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50.あれから1年経ちました

今年も終わりか…

12月31日18時、カウントダウンライブを見るために新横浜リングスへ向けて出発。年末年始は家で過ごすものだと思ってた俺。今年はライブハウスで年末を過ごすとは思いもよらなかった。


19時30分、ライブハウス新横浜リングスに到着。本日のイベント情報が書かれているボードには「カウントダウン オールナイトライブ 出演者多数!!」と書かれている。そう、沢山の出演者がいるらしいが、飛び入りがあったり、予定にないこともあるらしい。それにしてもオールナイトとは、年を越すという事か。さすがに、その前に帰りたい気分だ。


あれ…

ライブハウスの中に入ると、意外にも人が少ない。早めに来ている人に声をかけると、23時過ぎから賑わうらしいが、彼女の出演時間は21時30分頃からと事前に決まっている。早めに来た人達と一緒にオープニングから数組見ていると、徐々にお客さんが集まり始める。そして彼女のファン達も今年最後のライブを楽しむために集まってきたようだ。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。この後1組あって、その後の出演みたいです」


「やっぱり押してますか…」


「そうなんですか?」


「去年は16組出演となっていたけど、飛び入りで4組追加になって、終わったら朝7時でしたよ」


「なるほど」


今の時間は21時15分、彼女の出番は2組後、当初の予定よりも20分ほど遅れている。これがこのライブの通常運転なのだろうか。いつも見ているライブとは違い、ゆるくて適当な印象。ま、年に1回のお祭りだし、ゆるい感じなのだろう。何て話をしていると、遅れて日奈子ちゃんが合流。


「お疲れ様です」


「日奈子ちゃんお疲れ様。出番もうすぐだよ」


「渋谷でライブ見てから来たんですけど、間に合って良かったです」


「そ、そうなんだ。ここ2件目?」


「そうです」


ライブをハシゴしてきた日奈子ちゃん、良く言えば凄い行動力、悪く言えば無謀。最初の頃は驚いたこの行動も、今では日奈子ちゃんの個性。耐性が出来たというか慣れて来た。そうして仲間達と談笑していると、時間は21時45分、もうすぐ彼女の出番。皆でステージの前に陣取り、今年最後のライブを楽しむ準備は出来た。


「こんばんは。神崎ありさです。今年も、もうすぐ終わりですが、盛り上がって行きましょう」


1曲目からアップテンポの曲で盛り上がる。カウントダウンライブというお祭りだからだろう、盛り上がる曲中心のセットリスト。そんな盛り上がりに誘われたのか、会場の3分の1ほどだったお客さんも気付けば、ほぼいっぱい。最後の曲は『スカイハイウェイ』、今年最後の曲で今年最後の汗をかいた。


「ありがとうございました。良いお年を!!」


会場割れんばかりの拍手が鳴り響く。楽しい時間はあっという間、と言うか、今年最後のライブが4曲で約20分とは短過ぎる。お祭りだから仕方ないのはわかるけど、やっぱり短い。名残惜しいが良いお年をだ。


ライブの後は物販、と言いたいところだが、今日は物販スペースが設置されていない。アーティストから何か買いたい場合や、話をする場合は、見つけたら話しかける方式らしい。チケットと手の甲のスタンプで外出可能になっているから、ライブハウスの外で歓談している人達もいる。言わば、何でもありだ。


次の出演者のライブを見ていると、彼女が会場の出口付近でライブハウスのスタッフや出演者と話をしている。この後、帰るタイミングが話かけるチャンス、ファン仲間達と彼女の元へ駆けつけてスタンバイだ。


「お疲れ様です」


「あ、皆さんお揃いで。今年も1年ありがとうございました」


「帰られるんですか?」


「はい、お正月は家族とゆっくり過ごします」

「年明けは10日のフリーライブから始動しますので、皆さんもゆっくりお過ごしください」


「良いお年を。あ、1月って大阪でライブあるんですか?」


「まだスケジュール決まってないんです。決まったらホームページでお知らせしますね」

「それじゃ、みなさん良いお年を」


「良いお年を」


ライブハウスを後にする彼女、それを見送るファン一同。今年もあと約1時間30分。俺も帰って家でゆっくり過ごすか。と、思ったが、周りの仲間や状況に流されてしまい、結局オールナイトコースとなってしまった。


0時になる5分前からカウントダウンのためライブは中断。ライブハウス内は出演者とお客さんが集まり、満員状態。


「… 5、4、3、2、1」


「ハッピーニューイヤー!!」


集まった全員でカウントダウンをして、新年を迎える。その後すぐにライブは再開し、ライブハウスは爆上げお祭り状態。年明け早々熱気ムンムンで盛り上がる。ライブハウスで年越しをするとは思わなかった。


盛り上がる会場とは裏腹に、徐々に体力的な問題が浮き彫りになってくる俺。カウントダウンの後から、時間が経つにつれて眠気のメーターが上昇。深夜2時過ぎ、飛び入り参加するミュージシャンが場を盛り上げても、体力と眠気は限界付近。気分転換に外気を吸いにライブハウスの外へ出る。すると、同じことを考えていた彼女のファンと遭遇した。


「眠かったので外に出てきましたよ」


「同じくです。コンビニでコーヒーでも買いに行きますか」


「良いですね」


という事で、ビルの隣にあるコンビニへ向かうと、同じことを考えていた人達で賑わっていた。眠気覚ましに缶コーヒーを購入し、コンビニ外の駐車場で飲み干す。寒さとコーヒーで眠気が覚めた頃、ライブハウスに戻ると、会場はまだまだ元気。暖かい会場に眠気が抑えられず、周回遅れになった俺は、完全にライブについて行けなくなっていた。


そんなオールナイトライブも残すところ最後の1組。転換の最中に時間を確認すると、6時5分。もう始発電車が動いている時間だ。最後に出演するのは横浜では人気のある2人組、彼女がお世話になっていると言っていたのを覚えている。彼らのライブを何度か見てきた事もあり、ここは最後の力を振り絞って眠気を払い、ライブに集中することにした。


満員のライブハウス、盛り上がりも激しい。しかし、眠い。周りは盛り上がってるのに力が出ない。手拍子も遅れ気味になったりと、ライブを楽しめる状況ではなくなっていた。それでも盛り上がるライブ、起きてるのが精いっぱいの俺。そんな状況が続くこと約30分、本日の、ではなく、昨日から続くライブはお開きとなった。


終演後は物販タイムならぬ、出演者とのフリートークタイム。だが、眠くて1秒でも早く家に帰りたい俺は、最後まで残っていた同志達に挨拶してライブハウスを後にした。それにしても日奈子ちゃんは残ってたミュージシャンと話をしたり、まだまだ元気だった。


次は彼女の出演が終わったら絶対に帰るぞ…

この後のことはほとんど覚えていない。ライブハウスを出ると、辺りは明るくなっていた。新横浜から電車に乗って帰ってきたのは覚えているが、気付くと家で寝てた。その後、体の疲れとだるさで戦闘不能だったHPが回復したのは、1月3日の朝。こんなに体力無かったっけ。


それでも、しばらくは正月休みになるためライブは無い。ゆっくり休めるが、1月4日からは仕事が始まる。俺にとって正月休みはあったのだろうか、何て考えてしまうくらい色んな事があった年末年始だった。本当にこんなことは初めてだ。




あれから時は過ぎて1月10日、正月気分も完全に抜けた頃。みなとみらいにあるショッピングモールに向かっていた。そう、1年前、初めて彼女に出会った思い出の彼の地へ向かっているのだ。あの日から1年が経ったとは思えないくらい、一瞬のうちに駆け抜けた感覚だ。


1年前はライブハウスにすら行った事が無かった俺、こうやって1年を振り返ってみると随分変わったのかな何て考えてしまう。そんな事を考えていると、ショッピングモールに到着だ。しかし、時間はまだ12時5分、ライブは13時から。到着が早すぎたので、昼食を食べながら時間を潰してこよう。


今日のライブは13時からと15時からの2ステージ。出演者は彼女ともう1組は見たことあるような無いような人達だ。あれ、確か去年のもう1組はお笑いの2人組だった記憶が薄っすらある。そもそもポスターのイメージも音楽ライブという感じ。あぁ、まだカウントダウンライブの疲れが残ってるのか、何だか良くわからなくなってきた。


12時45分、食事を済ませてステージ前に戻ってくると、すっかりお馴染みになった彼女のファン達。1年前にもいたと思うが、その当時は全く気にもとまらず、俺の記憶域を通過していた。それが今では居心地の良い空間を作る仲間達だ。


「明けましておめでとうございます」


「あ、おめでとうございます。あの後、大丈夫でした?」


「何とか無事に帰れましたよ。その後は溶けて無くなるかのように眠りましたけど」


そんな話をしていると、ステージ上では準備が始まったようだ。しかし、ステージ上に彼女の姿は無く、どこかで見た記憶が薄っすらとある男女4人組がスタンバイ。そう、彼女の出演は1ステージ目は2番手だからだ。


1年前のこのイベントから1年経ったのか…

ふと、つぶやくと隣にいたファン仲間がすぐさま反応する。


「そうなんですか。しいさん、何か数年前からいるベテランファンみたいですよね」


「それ、色んな人に言われますけど。大阪遠征行ってるからじゃないですか。この返しもお決まりですけど」

「そう言えば、去年はお笑いの人出てませんでした?」


「あ、去年は急遽出演者が変わったらしいです。なぜお笑いだったのかはわかりませんが」


何て会話していると、1組目の演奏が始まる。やっぱり聴いた事あるかも。光速で過ぎ去って行った1年、ライブに行った回数が約100回、対バンライブで会ったミュージシャンは何組になるんだろう。印象に残る、残らないはあるが、全部覚えられないというのが現実。それでも、曲を聴くと思い出す。


そして1組目の演奏が終わると、彼女の演奏が始まる。10日ぶりに会うのだが、かなり久しぶりに会う感覚。ステージ上で準備を始める彼女を見ていると、1年前の事を思い出す。あの時は、初めて彼女を見た時は、ミュージシャンと言うより普通の人と言ったイメージだった。今は、ミュージシャンと言う面だけでなく、彼女の事をよく知ってきたのか、ひと言では言い表せないイメージになっている。


「こんにちは、神崎ありさです。是非ライブ楽しんで頂ければと思います」


1曲目は大阪ワンマンで発表した新曲。1年前は全てが新曲だったが、今では彼女が演奏するほとんどの曲を知っている。ただ単に演奏を聴いていたあの時とは違って、今はライブを楽しめる。本当、1年前の俺に、1年後はこうなってるって教えてやりたい。


「ありがとうございました。この後は物販に居ますので、お気軽にお立ち寄りください」


良いライブだった。今日だけは感傷に浸るのも良いだろう。そう、物販には長い列が出来てるから、すぐに行けない。同じことを考えているのは俺だけじゃない、そんな同志達と談笑しながら物販の状況を確認。これも1年前には考えられなかった光景だ。


ここからは1時間休憩になり、2ステージ目は1番手。彼女の物販列はまだ並んでいるから、行けたら行こう。ま、ダメでも2ステージ目終わりがあるから大丈夫。そんな感じで話をしながら様子を伺ってると、時間制限になり、並んでいる人で終わりと言うアナウンスが流れる。うーむ、仕方ない。


一旦同志達と別れて、それぞれの時間を過ごす。俺は時間を潰すためショッピングモールの外へ。そして時間は14時50分、会場付近へ戻って来た時に看板が目に入る。そう、この広場の入り口にあるこの看板を見たから、これが気になったから彼女に出会えて、今があるんだなと。


ステージ前で同志達と一緒にスタンバイしていると、彼女が準備を始める。これで彼女に会ってから本当に1年が過ぎたことになる。ここからは2年目、どんな年になるんだろうか、どんな景色を見られるのだろうか。希望に胸が膨らむ。そして15時2分、2ステージ目が始まる。


「みなとショッピングモールにお集まりの皆さん、こんにちは。神崎ありさです」

「お買い物中の方も、ここからは、音楽で楽しんで頂ければと思います」


彼女のオープニングMCと1曲目の演奏で1年前の事を再び思い出す。ステージ前ではなく、後方の柱付近でひっそり見ていたあの時。イベントを楽しんでいたというよりも、雰囲気について行ってただけ。やっと彼女の演奏を楽しめたのは、最後の曲だったかな。


そんな俺の考えている事が通じたのか、いやそんな事は無いと思うが、最後の曲は『彼方の光』。そう、1年前も最後に演奏したのはこの曲だった。


この1年、彼女の事を追いかけて、ライブハウスやフリーライブに行ったり、大阪遠征もした。周囲の人から見れば、何をやってるか理解できないと言われたこともある。それでも俺は、彼女を追いかけ続けて後悔はない、人生変えられるかもしれないと思ったし、実際に1年前とは確実に変わっている。


『彼方の光』の歌詞にもあるように、遠くて届かないと思うものでも、まっすぐ進んで行けば、いつかはたどり着く。何か、今この歌詞の意味がはっきりと分かる気がする。偶然出会った彼女と、フリーライブだったが、偶然ではなく必然だったんだな。って、今になってやっと気づくよ。


「ありがとうございました。少しでも気になった方は、物販で待ってますので、お気軽にお立ち寄りください」


会場には拍手の音が響き渡る。1年前の事を考えながらライブに浸っていた俺は、急に現実に戻される。そう、物販行かなきゃ。一人の世界に入り込んでいた俺は気付いてなかったが、正月明け最初の三連休と言う事もあり、ショッピングモール内は人が多い。物販に列ができるのは当たり前。話できずに終わってしまうなんてことは無いよね。


2組目の演奏を聴きながら、物販の様子を伺う。1組目と言う事もあるのか、物販が途中で打ち切りになる事は無かった。列が無くなったタイミングで、すかさず物販へと向かう。


「こんにちは。明けましておめでとうございます」


「あぁ、しいさん。今年初めてですね、おめでとうございます」


「このライブで1年経ったんですよ。今でも1年前の事はっきり覚えてます」


「そうですよね。ちゃんと覚えてますよ。新横浜リングスのチケット買ってもらったことも」

「そうそう、さっき関西のライブ予定も更新しましたよ。今年もよろしくお願いしますね」


「わかりました。チェックしておきます」


物販を離れるとニヤニヤが止まらない。彼女も1年前の事を覚えていた事が何よりも嬉しい。今日まで応援してきて良かった。何がだよって思ってる人もいるだろうけど、ファンってそう言うものなんだよ。でも、1年経って去年と同じことは出来ないと思っている。2年目の進化とでも言うのだろうか。もちろん、遠征も同じで、遠征バージョン2.0のスタートだ。


早速、彼女のホームページのスケジュールに目を通すと、1月と2月の関西ライブの情報が更新されていた。だが、1月の遠征は無理だ。威勢のいいことを考えていたが、出鼻をくじかれた感じだ。


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関西ライブ

1月22日(木)、ライブハウス南堀江Clover 18:30Open 19:00Start

1月23日(金)、南森町Live Bar Blue Pond 18:00Open 18:30Start


2月13日(土)、京橋 グリーンガーデン フリーライブ 12:00Start 2ステージ

2月14日(日)、ライブハウス心斎橋ミーツホール 18:30Open 19:00Start

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1月のライブは平日のみ、これは休暇を取る必要がある。この先、東名阪ライブに毎月企画ライブもある事を知っている。まだ詳細は発表されていないが。1月は無理せずに2月だけ行く事を考えよう。無理していくと、彼女に心配かけてしまう。そっちの方が辛い。


1月も2月も青春18きっぷは使えない。新幹線を使うしかないが、お金が掛かる。これも問題。あ、そう言えば青春18きっぷ残り1回分使ってない。それに1月10日、今日が期限なのを今思い出した。十分、元は取ったから捨てても構わないが、一応ヤツにメッセージだけは送っておこう。


フリーライブもお開きの時間となり、会場を後にする彼女に挨拶。そして彼女のファン達とも挨拶を交わして家路につく。すると、ヤツからメッセージが返ってきた。何?通勤でも近場でも使えばよかったのか、それか売ってくれだと。なるほど。だが、もう遅い。


さてと、2月の遠征計画でも立てますか。

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