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4.遠征を決める時

神崎ありさ、本名は名前が漢字で「神崎有咲」って書くのか…

大阪府出身で誕生日は6月15日、現在は24歳か…

15歳の時に横浜へ、学生時代にバンドを組んでギターボーカルとして音楽活動始める、その後シンガーソングライターとして活動…

そう言えば、彼女は大阪出身なのに標準語だよな…


俺はライブハウスから帰って早速、彼女のホームページでプロフィールを確認。ホームページのライブスケジュールも確認すると、今度の日曜日に行われるフリーライブの詳細が載っていた。横浜ランドマークタワードックヤードガーデン前広場、12時スタート、出演時間は当日発表となっていた。他にもライブのスケジュールは幾つかあったが、ほとんどが週末に集中していた。


それからというもの、俺はすっかり彼女のライブにハマり、週末の予定は彼女のライブを優先。ショッピングモールや商店街で行われるフリーライブ、東京や横浜のライブハウスへと出かけて行くようになった。週末をほとんど家で過ごしていた今までの生活から一変、週末はほとんど家に居ない生活に変わっていった。


しかし、ライブ行く時に1つ困った問題に当たった。それは、彼女の出演時間や出演順が当日発表だったり、変更が時々あるのだ。仕事や色んな都合で出演時間に間に合うのかわからない。そんな不安をいち早く解消するため、ほとんど使っていない俺のSNSアカウントで彼女のSNSアカウントをフォロー、名前は「しいさん」に変更した。これで出演時間の事は大丈夫だと思っていたら、翌日彼女からフォローバックされていた。


たまにある平日のライブも彼女の出演時間に間に合うなら行くようになっていた。東京のライブハウスは難しかったが、新横浜リングスなら職場から30分程度の距離という事もあり、少し残業しても間に合うからだ。最初の頃は良くわからなかったライブの作法やマナーなども、さすがに何度も行くとすっかり慣れ、気づくとライブハウスの一部のスタッフにも認識されていた。


発売中のCDは3枚全て入手した。ショッピングモールで買った8曲入りのアルバムの他、2曲入りと4曲入り、いつでも聴ける彼女の曲が14曲になった。彼女の演奏する曲全てがわかるようになるにはまだまだだが、CDに入っていない、ライブでしか聴けない曲も数曲わかるようになり、彼女のライブを一層楽しめるようになっていった。


そして何より、彼女だけでなく彼女のファン達にもファンの1人として認知されたようで、ライブで見かけるとすぐに挨拶を交わす関係に。しかし、名前は最初の時に彼女が間違ってCDに書いた「しいさん」が完全に定着、みんなにも認識され、SNSの名前も変更してしまったので、今更、実は違うとか言っても状況を複雑にするだけだと思い、ライブネームはこのまま「しいさん」にすることにした。


初めて彼女と出会って2か月ほどが経った3月初めのこと。ライブ終わりの物販で彼女と話をした後、物販を離れると突然1人の女性に声を掛けられる。その子は古くからの彼女のファンだろう、何度かライブに来ている事は俺も認識していた。身長は155cmくらい、年は俺より5歳くらい若いだろうか、肩までの黒髪で、見た目は高校生っぽい雰囲気だ。


「最近、良く会いますよね」


「あ、はい」


「よく見かけるので声掛けちゃいました」

「実は… 私、大阪ワンマンライブ行く事に決めたんですよ」


急に声をかけられ、緊張気味に答える俺。意外にも気さくに話してくるその子にちょっと押され気味だが、今聞いた言葉を自分の頭で解釈すると…

え?今、大阪行くって言った?


「大阪行くんですか?」


「はい。私も悩んだんですけど、ありささんの大阪初ワンマンだし、思い切って行こうと決めました」

「大阪に住んでる現地のファンの人に連絡したら、一緒に行ってくれる事になったんで大丈夫かなと思って」

「もちろん、チケットも予約しました」


俺は今日までワンマンライブは頭の片隅にあったものの、実際に大阪行きは無いと考えていた。それは遠いという理由だけでなく、大阪は12、3年くらい前に親戚の法事で行ったきり土地勘はない、ライブ翌日は仕事、お金もかかる、1人で遠くへ行ったこともないと、不安要素を上げればきりがなかった。


「頭の片隅には入ってるけど、まだ迷ってて…」


「そうですよね。他の人にも聞いたんですけど、大阪行く人いなくて…」

「私は何をしてもうまくいかなくて、かなり落ち込んでいる時に路上で歌ってるありささんの曲を聴いて、考えが変わったんです」

「もう、昔の自分には戻らないって、前向いて行こうって」

「そんなありささんの大阪ワンマンでしょ、行かないと後悔する気がして…」


「そ、そうなんですね」


その子の話を聞くと、横浜のファンで大阪行く人は居ないようで、最後にかどうかはわからないが俺にも大阪行きを聞いてみたという所だろう。残念ながら、何となく迷ってるとは言ったものの、俺も他のファンと同じ考えだ。


しかし、彼女の曲を聴いてファンになる人は人生変えたいとか同じ思いを持っているのかもしれないとも思った。俺も人生を変えるという思いがあったのに、大阪行きを躊躇しているのはどういう事なのだろうかと考えていたら、話しているのが聞こえていたのか、物販スペースから彼女がやってきて話に入ってくる。


「日奈子ちゃん大阪ワンマン予約してくれたんですよね」

「しいさんもどうですか?絶対に後悔させないですよ」


「うーむ…」

「行かないと後悔するとか聞くと、ちょっと前向きに考えてみようかな…」


このファンの子は日奈子って言うのか…

それは良いとして、突然彼女が割り込んで来たことに動揺して前向きに考えてみると言ってしまう俺。まだ迷っている顔をしているとファンの子がさらに追い打ちをかけてきた。


「ありささんもそう言ってるし、迷ってたら絶対に行った方が良いですよ」


「そ、そうですね…」


2人の女性に攻め込まれて、どう答えて良いかわからない俺。ライブは絶対楽しいだろうし、行かなくて後悔するなら行った方が良いだろうし、不安な点は調べて解消すれば良い。これは本当に人生を変えるチャンスかもしれないと思ったが、押しに弱い俺は少し考えて。


「わかりました」

「それじゃ、行く方向で考えます」


「やった!!良い返事待ってますよ」


2人に押し切られたかのように弱い返事をした俺に、彼女とファンの子が笑顔で答える。大阪行きを決めたことに後悔していないが、あと2週間くらいしか時間が無い。調べたり準備しなければならないこと、その他色々が俺の頭の中でグルグル回っていた。


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