123:有馬記念 実況と磯貝調教師
『一年の締めくくり、有馬記念が終わらなければ一年が終わらない。第※※回有馬記念が間もなくここ中山競馬場で開催されようとしています。
今年一年、波乱含みのGⅠ戦線、春の天皇賞、安田記念、宝塚記念と春競馬において牝馬が猛威を振るい、その勢いは秋の競馬でも遺憾なく発揮されました。
そんな一年も間もなく終わりを迎えようとしております。そして、競馬ファンのさまざまな思いを胸に、人気投票1位、今年度の年度代表馬最有力候補、牝馬初の天皇賞春秋制覇ミナミベレディー、春の宝塚記念に引き続いて、この有馬記念で勝利を飾れるか!
2番人気のタンポポチャ、4歳古馬になりヴィクトリアマイル、安田記念、スプリンターズステークスとマイル路線、短距離路線へと変更し今年見事にGⅠを3勝、通算GⅠ勝利数6勝ながらもマイル、短距離馬のイメージが強いこの馬! しかし、誰もが忘れているかもしれないが、昨年のオークス馬はこのタンポポチャだ! 昨年、今年とエリザベス女王杯、惜しくも2着に敗れながらも、タンポポチャ陣営が満を持してここ有馬記念へと出走させてきた。3歳牝馬時代にはミナミベレディーと数々のデッドヒートを繰り広げてくれました。この有馬記念で惜しまれつつも引退を表明しているこの馬が、最後にどのようなレースを見せてくれるのか。
3番人気は皆さんご存知、昨年の年度代表馬ファイアスピリット! 有馬記念を連覇し、今年も多くのGⅠを勝つと思われながら、ミナミベレディー、タンポポチャに阻まれてまさかの今年度GⅠ未勝利。しかし、有馬記念はまさにファイアスピリットの為にあるレース、有馬記念3連覇への夢を託して・・・・・・』
磯貝調教師は、モニターを睨みつけるように凝視していた。
タンポポチャの有馬記念出走が撤回できない事が判った磯貝調教師は、すぐに気持ちを切り替えると有馬記念を万全な状態で出走できるよう細心の注意を払って仕上げを行っていた。その為に、栗東所属の馬では普通なら有り得ないであろうレース前の週頭にはタンポポチャを美浦トレーニングセンターへと移送する。
「無理はしてないが、勝てるだけの状態にはした。あとは鷹次第だ」
レース前に鷹騎手と打ち合わせをした磯貝調教師の「無理はするな、ただ、出走するからには勝て」という無茶な指示に鷹騎手が苦笑したのを思い出す。
ただ、この有馬記念、人気はともかく実際のレースとしてはタンポポチャが勝つのは難しいのではと言われていた。しかし、チャンスは決して0ではない。そして、タンポポチャのミナミベレディーへの負けず嫌いの根性を磯貝調教師は理解していた。
「ミナミベレディーがいるからこそ、勝利の可能性は少なくはない」
これは、タンポポチャとミナミベレディーで併せ馬をしていなければ、そしてその場に立ち会っていなければ判らない感覚だろう。
逃げ、又は先行するであろうミナミベレディー、そのミナミベレディーに対しどの位置から、どのタイミングで、この有馬記念において磯貝調教師はミナミベレディー以外の馬はすでに頭から除外していた。
「タンポポチャと同じレースで、ミナミベレディーが勝ち負けに絡まないはずがない」
恐らく今回出走している馬の調教師の中で、ミナミベレディーの調教師である馬見調教師も含めて磯貝調教師が一番ミナミベレディーを評価しているだろう。
「鷹、タンポポを頼んだぞ」
モニターでゲートへと収まるタンポポチャを見ながら、磯貝調教師はまさに祈るような気持であった。
◆◆◆
『各馬、ゲートへ収まりまして、今スタート! スタートに定評のある5番ミナミベレディーここでも好スタートを切ります。しかし、前に出たのは3番プリンセスフラウ! こちらも好スタートで一気に先頭に!
ミナミベレディーはそのすぐ後ろ、更には大外から12番キタノシンセイ、鞍上乗り替わりで海老原騎手が手綱を握ります。更に先日のジャパンカップ勝利馬ヒガシノルーン、早くもここで前へ、更にはトカチマジックも前から4番目、その後ろにキタノシンセイ、シニカルムールは今日はやや中団からのレース、その後ろにタンブレン。
そして此処にいました、2番人気タンポポチャ、先頭から8番手の位置につけます。この位置からどのようなレースを見せてくれるのか。
ここで先頭プリンセスフラウ、鞍上の手綱が動き更に後ろを突き放し、2番手にあがったヒガシノルーンを2馬身、3馬身と突き放して行く。ミナミベレディーはまだ3番手、鈴村騎手、今日は逃げません。これは作戦なのか! トカチマジックぴったりとミナミベレディーをマーク。
先頭はプリンセスフラウ、その5馬身程後ろにヒガシノルーン、その後ろにミナミベレディー、更に後ろにトカチマジックと来て、ここでプリンセスフラウ向こう正面の直線へと入ります。
やや息を入れたか、ヒガシノルーンとトカチマジックとの間がジワジワと縮まります。
1000Mの通過タイムは60秒1、ほぼ平均タイムです。このタイムがこの後の展開にどう影響を及ぼすのか。タンポポチャ、ファイアスピリットなど後方の馬にまだ大きな動きが見られません。
タンポポチャは変わらず8番手、ファイアスピリット12番手の位置で向こう正面へ。ここでミナミベレディーが動いた! 前を走るヒガシノルーンをかわし前へ、ヒガシノルーンも速度を上げる。ミナミベレディー並走するがかわせずにヒガシノルーンの後方へ。
ここで12番手にいたファイアスピリットがジワジワと前へ、タンポポチャをかわし、キタノシンセイをかわし6番手まで順位を上げる。
タンポポチャは依然動き無く現在9番手、プリンセスフラウ依然先頭の向こう正面から3コーナーへ。
ここで、ミナミベレディーが一気に行った! 向こう正面の緩やかな下り坂から3コーナーへ向かう所で早くもスパート! ヒガシノルーンもスピードを上げる! しかし、プリンセスフラウが! ヒガシノルーンはプリンセスフラウとミナミベレディーに囲まれる形でコーナーへ。
ミナミベレディー、まさに代名詞のようなロングスパートだ! 速度を上げてプリンセスフラウへと並びかける。ジワジワと前へ、プリンセスフラウの外を回りながら早くも頭一つ前へ出たか!
ここで後方ファイアスピリットが前へ来た! 4コーナー入口から一気に前を窺う! プリンセスフラウは後退! ここでトカチマジックが前へ! 直線を前に各馬一気に慌ただしくなってきました。
直線、先頭はミナミベレディー! そのすぐ後ろにトカチマジック! プリンセスフラウ、ヒガシノルーンは伸びない! ファイアスピリットが上がって来た! 前を走るトカチマジックへと並びかける!
しかし、先頭はやはりミナミベレディー! 各馬ミナミベレディーとの差が縮まらない!
おお! 最内からタンポポチャだ! 直線に入りタンポポチャに鞭が入った! 他馬と比較にならない、凄まじい末脚で一気にファイアスピリットに並びかけ、突き放し2番手に上がった!
タンポポチャ、遂にミナミベレディーを射程に捉えた! 中山競馬場最後の直線、その魔の坂で遂にタンポポチャ、ミナミベレディーに並んだ! タンポポチャか! ミナミベレディーか! 両馬一歩も譲らず坂を駆け上がる!
どっちだ! 最後の意地のぶつかり合い! ミナミベレディー、タンポポチャ、中山競馬場の短い直線、ゴールラインを2頭並んで駆け抜けた! これは判らない! 見る限りほぼ同着! 内のタンポポチャか! 外のミナミベレディーか!
今年一年を締めくくる有馬記念、最後はやはりこの2頭で決まりだ!
3着にはトカチマジック、首差でファイアスピリット。残念ながら有馬記念3連覇の夢は断たれました。
5着にはプリンセスフラウ、エリザベス女王杯を制し、GⅠ2勝目を目指すも、最後の直線で力尽きたか。6着に、と、ここで電光掲示板に着順が確定しました。
1着、5番、2着、8番、1着ミナミベレディー! 春に続きこの有馬記念を見事一着で走り抜けました! 2着タンポポチャとの差はハナ、ハナ差での勝利! タンポポチャ、惜しくもハナ差で有馬記念を逃しました!』
「またハナ差かよ!」
レースが終わり、結果が出るまでジッとモニターを睨みつけていた磯貝調教師が、思わず大きな声を出す。
磯貝調教師に周りの視線が集まるも、本人はそんな事を気にする余裕もなく思わず両手で頭を抱える。
「鷹もあそこまで行けたなら差し切れよ! 毎度毎度ハナ差で2着、シルバーコレクターなんざシャレにならんぞ」
実際の所、タンポポチャをハナ差の2着にまで持ってきたことを評価はしている。有馬記念2連覇のファイアスピリットを後ろから差し切っての2着だ。大阪杯で負けたトカチマジックをも突き放している。2着とは言えこの結果はタンポポチャの評価を上げはしても下げはしないだろう。
それであっても、此処までくれば勝ってほしかった。
それが紛れも無い磯貝調教師の本音だった。
「はあ、こっちの気持ちも知らんと・・・・・・」
モニターでは、タンポポチャとミナミベレディーが仲良くグルーミングをしている様子が映し出されていた。
本当は読み返しながら、お話に肉付けするのが本来の方法なんです。
でも、ここ最近はその肉付けが出来ていないですね・・・・・・。
同着、タンポポチャの勝利、うん、すっごく悩みました。
お話だからこそ同着も有りかなという思いと、お話だからこそ同着はどうなんだろうという思い。
悩みました~~~~。
結局、磯貝調教師の「ハナ差か!」
という言葉が思い出されて、タンポポチャさんは2着になっちゃいました。
だから戦犯はシルバーコレクターの鷹騎手と磯貝調教師です!(ぇ




