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39:秋華賞 後編

 思ってもみなかったタンポポチャさんとの併走です。


 何となく昨年のレースでの記憶が蘇ります。ただ、そんな事より後半の直線ではタンポポチャさんと同じ場所からのスタートだと絶対に負けますよ? 安全距離のリードが絶対に要ると思うのです。


「う、勝ちに行くなら前に出ないとなのに」


 鞍上の鈴村さんが思わず零してしまった一言、なんと私の外側に早くも後方から1頭前に進み出てきました。その為、3頭で並んで直線を進むような形になっています。ただ、そのせいで私は外へと持ち出して前に進むことが出来なくなっていました。


「早く前に行くなら行きなさいよ!」


 思わず鈴村さんが横のお馬さんというより、その馬に騎乗している騎手の人に向かって言ったのでしょう。もっとも、相手には聞こえていないでしょうけどね。ただ、確かに邪魔ですね。


「こうなったら3コーナーから4コーナーのカーブでロングスパートしかないわ。べレディー、頑張ろうね!」


 その間にもレースは3コーナーへと向かっています。ただ、この時私はタンポポチャさんが少し下がって私の後方へと回るのが判りました。


 前に行くんじゃなくて、何で下がっていくの?


 そう思いながらも、内側が開いたので思わず私は更に内側へと入っちゃいました。

 そして、気がつけば外側のお馬さんの更に外側を進むタンポポチャさんの姿が視界に・・・?


 あれ? タンポポチャさんがお外側にワープした?


 内側にいたタンポポチャさんがいつの間にか外側に、その事に頭が混乱しています。ただ、そのままコーナーへと差し掛かりますが、鈴村さんの思うようにコーナーから前に行こうにもお馬さんが邪魔です。


「拙い! 思いっきり馬群に沈んじゃった!」


 そんな私に構うことなく、3コーナーから4コーナーへとレースは進みます。このカーブって何か下り坂になっているのか加速がつくのです。そのお陰で私も含め、みんなの走る速度が更に上がります。

 私はその感覚を信じて最内が開くことを信じて前の状態を見ながら必死に走りました。


 そんな時、ふと前の馬2頭の間が広がりました。外のお馬さんが直線へ入る手前で少し外へとズレたのです。鈴村さんも気がついたみたいで手綱を扱きます。私は条件反射でとっさにその隙間へと走りこみました。


「やった! 流石はべレディーの反応速度!」


 そのまま直線に入ると、目の前には綺麗に開いた空間が広がっています。

 ただ、先頭を走るお馬さんよりも存在感のあるタンポポチャさんの後姿が見えました。


「行くよ!」


 タンポポチャさんが前を行きます。そのすぐ後ろを私が進みます。ただ、直線に入った瞬間から、私は手前を変えてかつてのタンポポチャさんと同じように追い込み馬のリズムを刻みます。


「がんばれ! べレディー、がんばれ~!」


 私のリズムに合わせて鈴村さんの手が動きます。


 先頭の馬はどんどんと迫って来ます。ただ、タンポポチャさんの馬体に半馬身くらいになった時、まるで私が来るのを待っていたかのようにタンポポチャさんの速度がもう一段階跳ね上がりました。


 うきゃ~~~! なにそれ!


 私も必死で蹴り脚に力をいれ、体を上下ではなく前後に、頭を大きく上げ下げしてタンポポチャさんを追いかけます。

 それでも、タンポポチャさんとの1馬身の差を縮めることが出来ません。


 うわ~~~ん、何で追いつけないの~!


 心の中で必死に叫びながら、前を駆けていくタンポポチャさんを追いかけます。

 その間にも必死にタンポポチャさんの足音を聞き、リズムを聞き取ろうと耳をそばだてました。


 少し、ほんの少しですが近づいてきた? 思わずそう思えた瞬間に私はゴールを駆け抜けたことを知りました。鈴村さんが手綱を引き、私に速度を落とすように指示します。


「べレディー、お疲れ様! 頑張ったね、ありがとうね!」


「ブヒヒーン」(負けちゃった~)


 完敗です。全然追いつけませんでした。

 私がしょぼんとしていると、鈴村さんが何か動揺する気配が感じられます。


「ブフン?」(なあに?)


 そう思って顔を上げると、目の前にタンポポチャさんの大きなお顔がありました。


 おおお! 吃驚した。突然目の前にお馬さんのドアップがあるのはビビリますよ。


「ブフフーン」(タンポポチャさん~)


 思わず頭でタンポポチャさんの首にスリスリします。

 すると、タンポポチャさんが私の首をハムハムしてくれました。


 レース前はあんなにツンツンなんですが、レースが終わると優しいですよね。これがきっとデレですね。


「よお、しっかしミナミベレディーとは仲がいいよな。べつに同じ厩舎というわけじゃないのに、不思議なもんだな」


「あ、鷹騎手、2冠おめでとうございます」


「ああ、ありがとう。そっちも秋華賞2着おめでとう」


「・・・・・・嫌味ですか?」


 鈴村さんがタンポポチャさんの騎手さんとお話ししています。

 勝手に戻るわけにもいかないので、私もタンポポチャさんをハムハムする事にしました。


 ただ、前ほどじゃないですが、今回のレースも疲れましたね。ただ、太腿に激痛が走るとかは無いので、少しは成長したのでしょうか? 私以上にタンポポチャさんが成長していて驚きなのですが。


「さて、ご挨拶も終わっただろ。いくぞ」


 タンポポチャさんが手綱を引かれて私から離れます。

 若干不機嫌になったみたいですが、おとなしく検量室へと向かいました。


「べレディー、私達もいこうか」


 鈴村さんに手綱を引かれ、私もタンポポチャさんの後を追いかけていきます。

 若干急いでいるように見えたのは、時々立ち止まって此方を見るタンポポチャさんにせかされた訳じゃないですよ?


◆◆◆


『各馬一斉にスタートしました。5番ファニーファニー好スタート、その外12番ミナミベレディーも安定の好スタート、しかし9番アオゾラノユメも同様に好スタートで壁になり内に入れないか。1コーナーに入り先頭は5番ファニーファニー、そのすぐ内に2番サンダーコーン、そのすぐ後ろにはトッポリライダー・・・・・・。

 中団8頭目に桜花賞馬12番ミナミベレディーがいた。先行巧者が今日は中団からのレース、そしてこのすぐ内に1番、オークス馬、そしてこのレース1番人気のタンポポチャが追走しています。

 ここで先頭のファニーファニー1000mの通過タイムは58秒6、これは早いレースだ! 先行馬のファニーファニーこの勢いで持つのか! まさに後方の馬を突き放す勢いだ! しかし後続の馬も全体的に縦長になりながらも付いて来ている。

 おっと、ここで鷹騎手が手綱を引いてタンポポチャを外へと出します。そして各馬そのまま3コーナーから4コーナーへ。

 4コーナー出口で早くも各馬速度を上げ横へと広がっていく。ここで内を抜けて来たのは12番ミナミベレディー、サンダーコーン、トッポリライダーの間を抜け更に伸びていく。そのすぐ前にタンポポチャ、更に後方大外からは15番インスタグラマーが追い上げてくる。

 タンポポチャ、ミナミベレディーが伸びる! ファニーファニー必死に粘る。ただ勢いはタンポポチャだ! タンポポチャがファニーファニーを交わし先頭に立った! タンポポチャだ、タンポポチャ2冠達成は目前だ!

 2冠の称号は渡さない、私のものだとばかりにミナミベレディーが追い上げてくる。しかし、届かない! 届かない! タンポポチャ更に伸びる! ミナミベレディー必死に追うが、勝ったのはタンポポチャだ!』


 馬見はレースを見ながら終始無言で放送を見ていた。そして、レースが終わった瞬間、いつの間にか握り締めていた拳に気がついて慌てて力を抜いた。


「上出来じゃないですか? まさかの2着ですし、悪くない結果です」


 傍らにいる蠣崎の言葉に馬見も頷いた。


「怪我もなさそうだ、中々に激しいレースだったがレース後の様子を見る限りでは体調も良さそうだな」


 レース終了後の映像で、当たり前にカメラは勝利を飾ったタンポポチャを追いかける。しかし、その後タンポポチャとべレディーが仲良くグルーミングをはじめると思わず馬見の表情からは苦笑がもれた。


「こっちは必死に勝たせようとしているんだがなあ」


 勝ち負けなんか関係なさそうな2頭の様子には、今も続くテレビ番組の中で解説者もコメントに困っていた。もっとも、すでに競馬関係者達の中ではべレディーとタンポポチャが仲が良い事は噂として出回り始めてはいたのだが。


 

負けちゃいました。

最初から、勝つための要素が大きく不足していたのですw

トッコはある意味GⅢ、GⅡはたぶん勝てるけど、それ以上のGⅠは?

なお馬さんですから><


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― 新着の感想 ―
[良い点] この時鷹騎手に思いっきり蓋されていますね…流石ベテラン騎手だ しかしトッコさん反応速度が早い 自分でもシッカリ考えて隙間探していましたもんね この少しの隙間に潜り込めなかったら危なかっただ…
[一言] 1枠だったらクビ差くらいの接戦になったかもしれないけど、京都2000の外枠では今はこれが限界かな。 むしろよく2着にもってこれたなあと。 さて次走ですが、エリ女なら同じ京都だけど外回り22…
[一言] G1レースとなるとトップジョッキーと比べて鈴村さんも余裕が無い感じですね~ ともあれタンポポチャG13勝目! 強いですね、さすがトッコのライバル(?) 走った後のベレディとタンポポのイチャイ…
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