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10.初めての遠征に行ったあと

あぁ、まだ疲れが抜けてない…

遠征の翌朝、俺は疲れが抜けていない重い体を引きずって仕事へ向かった。会社に着くと、そんな姿を見た仕事仲間が声をかけてきた。


「おはようございます」

「月曜から疲れてるようですね」


「おはよう」

「あぁ、昨日ちょっと遠くまで出かけて帰りが遅くなってしまったので…」


昨日大阪へ行ってライブを見てきた事など、余計な事は語らず当たり障りのない返事をした。疲れた体では仕事もはかどらない、今日は定時になったらすぐに退社して、まっすぐ家に帰ろうと思った。それには体を休めるという目的もあるが、昨日の遠征について反省会ではないが、もう一度振り返ってみようという目的もあった。


そして、定時になって会社を出ると、横浜駅の近くで晩ご飯のラーメンを食べて、寄り道せずにそのまま家に帰った。家に帰ると、眠くなる前に昨日の遠征について色々考えてみることにした。


昨日のライブはとにかく楽しかった…

初めての場所、初めてのバンド形式ライブ、初めてのワンマンライブ。彼女の曲も沢山聴けて、新曲やMCでの発表もあって、楽しく盛り上がった印象は強く残っている。本当に行って良かったライブだったし、彼女の応援をこれからも続けようと思った。


無駄な時間が多かったな…

大阪での滞在時間は4時間30分くらい。その中でライブハウスに居た時間は2時間30分くらいで、心斎橋への地下鉄移動が往復で約30分、迷ったこともあるけど他に移動時間や待ち時間が1時間くらいあったという事だ。昨日の遠征で一番長かったのは新幹線の乗車時間、往復で約4時間30分だ。横浜や大阪での移動含めて、とにかく何かに乗ってる時間が一番多かったというのが事実だ。


無駄な時間と言えば、かなり早めに家を出たために新横浜駅で無駄にウロウロすることになった。心斎橋のライブハウス行くのに迷って時間ロス、それでいて晩ご飯食べる時間も、休憩する時間も無し。物販でCDを買って来れなかったのも時間が無かったからだ。CDは今週金曜日の新横浜リングスで買えるだろうが、やはり現地で手に入れたかった。


時間の事ばかり気になったが、1回の遠征でいくら使ったんだろうとお金の事も考えてみた。往復新幹線代が約28000円、ライブのチケットとドリンク代が3500円、地下鉄が横浜と大阪で1000円ちょっと、あとは新幹線の車内販売で買ったペットボトルのお茶など、全部で35,000円くらい使ったようだ。日帰り遠征で35000円となるとさすがに痛い。


遠征してライブを楽しむには時間とお金に余裕が必要だ。ワンマンライブのMCで大阪行く機会を増やすという発表もあったが、何回も行けない。彼女が大阪行ってる間はライブを我慢しなければならない。でも、秋にあるという大阪ワンマンライブだけは行こうかと思う。色んな葛藤が頭の中を渦巻く。


やはり初めての場所で迷ったな…

知らない土地での移動、地下鉄もそうだが駅からライブハウス行くにもスマートフォンの地図が頼りだ。帰りの新幹線では電池残量30%を切っていたため、モバイルバッテリーが無いと危険だと思った。そう言えば、新幹線の座席なんて意識しなかったが、窓側には充電のためのコンセントが付いてたのを覚えている。帰りの新幹線で窓側に座った女性が充電していたからだ。


話を戻すと、心斎橋で迷ったのは今考えると怖かった。それは、ライブハウスに辿り着かずに帰ってくる可能性もあったからだ。もっと大阪について、いや、旅をすることについて基本的な事から知らなきゃいけないのではないかと思った。


どうやって調べるのか、何を準備すれば良いのか…

早速、インターネットで調べてみようと思ったが、昨日の疲れがまだ残っている俺は考えがまとまらない。それに、次にいつ遠征するかわらない状況で、これ以上考えても仕方ないと思い、この辺りで1人反省会をお開きにした。


時間は過ぎて金曜日になり、大阪ワンマンライブ以来の彼女のライブ。仕事終わりにすっかり行き慣れたライブハウス新横浜リングスへ向かった。彼女の出番は4組中3組目、残業で最初から見ることはできなかったが、彼女の出番には間に合う。ライブハウスに到着すると、2組目の演奏中だった。


なぜか今日のライブは新鮮な感じで聴けた。日曜日がバンド形式で盛り上がるライブだったのとは対照的にゆったりアコースティックスタイルだからだろうか、それとも俺にはアコースティックスタイルの方が合っているからだろうか、そんなことを考えながらライブに没入する。


今日のライブは大阪ワンマンライブで披露した新曲2曲を含めた5曲の構成。途中のMCでは大阪ワンマンライブの話、発表したばかりの新曲の話、秋に東京と大阪でワンマンライブをするという話。最後に演奏するのは、大阪ワンマンライブで彼女の代表曲だと知った『スカハイウェイ』。俺にとっては、ここで初めてライブを見た時の1曲目だった事を覚えている。アコースティックバージョンだけでなくバンドバージョンでも盛り上がる曲だ。そして最後の曲が終わると。


「今日はありがとうございました」

「大阪ワンマンライブで発表した新曲が入っているCD、今日持ってきますので物販で待ってますね!!」

「神崎ありさでした」


拍手を送りながら、この1週間CDが買えなかったモヤモヤから今解消された。終演後の物販でCDを手に入れることを楽しみしながら、最後の出演者のステージを見る。


最後に出演するのは横浜で活動しているミュージシャンの中でもかなり有名で人気の高い男性2人組ユニット、彼女の先輩で色々とお世話になっているという話を聞いた事があるが、見るのは初めてだ。気付けばほぼ満員になったライブハウス、彼らを目当で来ているの人がどのくらいいるのだろうかという状況だ。


ライブの盛り上がりは凄く、いや、MCを含めて最初から最後まで全てが凄く、ライブ歴2か月ちょっとの俺にとっては圧倒されてばかりだった。アンコールが終わり、いつものミネラルウォーターで一息ついた俺は、CDを買い行くために彼女の物販に向かった。すると。


「あ、大阪で物販来なかったんですよね?」

「帰っちゃったの見てましたよ」


「あ、はい」

「帰りの新幹線の時間がギリギリで、物販行くと間に合わなそうだったので」

「でも、大阪で買えなかったCD、今日買っていきます!!」


すっかり彼女に認知されたてしまった俺は、こちらから声をかける前にツッコミを受けてしまう。慣れてくるとそれも彼女のやさしさだという事がわかってくる。


「CDですね。ありがとうございます」

「アンコール含めて20時30分に終わる予定だったんですが、盛り上がり過ぎて時間過ぎちゃたみたいで、ごめんなさいね」

「新幹線大丈夫でした?」


彼女に責任は一切ない、計画の甘さが原因だと自覚している。それに大阪だけでなく全般的に良く知らず、調べるのも全く足りなかったというのも原因だ。いつもやさしく接してくれる彼女に心配かけてしまい心が痛い。


「何とか間に合いました」


「ワンマンライブどうでしたか」

「楽しんでもらえました?」


「今までにないくらい楽しかったですよ」

「バンドバージョンも盛り上がって良いな… と」


「楽しんでもらえてよかったです」

「次は、5月に大阪でライブするので興味あれば…」

「でも、無理しなくて大丈夫ですよ」


「そうなんですね」


俺はCD代の1000円を払いながら曖昧な答えを返すと、意味深な笑顔で返す彼女。この前のリベンジじゃないけど、もう1回くらい大阪遠征しても良いのかなと、この時思った。彼女との会話を終えて物販から離れ、ライブハウスを後にしようとすると、いつも会うファンの子がやってきた。


「あ、お疲れ様です」

「日曜日気付いたら居なくなっててどうしたんですか?」


「お疲れ様」

「帰りの新幹線の時間がギリギリだったので、物販行かずにライブ終わったらすぐ帰っちゃいました」

「新幹線は間に合ったので大丈夫です。買えなかったCDも今買ってきましたよ」


2度目となると、大体聞かれることはわかっているので、必要な事は全部入れてファンの子の質問に答えた。


「そうですか… 新幹線間に合って良かったですね」

「秋に予定されてる大阪ワンマンライブ行きますよね」


「まだ先の事だからアレだけど、考えておきますよ」

「そう言えば、夜行バスで大阪ってどうでした?」


「なるべくお金かからない方法ってことで、夜行バス使いました」

「片道6000円くらいで時間は9時間くらい、ほとんど寝られなかったですね。私の場合ですけど」

「大阪に到着したのが朝7時くらいで、眠くて近くのネットカフェでちょっと寝て、11時くらいに向こうのファンの人と合流しましたよ」

「もちろん、向こうのファンの人は場所とか色々わかってたんで、私は付いて行った感じです」

「帰りも夜行バスで帰って来ましたけど、月曜日はお休みにして1日寝てました」


「なるほど」


ファンの子と会話を交わして安く移動する方法の1つを入手、それでも夜行バスは体力的に厳しそうなイメージだ。ライブハウスを後にした俺は、家に帰って早速スケジュールの確認。彼女のホームページのスケジュールには、関西ライブの情報が追加されていた。


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関西ライブ

5月17日(金)夜、大阪ライブハウス

5月18日(土)昼、大阪フリーライブ

5月19日(日)昼、大阪ライブハウス

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日付と何となくの情報だけで、時間とか場所の具体駅な情報はまだ発表されていないようだ。それでも日程から日帰りではなく、宿泊含めて本格的に旅の計画を考えないとまずいかもしれない。


俺はこの5月、遠征リベンジを本気で考えることにした。


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