38:秋華賞 前編
『秋の彩が深くなってきます、第※※回 3歳牝馬限定芝2000mで競われます牝馬3冠レース最後の一戦秋華賞がここ京都競馬場で行われようとしています。芝の状態は良、まさに絶好のコンディションの下、選りすぐりの乙女達16頭が・・・・・・』
ラジオからは秋華賞の解説が始まっていた。
大南辺は珍しく妻と共にパドックへとやって来ていた。
「馬を見ていても、どれが良いかなんて判らないわね」
引綱に引かれてパドックを廻る馬達を眺めながら、妻は素直な感想を述べる。
「まあ良い馬が必ず勝つとも限らないしな。私だってそれが判ればもっと競馬で儲けている」
自慢にならない事を自慢気に言う夫に内心呆れながらも、目の前の馬達の様子を眺めていく。
馬自体の大きさも色艶も違うのを何となく眺めていると、すぐ前をミナミベレディーが通り過ぎていく。
「他のお馬さんと比べても体つきは大きいわね。だからと言って有利という訳ではないのでしょ?」
「ん? ああ、ミナミベレディーか。そうだね、マラソンなどでは小柄な人が有利だし、短距離走だと体の大きな人が有利だろう。馬だって体つきで短距離が得意だったり、長距離が得意だったりする」
夫の説明を聞き納得するが、では今回はどう言った馬が良いのかは判らないらしい。
「あら、あのお馬さんはベレディーを意識しているのね。チラチラ視線を送っているわ」
妻の言葉に視線を追えば、タンポポチャの姿があった。
「馬見調教師によれば仲良しらしいぞ。競走馬どうしが仲が良いと言うのはあまり聞いた事が無いがね。ましてや牝馬同士だ」
そう言って笑う夫を見ながら、道子はなんとなく2頭の様子を窺ってしまうのだった。
「さて、そろそろ馬主席へ移動しようか。そろそろ騎手達が出て来て停止がかかる頃だ」
「そう、判ったわ」
夫に促されてパドックを後にする。そして馬主席へと向かえば、そこは今日も華やいでいた。
「十勝川さんは今日もみえないのね」
「今年の3歳牝馬クラシックでは十勝川さんの持ち馬は出ないからな。GⅢやGⅡならお会いできるかもしれないが、牡馬であれば良い馬をお持ちだな」
「そうなのね」
残念そうに馬主席を見渡す妻を余所に、大南辺はレースへと意識を切り替えていくのだった。もっとも、ただ緊張がピークになってきているだけとも言うのだが。
◆◆◆
初めての京都競馬場ではあるが、トッコはどこの競馬場も大きく変わらないなぁと思いながら運ばれ、レース間近になる。相変わらずの凄い人に驚きながら、他の馬に比べのんびりとパドックへ入っていった。
そんなパドックでは、これまたいつもの様にぐるぐると回りながら、久しぶりに会うタンポポチャさんの様子を観察していたりする。転生馬疑惑がトッコの中にメラメラと燃え上がっているのだ。
「ブフフフン」(パッと見では判りませんね)
タンポポチャさんの前走での映像では、前半と後半で明らかに走り方のリズムが変わっていたのです。映像は見られませんでしたが、走るリズムは何となく判りました。
タンポポチャさんのみの映像があれば良かったのになぁ。スタートから最後までの映像が欲しいです。
枠番の関係で、真っ直ぐ見る事が出来ない為、横目でチラ見しているのですがタンポポチャさんには思いっきりバレてる? そもそもタンポポチャさんの視線がすごく強いのです。突き刺さるのです。
「ベレディー、珍しく落ち着きが無いね。緊張しているのかな?」
引綱を持っている厩務員さんは、そう言って私の首を宥める様にトントンします。
レースで緊張している訳じゃ無くって、タンポポチャさんの視線が気になるだけなのですが、タンポポチャさんはタンポポチャさんで私の視線に気が付いて何か気合抜群? 私達って永遠のライバルとか、目の中に炎が出たりとかする関係なのでしょうか?
「ブルルルン?」(前世は人間ですか?)
タンポポチャさんをチラ見しながら問いかけてみますが、うん、そもそもお馬さん同士で会話が成立しないですよね。私もお馬さん語は理解できませんけど、もしかしたら本当のお馬さん同士だったら会話できるのでしょうか?
「ブヒヒーン」
・・・・・・タンポポチャさんが私の問いかけに答えてくれたみたいなんですが、やっぱり言葉が判んないですね。
疑惑は疑惑のままに、鈴村さんがやって来て私に騎乗します。
うん、前の大きなレースでは緊張して大変でしたけど・・・・・・今回もやっぱり緊張しているっぽいです。誤魔化せてはいるのでしょうけど、手や足が微妙に震えてますよ? 鞍上にいると逆に良く判ります。
でも、前回と同じくらいには冷静っぽいかな?
「ブフン?」(大丈夫?)
鈴村さんを見上げると、苦笑を浮かべて私の首を撫でてくれます。少しは落ち着いたかな?
「いつもありがとうね」
鈴村さんはそう言って、手綱を握って本馬場に入ります。
引綱を外されて、タッタカと走ってゲートへ向かうのですが、今回はゲート前にいる観客の人達が近いのでちょっと吃驚ですね。
「ブヒヒン」(見られてますね~)
「ベレディー、観客は気にせず集中しよ」
観客を逆に見渡していると、鈴村さんに心配されちゃいました。
そして、改めてゲート前を見るとタンポポチャさんがジッとこっちを見ています。
「ブヒヒーン」(頑張ろうね~)
そうやって挨拶すると、フンッって頭を振ってトコトコ歩き出しちゃいました。
こう言うのを何って言いましたっけ? えっと・・・・・・あ、ツンデレさんですね! デレがまだですけどね!
ぼ~っと考えていたら、突然ファンファーレが鳴り響いて音楽が奏でられます。ただ、突然は心臓に悪いですよ? 観客席からも手拍子とかで凄い音で、一部のお馬さんが情緒不安定に。ただ、タンポポチャさんを含め、数頭のお馬さんは泰然としていますから、多分強いお馬さんは動じないのかも。
そして順繰りにゲートへお馬さんが入っていきます。
タンポポチャさんも早めにゲートに入るのかと思ったら、何故かちょっと後に回されて、私は最後の方なのに早めにゲートに入りました。入る順番って決まってないのかな? 私はゲートを苦にしないので構わないのですけど。
「ベレディー、最後の馬が入るよ」
私もいつもの様に横目で係員さんの動きを見て、ゲートを係員さんが潜る前くらいにグッと走る準備をします。
ガシャン!
目の前で、これも何時もの様にゲートが開きました。そして、私は今日もゲートが開くのと同時にスススと前に駆け出していきました。
「ナイス! いいスタートだよ!」
いつもの様に好スタートが切れて、私はこのまま前に進もうと思ったのです。
そしたら私の内側にファニーファニーさんが同じように好スタートを切っているのが見えました。
「内に少しでも入るよ! すぐコーナーだからね!」
事前に言われていたように内に入ろうとします。
ただ、そう思っている間にも、あっという間にコーナーに差し掛かって右回りで各お馬さんが団子状態になって動きました。
うわ! 怖いですよ! 団子です、団子状態の集団が勢いつけてコーナーへと入るのです。
騎手の人が手綱を引いているお馬さんがいて、前の馬との間隔を空けようとしているのが見えます。前の方のお馬さんは手綱を扱いて前に行くようにしているのも見えます。ただ、速度が付いてコーナーを走るという事は、外に膨らみやすくなるんですよ。
ぶつからないで済んでいるのは、お馬さんの本能と騎手の人の手綱捌きでしょうか?
ただ、こうなると前に行くなんて難しくて、私は段々と位置が後ろになって来ました。
「むぅ、8番手くらいか、前正面であと4頭くらいは躱したいけど、最初は抑えて行くよ」
想定していた展開の一つではあるのですが、恐らく厳しい展開になりそうです。コーナーを回り切ってゴールと反対側の直線へ入った時に、そういえばタンポポチャさんはと探してみました。
あれ?
私は真ん中よりやや後ろに位置しているのですが、前に7頭のお馬さんが見えるのですが、その中にタンポポチャさんのお姿が無いです?
あれ? そう思ってふと横を見ると、なんと真横にタンポポチャさんがいらっしゃいました!
最内の1番で先行するんじゃなかったのです? あれ? 何でここにいらっしゃるのでしょう。
なんとか金曜日まで更新出来た~!
明日も頑張る! トッコじゃないけど私は週末に書き溜め出来るかが勝負!




