95:トッコとタンポポチャさんとスプリンターズステークス
移動して来たタンポポチャさんは、午前中に到着して獣医さんの検査を受けていたそうです。
その為、私は午前中にヒヨリと引綱でお散歩をして、午後はタンポポチャさんとのお散歩の予定になりました。
だいたい半年ぶりかな? 前回はタンポポチャさんが来てくれて、その後に私が栗東トレーニングセンターへお邪魔した時は既にタンポポチャさんは放牧に出ていて会えなかったんですよね。
そんな久しぶりに会う友達にドキドキして手綱を引かれながらお散歩コースへと向かったのですが、何故か出会った傍からタンポポチャさんは私の匂いを嗅ぎまくりです。
「ブフフフフフン」(臭くなんかないよ? 朝のお散歩の後も洗って貰ったよ?)
やはり女の子ですから、臭いと思われたりしたらショックですよね。
流石に香水をつける訳にはいかないですし、そもそも香水の匂いは苦手です。だからいっつもお強請りして綺麗にして貰ってるので、そんなに匂うはずはないはず?
「キュヒヒン」
私の抗議の声はそっちのけで匂いを嗅いでいたタンポポチャさんですが、今度はハムハムとグルーミングを始めようとします。
「タンポポチャ、それは引き運動が終わった後だ。今はまず引き運動をするぞ」
「キュヒン」
引綱を引かれてややご立腹な様子のタンポポチャさんですが、私が引綱を引かれて歩き出すと慌てて横へと並びました。
「キュフン」
「ブフフフン」(引綱引かれたから私悪くないよ?)
何となく、何勝手に歩き出すのよと言われているみたいなので、一応自己弁護をしておきます。
厩務員さん達も慣れているのか、私とタンポポチャさんが並んで歩いていても前よりは気にしませんね。
「ミナミベレディーが体調を崩してなくて助かりました。今回の移動でも、タンポポチャは美浦トレセンに着いた途端にキョロキョロとして大変だったんですよ。これでミナミベレディーに会えなかったらと思うと怖いですね」
タンポポチャさんの所の厩務員さんがそう言ってタンポポチャさんの首をトントンします。
そっか、タンポポチャさんもやっぱり私に会えるのを楽しみにしてくれてたんだ。
厩務員さんの言葉なので実際はどうか判りませんが、それでも嬉しいです。
「ブフフフフン」(そっかぁ、楽しみにしてくれてたんだ)
カプッ
「ブヒヒン!」(なんで!)
そう思いながら、ニコニコしてタンポポチャさんを見たんですが、何故かカプっとされました。そこまで強くは無いので、痛いと言うほどでもない事も無い? う~ん、ただタンポポチャさんを見るとツンとして横を向いています。
「ブルルルン」(ツンデレさんなんだから)
私がそう言うと、再度お口を開けたので、数歩下がって回避しました。
「こらこら、会えて嬉しいのは判るが、さあお散歩を再開するぞ」
タンポポチャさんの動きで止まってしまったお散歩を再開しました。
その後、いつもの様に洗って貰って、マッサージをしてもらいます。ただ、その後はグルーミングタイムになるので洗って貰った意味はあるのでしょうか?
「ブフフフン」(涎で汚れるような?)
「キュヒヒン」
思わず声に出して疑問を呈しますが、ハムハムを中断したためにタンポポチャさんのお叱りを受けます。
ハムハムハム
お互いにハムハムしているのですが、その間は厩務員さん達は休憩タイムっぽいです。
「それにしても、勝算はどうなんです? 芝1200Mは勝手が違うと思いますが」
「タンポポチャは1600Mまでしか経験が無いから未知数ですね。ゴール地点のイメージが出来るかが不安でした。もっとも、ミナミベレディーとの併せ馬などでゴール板を認識出来ているようなので大丈夫ではないかと思っていますが」
ん? ゴール板です? あれは私も最初は勘違いしていましたね。もう少しお馬さんにも此処がゴールだよと判る様に出来ない物でしょうか?
確かマラソンとかだとゴールのゲートがあったりしますから、スタートのゲートみたいにゴールも稼働出来るようにするのがお勧め?
カプッ
「ブヒヒン」(あうあう!)
ついグルーミングがなおざりになってしまいタンポポチャさんのハムハムではない口撃を受けちゃいました。ヒヨリといい、タンポポチャさんといい、何かお嬢様が多すぎて困りますね。
ハムハムハムハム
タンポポチャさんを再度ハムハムしながら、ところでこのグルーミングは何時迄続くのでしょう?
◆◆◆
タンポポチャさんは今日の朝早くレースに向けて競馬場へと行ってしまいました。
次に会えるのは何時なのでしょう?
ちょっと物悲しい気持ちになりますね。ただ、タンポポチャさんが居る間は午前中はヒヨリとお散歩、午後はタンポポチャさんとお散歩、そして何故か最初に二人? 二馬? とにかく会えば匂いをフンフンと嗅がれてご機嫌が悪くなります。それを宥める所からのスタートで、中々に気苦労が多かったのです。
あと、ヒヨリに会った時にヒヨリの所の厩務員さんが話をしていたのですが、どうやらフィナーレはヒヨリと一緒に駆けっこしているみたいですね。
ヒヨリもお姉さんになったんだなぁと思わず感慨深くなっちゃいます。
そして、私も漸くですが速足くらいでなら走る事が許されました。出来ればタンポポチャさんと何時もの競争をしてみたかったんですが、結局は最後まで許可されなかったんですよね。ちょっとションボリしちゃいました。
◆◆◆
『暑い夏が過ぎ、馬肥ゆる秋の言葉とはまったく逆にスラリとしたサラブレット達、中山競馬場で間もなく始まるスプリンターズステークス、芝外回り1200Mで争われますこのレース、まさに今年度秋のスプリンターを決め、最優秀短距離馬の称号を占う大事な一番、春の高松宮記念を勝ちました5番テンカイオウド、1番人気の重圧を跳ねのけれるか! セントウルステークスを勝ちここへと駒を進めた8番コチノクイーン、初のGⅠタイトルを狙います。そして、ヴィクトリアマイル、安田記念とマイルを勝ち進んできた3番タンポポチャが芝1200Mへと初挑戦。2番人気と人気を集めていますが果たしてその人気に応える事が出来るのか! 最優秀短距離馬の称号はどの・・・・・・』
スプリンターズステークスの実況が始まる。
磯貝調教師としては、出来る限りの努力をして来たつもりだ。適正としてはマイラーであるタンポポチャにとって芝1200Mは未知の距離であるが、末脚の切れを見てもスプリンター達に引けはとらないと自負していた。
「やれる事はやった。ミナミベレディーと会えた御蔭でご機嫌も上々だ。出来ればもう少し外枠が良かったが、後は鷹次第だな」
祈る様にレース開始を見つめる磯貝調教師だった。
『各馬ゲートへと納まりました。今スタート! 3番タンポポチャ好スタート、5番バックスイングも悪くは無い。緩やかな下りを利用して各馬順調に加速します。先頭は5番バックスイング、そのすぐ後ろに3番タンポポチャ、マイルとは違い前寄りでレースを進めます。
その後ろには11番ミルキーカフェ、8番コチノクイーンも前に出て来る。並ぶように・・・・・・。
各馬揃って最初のコーナーへと差し掛かります。ここで後方から上がって来たのは14番テクテクテクテ、順位を次第に前へと進め、ここで各馬一斉に動き始めた。依然、先頭はバックスイングのまま直線へ、ここで先頭はタンポポチャ! タンポポチャが前に出る! しかしバックスイングも粘る。2頭ほぼ並んだ状態だ! 後方からは8番コチノクイーンも伸びて来た! 各馬中山の最後の坂へと差し掛かるが、ここで更に突き抜けたのは3番タンポポチャだ! バックスイングとの差は半馬身に! バックスイング伸びないか! そのままのタンポポチャを先頭にゴール! マイラーのタンポポチャがスプリンターを相手に末脚勝負を力で制しました!
第※※回スプリンターズステークスを制したのは、マイルの女王タンポポチャだ! これで今年の最優秀短距離馬の称号はタンポポチャで決まりか! 鞍上の鷹騎手、高々と腕を振り上げた!』
タンポポチャが無事に先頭でゴールへと駆け抜け、磯貝調教師は安堵の表情を浮かべた。
まず勝てるだろうとは思っていたが、実際に勝つまでは何一つ安心など出来ない。
「毎度の事だが、レースなど見ないで結果だけ聞きたいもんだな」
調教師としてそんな事が出来る訳も無いが、勝てる馬であればある程にプレッシャーは強い。今日は勝てているからともかく、これで負けた時のダメージは更に大きい。
「とにかくこれで結果は出せた。あとは次走だが、エリザベスへ行くのか、マイルチャンピオンへ行くのか、またオーナーと相談だな。まあエリザベス女王杯へ行くんだろうがな」
贅沢な悩みなのだろうがタンポポチャはマイラーの印象が強い。スプリンターズステークスを勝てた事で短距離馬の印象も加味されただろうが、オークス馬であるにも関わらず中長距離のイメージはミナミベレディーが強すぎてタンポポチャの影は薄いのだ。
「エリザベス女王杯を勝てば中距離のイメージも強化されるだろう。マイラーが悪い訳では無いが、繁殖へと回った時に産駒が牡馬であればぜひ欲しいイメージなのだろうな」
何にせよとりあえず勝つ事が出来たのだ。次につなげるのは明日にして、今日くらいは何も考えずに寝たいと思う磯貝調教師だった。
今日がなろうメンテの日ってすっかり忘れてました><
お昼に「ぎゃぁ! メンテの日だった!」
となって、投稿できずに終わりました・・・・・・。
〇〇〇〇は、コチノクイーンさんでした〜 ><
名前がすぐ出てこなくて〇〇〇〇でお話しを書いていたら、忘れてそのまま投稿しちゃいました。
ちなみに、今はまだ出先からの修正で、後書きを追記してますw




