【エープリール企画?】トッコが〇〇〇になっちゃった まさかの3話目
ヒヨリと腕を組んで? 組まれて? とにかく食券を手にカウンターまでやって来ると、カウンターの中から声が掛かりました。
「おや、ヒヨリちゃん今日はお姉ちゃんと一緒にお食事かい? 良かったねえ」
「キュフフン」
おばちゃんの声にヒヨリが返事をしました。でも、おばちゃんはヒヨリの言葉が解るのでしょうか? 私だと嘶きにしか聞こえないのですが。おばちゃんはヒヨリの嘶きに対して違和感は無いみたいです。
私が首を傾げている間にも、カウンターには注文している料理が次々と並んでいきます。些細な疑問など吹っ飛んで、私の視線はカウンターの上に釘付けです。
うん、お口の中に涎が溜まっていきますね! どれもすっごく美味しそうなのです。
これを食べずに目を覚ますなどあっては成らない所業です。そもそも、これだけ美味しそうな料理を目にして、食べられなかったら私はのた打ち回りますよ? 暴れますよ? 夢だって容赦しませんよ?
私の内心の葛藤を他所に、おばちゃんはヒヨリに話しかけます。仲良しさんなのでしょうか?
「そういえば、フィナーレちゃんは一緒じゃないのかい?」
「キュヒン」
「そうかいそうかい。お姉ちゃんと二人でデートなら仕方がないねぇ。ほら、御馳走だよ。美味しく食べてくれね」
ヒヨリの返事におばちゃんが返答を返したので、私は思わずヒヨリとおばちゃんを交互に見ちゃいました。これは、言葉がやっぱり解っているんでしょうか? それとも、雰囲気で話をしているのでしょうか?
ヒヨリは私の事を不思議そうに見て、目の前に置かれたトレイを指さします。そして、自分の分を手にしてテーブルへと促しました。
「えっと、ありがとうございます?」
「美味しく食べとくれ」
おばちゃんにお礼を言うのですが、おばちゃんは私が言葉を話せる事に驚くことなく返事をしてくれました。
「う~んと、やっぱり夢だからでしょうか?」
訳の分からない状況なのですが、今一番重要なのは目の前にある御馳走を食べる事です!
ヒヨリに促されるままに、目の前にあるトレイを手にして手近なテーブルに座る事にしました。
私が4人掛けのテーブルに座ると、向かい側に座ると思っていたヒヨリは横に並んで座ります。
「ヒヨリ? お向かいの方がお話がしやすいよ?」
「キュルルルン」
うん、何を言っているのかわかりませんね。ただ、ヒヨリはお隣から動く様子は欠片もありません。まあ、隣でも問題はないので私はトレイに並んだ料理に向き合います。
「これがリンゴとバナナとラズベリーの蜂蜜掛けですね。うん、この蜂蜜が輝いているように見えるのです。思いっきり美味しそうですね。バナナジュースも何という魅惑的な色合いなのでしょう。この漂ってくる香りも食欲を刺激します! そして、この何とも言えない色合いの魅惑的なメロン! この橙色が私を悩殺してきます」
思わず目の前に置かれている食べ物に集中していると、ヒヨリが思いっきり私の腕を引っ張ってきます。
「うんうん、ヒヨリの事もちゃんと気にしていますよ。さあ、目が覚める前に食べましょうね」
「キュフフフン」
なんかヒヨリが呆れた様子で私の事を見ています。ただですね、無視しちゃったりするとカプッてされるんですよね。あれ? でも、今は人の姿をしているので大丈夫なんでしょうか? そんな事を思いながらヒヨリのプレートを見ると、ニンジンのマリネとメロンが置かれています。
うん、ニンジンのマリネも美味しそうではあるんですが、やはり此処は甘いものですよね? せっかく人間の姿になったのですから、食べるなら普段食べられないものから行くべきでしょう。
「さあ、いただきましょう」
口ではそう言いながらも、私はキョロキョロして周りを気にしています。いざ口にしようとしたらボールが飛んできたり、誰かが乱入してきたりで食べられないのが怖いのです。
「ずずずずず、美味しいです!」
恐る恐るバナナジュースに刺さったストローに口を付けます。口の中に広がるバナナ特有の甘さと味、何とも至福の空間が口の中に広がります。
「ああ、良かった。食べられました! 美味しいのです。甘くて美味しくて絶品です!」
「キュヒヒン」
あまりの感動に思わず涙が込み上げてきます。初めからきっと食べれないと心のどこかで思い込んでいたのです。それが、口の中に広がる甘さと、思い出……無いですね? 前世でバナナジュースって飲んだ事あったのでしょうか? ぜんぜん記憶の欠片にもありません。
「あ、何か感動が薄れちゃいました」
「キュフフフフン」
ヒヨリが何か言っていますが、今は次に移りましょう。私はメインのメロンを後回しにして、リンゴとバナナとラズベリーの蜂蜜掛けの攻略を開始することにしました。最悪メロンは現実でも食べられるかもしれません。でも、この蜂蜜掛けはまず難しいと思うのです。
「蜂蜜の甘さが総てを引き立ててくれると思うのです!」
きっとそこには至福の感動が待ち構えているはずです。
私は横に添えられていたスプーンを手に、恐る恐るリンゴとバナナとラズベリーの蜂蜜掛けの攻略を開始しようとした時、食堂の扉が大きな音を立てて開きました!
バタン!
「キュフン!」
あまりの音の大きさに、隣で食事を始めていたヒヨリが嘶きます。私も音の発生源へと視線を向けるのですが、誰かが食堂に飛び込んできたみたいです。ただ、逆光になっていて誰かは分かりません。でも、思いっきり嫌な予感がします。
「あ! いた! べレディー、もう調教の時間だって言うのに脱走して駄目じゃない!」
ん? あ、この声は鈴村さんです。でもですね、まだ目の前の御馳走を食べきっていないのです。
カプカプカプ!!!
私は必死に目の前にあるリンゴとバナナとラズベリーの蜂蜜掛けを口の中に詰め込み始めます。味ですか? そんなの良く解りませんよ? でも、まずは食べないと絶対に無くなるんです!
「キュフフン?」
横ではヒヨリが何か言っています。でも、目の前の食事に私は集中します。
「あああああ~~~、せっかくレースに向けて減量してたのに!」
モグモグモグ、モグモグモグ
私は必死にお口の中の物を咀嚼します。此処で目覚めちゃったら食べ損なっちゃいます。
「べレディー! 来週レースなんだよ!」
鈴村さんが何か言っていますが、私はお口の中の物をお腹に入れるのに必死なのです。お馬さんの時は鼻で息をしていたので気にならなかったのですが、今の姿だと口いっぱいに物を入れると息が苦しいのです。
「はあ、仕方がないなあ。ほら、ゆっくり食べなさい」
鈴村さんが私の横に来て頭を撫でてくれます。私はモゴモゴ食べながら鈴村さんを見るのですが、此処で変なものが視線の先にありました。
……ん? あれ? 今机の上に置いたゲームのコントローラーみたいな物は何なのですか? なんか違和感を感じますよ? あれ? 何でそんな物を持っているのです?
疑問符が頭の中に広がりますが、まずは食事に集中します。
漸くお口の中の物を食べ終えて、私の視線が向かうのはリンゴとバナナとラズベリーの蜂蜜掛けが入っていた器です。まだまだ蜂蜜さんが残っているんです。あの蜂蜜さんを舐めたら駄目でしょうか? あまりに急いで食べたので味を楽しめなかったのです。
そして、更に視線が向かう先はまだ手付かずのメロン様。
視線をメロン様から外して鈴村さんを見ます。鈴村さんも私の視線に気が付いてメロン様に視線を向けました。
「…………」
「…………」
私と鈴村さんの視線が合わさって、無言で見つめあっちゃいました。
「キュフフフン」
楽しそうなヒヨリの嘶きが聞こえてそちらを見ると、ヒヨリが嬉しそうにメロンを口にしていたのでした。
気が付いたら3年目のエイプリルフールがやって来ましたw
どうしようかな? って考えたんですけど、せっかくなので続きをカキカキ。
楽しんで頂ければ幸いです><




