64:春の天皇賞 後編
いつも通りに綺麗なスタートが切れたかな?
「ベレディー、最高!」
鈴村さんがいつもの様にスタートを褒めてくれます。
そして、私はスタート直後の坂をタンポポチャさん走法で駆け上がります。ただ、他のお馬さん達はスタート直後の坂に勢いがつかないみたいで、私は先頭に立ちました。
「うん、予定通り。このまま下りの坂で更に突き放すよ」
3コーナーを登り切るまではタンポポチャさん走法でチャッチャカとした勢いで駆け上がります。4コーナーからの下りはストライド走法へと切り替えて普段のノビノビとした走りで更に後ろを突き放しました。
これは、事前の予定通りで、他のお馬さん達が上り坂で勢いがつかないうちに、一気に後続との差を広げるのです。そして、最初の直線に入った時にチラっと見た所、2番手のお馬さんとは2馬身以上は離れていました。その2番手のお馬さんから3番手のお馬さんもちょっと離れている様に見えたから、これで大逃げになったのかな?
今回は、出来るだけ追い込んでくるお馬さんの地力を減らす計画なんです。
今日のレース以外でも長距離のレースを色々見た? 聞いた? そんな中で結構前に同じように長い距離を走って勝利したセイテンノソラという逃げ馬さんが、大逃げをしてそのまま勝っちゃったレースが印象に残っているのです。
「このまま向こう正面まで気を抜かずに行くよ。ただ、ゴール前のこの坂は要注意だからね。向こう正面では速度を落として一旦息を入れるからね」
鈴村さんから細かな指示が出るんですが、普通のお馬さんだと意味が解らないと思うんです。
ただ、とにかくタッタカ気分良く走っているんですが、後ろのお馬さん達は全然追いかけて来ません。
うわぁ、すっごく気分が良いよ! 何か楽しくなってきちゃった!
観客席前の直線を一人でタッタカ走っていると、ウワーっていう歓声が響き渡ります。
その歓声を背中に受けて走って行くと、確かにゴール前に結構急な登り坂があります。最後に走って来て疲れた状態でこの坂って結構酷いですね。お馬さんに優しく無いですよ?
そんな事を思いながら1コーナーへと入っていくのですが、驚いたことに後ろにいたはずのお馬さんが更に後方にいます。
もしかして気分が良いのでハイペースになっちゃいました?
「うん、予定通りだけど、ベレディー、まだ距離があるから無理しちゃ駄目だよ」
う~んと、無理とは何でしょうと言いたいのですが、とにかく一人で独走状態です。このままゴール出来たら凄いですよね。そんな事を思いながら、1コーナーから2コーナーに入って、向こう正面の直線に入る前にカーブを利用して後ろをチラリと見ると、後ろのお馬さん達がちょっと慌ただしくなっています?
何となく後ろのお馬さん達が少し前に出てきているみたいです。ただ、2番手を走るお馬さんとはまだ結構な距離があるかな。
「この直線でスタートしてすぐの坂があるけど、ここは流して良いからね。最後の4コーナーの下りからスパートするから、今は無理せず脚を休ませるんだよ」
直線に入ると、軽く鈴村さんが手綱をクンクンと引きます。私は速度を緩めて直線を走りますが、不意に変な事が気になっちゃいました。
あれ? そういえばスタートしたゲートって廻って来るまでに引っ込めるのね。もし不具合が出て引っ込められなくなったら大変よね。開いたゲートの間を擦り抜けていく障害物競争?
そんな事を考えて走っていたら、あっという間に気が付けば上りの坂道に差し掛かります。
上りの坂ってやっぱりノビノビと駆け上がれないから嫌い!
どうしても速度が落ちちゃうんですよね。小さく小刻みに走らないと、足を思いっきり伸ばして走るにはつっかえると言うか、何と言いますか。そして3コーナーへと上って漸く緩やかな下りに入りました。
ただ、この坂を登っている所で、一気に疲れと言うか、呼吸が厳しくなってきました。
むぅ、坂ってやっぱり疲れるんですよね。
コーナーに入ったのでチラっと後ろを見ると、直線の坂もあって速度が落ちていた事で後ろのお馬さんが距離を詰めて来ていました。ただ、最初に後ろにいたお馬さんと違いますね。私は予定通りこっから下り坂で速度を上げていきます。
予定通りなんですけど、思いっきり怠いです。
馬って口から呼吸が出来ないんですよね! 息が苦しいので必死に鼻で息をするんですが、口で呼吸出来たらどれだけ楽なんでしょう。
「うん、いい感じだよ! まだ後ろと5馬身は差があるよ! 最後の直線頑張って!」
4コーナーを廻って加速をつけたまま最後の直線へと入ります。すると、鞍上の鈴村さんが後方を見て確認したのか、後ろのお馬さんとの距離を教えてくれます。
あのね、でもね、私、結構疲れて来たのよ?
一生懸命楽しい事とか、美味しい氷砂糖を思い浮かべたりして苦しさを誤魔化します。
最初は他のお馬さんを置き去りにして、一頭だけで気分よく走れていたからすっごく楽しかったのに。
でも、よく考えたらやっぱり距離が長いんですよね。脚よりも先に息が切れて来ちゃいました。今までは脚が痛くなったりとかあったんですが、これは初めての事です。
呼吸法の問題でしょうか? スウスウ、ハッハでしたっけ? 長距離を走る時の呼吸法って。
兎に角、ゴールしちゃえば楽になるのです。早く楽になりたくて最後の距離を必死に走ります。でもね、最後の最後に坂があるんですよ!
「ベレディー! ピッチ走法!」
鈴村さんの指示を受けて、咄嗟に走り方をタンポポチャさん走法へと変更しました。
ちょっとぼ~っと無になってました。他のお馬さんの様子何て気にしてられないのです。とにかくゴール目指して駆け抜けるのです。
「ベレディー! 頑張って! あと少しだよ!」
鈴村さんの声だけを聴きながら、私は必死に足を動かして、どうにかゴールを駆け抜けました。
終わったよ~、ゴールだぁ。もう持久走は嫌! 絶対に嫌!
ゴールを通過した時に湧いて来た思いは、とにかく終わった事への安堵です。
当初の走り始めの気分何て、あっという間にどっかへ飛んでっちゃいました。
何か楽しくなってきちゃったですか? そんなこと言うのはどこのおバカさんですか?
そんな事を言う前に、まずは長距離を走ってみてから言ってください!
「やった! 勝ったよ! 圧勝だよ! ベレディー凄い!」
鈴村さんが何か叫んでます。でも、ブンブンと頭を振ってお怒りモードの私は全然その声が聞こえていませんでした。頭をしばらくブンブンした御蔭で少し気持ちが落ち着いて、漸く鈴村さんの声が聞こえました。
「ブルルルルン」(鈴村さん何か言ってた?)
疲れてたのと、お怒りモードでぜんぜん聞こえていませんでしたよ。
「ベレディー、お疲れ様。頑張ったね!」
「ブヒヒヒーン」(疲れたの~、もう長距離は嫌~)
何度か深呼吸をして、漸く呼吸が整ってきたんですが、今度は疲労がどっと襲いかかってきました。
「ブフフフン」(もう長距離は止めようね?)
鈴村さんにそうお願いをしていますが、そういえば勝負はどうなったんでしょうか?
恐らく鈴村さんが何か言ってたんでしょうけど、聞き逃しちゃいました。
鈴村さんが首をトントンと優しく労わる様に叩いてくれます。そのリズムを受けながら、私は検量室へと向かいました。
「ほら、綺麗にして貰ったら表彰式だからね」
おおお? 検量室へと入ると1着のお馬さんの枠が開いていました。そして、周囲から鈴村さんへ祝福の声が掛けられていきます。
「ブルルン」(勝ったの?)
何か実感が欠片も無い勝利って初めてです。ただただ、疲れたって思いだけしか残っていませんでした。
「今日は桜花ちゃんが来れてないから残念だね」
「キュフン」(桜花ちゃんいないんだ)
ちょっとしょぼんとしながら、私は検量の枠へと入るのでした。
ダイヤモンドステークス勝利のプリンセスフラウさん、牝馬で見たら3200mでは勝っているお馬さんいても、3400mからは居ないのですね。そっかぁ、凄いんだって思わず思っちゃいました。
あと、トカチマジックは出走馬から名前を削除しました!
勢いで投稿して見直しする時間が無いと色々と・・・・・・><
天皇賞春の実況ないと、今回は後続馬の動きが全然判らないですねw




