133:アメリカジョッキークラブの実況と競馬好きな人達?
祐一は大学のサークル活動の中で、何度か競馬場へと訪れていた。競馬という物は知っていたが、試験問題や履修する科目の情報を欲してサークルに入ると、先輩達と共に自分も競馬場やウィンズへと行くようになった。
競馬は馬を介する為、不思議と博打という意識が薄い。その為、サークルメンバーの女子学生達も一緒に競馬場へとやって来て馬の写真などを撮影していたりして喜んでいる。
「やっぱり乗馬クラブに入ろうかなぁ」
同期生の山田さんが加藤さんとそんな話をしている。
大学内に乗馬が出来るようなクラブは無い為、民間の乗馬クラブへと加入しようかなとゼミでも良く話をしている。ただ、その話をし始めてすでに3か月近い時間が過ぎており、実際に乗馬クラブに入るのかは怪しい所だと思う。
「入会金で10万、年会費や、ヘルメット、プロテクター、結構お金かかるんでしょ? 憧れるけど私は無理だなぁ」
山田さんの言葉に、加藤さんがそう答えると、山田さんは明らかにテンションが下がるのが判った。
「うちそんなに裕福じゃ無いし、アルバイト代もなんやかんやで消えちゃってるもんね」
「だよね、だからさ、万馬券を狙おう」
何か次第に不穏な会話に向かっているが、これも何時もの事だった。そもそも、うちのクラブでは競馬の軍資金は1000円と決められている。その1000円で如何に楽しむかを前提にしている為、人によっては午前中には軍資金が消えてしまう。もっとも、馬券を的中させて軍資金を増やしている人も時にはいるのだが。
「山田さんは今日はまだ馬券買ってなかったでしょ? メインレースにするの?」
「うん、1番人気のサクラヒヨリが飛べば万馬券になりそうだよね? だからメインで勝負するの。どれが良いかなぁ?」
サークルで購入している競馬新聞を二人で顔を突き合わせて、あ~でもない、こ~でもないと話をしている。
「内藤さんはどうするの? やっぱりサクラヒヨリの単勝?」
祐一が漠然とその会話を聞いていると、それに気が付いた加藤さんが祐一へと視線を向け尋ねて来た。
「そうだね。やっぱりここはサクラヒヨリの単勝かな。AJCCは牝馬の勝率が悪いから1番人気でも単勝4.2倍ついているからね」
「内藤、流石に人気はあるけど牝馬はきつくないか? 俺はカチドケイで流すぞ。前走からー4kgだし、良い感じに絞れてるように見えた。それに、カチドケイ軸にどれか当たればサクラヒヨリの単勝より高い」
木之瀬がそう言って自分の購入予定を見せてくれる。
「う~ん、でもサクラヒヨリの単勝で行きますよ。応援馬券的な感じですし、昨年はミナミベレディーに儲けさせてもらいましたから」
「あ~~~まあそれもありだな」
その後も、みんなでパドックを見て、レースを見てとワイワイと会話をしながら1レース毎に一喜一憂するのが楽しい。
そして、本日のメインレースが間もなく始まろうとしていた。
『まもなく出走となりますアメリカジョッキークラブカップ、やはり注目は1番人気の4番サクラヒヨリ、今回出走する馬の中で牝馬限定とはいえGⅠを2勝、昨年は牡馬混合の共同通信杯を制しています。 そして、何と言っても昨年の年度代表馬ミナミベレディーの全妹、今年のレースを占う意味においてもぜひ勝っておきたい所・・・・・・』
「サクラヒヨリも+6kgってあったけど、そこまで太い感じしなかったな」
「でも、休養明けだから、ほら、ミナミベレディーって休養明けは勝率低いんでしょ?」
「うん、GⅠの前哨戦の勝率は確か良くなかった」
それぞれがイヤホンでレースの実況を聞きながら、目の前のターフビジョンに視線を注いでいる。
耳と視線を集中させて、各馬がゲートへと納まる様子を見ていた。
『各馬、ゲートへ無事に納まりまして、今スタートしました!
4番サクラヒヨリ好スタート、16番ドミナクライ後方からのレースか、2番手にはサイオウデショウ、3番手にツキノミチビキ、ここで外からキンメッキが上がって来る。
11番キンメッキそのまま先頭に立って1コーナーへと入った。
先頭キンメッキ、鞍上の戸田騎手の手は依然動いている。後続を1馬身、2馬身と離し始めた。その後方2番手にサクラヒヨリ、次第に差が広がる。
その後ろにサイオウデショウ、そのすぐ後方にツキノミチビキ、更に1馬身後方に・・・・・・』
「うわ! キンメッキが先頭! このまま行ってくれないかな?」
「え? 山田さんキンメッキ買ってるの?」
「うん、キンメッキとカチドケイの馬連で231倍!」
「ギャ、ギャンブラーだ」
「勝ったらだけどね」
そんな事を話している間にもレースは進んで行く。
『4コーナーから直線に入った所、最内を突いて4番サクラヒヨリ、前を走るキンメッキをかわして先頭に立った!
ここでサイオウデショウにも鞭が入る!
キンメッキ後退、後方からカチドケイ、更に後方からドミナクライ、コニシルンバも上がって来る! 依然先頭はサクラヒヨリ、コニシルンバ伸びて来る! しかし、届かない! 今年も牝馬が強いか! サクラヒヨリ、サクラヒヨリがそのまま先頭でゴール!
並み居る牡馬を押さえてサクラヒヨリが先頭で駆け抜けました! 2着にはカチドケイ、3着にコニシルンバ・・・・・・』
「キンメッキとカチドケイがんばって~~~!」
「コニシルンバがんばれ~~~!」
「サクラヒヨリ負けるな~~~!」
山田さんの応援も、他の人達の声に紛れてしまう。
そして、馬がゴールする瞬間から一斉に歓声や叫び声が周囲に響き渡る。負けた馬券が紙吹雪のように舞っている。
「あ~~~~、全然だめだ。キンメッキは結局9番くらいかな?」
「直線で一気に飲み込まれちゃったね」
「サイオウデショウも5着かあ。4番8番かあ」
「で、結局勝ったのって内藤君だけ?」
「勝ったと言っても4.2倍だけどね、交通費考えればトントンかな」
そう言って祐一は苦笑いを浮かべる。
それでも、大して儲からなくても、祐一は最後の直線でサクラヒヨリが先頭に立ち、そのままゴールを抜けた時には思わず体が震えるのが判った。
それは馬券が当たった喜びなどでは無く、応援している馬が勝つ瞬間を眼前で見れる感動の震えであり、昨年から幾度となくこの感動を祐一は感じている。
やっぱり、競馬はすごいなあ。
そんな事を祐一が思っていると、何時の間にかサークルの代表である篠原先輩がみんなを集め始める。
「よし、12レース前に帰るぞ、それでも混むからな。集合場所は何時ものファミレスだからな」
「は~い、反省会ですね」
口々に今日のレースを振り返りながら、みんなで集まって競馬場の正面入口へと向かう。
「まあ、競馬は勝ち負けじゃ無いからな。特に応援している馬が勝てば嬉しい。負ければ悔しい。まさに競馬は馬が主役だ」
「お~~~、流石は部長、で、部長は勝てました?」
このサークルの代表でありながらなぜか部長と呼ばれる代表は、苦笑を浮かべながらみんなに馬券を見せる。
「うわ! 思いっきり外れてるじゃん」
「良いんだよ、俺はコニシルンバを応援していたんだから」
そう言って笑う部長は、結構お気に入りの馬が多い。そして、何故か今一つ勝てない馬に感情移入する為、勝率も決して高くない。
「勝てない馬が勝つから競馬は楽しいんだよ」
そう言いながらも部長は強さが疑問視されていた頃から一度もミナミベレディーの馬券を買った事が無い。サークル内ではそれ故にミナミベレディーは昔から強かったのだと笑い話にされるほどだった。
「よし、今日は内藤の奢りだ!」
「いや、部長其れは無理ですって!」
周りが歓声を上げる中、内藤は思いっきり部長の肩を揺するのだが、部長はただ、笑って祐一の肩をバシバシ叩くだけだった。
マンネリ化打破の為の試行錯誤での実況です><
彼らがまた出番があるかは謎ですw
乗馬クラブへ加入する為の資金を競馬で稼ぐ。うん、間違ってないですね!(ぇ
ちなみに、実際に紙吹雪って舞うのでしょうか? 舞うとしたらお掃除が大変そうですよね。
あと、何か判んないのですが、いいね が実装されたので設定してみました。




