後編
王子様ことアズール君に詳しい話を聞いた所、アズール君はやっぱり王子様でした。私よりも年下だったので君呼びです。
この世界には魔物だけじゃなく魔王がいて、その魔王を倒すために旅に出たんだけれど返り討ちにあってみんな呪われたんだって。それで仕方なくお城に帰るところ、私に会ったんだそうな。周りにいた男の人達は護衛の人達なんだそうです。
アズール君は聖なる力を魔法に変えることが出来たんだけれど、聖なる力を封じられて魔法が使えなくなっていたんだって。
でも私が祝福したことで力が戻って魔法が使えるようになったそうです。
垂れ目のおじさんことジュナイルさんは騎士。けれど呪われた髭のせいで、生活するには支障はないけれど戦うことになったら髭に邪魔されて動きにくくなっていたんだそうな。
他の人たちもフードを降ろして顔を見せてくれた。
鋭い目をしたおじさんはカトロフさん。カトロフさんも騎士でジュナイルさんの部下らしい。カトロフさんは呪いで金属アレルギーになってしまい、剣や鎧が使えなくなったそうな。
いかつい顔したおじいさんはティコッドさんで魔法使い。呪われて、もの凄く握力が弱くなったので魔法の杖を持てなくなり、魔法が使えなくなっているんだって。
優しい顔したプディムさんはまだ若くてお兄さんって感じ。治癒魔法が使えるそうなんだけれど、呪われて酷い貧血持ちに。治癒魔法を使うには自分の血を代償に怪我を治すそうなので、血の気の多い人じゃないと使えないらしい。
最後は武闘家のおじさんでモスリーさん。骨粗鬆症になってしまったので戦えなくっているんだそうな。筋肉が無駄になっている!
命に関わらなくても嫌がらせのような呪いがみんなにかかっている。特にモスリーさん可哀そう!今の私に似た所があって親近感がわく!モスリーさんだけでもなんとかなってほしい!
『ピーン』
『モスリーハ シュクフクサレマシタ』
『ピーン』
『レベルガ サガリマシタ』
『ピーン』
『レベルガ サガリマシタ』
・
・
・
なんかもの凄くレベルが下がった!祝福したらもの凄く下がっていったよ!
「急に!急に力が戻ってきた!」
「なんだって!?」
「どうしたんだモスリー!」
周りが騒いでいるけれど私はそれどころじゃない!一気にレベルが下がりますって!!
顔を触ってみると、心なしかダルダルしてる!さっきよりも皮膚が下がった気がする!!
これは、絶望する。
「お婆さん!あなたは一体なに・・・あれ?ちょっと老けま・・・じゃなくて疲れましたか?」
アズール君言いなおした!老けましたかと言おうとして気を使ってた!そうですよ、レベルが一気に下がったので一気に老けましたよ!!
モスリーさんなんて祝福しなきゃよかった!呪いが戻ればいいのに!
『ピーン』
『モスリーハ ノロワレマシタ』
『ピーン』
『レベルガ アガリマシタ』
『ピーン』
『レベルガ アガリマシタ』
・
・
・
お、心なしかダルダルがなくなった気がする。
「急に力が抜ける!」
「どうしたんだモスリー!」
「さっきから何が起こっているんだ!」
てんやわんやな騒ぎになっている。モスリーさんごめんなさい、私、やっぱり自分が可愛いんです。
さっきの事は無かった事にしてください。
暫くワイワイしていたけれど、もう何も起こらないことがわかるとみんな落ち着いてきた。
そして少しの間話し合いをした後、元来た道を戻ることにしたらしい。
私にそれでもいいか確認してくれたけれど、私はどこでもいいので人のいる所に行きたいでのす。
「どうしてかはわかりませんがお婆さんのおかげで力が戻りました。今から向かう街でお礼をさせてください」
アズール君の言葉に頷く私。もらえるものは何でももらいますよ。今の私にはいろいろなものが必要なのです。
色々と時間を取ったけれど、この場所から出発することになった。街までは2日ほどで着くらしい。
途中野宿するそうな。もちろん付いて行く私も野宿です。したこと?もちろんないですよ!
「すみません。先ほどまで向かっていた街なら遅くはなりますが、今日中に着くことが出来たのですが・・・」
アズール君よ、それは本当かね?今からでも引き返すか。いや、1人では道に迷う危険も。色々考えたけどお礼をもらわないといけないので、付いて行くの一択だった。
みんな和気あいあいと道を進んで行く。そんなに喜んでいるけれど、アズール君とジュナイルさんしか呪い解けていなんだけれどいいのかな?私の気にするところではないか。
途中で息切れしだした私を見て、アズール君は休憩をはさんでくれた。なんてできた王子様なんでしょう!これは国中の女の子が惚れちゃうね!!
何回か休憩を繰り返しながらどんどん道を進んで行く。森を抜けた所で野宿することになった。みんな慣れた様子で野宿の準備を進めていく。私も枯れ木拾いを手伝いました。
今日の晩御飯は干し肉と硬いパンです。私にも分けてくれました。ありがとうございます、顎の骨が砕けそうだけれども頑張って飲み込もうと思います。
顎に違和感を感じながらも夕ご飯を食べ終わった私。ただの付き添いなので一足先に休むことにします。決して老体に鞭打って歩いたので疲れ具合が半端ないだなんてことは無いです。やることが無いから仕方なしに休むことにしただけです!
たき火を囲みながら話をするアズール君達に悪いなと思いながらも私は眠りについた。
ふとトイレに行きたくなって目を覚ます。寝る前に行ったのにおかしいな?空を見てみると月っぽいものが空の真上に浮かんでいる。うん、月って黄色かったよね?ショッキングピンクなお月さまって新鮮だね!
「ん?婆さん、どうしたんだ?」
私が体を起こしたのに気付いたジュナイルさんが声を掛けてきた。寝ないのだろうか?私の疑問が伝わったようで笑いながら見張りだと教えてくれた。
私もした方がいいのだろうかと声を掛けたのだけれど、婆さんには任せられねぇと鼻で笑われた。イラっとした。おっとトイレに行きたいんだった。
「ちょっとお花摘みに行ってきます」
「こんな夜中に花は咲かねぇな」
再びイラっとした。ジュナイルさんの足が臭くなればいいのに!心の中でそう思った。
『ピーン』
『ジュナイルハ ノロワレマシタ』
「!!くせえ!!」
あの音が聞こえたと思ったらジュナイルさんの方から悪臭が漂ってきた。臭い!これは臭すぎる!!寝ていた人達みんな起きて来るくらい臭い!!
「なんだこの臭いは!?」
「急に何があったんだ!?」
「魔物でも出たのか!?」
「ジュナイル、何があったんだ!!」
うん、大混乱ですね。ジュナイルさん、私をからかった罰が当たったんですよ。よし、今のうちにトイレに行って来よう。
混乱している王子様御一行から離れて、いい感じの草木の生い茂ったところで用を足す。ふぅ、スッキリ!
戻ってみるとジュナイルさんがみんなから遠巻きに臭いと非難されている。そろそろ許してあげますよ。これに懲りて私を怒らせないことですな!
『ピーン』
『ジュナイルハ シュクフクサレマシタ』
「臭いのが納まった?」
「何があったんだ!?」
「ジュナイル何をしたんだ!」
なんかまだ責められている。うん、ちょっと悪いことしたね。メンゴ、メンゴ。
騒ぎはまだ収まりそうにないのでちょと離れた所で空を見上げる。月はショッキングピンクで、星は蛍光緑か。この世界の夜空は目に優しくないね。
そう思いながら空を見ていると、何やら飛んでいるのが見えた。結構な勢いでこちらに近づいてきている。瞬きする間に飛んできた何かは私の目の前にあった。
「でかい」
思わず口から言葉が漏れた。
目の前には象とキリンを合わせたような大きさで、黒い布をまとった『何か』。とりあえずでかいとしか言いようがない。
『お前が私を呪った者か』
目の前の黒い布をまとった『何か』が私に話しかけてきた。その声に私の体は恐怖を感じて動かなくなった。この目の前にあるものは酷く恐ろしいもの。直感がそう告げる。
『答えよ!!』
もの凄い風圧が起こり、私の体をよろめかせた。何?この塊は?呪った者って私の事?記憶にないんだけど!!
恐怖のあまりフルフルと震えながらその場に立ち尽くす私。この恐ろしいものは何?
『この姿を見ても呪っていないと言えるのか!』
『何か』がまとっていた黒い布をとった。
「!!!!!!!!!」
私は目を見開いた。
「ぶひゃははは!!!!!」
目の前にあった『何か』の頭は禿げていた。恐ろしい顔をしているのに頭が禿げていて、何とも言えない具合で混ざり合い、笑いしか起こらない。あの恐怖は何だったのか。
『笑うな!この呪いのせいで私の立場が!!』
「ぶひゃははは!も、もうしわ、け、ギャハハ!!!」
まともに見れない!見ると笑いが起こってしまう!!頑張って謝罪の言葉を口にしようとしたけれど、笑いが込み上げてきて言葉にできない。息、息が出来ない!!
ひぃひぃ言いながらその場にうずくまる私。見ないようにしたら治まるだろうか?ぶふっ!思い出し笑い!!お腹、お腹も痛い!!
『笑うな!笑わないでください。お願いします、どうかこの呪いを解いてください!』
恐ろしかった『何か』がついに下手に出てきた。それほど困っているのだろう。けれど私も困っています。笑いが納まらない!
どれくらいの時間笑い続けていたのだろう、喉がカラカラだ。そう思っていたら目の前に木でできた器が差し出された。どうやら中には水が入っているみたい。私はありがたく頂戴し、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。
「はー、おいしかった。ありがとうございます、御馳走様でした」
器を目の前に出すと毛むくじゃらな大きな腕が見えた。どうやらさっきの水は『何か』がくれたものだったよう。意を決して頭を上げると、『何か』は再び黒い布を被っていて、その姿は隠されていた。
良かった、また笑い死一歩手前まで行くところだったよ。
『それでこの呪いは解いてもらえるのでしょうか?』
先ほどの恐怖は何だったのか、今は全然怖くない。むしろ喉が渇いていた私にお水を出してくれるいい人?いや、いい魔物だ。
「たぶん、その呪いを掛けたのは私です。それであなたの立場って?」
先ほどの言葉を思い出しながら聞いてみる。だって上の方の魔物だったら困るでしょう?
『あ、私は魔王です』
立場が上すぎだった!まさかの魔王様だった!!確かに魔王様なのに頭が禿げてるのは威厳があったものじゃないな。姿を隠していたら凄いけど、布を取ったら大爆笑だったもんね。うんうんと頷きながらそう思った。
でも、アズール君たちはこの魔王に呪いを掛けられたんだよね。これはお互い様というのでは?
その事を魔王に伝えると、ムムムと唸りながら暫く黙ってしまった。暫く悩んだ後、王子達の呪いは解こうと言ってきた。
「あ、王子様とお供の人1人の呪いは解いたので、残った人達の呪いを解いてもらっていいですか?」
『なんと!私の呪いを2人分も解いたのか!!』
え?そんなに驚くところだった?アズール君の呪いは酷いと思ったけれど、ジュナイルさんの呪いはコントだよね?そんなに驚くことではないのでは?
『魔王である私の力を上回るという事か』
そうなるの?よくわからないけど、魔王が落ち込んでいる。心なしか姿が縮んで見えるよ。
「お婆さん!!」
後ろの方から急に声を掛けられた。この声はアズール君だね。振り返ってみると、アズール君は剣を構えながら怖い顔をしてこちらを見ている。視線は合わない。どうやら魔王を見ているみたい。
剣をこちらに向けたジュナイルさん、そして2人よりも少し後ろの方に残りの3人が武器と思われるものを構えてこちらを見ている。あ、カトロフさん、剣を落として体中を掻いている!蕁麻疹がでたんじゃ!
ハラハラしながら後ろを見ていると、アズール君が怖い顔をしたままこちらにやって来て、私の腕を引っ張り自分の体の後ろに隠した。これはもしかして守ってくれているのでは!
年下の男の子、さらに王子様に守ってもらえるだなんて!!体はお婆ちゃん、心は女子高生の私の乙女心はキュンキュンですよ!!
『お前たちは先日の』
「そうだ!お前に呪われて封印されていた力は解放された!!今度こそお前を倒す!」
そう言いながら持っていた剣が光りだす。そして光が大きくなった瞬間剣を振り上げ、魔王の方に向かって振り下ろした。光は魔王にぶつかり爆発する。
爆風でたなびく髪の毛にマント!アズール君カッコイイ!本で読んだ勇者様みたいだよ!!
爆風が納まり、魔王の方を見ると黒い布はボロボロになっているけれど、本体は無傷の魔王がいた。
「!」
「!!」
「!!!」
「っぶ」
「「「ぶひゃはははは!!!!!!」」」
黒い布が破けてしまい、魔王本来の姿があらわになった。その瞬間私たちは噴出した。アズール君は堪えている様で肩がプルプルしている。
『こうなるから呪いを解いてもらいたいんだ!』
魔王、ちょっと泣きそうな声。笑いながらそんなことを思っていると、ボロボロになった布で自分の頭を隠す魔王。あ、ようやく笑いが納まりそう。
ひとしきり笑ったら魔王がまた私に水を出してくれた。それを受け取り飲み干す私。あー、やっぱりお水がおいしい。
そんな私を驚いた顔でみんな見ていた。
「魔王がお婆さんに飲み物を」
「ばあさんも疑わずに飲み干すなんて」
「毒でも入っていたらどうするんですか」
みんなから怒られた。そういえばこの魔物、魔王だった。そうか、疑わなくてはいけなかったのか。いや、いいタイミングで水を出してくれるからつい。
『その者を責めるのは止めろ。私は争いに来たのではない。その者と話をしに来たのだ』
魔王に庇われた!え、私の立ち位置ってどこなの?アズール君達から裏切りとか思われたりしない?
「そうですか」
「そうか」
「そうなのか」
「そうなのですか」
みんないい人!裏切者とか思われなくてよかった。
「魔王よ、このお婆さんに何の用なんだ!」
『私はその者に呪いを解いてもらいに来たのだ。先ほどのお前達のように笑われてしまい、私の面目が立たない』
魔王の言葉を聞いてそうだろうなといった顔で魔王を見ている。
「お婆さん、魔王を呪ったのですか!」
アズール君が私の方を向いて聞いてきた。さっきの魔王といい、そんな驚くことなのだろうか?私の呪いってそんなに凄いの?首を傾げながらアズール君を見る。
「お婆さんは知らないと言っているぞ!」
『そんなはずはない!私の呪いはその者によるものだ!!』
いや、言ってない。一言もそんなこと言ってないよ!アズール君!!首を傾げたのがいけなかったの?
私そっちのけでアズール君と魔王が言い争っている。私蚊帳の外。
「そんでばあさん、どうなんだ。魔王を呪ったのか、呪ってないのか?」
しびれを切らしたのかジュナイルさんが怖い顔をして私に聞いてきた。
「呪いました!」
顔が怖いのですよ、ジュナイルさん!垂れ目のくせに目力が凄い!!
私の言葉を聞いて魔王が勝った!って雰囲気でアズール君を見ている。
『それで呪いを解いてくれるのか?くれないのか?』
魔王の言葉にうーんと悩む私。呪いを解いてもいいけれど、解いたら私のレベルが思いっきり下がるからなぁ。
今でもアズール君達からはお婆さん扱いなのに、これ以上年を取ったら何て呼ばれるやら。
「お婆さん、絶対に解かないでください!魔王の容姿が戻ったらまた魔物が活発に動き出してしまいます!!」
「そうだ!このくにの平和のためにも呪いを解くな!」
アズール君とジュナイルさんに詰め寄られる。近い、近いですよ!ジュナイルさんはまだしも、アズール君自分がイケメンだという事自覚して!
『それなら魔物達に悪さをしないよう伝えよう』
「いえ、言葉だけでは信用なりません。もっと確実なものを!」
アズール君は私から離れて今度は魔王に詰め寄る。あれ?怖くないのかな?魔王のハゲっぷりを見て怖さが減ったとか?
「そうだよな、例えば魔王がうちの国に来るとか」
ジュナイルさん、それはひどいのでは?
『そんなことでいいのか。いいだろう』
魔王良いんですか!割とノリの軽い魔王様ですね!!そんな魔王の元にジュナイルさん達が集まって話し合いを始める。あれ?私仲間外れ?
「確かに他の国に対してけん制にもなるだろうし良いかもしれない」
「いや、ちょっと待ってください。魔王がこの国に来るという事は、魔物もたくさんやってくるという事では?」
『確かに私の元へ魔物達は集まるだろうな』
「それを来なくさせることはできないのか?」
『それは無理だ。魔物達が私の元に集まるのは本能によるものだからな』
「それじゃあ魔物の国になってしまいますよ!」
あーだこーだと話し合いはまとまらない。私は眠たくなってきたよ。
「ばあさん寝るなよ!」
「いや、今日たくさん歩いたからもう眠気が限界」
「お婆さん!起きていてください!!」
アズール君に言われても無理なものは無理だって。
「魔王がお日様が出ている時だけアズール君の国で過ごせば?」
もうそれでいいじゃん。魔王、社会人みたいに通勤したらいいよ。夜の内に魔物達に人を襲わないよう指示したらいいよ。いいよ、もうそれでいこう。
魔王の呪いが解けて、日が出ているうちは人に紛れる何かになりますように。
『ピーン』
『マオウノ ノロイガ トカレマシタ』
『ピーン』
『マオウハ ノロワレマシタ』
『ピーン』
『レベルガ アガリマシタ』
『ピーン』
『レベルガ アガリマシタ』
『ピーン』
・
・
・
なんかいっぱいレベルが上がってるっぽいけれど私の眠気は限界です。魔王が呪われていく音を聞きながら私は夢の国へと旅立った。
目が覚めると爽やかな朝だった。ウーンと伸びをしながら辺りを見回す。アズール君達が屍のように眠っていた。
起こさないようにそっとその場から離れて顔を洗いに川へと向かう。冷たい水で顔を洗ってあとは自然乾燥です。うん、風が気持ちいいね!
みんなの寝ているところに戻ると、魔王はいなくなっていた。代わりにめっちゃ美形がいる。全体的に黒いけれど、目が覚めるような美形がいる!!
「お前は誰だ」
「いや、お前が誰だよ」
思わず美形に突っ込んでしまった。え、本当に誰?無駄に見つめ合う私と美形。昨日こんな人いなかったよね?
「どうしたんですか?」
アズール君が起きたみたい。眠たそうに目を擦りながらこちらを見た。
「え、誰ですか?」
「それみた事か。あなたは誰ですか」
美形に向かって指をさす。よい子はマネしちゃいけません。
「いや、お前だよ」
後ろからジュナイルさんが声を掛けてきた。
「今日は婆さんって言わないんですか?」
「は?どこにばあさんがいるんだよ」
「昨日私に向かって散々言ってたじゃないですか」
「そういやばあさんどこに行ったんだ?ってかなんでお前がばあさんと同じ服着てんだよ」
ジュナイルさんがの言葉に私は自分の顔を触った。ダルダルしていない!
腕を見た。ピチピチしている!
足を見た。昨日歩きすぎたせいで筋肉痛が!
「もどった!!!!!」
たぶん女子高生の時か、それに近い年齢に戻ってる!!
さようならお婆さんの私!おかえり女子高生の私!!
「若いって素晴らしい!例え筋肉痛でも次の日に出てくるという事は若いという証拠!この痛みすら愛おしい!!」
周りの冷たい目線を物ともせずに喜びの舞を踊る私!年寄り扱いされないって素晴らしい!!
「えっと、喜んでいるところを悪いんだけれど、君はあのお婆さんの知り合いなの?」
「知り合いどころか本人です!」
「うそを言うな。あのばあさんがお前みたいに若いわけないだろう」
「手違いでお婆さんになっていただけです!本来の私はこの姿ですよ!!」
ジュナイルさんは疑わしい目を私に向けてくる。アズール君は私の言葉が真実かどうか迷っているみたい。
「その者は昨日の婆さんだ」
全体的に黒い美形が話しに割り込んできた。
「そしてお前は誰だ」
「私は魔王だ。昨日の婆さんに呪われて、この姿になったのだ」
なんと!この美形は魔王でしたか!!そして私は呪っていたのですね!!通りで年齢が戻ったわけだ。魔王、さりげなく私の事婆さんと思っていたことも判明したよ。
魔王!ありがとう!!あなたを呪ったおかげで元の姿に戻れましたよ!!
こうして私の大活躍により世界に平和が訪れた。アズール君の国に至っては、他国にとって魔王という最大の武器まで手に入れた。
「ホントばあさん、じゃなくてお前のおかげで助かったぜ」
「本当に助かりました。国を代表し感謝いたします」
「いえいえ、私も呪ったおかげで元の姿に戻れたので」
お互い良い事尽くしでしたね!と話をまとめた。
なんとか元の姿を取り戻した私。アズール君の国に付いて行ったのだけれど、今度は魔王を巻き込んでとんでもない事件が起こったのですがそれはまたの機会に。