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90:トッコのオールカマー

 気が付けば既にレースの当日です。

 朝早く馬運車に乗せられて、中山競馬場へと運ばれてきました。ここは先日ヒヨリが走ったのと同じ競馬場ですね。ヒヨリにあやかって是非とも私も勝利を得たいものです。


「ブフフフン」(馬房はどこも一緒だなあ)


 レースまでの間は馬房で休憩です。休憩といっても、これからレースを走る前に故障がないかとかのチェックもされるし、リボンなんかでオメカシして貰えたりするの。リボンをしてくれている間は結構ワクワクしますね。レースでの楽しみといったらこれくらいかな?


 終わると検量されたり、尿検査されたりと、私は女の子ですよ? でも、オリンピックとかでもドーピング検査ってあったから、ましてや賭け事ですから仕方ないのかなと諦めてます。


 それに、知らないうちに変な薬を投与されるのも怖いですからね! そんなに速く走らせたいなら、それこそ目の前にニンジンとかリンゴをぶら下げれば良いのにね? 私なら絶対に走る気がするよ! 出来たらリンゴさんが希望です!


 頭の中でリンゴを食べる自分を想像していたら、お腹が空いてきちゃった。レース当日だからご飯が少ないの! お腹いっぱいに食べたら速く走れないのは何となく判るけど、お腹すいたなぁ。


 この寝藁食べちゃだめかな?


 床に敷き詰められている寝藁をみて何となくそんな事を思うけど、さすがに汚そうだから食べませんよ!


 早く帰ってリンゴが食べたいなぁ。


 そんな事を思っていたら、ようやくレースの時間になったみたいです。

 厩務員のおじさんが引き綱を持って私のところへとやってきました。


「ブフフフン」(早く走って、さっさと帰ろうね)


「ん? べレディーどうした? 何となく気合が感じられない気がするなあ」


「ブヒヒヒン」(お腹がすいたの~、昨日ご飯減らしすぎよ?)


「何となくご機嫌斜めっぽいな。う~ん、レース直前でこれは困ったな」


 そう良いながらも厩務員のおじさんは、引き綱をつけてパドックへと案内してくれます。


「ブヒヒヒン」(今日は牡馬も一緒なんだね。何か嫌だなぁ)


 パドックへと入った途端に明らかに牡馬達から視線を感じます。

 流石に立ち止まってガン見してくる馬はいませんが、チラチラ見る馬はいっぱいいます。


「ブヒヒン!」(こっち見ないで!)


 あ、また威嚇しちゃいました。今度は愛想良くしてメロメロにしてレースどころじゃない状態にしてやるつもりだったのです。でも、駄目ですね。性分に合わないみたいなのです。


「とま~~~れ~~~」


 とまれの合図とともに、パドックに鈴村騎手がやってきました。


「あれ? もしかしてべレディー集中出来てない?」


 私の鼻先を撫でながら鈴村騎手がそんな事を言います。


「ブフフン」(集中してますよ?)


 普段と特に何か変わった事も無いですし、レースだってちゃんと判ってるし、集中も出来ているつもりです。


「そうなんだよね、ちょっと気になるけど、怪我とかでは無さそうだから」


 引き綱を引く係りで調教師のおじさんもパドックに入る所で増えました。そんな調教師のおじさんも、やっぱり私の事が気になるみたい?


「放牧明けですからね。今ひとつ気合が乗ってませんね」


「う~ん、でも調子が悪いという訳じゃありませんから、この子も走り出すと気合が入ると思います」


 鈴村さんがそんな事をおじさん達に言うのですが、改めてそんなに私の雰囲気悪いの? 自分だと判らないのです。でも、そう言われると不味いですね。せっかくヒヨリが先日レースに勝ったんだから、姉としても何とか勝って面目を保ちたいのです。


「ブフフフン!」(ヒヨリの為にも、がんばる!)


「う~ん、大丈夫かな?」


 鈴村さんが騎乗して、私の首をトントンとしてくれます。

 ただ、いつもは私が鈴村さんを心配する立場なのに、何か今日は逆転しちゃってる気がします。


「ブルルルン」(鈴村さん落ち着いてるね)


「大丈夫そうかな? ベレディー、次の天皇賞の為にもここは頑張ろうね」


「ブフフフフン」(持久走は出たくないの~)


 まだレース前なのに何かどっと疲れが出ちゃった気がしちゃいます。


 引き綱を外されて本場馬へと入ります。そして、いつもの様にゲートの前でみんなでグルグル回って枠入りを待ちます。その間にも鈴村さんが首をポンポンと叩いてくれます。


「大丈夫だよ。頑張ろうね」


「ブヒュン」(うん、頑張る~)


 そう言いながらもそれこそ気合が入らないのです。


「さあ行くよ」


 今日は5番で奇数番号なので早目にゲートへと入ります。

 私は特に狭いゲートも気にしないのですが、未だに苦手なのか蹄でカツカツしているお馬さんがいます。何となくそのお馬さんの様子を眺めていたら、鈴村さんが何かを言いました。


 ん? 何か言った?


 そう思ったとき、目の前でゲートが大きな音を立てて開きました。


「え? ベレディー!」


 突然のゲートの音でビックリして飛び出したのは良いのですが、明らかにいつもと違い出遅れギリギリのスタートになっちゃいました。

 思いっきりゲートの中で集中力が途切れてて、鈴村さんの何時もの言葉すら聞き流しちゃったんです。


「ベレディー、まだ大丈夫! 出遅れって言うほどじゃないよ! 上り坂だからピッチ走法で!」


 鈴村さんに言われるままに走り方をタンポポチャさん走法に切り替えて走ります。ただ、枠順で5番という事もあって、外から前でと進む馬などもいて思いっきり中団での位置取りになっちゃいました。


「このまま2コーナーまで緩やかなカーブが続くよ。向こう正面も緩やかな下りで速度は落ちないから、後半の粘り勝負だからね。4コーナーから一気にロングスパートを掛けるけど、最後の最後に急な坂があるから」


 事前に厩舎でレースの説明を何度も聞いていたので、コースは何となくなら判ります。ただ、想定では先行しているはずの私が、今はだいたい8番か9番目くらいにいます。

 1コーナーへと入る前に、少しでも先頭に近づきたいのですが、前のお馬さんが邪魔で進めません。


「ここは我慢でコーナーに入ったら馬群は伸びるから、そしたら向こう正面の直線に入るまで出来るだけ前に行こうね」


 こうなった場合にどうすれば勝てるのか、それが私では思いつかないんです。だから鈴村騎手の指示に素直に従って頑張ります!


「この坂を上ったらコーナーに入るからね。2コーナーから緩やかな下りになっていくから、そこで息を入れるよ。よし、ベレディー、ストライド走法!」


 坂を上りきった所で走り方を変えます。そして、ここの段階でなんとか前から5番目くらいの位置になりました。


「この直線は無理しないで、しっかり息を入れてね。4コーナーからスパートに入るけど、場合によっては3コーナーからになるかもだから」


 うん、ここは事前の作戦でも言われていたケースです。周りが簡単にロングスパートを許すとは思えないですし、ましてやこの位置取りだと素直に前に行けそうに無さそう。


 さっきから前のお馬さんに騎乗している騎手が、チラチラこちらの様子を見るのが何か気になります。

 おそらく警戒されているんでしょうけど、ちょっと嫌な感じです。


 向こう正面の直線では緩やかな下り坂な為か、何となくスピードが速いですね。

 ただ、その割には誰も大きな動きが見られないのは、やはりこの後の直線の所為なのかな? 息をつくにしてもスピードが速い為に何となく休めている感じがしないです。


 そして緩やかに3コーナーへと入っていくと、そこで後方から蹄の音がだんだんと大きくなる音がします。


「もう前に出て来た?」


 ただ、5番手と今までにない位置にいる為に、前を走る馬達もそこそこの速度で3コーナーに入っても思うように前に進めません。それでも、何とか5番手まで位置を上げはしましたが、ロングスパートが出来ていないのです。


「前2頭が明らかにわざと並走してるのが邪魔だよ。外の馬とかわざと間を少し空けてるよね」


 ですよね、しかも騎手は明らかに私の事をチラチラ見ています。ただ、もうじき4コーナーになるので前に追い付く為にもう少し前に出たいです。ただ、普通に進むには速度がちょっと速い?


「直線の入口で外に膨らむの覚悟で一気に前に行くよ! 騎手が振り返って、その後前を向き直ったらスパートするから」


 鈴村さんが私にこの後の展開を話してくれますけど、普通の馬は多分判らないと思うんだけどなぁ。

 そんな不思議ちゃん化した鈴村さんが、前の馬に騎乗する騎手の動きを見て、私の首をトントンと叩きました。


 再度此方を振り返るまでに、一気に近づいて横を抜けないといけませんよね。ハッキリ言ってすっごく嫌な感じがしますし。だから私はここでタンポポチャさんの走りをあえて使いました。


「・・・・・・」


 鈴村さんも敢えて無言です。ただ、私の足音は当たり前に聞こえると思います。

 その為、私が横へと膨らんだ段階で相手の騎手は後ろを振り返ります。ただ、振り返った方向が内側だった為、外を抜けようとしている私を見失って慌てて外側に並びかける私の方を見ました。


 この為に状況を把握するのにワンテンポ遅れたみたいです。慌てて馬を私達の方へと膨らませようとしますが、私は直線の中央付近に出るように最後のカーブを直線で走り抜けたのでぶつからずに済みます。


「やっぱり! あとで絶対に抗議してやる!」


 鞍上で鈴村騎手が怒りを込めた言葉を告げます。


 う~ん、やっぱりぶつけようとしたよね。すっごく変な手綱さばきしたもんね。


 ただ、ここで私は加速したせいで思いっきり大回りになっちゃいます。その為、結局ロングスパートになっているのか微妙です?


「ストライドに戻して! 最後の坂でもう一回ピッチ走法に!」


 坂に入る手前で鈴村さんから指示が出ます。

 ただ、ようやくあのムカつく騎手の横を走る感じなので、前を捉えるのはちょっと厳しそうかなと思っていたら、横目に何かあのムカつく騎手が小さくガッツポーズみたいなのをしたのが見えました。


 え? なにあれ! 自分勝てないんだよ? それなのにガッツポーズ? 私を勝たせない為だけなの?


 何かすっごくムカついて来たよ! 自分が勝つ為ならともかく、そうじゃ無くて邪魔するなんて!


 意地でも勝ってやる~~~!


 坂の手前でタンポポチャさんの走りに変えます。坂だし、加速力はタンポポチャさんの走りが一番です。


 後ろ脚に力を入れて思いっきり走ります。

 そのまま坂に入って小刻みに、しっかりと地面を踏みしめて、前へ前へと跳ねるように! タンポポチャさんのスパートを思い出しながら駆け上がりました。


「あと少し! ベレディー、頑張って!」


 此処まで勝つ事を意識して走ったのはいつ以来でしょう。

 

 最後のゴール板を駆け抜けた時、何とか先頭の馬を頭一つくらい躱せたと思います?


「頑張ったね! 凄いよ! やったね!」


 鈴村さんも褒めてくれます。

 私は思いっきり後からゴールして来たあの騎手を見ます。


「ブヒヒヒン」(ざまあみろですね!)

遅くなっちゃいました!

申し訳ありません><

トッコが負ける予定だったのですが、何故か勝っちゃうし。

思いっきり予定が崩れちゃいました。

あと、申し訳ありません。明日は投稿できないので、また土日でがんばります!

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― 新着の感想 ―
勝たせる気のない騎乗は、馬主から間違いなく嫌がられるし最悪転厩されるのにね
[良い点] >この寝藁食べちゃだめかな? 寝藁をオヤツにしちゃうので別の物に変更されちゃうお馬さんは居ますな 有名所だとエフフォーリアくんとか 食いしん坊エピソードとして出回っちゃうので乙女のピンチで…
[一言] 鈴村騎手とペレディーへの危害が重いのは当然として、自分が乗る馬の勝利を無視し、体当たりで自分の乗馬の生命も危険にさらしている、こんな騎手に今後大切な馬を預ける調教師も馬主もいないでしょうね。…
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