向かう。情報があれば連絡するよ」
「よろしく」
電話を切ると、3組目のゆうそらのライブが始まる直前だった。ゆうそらのライブは楽しみたいが、いち早く新大阪駅に向かうため、このタイミングで彼女の物販へと向かう。
「こんにちは。今日は早めに来ました」
「しいさん、今日もありがとうございます。慌てているようですけど、どうかしましたか?」
「新幹線止まってるみたいで、大変らしいです。ゆうそらのライブ見たらすぐに新大阪駅に向かおうと思って」
「それは大変。辛い道のりになるかもしれませんが、落ち着いて無理しないで下さいね。無事帰れることを願ってます」
「あ、ありがとうございます。ライブも楽しかったし、良い思い出もできました。また横浜で会いましょう」
「はい、また横浜で会えることを楽しみにしてます」
焦ってしまい、思ったように話できなかったが仕方ない。落ち着けと言われても、今は冷静になってる余裕が無い。このままでは危ない、ゆうそらのライブを最後まで見届けると、少し落ち着いてきた。が、胸騒ぎが消える事は無く、彼女のファン達に事情説明と挨拶をして、千里中央駅へ急いだ。
15時39分、千里中央駅に到着する発車案内を確認、次は15時45分発。焦る気持ちを抑えながら電車を待ち、到着後は慌てる必要が無いのに、慌てて乗車。車内アナウンスで東海道新幹線の運転見合わせに関する情報が流れると、気が気じゃない。15時59分、新大阪駅に到着。急いで新幹線改札口へ向かうと、そこには異常とも思える光景が広がっていた。
新大阪駅では今まで見たことが無い多くの人、お土産店や飲食店も営業が難しいくらい。状況を確認しようと思っても人が多く改札口に近づけない。電光掲示板の表示だけでは情報が少なく、13時45分発のぞみ24号が遅れ120分以上。復旧の見込みが立たないというアナウンスが無情にも流れ続けている。もちろん、俺が乗る予定の新幹線の情報も無い。
この世の終わりとはこの事か…
窓口や改札口に詰めかける多くの人、払い戻しや予約変更をするのだろうか、みどりの窓口に並ぶ長蛇の列、改札口は入場制限中。よく見ると、駅員に罵声を浴びせて詰め寄っている人、子供連れの家族4人が柱にもたれてぐったり、若い女性2人が泣き崩れていたりと、常軌を逸している。
今まで事故などでこんな光景を見る事もあったし、遠征でも色んなトラブルに巻き込まれてきた。慣れてると思ったが、これは本当に異常。俺はどうすれば良いのか、ヤツに電話してみた。
「今、新大阪駅に到着した。一言で言うと地獄絵図だよ」
「そうだろうな。まずは落ち着いて冷静になった方が良い。面倒な事が起きてると思うが、それには近づくな。損するだけだ」
「新大阪駅を脱出する良い方法は無いのか?」
「復旧の情報もないし、俺らもこれからどうするか迷ってる。指定席は運休の発表があるまで手放すなよ」
「じゃ、これからどうすれば良い?」
「しばらく動かないから、食事したり帰る準備をするのも良い。恐らくそこじゃ、飲み物を手に入れるのも苦労するだろう。新大阪駅を離れても良い。今すぐ復旧しても1時間くらいなら絶対に大丈夫だ」
「じゃ、徒歩5分くらいのホテルに泊まったことあるから、その辺り行ってみるよ」
「それは心強い。さぁ、帰宅ミッションスタートだ!!」
「何だそれ。わかったよ」
という事で突然始まった帰宅ミッション。まずは大混雑の新大阪駅を離れ、以前泊まったことがある西横イン新大阪本館の方へと向かう。5分も歩けば駅の喧騒は何だったのかと思うくらい、人も少なく穏やかな雰囲気。選択肢は少ないが、飲食店もあり、コンビニもあり、休憩できるカフェもある。お昼ご飯は軽く済ませてるので、前に食べたことがあるラーメン店で早めの晩ごはんにした。
時間は17時15分、ラーメンを食べ終えて休憩していると、新幹線の情報が更新されていた。電気設備の故障は復旧が完了、運転再開は17時30分頃の見込みとなっている。これを見た俺は、新大阪駅へと戻ることにした。
新大阪駅へ向かう途中で、ヤツにメッセージを送信。すると、すぐに返事が返ってきた。そのまま予約した新幹線で帰って来れるかもしれない。こだま号は、ひかり号やのぞみ号が止まらない駅の利用者も拾うから有利だそうだ。勿論ヤツの経験上の持論、だが、今はそれを信じるしかない。
時間は17時30分、新大阪駅。相変わらずの地獄絵図。疲れたとか、お腹空いた何て声が聞こえるが、この人達、徒歩約5分でオアシスがある事は知らないだろう。そろそろ新幹線の運転再開の時間だが、まだそのアナウンスは無い。運転再開のアナウンスが流れたのは、それから15分後の17時45分だった。
「運転見合わせとなっております東海道新幹線ですが、この後順次運転を再開いたします。新大阪駅構内は入場制限を行っておりますので、自由席をお待ちのお客様は、しばらくお待ちください」
「なお、運転が再開した列車の指定席券をお持ちの方は、係員にお知らせください。本日運休となる列車につきましては…」
運転再開と言っても、新幹線がすぐに出発するわけではないようだ。アナウンスで流れる運休になった新幹線、その中にこだま748号は含まてれいない。そして最初に運転再開するのは電光掲示板一番上に表示されている13時45分発のぞみ24号ではなく、17時15分発のぞみ242号東京行き。色々事情があって運転順番も違うのかも知れないが、果たして、こだま748号の運命は。帰宅ミッションはまだまだ続く。
混乱する中で駅員に状況を聞いてみたいが、近づく事すら難しい。とある人は、駅員に罵声を浴びせて「重要な会議があるのに間に合わない、責任者を出せ」と言ってる。とある人は「これに乗れないと、コンサートに間に合わない」と言ってる。
みどりの窓口は運転が決まった新幹線の指定席を求めて、どこが最後尾かわからないくらいの大行列。改札口前は入場制限となってるが、自由席を求める人達が大行列。運転再開によって混乱が加速した新大阪駅で待つこと約1時間。臨時列車の運転がアナウンスされると、そのプラチナチケットを求めて血眼になる人達で、混乱はピークを迎える。
もう何が何だか…
混乱はさらに揉め事を増やす。大きな声を上げる人は1人ではなく、至る所で聞こえる。警備員が駆け付ける姿も見え、ここが新大阪駅とは思えない光景に。18時50分、そんな混乱を傍目で見ながら、案内を見ていると、ついに光が差し込む。
「こだま748号東京行き、ご利用の方は係員にお知らせください」
マジか…
俺、この新幹線の指定席持ってます。勝利確定です。長蛇の列に並ぶことも、面倒な混乱や揉め事に巻き込まれることも無く、途中でご飯も食べたし、休憩もして楽してたけど帰れます。ヤツにメッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。
数年に1回くらい、こういう大トラブルに遭遇する。そんな時、無謀な変更や別ルートで向かうのは、余計に問題を悪化させる。慌てたり騒いだり、無謀な事をしたり、増してや駅員に文句言うなんて言語道断。俺たちは、新幹線を使わせてもらってるんだよ。
在来線がトラブって新幹線に振り替えるのとは意味が違う事を理解した方が良い。DX-IC利用者は無料で窓口に並ばず何度も乗車変更できるから、事態が好転した時に有利。あくまで俺の経験上の話だが、新大阪駅始発でこだま号は運転される確率が高く有利。指定席持ってるなら運休の発表があるまで手放さない方が良い。しかも2時間以上到着が遅れると特急券分が払い戻されるボーナス付き。ちょっと面倒な輩も現れるから気を付けろ。帰宅ミッションはまだ続く。
だそうだ。早速、駅員にドヤ顔でDX-ICの予約画面を見せ、得意げな顔で新幹線の自動改札を通過。すると、改札前に居た重要な会議に遅れたお偉いさん達や、苦労してチケットを取ったコンサートが見られなかった女性2人組の凍えるような冷たい目線と、舌打ち、文句という心地良い激励を受けがら改札内へ。
俺は勝った、お前らは負けた、それが事実だ…
人それぞれ事情があるのはわかるが、新幹線という人が作った便利ツールを俺達が使わせてもらっているに過ぎない。そういう立場だという事を忘れてはいけない。そんな便利ツールが動かないと不安や不満が募るけど、仕方ない。嫌なら別の手段を使うしかないだろうし、決して自分の都合を他人よりも優先すべきではない。
俺は特に理由も無く、家に帰るってだけで新幹線を使うのだが、重要な会議がある人を優先するのだろうか。苦労して取ったコンサートのチケットを持った人が優先なのだろうか。俺はその人に席を譲る義務を負うのだろうか。そんなわけ無いだろう、何て心の中では思うが声に出せない。
改札口を抜けて発車案内の電光掲示板を見ると、ヤツの経験が勝ったのか偶然か、新大阪駅始発の新幹線が多い。東京行きは、13時24分発のぞみ108号、13時33分発のぞみ146号、17時18分発ひかり660号、17時33分発のぞみ116号、17時54分発こだま748号の順だ。途中時間が大きく空いているが、恐らくその間の新幹線は運休したか、出発したのだろう。
改札の中に入ったは良いが、ここも地獄絵図は続いている。自由席を求める人達の行列はお土産店を閉鎖するほど。ここでも駅員に大声張り上げる人、地べたに座り込んでいる人、疲れ切って寝てる人などで大混雑。すると。
「まもなく24番線に、こだま748号東京行きがまいります」
こだま748号がもうすぐ入線のアナウンスが流れる。そのアナウンスを聞いて、人をかき分け、エスカレータを上り、ホームへ到着すると、ここも凄い状況だった。自由席を求めて並んでると思われるのだが、どこから並んでるかわからないくらい居る。
さらに人をかき分け何とか11号車まで到着したが、ここも長蛇の列。所で、指定席なのになぜこんなに並んでるんだろうか。何となく11号車の最後尾っぽい所で扉が開くのを待っていると、すぐにアナウンスが流れる。
「こだま748号東京行き、自由席ご利用の方は1号車から7号車、13号車から15号車にご乗車ください」
こだま号でも東京方面へ向かおうとしているんだろう、どうしても乗って帰りたい人達が並んでいるのだが、ここは指定席車両。アナウンスを聞いて何人か列を外れ、大きく列が動く。困ったものだ。
時間は19時15分、扉が開いてついに新幹線の車内へ。行列について車内に入ると、ここでも揉め事だ。自由席券しか持ってない人が、指定席券を持っている人の席に座っているという。しかも、その人は席を移動してさらに揉めるという、コントみたいな展開を繰り広げた。早く自分の席に座りたい。
意外にも指定席には空席がチラホラある。こだま号は通しで乗る人は少なく、途中駅から途中駅までの利用もあるからだろう。偶然だろうか、俺の隣の席は空席。これからゆっくり新横浜駅まで寝て行こう。と、思ったが、新大阪駅を出発したのは19時40分だった。
「今日も、新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は、こだま号東京行きです」
動き出した定刻17時56分のこだま748号、今の時点で約2時間遅れ、このまま時間通りだと23時台前半に新横浜駅に到着。それでも家に帰れるから問題は無い。窓を見るとすっかり暗くなった外の景色が、数時間前からの記憶と共に流れていく。新大阪駅の喧騒が嘘のように静かな車内、何時間も足止めされて疲れているのか、眠気がヤバい。まずはひと眠りだ。
すぐにあちらの世界へ誘われる。が、京都駅に到着する前にヤツから届いたメッセージで、ビクッとなって目が覚める。メッセージは内容はこんな感じだった。
ひとまず帰宅ミッション成功おめでとう。我々は静岡駅まで普通列車で行ったが、新幹線は諦めて普通列車で帰ることにした。色んな事情があるだろうけど、普通列車で帰れるという選択肢も残しておくことが大事だ。静岡辺りならそれも通用するが、さすがに大阪では厳しいか。
さらにメッセージは続く。こんな時、状況判断能力が大事になる。あの後、近鉄特急の名古屋方面、寝台特急サンライズ号、高速バスも羽田行きの飛行機もすぐに全て満席になった。余計な事するなと言ったのは、他の交通手段に振り替える何て、みんな同じく考えるから、動いて満席とかだと、余計に疲弊する。
さらに、さらにメッセージは続く。この週末、ゴールデンウイークは終わっているが多くの人が移動している。新幹線も昼頃から東京方面はほぼ満席、その新幹線が約40本運休はパニックになる。そんな時は慌てず騒がず、冷静になって状況を判断した方が勝つ。駅やネットで騒いでる輩が居るけど、余計なものを見聞きしない方が良い。
メッセージはこれ以降も続くかなりの長文だが、読んでいると強烈な睡魔が襲ってきた。すると新幹線は京都駅に到着。ここもホーム上は異常なまでの人の量。自由席はどんな感じかわからないが、かなり大変なんだろうなと考えていると、さすがに睡魔と戦う気力0。スマートフォンを置いて、再びあちらの世界へと誘われる。
その後、途中駅で長時間止まっている感覚はあったが、睡魔に勝てず。隣に人が乗って来ても、睡魔に勝てず。多くの人が降りて指定席人口が半分以下になっても、睡魔に勝てず。やっと目が覚めたのは三島駅に停車中。時間を確認すると23時10分だった。え、23時10分だと。
遅れている認識はあるが、三島駅でもうすぐ日付が変わる時間何て。新横浜駅から自宅に帰れないんじゃないだろうか。すぐに時刻を調べると、地下鉄の横浜方面最終は0時20分、この時間でも安心できるのだろうか。ちょっと血の気が引いてきた。
焦る気持ちはあるが、新幹線は熱海駅、小田原駅に停車した後、順調に新横浜駅へと向かっている。あと1駅とちょっと安心感が出た所だったが、新横浜駅手前で新幹線は急に減速開始。あれ、どういう事だ。と言うかヤバいのの前触れなんじゃないか。
「この先、電車が詰まっているため速度を落として運転しています」
おっと、帰宅チャレンジの最終関門、いや、追加ミッションが訪れたようだ。順調に行っても23時45分頃到着予定なのに。すると、ヤツから無事帰宅とのメッセージが送られてきた。俺は今の状況を返信すると、ヤツからすぐにメッセージが返ってくる。
東海道新幹線は東京駅で折り返しがあるから、そこで詰まってしまう。小田原とかで降りて在来線や私鉄線に向かっても、時間が遅く通用しないから、新横浜駅まで頑張れ。だそうだ。
「まもなく新横浜です」
23時49分、ゆっくり走行する新幹線の中でメッセージのやり取りをしていると、新横浜駅に到着するアナウンスが流れる。ここまで来れば安心か、まだ駅に到着するまで安心してはいけないか。
さらにゆっくり走行する新幹線、もう少し頑張ってくれ。という願いも虚しく時間だけが過ぎていく。やっと新横浜駅前の風景が見えた時、時間は23時57分。あともうちょっと。
新幹線を降りる準備をして待つこと数分。0時2分、ついにというか、やっと新横浜駅に到着。日付を超えてしまったが扉が開くと帰宅ミッションコンプリートだ。後は0時20分発の地下鉄に乗って帰るだけ。疲れた。疲れすぎた。
何て言ってたが、地下鉄の乗り場も凄い人だった。もう帰宅ミッション終わってますけど、そうじゃないのか。新幹線が立て続けに到着しているし、次が横浜方面最終だし、こんな感じになるのも頷ける。結局、通勤ラッシュ並みの地下鉄に押し込まれ、横浜駅に到着したのは2分遅れの0時33分。
さ、今後こそ本当に帰るよ。明日の仕事はしんどいってレベルじゃないな。ここまで帰宅するのが辛い遠征は無かった。と、思いながらヤツから送られてきたメッセージを見ると、とんでもない事が書かれていた。
後で気付いたけど新大阪駅15時35分発の新快速に乗れば、普通列車乗り継ぎで横浜駅23時49分に帰って来れた。これ言うの忘れてたわ。お疲れ。
そ、そうなの…
冷静になった人が勝てる。状況判断能力が大事。今、この意味を理解した気がする。