47.冬の遠征の洗礼を浴びる
こんなに寒いか…
12月27日朝3時45分。前回の大阪ワンマンライブが今年最後の遠征だと思ってたが、急遽決まった年末遠征。前回とは違って寒くて凍えそう、これだけで行くのを躊躇してしまいそうだ。
前日が仕事納めで今日から年末年始休暇、昨日は帰りの飲みに行こう攻撃を何とか打ち返して帰宅に成功。飲みに行ってたら、朝3時台には絶対に起きれない。あ、ヤツからも飲みの誘いメッセージが届いてる。こっちは、後で返信しておこう。
寒くて準備するのも大変。それでも震えながら何とか準備を終えて、4時20分に家を出発。外に出ても当然寒く、歩みがゆっくりになってしまう。だが、この凍えるような寒さは単なる序章、この先、冬の悪魔との対決が待っているとは、この時は知る由も無かった。
時間を見ると4時38分、半分ほど歩いたところでこの時間は危険、ここからは急ぎ足で向かう。横浜駅に着いたのは4時51分、すぐに有人改札を青春18きっぷで抜け、4時54分発の東海道線下り熱海行きに乗車。何とか間に合った。何回も乗ったこの電車、乗客は相変わらずな感じだが、電車が駅に停車する度に吹き込む寒風で眠れない。
熱海や沼津で乗り換える時、そう、夜が明けて明るくなる、このタイミングが超激寒い。青春18きっぷで移動していると思われる同志達も大変そうだ。と思ったら、沼津駅からは陽も差し、車内は暖房で暑いくらい。温度差きつい。いつもの電車を乗り継いで、豊橋駅9時50分発の特別快速大垣行に乗り換えると、不穏なアナウンスが流れる。
「特別快速の大垣行です」
「この先関ヶ原付近雪の影響で在来線及び新幹線に遅れが出来ているとの情報が入っております。ご利用の方はご注意ください」
え、そうなの?
豊橋駅付近は寒いが晴れている。情報を調べてみると、雪の影響で新幹線が名古屋駅と米原駅の間で20分程度、在来線は大垣駅と米原駅で30分程度の遅れが出ている。早く教えてくれれば良いのにと思うが、近距離移動を前提としている在来線、近づかないと教えてくれないのは当然。よく見ると、青春18きっぷで移動中の同志達もスマートフォンを操作して色々調べているようだ。
こんな時、どうするのが正解なのか。今日の1ステージ目は間に合わない前提で動いてるが、まだ2ステージ目の時間は発表されていない。今までの経験上、15時からだと思われるが果たしてどうなるか。
遅れが増すとライブに間に合わないが、急遽決まった遠征でなるべくお金を使いたくない。俺はヤツに飲み会の返事を書くついでに、今の状況を送信。良い情報があれば使うつもりだが、ヤツも昨日は仕事納めで夜は飲みに行ったとの事で、恐らくまだ寝てる。返信は期待薄だ。
電車は順調に大垣駅へと向かって行くが、次第に上空の雲が厚くなり、岡崎駅を過ぎた辺りで日差しは完全に無くなった。時折雨か雪かわからないものが降っている区間もあり、不安が過ぎる。
10時43分、名古屋駅には時間通り到着。外は雨というか、みぞれのようなものが降っている。在来線を諦めて新幹線を使うのかわからないが、ここで降りる同志達。俺はというと、遅れ情報も変わってなかったのでスルーを決断、このまま大垣駅まで行く事にした。すると名古屋駅を出発後に、再び不穏なアナウンスが流れる。
「ご乗車ありがとうございます。特別快速の大垣行です」
「東海道線この先、大垣と米原の間で雪の影響により遅れが出ています。ご利用の方はご注意ください」
「また、この電車は大垣駅までは参ります」
このまま大垣駅まで行くというアナウンスを聞いて一安心。しかし、その先米原方面は安心できる状況ではない。そんな不安を抱えた俺のことなど知る由も無く、電車は順調に走行。岐阜駅に到着する少し前から、上空からは雨ではなく明らかに雪とわかるものが降ってきた。これは判断誤ったか。
「ご乗車ありがとうございました。まもなく大垣、大垣です」
「この先、米原方面の電車につきましては駅係員にご確認ください」
雪が深々と降る大垣駅には時間通り、11時18分に到着。問題はここからだ。大垣駅構内の電光掲示板は表示が消え、次の米原行きの情報が無い。駅員に確認しようとすると、次の米原行き電車は12時40分頃大垣駅を発車する予定だと言っているのが聞こえてくる。ま、俺じゃなくても同じ質問する人はいるからね。
次の米原行きが定刻11時42発の電車とは限らないが、今の遅れは約1時間らしい。とりあえず12時40分発で考えると、13時15分頃に米原駅到着、次は13時20分の姫路行き新快速、大阪駅に14時43分到着。これなら2ステージ目に間に合いそうだ。楽観的だが、1時間遅れでも何とかなると考えた。
大垣駅の改札内に居てもどうしようもないので、とりあえず改札を出る。ついでに駅員から情報を聞くと、次の米原行きは、今から大垣駅に向かうとの事。しばらく大垣駅には米原方面の電車は来ない。それなら、お昼ご飯食べに行くチャンスだ。
という事で、大垣遠征した時に行ったショッピングモールへ向かってみる。駅を出てペデストリアンデッキを歩くと、強烈な寒さと吹き込む雪で凍えそう。夏の頃は綺麗な緑が映えた山がここから見えたのだが今は雪で真っ白。季節の移り変わりを実感する。
寒さに震えながらたどり着いたショッピングモール、店内の温かさに癒されながら奥にあるフードコートへ。前回はラーメンを食べたので違うものを食べようと思ったが、今回も同じくラーメン。特製ラーメンと五目ごはんを注文。初心者には使いにくく苦戦したスプーンかフォークかわからない器具は使わず、今回は素直に割り箸を使用。
ラーメンを食べていると、この店が横浜周辺にもあったらと思う。が、調べてみると、店舗は東海地方と関西地方にしかなく、横浜はおろか関東にすら存在しない。ま、わかってた事だが。
ラーメンを食べ終え、スマートフォンで色々調べていると彼女がSNSを更新していた。2ステージ目は2番手の15時30分からとの情報だ。ちなみに、ヤツはまだ寝てるのか返信無し。うーむ。
そんなこんなで時間は過ぎ、12時15分。再び極寒のペデストリアンデッキを通って大垣駅に戻ると、次の米原方面の案内をしていた。
「米原行きの電車ですが、現在関ヶ原駅に到着したとの情報です。大垣駅には14時45分頃の到着、出発は13時頃の見込みとなっています」
厳しい…
掲示板を見ると名古屋方面の電車にも15分程度の遅れが出ている。大垣駅は、電車の情報を駅員に確認する人、途方に暮れる人、誰かに電話する人、諦めたのか払い戻しする人など、様々な人で溢れている。
遅れが解消されるのではなく、逆に増していく状況を見て、いよいよ危ないんじゃないかと思い始めた。もしかすると、ライブ見に行くどころではなく、横浜に引き返す可能性もあるのではないかと考えると、より一層不安感が増してくる。
「まもなく米原行きが1番線に参ります」
助かったか…
12時45分、米原行きの電車が来るというアナウンスが流れ、ホームへ向かう。予想はしていたが、すでにホームを埋め尽くすくらいの人が米原行きを待っている。前面が雪で覆われた4両編成の電車がホームに滑り込むと、これまた満員の電車から人が降り、ホームは一時パニック状態に。電車に乗る人と降りる人、向かう方向も思いも交錯する。
俺も車内に入るが、当然座る席はない。もっと言うなら、立っている場所を確保するのもやっとの状況。身動き取れないほど人が乗った米原行き、ホームには乗り切れない人が居るほどだ。強烈な圧迫に耐えること約15分、13時2分に出発のアナウンスが流れる。
最近通勤ラッシュでも見ないくらいの混雑となった米原行きは、扉が閉まるまで約3分かかり、13時5分に大垣駅を出発。雪が降り続く真っ白な世界に向かって行く電車、意外にも垂井駅までは通常の速度で運転だった。が、ここから白い悪魔は牙をむいてきた。
関ヶ原駅に近づくにつれて雪の勢いが激しくなり、窓の景色は白一色に。どこ走っているかわからない。すると次第に電車も減速し始め、ゆっくり走行していると思う。「と思う」と表現したのは、外の景色からスピードが想像つかないから、体感の話である。
その後は、電車は山深い所を通る。さらに雪が激しく降る中、徐行しながら走行する電車。身動き取れず厳しい体制で乗ること約40分、近江長岡駅に到着。米原駅の2つ手前の駅だ。
近江長岡駅を出発すると、雪の降る量が少なくなってきたのか、窓から何となく景色がわかるようになってきた。それでも道のりは長く、時間がかかり、醒ケ井駅に到着したのは13時50分。米原駅の1つ手前の駅だ。
「まもなく米原、米原です。この先、東海道線ご利用の方は駅係員にご確認ください」
死ぬかと思った…
激混み電車でやっと米原駅まで来たと思ったが、到着前の厄介なアナウンスに落胆。14時1分、電車の扉が開くと、勢いよく飛び出す乗客達、しかし隣のホームにいるはずの大阪方面の電車はいない。これは困った。
考えてみよう…
今は米原駅、すぐに新快速電車が出発しても大阪駅には1時間20分ほどかかるから、天王寺に15時30分到着は不可能。電車がいつ来るかわからないから、ライブが終わっても辿り着くかわからない。これは終わったか。
いや、俺には新幹線ワープと言う必殺技がある。迷ってる暇はない。俺はすぐにスマートフォンを取り出し、DX-ICで米原駅から新大阪駅までのチケットを購入。よし、準備完了。約4200円はかなり痛い出費だが、ライブに間に合わないよりは良い。
混雑する米原駅、ホームの人をかき分け何とか抜けて在来線の改札口へ行くと、同じことを考えている人達で改札口は大混雑。青春18きっぷの利用者を自動改札から通すため、駅員が対応しているのを見て、俺も改札を抜ける。
確認すると現在の時間は、14時15分。次の新大阪方面は14時16分発。いつもなら間に合わないが、遅れ7分の表示に助けられた。新幹線の自動改札にスマートフォンをタッチして通過。ホームに向かうと、すぐにこだま号到着のアナウンスが流れる。なんかもう疲れた。
吹きさらしで極寒のホームを歩いて自由席のある7号車、いや、人が多いので4号車まで歩く。到着した新幹線に乗り込むと、意外にも席は3割ほどしか埋まっていない。適当な窓側の座席に腰かけ、いつものように充電しながら出発を待つ。
時間は14時24分、こだま号は雪の降る米原駅を7分遅れで出発。さて、ここからどんな景色が待っているのだろうか。ところが、米原駅を出発して10分ほど経った頃だろうか、あれだけ苦しめられた雪はどこへやら、雪はおろか雨すら降ってない。あの雪、幻じゃないよな。
そして新大阪駅には6分遅れの14時57分到着。ホームに降り立つと寒くて日差しはないが雪や雨の気配はない。そりゃそうだ、あの雪ならライブは中止だろう、いくら屋根付きの野外で行われているとしても。
新幹線の新大阪駅久しぶりだ…
何て言ってる場合ではない、ライブが始まるのは34分後、天王寺駅に向かわなければならない。急いで階段を降り、自動改札を抜け、地下鉄御堂筋線の新大阪駅へ。
急いだ甲斐があって15時4分のなかもず行きに乗ることが出来た。息を整えながら到着時間を調べると、天王寺駅には15時26分到着。もうギリギリだ。ライブの開始が少し遅れる事もあるが、フリーライブでは期待できない。到着したら急いで会場向かうだけだ。
15時26分、電車が天王寺駅に到着すると同時に電車を降り、急いで改札口へ。何とか地下鉄の改札口を抜けても、今度は大阪の地下ダンジョンという難敵が待ち構える。混雑しているうえに工事が続いている天王寺の地下街、案内は頼れるが記憶は頼れない。それでも何度か訪れているからだろう、迷うことなくショッピングビル阿倍野Crownの目の前までやってきた。
何とか間に合った…
ライブ会場である阿倍野 Loop Square に到着したのは、15時30分。彼女がステージ上で準備を終えた時だった。慌てた様子で会場に現れた俺に、彼女の大阪のファンが驚いた表情で話しかける。
「どうしたんですか?」
「はぁ、電車が雪で遅れて、今到着しました」
「大変でしたね。2ステージ目間に合ってよかったですね」
「はぁ、はい」
何とか2ステージ目の開始時間には間に合った。俺は息を整えながら、彼女のライブが始まるのをステージ近くで待つ。たった30分のライブのために、無茶な事する必要あるのか何て思う人もいるが、このために頑張るのが、今は一番楽しいんだ。
さぁ、ライブ楽しもう。