5.遠征の準備をします
3月17日、大阪ワンマンライブ「FIRST STEP」
場所は心斎橋ミーツホール、18時オープンで18時30分スタート、ライブハウスの地図を見ると駅から徒歩約5分と書かれている。
大阪ワンマンライブへ行くことに決めた俺は、彼女のホームページに載っている情報を改めて確認。まず不安なのはライブハウスの場所だ。恐らく大阪在住の人からすれば、この程度の場所は難しくないということだろう、ライブハウスのホームページにも簡易的な地図しか載っていなかった。
初めて新横浜リングスへ行った時に迷った事を思い出し、地図アプリを使ってライブハウスの場所を確認。心斎橋駅からライブハウスまでは、大きな通りを進んで途中で右折、さらに真っすぐ進んで、公園の裏側辺りにあることがわかる。地図上では道は単純で迷わなそう、少し早く到着して現地で確認すれば大丈夫だろうと考えた。
次に不安なのは、俺は知らない所に1人で行った事がほとんど無く、旅行とか行く時はいつも誰かと一緒だということ。知らない土地に1人で行くと考えただけで、得も言われぬ不安感が襲ってくる。俺はこの不安感を解消するために考えてみることにした。
大阪で行ったの何年前だっけ…
12、3年くらい前に家族で一度行っただけの曖昧な記憶をよみがえらせてみる。確か、早朝4時くらいに起きて飛行機に乗り、空港からタクシーで親戚の家まで行った。正直、眠くてほとんど寝てたけど、何か法事じゃなくて葬式だった気がしてきた。
終わった後は親戚と一緒に車で通天閣へ行って登ったことを覚えてる。その後、近くの喫茶店でクリームソーダ?か何か食べた。帰りも親戚に車で空港まで送ってもらって、飛行機で帰って来た。
昔は、というか今でもだが高い所が苦手で、初めて乗る飛行機と通天閣に登った時のゾワゾワ感がトラウマとなっているのか、その辺り以外はあまり覚えていない。
長々と余計な情報が入ってしまった。役に立たない過去の記憶は置いといて、改めて大阪行くのに必要なことを考えてみることにした。
まずは日程、ワンマンライブは日曜日だよな…
月曜日は仕事休むこと出来ないし、ライブ見に行くだけで観光もしないから日曜日の日帰りで良いだろう。日曜日の日帰りなら休暇取るわけじゃないし、会社の人にも「大阪行ってきます」とか言う必要は無い。何か聞かれたら週末どっかに出かけてきたレベルの話に持って行けば何とかなるか。
交通手段をどうするか…
日帰りで大阪となると飛行機で行った事を思い出すが、俺は高い所が得意ではない。大阪までの交通手段は飛行機ではなく新幹線で決まり。新幹線の切符なら、JR横浜駅に行けば直前でも買えるだろうと考えた。
持ち物で必要なものは何だ…
新幹線の切符は買ってくる、ライブのチケットは予約だから必要ない、この他に必要なものを考えてみた。普段ライブへ行く時に持って行くもの以外はスマートフォンのバッテリーくらいで大丈夫かと、持ち物に関しては深くは考えなかった。
お金は幾らかかるのか…
新幹線の切符は買っておくとして、他には新大阪から心斎橋までの交通費が1000円くらい、ライブのチケット代3000円とドリンク代、物販で何か買うかもしれない。ライブ関連と交通費以外には、ご飯代とかも必要。多めに見積もって5万円あれば足りるだろう。でも、大阪でライブ見るのに5万円もかかるというのは衝撃だ。
普通に考えて安くはない、お金のことを考えだしたら急に気持ちがフェードアウトしてしまう。いや、これは人生を変えるための先行投資と考えても良いんじゃないかと自分を鼓舞する。今更、お金が掛かるから行くの辞めますって言ったら、これからも変われないし、本当に一生後悔するかもしれない。それよりも無駄なゲーム課金や使いもしない月額有料サービスをやめたり、買い物や食事とか、日々の生活、お金の使い方を見直す時なのかと。
大阪行く事を前提に整理していくと、俺は何が不安なのか徐々に分かってきた。初めて1人で行く大阪でも、お金が掛かる事でも、日程でもなく、今までの生活や考え方を変えられるのかという事だ。そう、今まで適当に考えて使ってきたお金や時間が今まで通りに使えなくなるという事だ。何か良くわからないけど、俺が勝手に作った道を日々進んでいくのが楽過ぎて、それ以外の知らない道を進むのが嫌だから不安なのだ。
色んな事を考えてちょっと疲れた…
俺は、日帰りという事もあり新幹線の切符とお金があればなんとかなるだろうと、初めて行く大阪について深く考えなかった。3月10日の日曜日には大阪ワンマンライブ前、最後の彼女のライブがある。そこで大阪行きとライブの予約を直接伝えようと思った。
そして、いよいよ大阪ワンマンライブが翌週に迫った3月10日の日曜日、横浜鶴見駅前商店街のフリーライブを見に来た俺は、ライブ終了後の物販席に座ってる彼女に大阪ワンマンライブの話をした。
「思い切って大阪行く事に決めました」
「行けるように色々と考えて来たので大丈夫です」
「本当ですか?ありがとうございます!!」
「絶対に来て良かったと言えるライブにするので期待してくださいね」
「でも、ライブはこれだけじゃないので、無理だけはしないで下さいね」
彼女は最初驚いた表情を見せたが、すぐに満面の笑みで応えてくれた。そのやり取りを聞いていたのだろうか、近くにいたファンの子もこちらにやってくる。
「本当に行くんですか?」
「こっちから行く人がいて頼もしいです」
「あ、はい」
「色々考えて日帰りで行こうと思って」
いきなり2人女性に囲まれて勢いに押されそうな俺だったが、ここは落ち着いて彼女に大阪ワンマンライブの予約をお願いする。
「大阪ワンマンライブの予約入れておいてください」
「わかりました。予約入れておきますね」
「実は、詳しくは言えないんですが、当日ちょっとした発表があるのでそっちも期待してて下さいね」
え?何だろう…
ファンの子も気になっているようだが、発表とは何なのかは当日のお楽しみだ。それでも気になって、俺とファンの子が自然と顔を見合わせていたら、彼女からとんでもない言葉が飛んできた。
「しいさんと日奈子ちゃん、2人で一緒に来るんですか?」
「いや、違います」
彼女のライブを見たことをきっかけに人生変わるかもしれないと思ったあの日から約2か月、ついに大阪ワンマンライブを予約した。大阪行くくらい大したことではないが、俺にとっては何かとんでもない事に挑戦している気がして、今まで何となく変わったら良いなと思ってきたのとは全く違い、本当に人生が変わるかもしれない実感が湧いてきた。
あとは実行するだけだ!!
と、ここまで4話にわたる長い長いフリになってしまったが、このやりとりがあった翌日の3月11日、俺はJR横浜駅のみどりの窓口へ行って、新幹線の切符を買うことになったのだ。