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73:オークス後の桜花ちゃんとレース後のヒヨリ

「おおおお! どうしちゃったの! 雨だよ、雨!」


 桜花は大学に入学してから仲良くなった友人と、札幌市の場外馬券売り場へと足を運んでいた。


 桜花はまだ1年生、それも入学して2か月未満の期間しか経過していない中で早くも友人を作っていた。そして、その友人の多くが実家が農業、畜産業などを経営している人が多く、自ずとそういった仲間であつまってしまった。そして、得てしてそういう人達の中には競馬に関係しないまでも、興味のある人も多く、そういった競馬サークルのような物が大学には存在していたのだ。


「凄いね! 3着に入ったよ!」


 桜花の横では、同じ1年生の能島未来が競馬新聞を手にモニターを見つめている。

 ただ、その手にしている馬券には馬連7-11の的中馬券がある。


「危なかったね。北川さんから雨の日にはサクラヒヨリは厳しいって聞いてなかったら軸をサクラヒヨリにしていたかも! でも、危うく2着には入りそうでドキドキした」


「ごめん、能島さん。うちの馬が勝てなくて喜ばれても複雑だわ」


「あ! ごめんね! そうだよね。つい馬券が当たって嬉しくなっちゃって」 


 能島さんの家は、岐阜県で和牛の生産を行っている牧場らしい。それなら何で態々北海道何てと思ったのだが、一度家を出て見たかったのと、北海道への憧れがあったそうだ。もっとも、競馬自体はぜんぜん詳しくは無く、偶々桜花が応援馬券購入も兼ねて日曜日に札幌の場外競馬場へ行くと言うので一緒に来たのだった。


「でも、馬かぁ、うちの大学って乗馬クラブもあるんだよね。ダイエットにもなるって言ってたし、乗馬クラブにも入ろうかなぁ。桜花ちゃんは乗馬できるんだよね?」


「うん、でも乗馬ライセンスは持ってないよ? あくまで家にいた高齢馬のお馬さん達に教えて貰っただけだから」


 小学生の頃から肌馬も引退した馬で乗馬の練習をしていた。流石に現役競走馬には騎乗の許可は貰えないが、自牧場の産駒で引退した馬を、乗馬になれるように調教する過程などでも騎乗出来るように躾けられていた。ただ、それはあくまで非公式と言ってしまえば非公式だ。ただ、態々乗馬ライセンスを取得する意味が無い為に、桜花は未だに乗馬ライセンスは未取得だった。


「馬の世話はそれこそ一年中しているし、引退したお馬さんも運動させないと病気になっちゃうからね。だから、乗馬は出来るけど、お仕事っていう感覚が強いかな? ちなみに、乗馬より引綱持って馬と散歩する方が絶対に痩せるよ!」


 大学合格後、受験で体重がモニョモニョした桜花だが、大学デビューもあるので実家へと帰ると率先してお手伝いはしている。もっとも、しないと言っても手伝わされるのだろうが。


「でも凄いよね。競走馬の牧場なんて想像もしたことが無いよ!」


 そう言ってくれる能島さんだが、能島さんの家の方が桜花の家より遥かに裕福なのだ。何と言っても能島家の畜産牧場では全国的にも有名な高級牛を生産している。


「う~ん、まあ家業だし小さい頃からそれが当たり前だったけどね、子牛の頃から知っている牛が、お肉にされるために運ばれて行くの。牛って頭が良いから運ばれて行く時に泣くんだよ? だから、否定はしないし、そういう物だって納得しているけど、色々と悩んだんだよね」


 桜花はどちらかと言うと、今どきの女の子な能島さんからそんな話を聞かされるとは思わなかった。

 もっとも、競走馬も同様に生まれた仔馬の9割はお肉になる運命である。畜産の為に生まれた訳では無い分、業が深いような気がする桜花ではあるが、そんな不幸自慢をお互いにしても意味が無い為に口にはしなかった。


「それにしても、馬連で2.7倍かあ、1000円じゃなくて10000円くらい賭けておけば良かった」


「うん、それは良く思うよね。特にレースが終わった後に」


 それにしても、10000円にするか悩んだけど、1000円にしておいてよかったぁ。


 ある意味能島さんと逆の事を思う桜花だが、その手には単勝1000円のサクラヒヨリの応援馬券があった。

※ この世界では成人は18歳、馬券の購入も18歳から出来ます。でも、現実では馬券の購入は20歳からです! 間違っても20歳未満で馬券を買わないようにね!

◆◆◆


 オークスと呼ばれるレースに出走していたヒヨリが帰って来ました。ただ、しょぼんとしているので、恐らく勝てなかったんだと思います。

 でもね、あんな雨の日にレースをやる方がおかしいのです! 考えても見てください。雨の日に運動会は開かれませんよ? 雨天順延ですよ? だから負けても仕方が無いのです。

 あんまり落ち込んでいるヒヨリが可哀そうなので、何時もより念入りにグルーミングをしてあげました。私だったら翌日にはもう負けたレースとか気にもしないのですが、ヒヨリは真面目ですよね。すっごく良い子だと思いますね!


「キュフフン」


「ブルルルン」(レース後はしっかり休まないといけませんよ)


 1レース毎に筋肉痛になる私とは違って私より丈夫なのかな? ヒヨリはレースの翌日なのにもう歩き回っています。見ている限りでは痛みがある様に見えません、やっぱり私より丈夫なのかな? ただ、レース直後なので、私と引綱でお散歩するだけ、コースを走る事はしませんがそれでも嬉しそうにしてくれます。


「ブルルルン」(ご飯は食べれてますか?)


「キュフン」


 うん、判らないですが食べれているとしましょう。食べれてないなら此処まで元気ではないでしょう。


 そんな私達の引綱をもった人達が、今後のことを話しているのでつい聞き耳が立っちゃいますね。


「サクラヒヨリは次走は秋になりますから、今週末にも北川牧場へ放牧に出発します。ミナミベレディーとは暫くお別れですね」


「オークスも終わりましたからね。ベレディーは宝塚記念を出走してからになりますから、北川牧場へ向かうのは7月に入ってからになると思います」


「ところで、うちの武藤がですね、サクラヒヨリが出発した後で構わないのでサクラフィナーレとミナミベレディーを会わせたいと、可能であれば少し一緒に走らせたり出来ないか伺って欲しいとの事で」


「はぁ、それはなんとも、馬見には一応伝えておきますが。ちなみにサクラフィナーレの新馬戦は?」


「まだ明確には決まっていなんですよ。すぐ上の姉が2頭ともGⅠ馬になってますから、プレッシャーが凄いのなんの。せめてGⅢはと思うのですが、GⅢどころかデビューすら目途が立たなくて。うちのテキの頭髪が後退しても不思議じゃないですね」


 苦笑をうかべているおじさん達ですが、サクラフィナーレですか? 聞いたことの無いお名前ですが、サクラ繋がりだとオーナーさんはヒヨリと一緒なのかな? もしかするとまた妹ですか? あ、もしかしたら牧場にいたヒカリお姉さんの子供でしょうか?


「キュフフン!」


 あの小さな仔馬がどんな姿になっているか、気になると言えば気になりますね。そんな事を思っていたら、隣を歩いているヒヨリが不満そうな声を上げます。余所事を考えていたのがバレました?


「ブヒヒヒン」(お散歩楽しいね~)


 ヒヨリの意識を他に向けないと、このままだと又もやカプッっとされちゃいますよね。あれ、地味に痛いのです。甘える甘噛みとはちょっと強さが違うのです。私はカプッを回避する為、ヒヨリの事を気にしているよ、お散歩楽しいねと語りかけ続けました。


「キュヒヒン」


「ブヒヒヒン」(ご機嫌は直りました?)


 何となくですが、ヒヨリと妹を会わせても大丈夫か心配になりますね。

 ヒヨリは甘えん坊ですから、もし妹をヒヨリの目の前で可愛がると嫉妬したり、拗ねたりしそうで怖いですね。心配しすぎかもしれませんが、せっかくの姉妹なんですから仲良くしたいよね。


 その後、お散歩が終わって、綺麗に洗って貰って、マッサージもして貰ったら自分の馬房へ戻ります。

 ただ、何故か自分の馬房に戻ったら目の前に鈴村さんが待ち構えていました。


「ブフフフン」(あれ? 鈴村さんいたの?)


 普段なら率先して調教に来るはずの鈴村さんが、調教に来ずに私の馬房で待ち構えているのは初めてです。何かあったのかと鈴村さんの表情を見ると、ちょっと悩んでいるような? 落ち込んでいるような? 何となくそんな表情でした。



※この世界では、馬券の購入は18歳から解禁されております!

 実際には(私達の住むこの世界の日本では)、馬券は20歳以上になっていますよ!

 間違っても20歳未満で馬券を買いに行かないように、ご注意願います!!!

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― 新着の感想 ―
三連複やワイドでも、あまり倍率は高くなさそうです 人気馬が上位3着だったから 単勝+複勝馬券を購入すると、投票券に『ガンバレ!』と印字される応援馬券があります
[良い点] まだこの頃は未来ちゃんの事苗字呼びなのね桜花ちゃん でも桜花ちゃんもコミュ力高いですね トッコさんとお揃い♡(*´ω`*) 生まれた仔馬の9割がお肉って凄いですよね… 勝ちあがって繁殖牝馬…
[気になる点] サブタイトルタンポポチャさん再来とありますが、 サクラヒヨリの間違いじゃないですか? [一言] いつも楽しく拝見させていただいております。 更新大変だと思いますが頑張ってください。
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