88:紫苑ステークス 実況とその後
『第※※回 紫苑ステークス 芝右回り2000mで行われます秋華賞へのトライアルレース。今年は牝馬16頭にて争われます秋華賞への前哨戦、どういった展開を見せるのか、昨年は1番人気の桜花賞馬ミナミベレディーがアクシデントに見舞われての5着、その姉の雪辱を果たせるか1番人気サクラヒヨリ。
オークスでは惜しくも3着に終わりましたが、姉の獲れなかった秋華賞へ向け此処は何としても勝って弾みをつけたい所。鞍上は変わらず鈴村騎手が手綱を握り・・・・・・。
今、各馬一斉にスタート! 1番人気8番サクラヒヨリも安定したスタートを見せる中、3番ココアプリンも好スタート先頭に立ちます。ここで6番ミラクルシアター、凄い勢いで先頭に立ちます! 1番オノノコマチはやや出遅れたか。ここで代わりまして6番ミラクルシアター先頭に立ちます。そのすぐ後ろにココアプリン、そこから半馬身離れて4番カリスマルビー、最内に1番オノノコマチ、サクラヒヨリはようやくこの位置。そのすぐ内側には2番イノコモチ・・・・・・。
1コーナー手前の坂を各馬駆け上って各馬大勢は落ち着いてきたか。1000mの通過タイムは58.4、やや早いタイムか。先頭は依然ミラクルシアター、後続との差を4馬身から5馬身広げて逃げに入る。
2コーナーから直線に入って早くもサクラヒヨリが少しずつ前へと位置取りを変えていく。それに合わせてオノノコマチも併走する形で上がっていく。イノコモチもサクラヒヨリを追走するが、馬群全体はやや縦長で落ち着いた様子。
平坦な直線、オノノコマチとイノコモチがサクラヒヨリへ後ろから、横からと圧力をかける。そんな中、ミラクルシアターを先頭に各馬3コーナーへと差し掛かるが、此処で先頭を走るミラクルシアターの脚色が悪い。すでに頭が上がってずるずると後退しているか!
4コーナーへ入るところで先頭はココアプリン! 更にその後方からサクラヒヨリが上がってきた! ここでカリスマルビーも負けじとスパートに入る! しかし、直線に入ったところで先頭はサクラヒヨリだ! 早くもミラクルシアター、ココアプリン、カリスマルビーをかわして一気に先頭に踊り出た!
しかし、中山の直線はまだ長いぞ! ここで中団から一気に差を詰めてきたのはピスタチオラテ! その末脚に更なる磨きをかけ一気に3番手! カリスマルビーもここから更に伸びる! しかし、先頭は依然としてサクラヒヨリだ! 2番手のカリスマルビーと1馬身の差をつけて最後の坂へと入る!
坂に入って差が縮まらない! カリスマルビー、ピスタチオラテ、懸命に前を追うが差が縮まらない!
各馬の騎手が鞭を振るう中、サクラヒヨリの鞍上鈴村騎手必死にサクラヒヨリの頭を押す! そして、坂を上がってそのままゴール! 強い! 更に強くなっているぞ!
栗東のライバルが皆ローズステークスへ向かう中、対抗馬不在と言われたプレッシャーを物ともせず、姉が不運に巻き込まれたこの紫苑ステークスをサクラヒヨリが圧倒的な存在感で駆け抜けました!
秋華賞を目前にして、その強さを見せ付けました!』
ある意味、想定通りの勝ち方だったと言ってもよい。まさに、サクラヒヨリにとって理想的な展開であった。枠順が8番と言う事もあり、すんなり先行する事は難しいと思われる中、前よりへと位置を取り、4コーナー付近からのロングスパート。
ミナミベレディーの、そしてサクラヒヨリの王道とも言える勝ちパターンに持ち込むことができた。
合わせて、当初危惧していた他馬に周囲を囲まれることもなく、スローペースに陥ることもなく、レースは終始やや早めで展開した。これもスタミナ勝負に持ち込みたいサクラヒヨリにとっては好条件となった。
「しかし、ここまで完勝するとは思わなかったな」
レースを見ていた武藤調教師は、秋華賞への確かな手ごたえを感じていた。そして、今はまだ経験という差があるが、このままGⅠ戦線を戦い抜いた後の4歳となれば、サクラヒヨリは確実にミナミベレディーの上に行くのではないかと思えた。
其れほどまでに今回の勝ち方は馬に余裕があったように見えたのだ。
「今年はともかく、来年は色々と考えないと拙いな」
今のままでは騎手がどちらも鈴村騎手が勤めている。サクラヒヨリは今までに3人の騎手を乗せているが、安定した騎乗を見せたのは鈴村騎手だった。もっとも、それもミナミベレディーという馬の癖を鈴村騎手が熟知していたと言うのが大きいだろう。
「ただなぁ、だからと言ってミナミベレディーと競わせたいかと言うとなあ」
ミナミベレディーを初めて見た時の事を今でも思い出す。そして、今も自分は首を傾げている。
それ故にこそ、ミナミベレディーの怖さというものも武藤調教師は実感していた。
「あの馬は判らんからなぁ」
なぜあれ程までに勝てるのか、なぜあれ程までに自分の勘が当てにならないのか。未だにその回答を持たないがゆえに、出来ればミナミベレディーとの直接対決は避けたいと思う自分がいた。
「ただなぁ、もしかするとサクラヒヨリの最大のライバルはミナミベレディーなのかもしれないな」
あれ程までに仲の良い姉妹馬だ。しかし、偉大なる姉に対し、妹も負けてはいない。それこそ、これから姉の記録を塗り替えていく、塗り替えさせてみせる。
今日のレースでそんな思いを新たに抱いた武藤調教師は、ここで気持ちを切り替えることにする。
「そうだな、まずは姉の獲れなかった秋華賞を獲りにいかないとだな。まずは2冠馬だ」
そう呟きながら、表彰式の会場へと向かうのだった。
◆◆◆
「おおお! やったぞ! 勝ったぞ!」
桜川がモニター画面へと向けていた顔を、息子と娘に顔を向ける。
子供達は、モニターへと視線を向けていたが、どうやらどれが勝ったのか、サクラヒヨリがどの馬だったのかなどが今一つ判っていなかったようだ。
「お父さんの馬が勝ったの?」
「かったの?」
「そうだぞ、さっき下で見たお父さんのお馬さんが一着になったんだぞ。これから表彰式があるからね」
下の娘が兄の言葉を真似する様に尋ねてくる為に、思わず微笑が零れる。
子供達は、父の言葉に改めてモニターを眺めるのだが、レースのリプレイを見ても今ひとつ判った様子は無い。もっとも、2歳と5歳では致し方がないのだろう。
その後、馬主席から移動して表彰式へと向かうと、前回同様に子供達は間近で見る馬の大きさに圧倒されて近づくことが出来ない。
母親の後ろに隠れるようにして、恐る恐るサクラヒヨリを見ている。
今日も牧場の代表代理として細川嬢が来ているが、残念ながらまだ二人には芸能人に会えたと言う感覚も無い為にここでも感動した様子は無い。
記念写真を撮る為に一同が揃って並ぶ中、サクラヒヨリから少し離れた位置に家族揃って並ぶ。
「お馬さんは大きいねぇ。でも近くによると危ないから不用意に近づいたら駄目だよ」
その言葉を素直に守り、両親の後ろから離れずに子供達はついて回る。
ただ、興味はあるようで二人揃ってチラチラと馬の様子を窺うように眺めていた。
「鈴村騎手、お疲れさまでした。完璧なレースでしたね」
記念撮影後、サクラヒヨリから下馬した鈴村騎手へと近づいて、今日の騎乗を労う。
「ありがとうございます。無事に勝ててホッとしています」
鈴村騎手はそう言って笑みを浮かべた。
そして、無事に何事も無く表彰式を終えた桜川は、子供達を連れて帰宅の途につくのだった。
「やはり勝てる馬を持つのは楽しいね」
後部座席では、慣れない人混みに疲れたのか子供達は眠っている。その為、声を落として助手席の妻と会話をする。
「良かったですね。この後の秋華賞、エリザベス女王杯と昨年のミナミベレディーと同じレースを目指すのですよね?」
「ああ、ただ先程武藤調教師から話をされたのだが、サクラヒヨリはミナミベレディーより丈夫だしな、状態にもよるがもう1つレースを入れても良いかもしれない」
「あら、獲らずの何とかですか?」
「まあそうだね」
妻の言葉に思わず笑いが零れる桜川であった。
感想でも皆さんが反応されている様に、やはり妹にとって最大のライバルは姉?
人間でも同様の感じはありますよね!
トッコはまさに理不尽な最大の壁としてヒヨリの前に・・・・・・立ち塞がる事できる?
何かあっさり崩れそうな壁だよこれ、それこそ砂で作られてない?




