65:春の天皇賞 レース実況、その他
『さあ、各馬ゲートに納まりまして、スタートしました。2番ミナミベレディー好スタート、そのまま先頭へと進みます。その後ろに4番キタノシンセイ、今日も前からの競馬、3番手にはダンプレンこちらも好スタート、ここで先頭に立ったミナミベレディーは後続を突き放し更に差を広げていく。
これは逃げか! ミナミベレディーここで先行策ではなく逃げに入った! これには場内にどよめきが走ります。
外回り3コーナーの坂を早くも上り切り、4コーナーからの下りを利用して更に更にその差を広げていくぞ! 大逃げだ! これは大逃げだ! 2番手を走る4番キタノシンセイとの差は2馬身から3馬身、その差を更に4馬身、5馬身と開いていく!
キタノシンセイからその後ろを走ります3番手のダンプレンまでは変わらず1馬身、馬群は次第に縦長に広がっていきます。先頭から2番手キタノシンセイまですでに10馬身以上の差をつけて、1000mの通過タイムは58.4、これは速い !先頭で逃げるミナミベレディー、強引に高速レースへと持ち込んでいくがこれは作戦なのか! 4番手には・・・・・・
依然先頭はミナミベレディー、向こう正面の坂を先頭で駆け上がります。ただ、1000から2000のタイムは63.2、流石に勢いが落ちて来たのか。一時は2番手と10馬身以上拡がっていた距離は、次第に縮まって今は5馬身程。
1コーナーから2コーナーにかけて中団より後ろにつけていた各馬が早めに前へと動き始めましたが、この後の脚は残しているのか。
中団はまさに混戦模様、向こう正面では順位が目まぐるしく変化しています。
ここで2番手に上がったのは11番ファイアスピリット、これ以上の独走は危険と判断したのか、早くも中団から一気に前へと詰めていきます! そして、ファイアスピリットに合わせるようにダンプレンも上がって来た。
ファイアスピリットの1馬身後方にキタノシンセイ、その半馬身後ろにダンプレン。そこから1馬身後方にプリンセスフラウ、虎視眈々と前方を窺う。しかし、先頭のミナミベレディーとの差はいまだ3馬身はあるぞ! ここで、ミナミベレディー4コーナーへ入り一転速度を上げはじめた!
3馬身まで縮まった距離が今度は4馬身に広がっていく。ミナミベレディーに遅れて直線へと入ったファイアスピリット鞭が入る! 各馬次々と鞭が入る! 先頭を走るミナミベレディーを猛追!
後方から一気に上がって来たのは14番シニカルムール、ただその前にプリンセスフラウが猛然とスパートを掛けた!
後方の争いなど関係が無い! 先頭は私だと言う様に、ミナミベレディー独走! 2番手ファイアスピリットとの差は3馬身! ファイアスピリット鞍上の立山騎手、必死に鞭を使うが伸びない! 高速レースに脚を使わされたのか、ファイアスピリット伸びてこない、脚が止まったか! その外を7番プリンセスフラウが伸びてくる! しかし先頭はミナミベレディー、並み居るGⅠ馬達を引きつれて、後続を3馬身突き放し悠々のゴール!
2着にはなんと7番プリンセスフラウ! 3着に漸く1番人気ファイアスピリット! 今年の天皇賞は出走牝馬2頭が1着、2着を独占!
今年の牝馬は強かった! 春の天皇賞 勝ったのは2番ミナミベレディー事前の評価を覆し、桜花賞を勝った全妹に続き春の天皇賞を制しました!』
関係者控室で、馬見調教師は彼らしからぬ事に、レース途中から口をポカンと開けてモニターを見ていた。
当初から鈴村騎手とは逃げで行く事は打ち合わせをしていた。素直なベレディーであれば、最初の坂でまずは後続と距離を空ける事が出来る。そして、そのまま後続と距離を取り、最後の直線の坂勝負と思っていた。それが蓋を開けてみれば2着馬とは3馬身もの距離を離しての圧勝だった。
「・・・・・・凄い馬だな」
それこそ今更だが、ミナミベレディーという馬の凄さを漸く肌身に感じる。当初はGⅢを勝てれば御の字の馬だと思っていた。桜花賞を勝っても、エリザベス女王杯を勝っても、どこかでミナミベレディーという馬を侮っていた自分がいた。
しかし、今目の前では昨年の年度代表馬を突き放し、春の天皇賞を圧勝という形で勝利したミナミベレディーがいた。
そして、モニターから視線を戻した時、馬見調教師は自分の脚が震えている事に漸く気が付いた。
「ははは、なんだこれ、脚が震えてるぞ」
勿論のこと、馬見調教師はこの春の天皇賞を勝つつもりでミナミベレディーに調教を行っていた。宝塚記念が微妙なだけに、何とかこの春の天皇賞で勝利を掴みたいと思っていた。ただ、そう周りには口にしながらも、心の何処かでは勝てないのでは、そんな思いがあったのかもしれない。
「さて、お出迎えに行かないとな」
助手の蠣崎が傍にいなくて良かったと思った。もし横にいたらきっと指を差して大笑いされただろう。
数回、脚を上げ下げしてしっかりと地面を踏みしめた後、馬見調教師はミナミベレディーのいる検量室へと向かうのだった。
◆◆◆
「おいおい、なんだこれ洒落になってないな」
磯貝調教師は、厩舎内のテレビで春の天皇賞を観戦していた。
ミナミベレディーは先日のタンポポチャとの併せ馬の関係も有り、またタンポポチャと今後同じレースとなる可能性が無いではない為に自厩舎には関係ないレースながら時間を取っていた。
「牝馬で春の天皇賞勝利ですか、記憶にありませんね」
横では一緒にレースを見ていた調教助手が感想を述べるが、磯貝調教師の記憶にもすぐに出てこない。
「桜花賞、エリザベス女王杯、春天勝利とか、訳が判らんな。サクラヒヨリも桜花賞を勝利しているから、芝1600mでの勝利も運だけという訳ではないだろう。芝1600から3200ってなんだ?」
「これでGⅠを3勝、しかも距離の違うレースですから、牡馬だったら引く手数多ですね」
「牡馬だったらうちのタンポポチャの相手に欲しいぞ、相性も抜群だ」
磯貝調教師はそう言って笑いながらも、タンポポチャの今後のレースを考える。
「ヴィクトリアマイルの後は安田記念に行くぞ、もっともヴィクトリアマイル後の調子しだいだが、マイル路線で勝負を掛ける方が良いだろう。タンポポチャはミナミベレディーと走りたいだろうが、そこは我慢してもらおう。秋は恐らくミナミベレディーは天皇賞に出走するだろう。幸いな事にそうなるとエリザベス女王杯は回避する、流石にサクラヒヨリまであんな異常な馬では無かろう。秋はとにかくエリザベス女王杯を目標にする」
「まあ、無難な所でしょう。問題は秋はエリザベス女王杯のあとどうするかですな」
「そこはオーナーと相談だが、最優秀4歳牝馬を取るには有馬で最低でもミナミベレディーより先着する必要はあるな。もっとも、ヴィクトリア、エリザベスを勝って、ミナミベレディーがこれ以上GⅠを勝たなければが大前提だがな」
タンポポチャにとってなかなか厳しい年になりそうだと思いながら、よく考えればマイラー路線を走るタンポポチャにとって、ミナミベレディーと今後争うレースが殆ど無い事に感謝したい気分になった。
「エリザベス女王杯とマイルチャンピオンがもう少し間があれば両方走らせることも出来たんですがね」
「大阪杯で牡馬と2000以上を争うのは厳しいと痛感したからな」
競馬に絶対はないとはいえ、勝ちを計算できるレースがある事に感謝しよう。磯貝調教師はそんな事を思いながらもまずは来週のヴィクトリアマイルを勝ってGⅠ4勝とする事に全力を注ぐのだった。
距離の表記? を後続まで10馬身から2番手まで10馬身に変更しました。
ご指摘いただいて変えてみたのですが、これで大逃げになったでしょうか?
ちなみに、ソウテンノソラさんの基になった2冠のお馬さんってどれくらい差をつけたのでしょう?
私が見たVTRで何馬身とか無かったんですよね。シズカナル・・・さんは悲劇的な印象で候補から外しちゃいました。でも、悲劇で終わった最後のレース、VTRで見たんですが凄かったです。




